Harmony 2019年5/6月号
開発者に聞く

MARK X GRMN
澤田 耕一
GR統括部 統括・ブランドマネジメント室 戦略グループ 主幹

山崎 一平
GR統括部 統括・ブランドマネジメント室 BR SDPグループ 主幹

文・小沢コージ 写真・小松士郎

  • TOP
  • 開発者に聞く
  • MARK X GRMN 澤田耕一 GR統括部 統括・ブランドマネジメント室戦略グループ 主幹 山崎一平 GR統括部 統括・ブランドマネジメント室BR SDPグループ 主幹

トヨタのプライド“GRMN”が完売する理由

トヨタ・ガズー・レーシング、略してGR。正規ディーラーで販売するトヨタの辛口スポーツモデルの総称だ。チューニングレベル別に「GRMN」「GR」「GRスポーツ」があり、一番の激辛モデルが「GRMN」である。自動運転への動きが加速する時代にあって、トヨタが「運転する快感」にこだわる理由とは——。

GRカンパニーの仕事とGRMNの役割

本文を読む

小沢:そもそも"GRMN"とは、一体何なのでしょうか。

澤田:我々が所属する「トヨタ・ガズー・レーシング・カンパニー」で開発しているコンバージョン車両のひとつで、ベース車からの変更規模に応じてGRMN、GR、GRスポーツの3カテゴリーがあり、その頂点に立つモデルがGRMNです。

小沢:松竹梅でいうところの松グレードですな。

澤田:そのほかに「GRパーツ」という交換パーツ類もあります。

小沢:なるほど。レストランガイドのミシュランにも3つ星、2つ星、1つ星のランキングがあって、3つ星となると「わざわざそこに出向いてまで食べたくなる店」という定義があります。GRMNもわざわざ、どうしても乗りたいクルマ……といったところですか。

澤田:そこはお客さま次第かと思いますが(笑)、GRMNの基本として、クルマはすべてドイツのサーキット、ニュルブルクリンク(以下ニュル)を知る開発ドライバーが直接手がけます。足回り、外観のエアロパーツはもちろん、パワートレインまで手を入れます。

小沢:なるほど、GRMNのチューニングなら、ニュルも走行可能だと。GRMNバージョンはこれまでに計何車種作られたんですか。

澤田:今回でのべ7車種ですね。コンパクトカーの「iQ」をベースに2回、「ヴィッツ」で2回。そしてスポーツカーの「86」。今回の「マークX」は主要ハードをキャリーオーバーして熟成した初の2代目になります。

小沢:えらい限定的ですね。しかし、なぜ「マークX」が2回もチューンアップされてるんですか。実際、標準モデルは、販売終了も間近……と囁かれていますよね。

澤田:お客さまにご好評いただいているためです。前回100台限定で販売したらすぐに完売しましたし。その後のイベントでも、お客さまから「乗りたい」という要望を多数いただきました。

澤田 耕一

澤田 耕一(さわだ こういち)

1993年トヨタ自動車入社。京都大学航空工学科卒業。ブレーキ関係の先行開発から車種担当となり、「GS350」や初代「マークX」の後「ハイラックス」や「ハイエース」「RC F」などを担当。2016年、現在のGRカンパニーに配属され、「ノア」「ヴォクシー」のGRスポーツや「ヴィッツ GRMN」「86」にたずさわる。愛車は現行の「86」。

山崎 一平

山崎 一平(やまざき いっぺい)

1999年トヨタ自動車入社。東京大学産業機械工学部修士課程修了後助手を経て博士号取得。先行開発部門でシャシー制御担当。電動パワステ、アクティブスタビライザー、AVSを用いた車両運動制御を開発。2017年にTRIに出向、19年GRカンパニー所属。学生時代はモーター同好会に所属し、プロダクションカーレースでシリーズチャンピオンも獲得。愛車はポルシェ911。

ニュルでも走行できるボデー剛性とチューニング

本文を読む

小沢:具体的にはどこがどう違うんですか。

澤田:エンジン制御はレスポンスにこだわって作り込んでいますし、足回りもスプリングからダンパーまで適合し直しています。
今回大きいのが、ボデーへの252点のスポット溶接増し打ちです。ベース車のGRスポーツや先代で既に16点打っていますから、合計268点。過去ぶっちぎりで最多だと思います。

小沢:そりゃ凄い。スポット増し打ちは生産ラインを遅らせなければいけないし、普通の量産工場で作るのは大変ですもんね。

澤田:実際、元町工場(豊田市)とも密に連携をとり、GRMNを作るための特別な工夫をしてもらっています。ただ、通常のライン生産の後の作業もありますから、1日に作れるのは、マックス3台です。

小沢:いや、そこが限定車ならではの醍醐味とも言えますよね。
ただ、少々厳しいことを言わせていただくと、果たしてそこにどれだけの意味があるのかって気もするんです。今の日本にはそこまでクルマを飛ばせる場所はないし、そもそもモデル末期の「マークX」にGRMN仕様を作ってどうするんだと。一番安い250G"Fパッケージ"で車両本体は約270万円ですから、1台あたりの利益は大きいんでしょうが、販売はたったの350台。わざわざ「GRカンパニー」という専門会社を作ってやる意味はあるのかというのが率直な感想です。失礼な言い方ですが、少々エンジニアの自己満足っぽいような気もします。

山崎:まあ、だからこそ私のような人間がいるのかもしれないですね(笑)。私の所属は「GRカンパニー BR SDPグループ」という部署で、SDPはスポーツ・ドライビング・プレジャーの略。GR系の走りのよい車両の新しい開発プロセスを構築するという、今年できた部署です。

小沢:ほほう。具体的には何をやっているんですか。

山崎:運転の楽しさをある意味、数式化するということですね。

小沢:つまり、長年にわたり職人技術者やトップドライバーが培ってきた感性やクルマ作りを理論化して、普遍的に使えるようにしようと。

山崎:そうです。感性や知見を総合的にとらえ、それをサスペンションの物理法則と結びつけて「あるべき姿」の仮説を立て、それに対し、また職人と一緒に検証していく作業を繰り返すことで、チューニングのベースとなる部分を理論化する。

小沢:職人がやっていることにロジックを見いだすと。

山崎:そうです。そして、ベースがしっかりすると、職人が狙うGRの味もより出しやすいのです。このベース部分の肝についてですが、クルマは結局、タイヤの性能をどれだけ引き出せるかという部分があり、その究極がモータースポーツです。そういう場面でのもの作り手法を採り入れると、クルマ作りは確実に変わっていきます。

小沢:でも、行き着くところは、走り好き向けのマニアック技術ってことになりませんか。

山崎:まったくそんなことにはなりません。GRMNは一般道での乗り心地にも十分配慮していますし、雪道でのグリップもびっくりするほどいい。一般的なタイヤを履いていても全然違います。

小沢:普通、「マークX」みたいなFR車ってリアがメチャクチャ滑りますけどね。

山崎:タイヤの接地感が違いますし、限界を突き詰めるとそういうところにも繋がっていきます。

小沢:GRの技術は、一般ドライバーも楽しめるクルマ作りにしっかり生かされていると。

澤田:スポット増し打ちにしても、現在ミニバンの「ノア」「ヴォクシー」のGRスポーツはボデーに強化パーツのブレースを付けているだけなんですね。なぜかと言いますと、「ノア」「ヴォクシー」のGRスポーツの前型モデルでスポット増し打ちをした効果が認められて、現行では標準モデルで導入され、GRで増し打ちする必要がなくなったからなんです。

GRMNがカンフル剤。トヨタのクルマ作り戦略

本文を読む

小沢:へえー、GRMNやGRのもの作り哲学が、トヨタ全体のクルマ作りに影響を与え始めているんだ。

澤田:そうですね。

小沢:GRの進化は、豊田章男社長の言う「もっといいクルマ」の考えが全域に浸透している証拠でもあるんですね。GRカンパニーも正式にできてトップは友山茂樹副社長ですもんね。GRの存在がトヨタの中で着実に大きくなっている。

澤田:それはあると思います。

小沢:そこには根本的な今のクルマのコモディティ化、日用品化への流れがあり、危機感もあるんじゃないでしょうか。普通にクルマを作るだけなら、絶対に中国や韓国のほうが安く作れるようになる。トヨタが対抗するためには、クルマの質をもっと上げなければいけない。

山崎:それはたしかにあります。

小沢:一方、今のクルマの自動化とかAI化とか逆の流れもありますがそれと両輪ですか?

山崎:自動運転で言うと、じつは私は、昨年までアメリカのシリコンバレーにあるTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)で、自動運転走行制御の先行開発を担当していました。

小沢:えーっ、マジですか? それは凄い! 具体的にはどういう開発を?

山崎:車両に搭載したカメラやセンサーのデータをもとに、目標とすべき走行軌跡が算出されます。それに対してクルマのアクセルやブレーキ、ステアリングを制御し、どう追従させていくかを決めるんです。

小沢:ふむふむ。

山崎:となるとですね、やっぱりクルマの基本性能が高いほうが、自動運転でも有利なんです。

小沢:いやあ、それって本当なんですかねえ。よく、クルマの基本性能が高くないと制御も正確にできないと言いますが、逆に制御の時代になると、ベース車の"デキ"が多少悪くても制御でカバーできちゃうような気がしますけど。

山崎:そこが違うんですよ。やはり、しっかり正確に動くクルマのほうが、さらにやりたいことができるんです。

小沢:となると、GRMNで培った基本技術は決して無駄ではなく、クルマの味はもちろん、これからの自動運転時代にも生きる。

山崎:私はそう感じています。

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

スポーツカーブランド「GR」の歩み

2007年、トヨタ社員で編成したチームが「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」に挑戦。09年に名称を「GAZOO Racing」へ。14年3クラス制覇、18年「WRC(FIA世界ラリー選手権)」で優勝。「ル・マン24時間レース」でも悲願の優勝を果たした。15年にトヨタおよびレクサスの全モータースポーツ活動を「GAZOO Racing」に一本化、17年には社内カンパニー「GAZOO Racing Company」を新設して独立性を強め、レース仕込みのチューニングを生かした市販モデルのブランドを“GRシリーズ”として「GR SUPRA」「86」「GRMN」「GR」「GR SPORT」「GR PARTS」に再編している。

ピュアスポーツ

コンバージョン

GRMN

台数限定。一般道からサーキットまで「道を選ばない走り」「気持ちいい走り」を追求したコンプリートカーブランド。写真は「Vitz GRMN」(完売)。

GR

クルマを操る喜びを日常的に実感できる本格スポーツモデル。「Vitz GR」はWRC 2018シーズンで優勝した。

GR SPORT

ライフスタイルに合わせて走りを楽しむ、GRシリーズのエントリースポーツモデル。

GR PARTS

標準車に装着できるエアロパーツなどのアフターパーツ。

詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

MARK X GRMN