Harmony 2019年7/8月号
開発者に聞く

RAV4
佐伯 禎一
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

過熱するSUV市場に「RAV4」が問う“愛車”の真意

3年ぶりに日本に凱旋したクロスオーバーSUVの先駆け「RAV4」。もとの車名はRecreational Active Vehicle 4 Wheel Driveの略だったが、新型ではRobust Accurate Vehicle with 4 Wheel Drive(SUVらしい力強さと使用性へのきめ細かな配慮を兼ね備えた4WD)がコンセプト。衝撃ともいえる大変貌、なぜこんな攻めに打って出たのか。

世界で一番売れているSUV、あえてのデザイン一新

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小沢:新型「RAV4」を一目見てびっくりしました。ブルドッグのようなワイルドマスク、3種類から選べる四輪駆動システム。よくここまで攻めた作りができたなあ……と。先代(4代目)は海外専用モデルでしたが、世界で約83万台も売れてSUV販売世界ナンバーワンになった人気車種です。そのまま日本市場に投入したってよかったはず。なぜ、あえてリスクを負うようなことを?

佐伯:おっしゃる通り、昨年、トヨタのグローバルの販売台数は900万台ちょっとでしたが、そのうち「RAV4」が9パーセントを占めます。北米マーケットでは、「カムリ」を抜いてナンバーワンになりました。

小沢:佐伯さんは、いつから「RAV4」の開発を担当されているんですか?

佐伯:2003年の3代目からです。当時「RAV4」は、「クラウン」や「カローラ」といったトヨタの伝統車種や北米ベストセラーの「カムリ」の陰に隠れていました。
それで3代目の開発にあたり、それまでSUVのスペシャリティカーに近い存在だったのを、象徴的な3ドアモデルを廃止してボディサイズを拡大、グローバルで戦えるSUVに作り変えたんです。

小沢:なるほど、そうでしたね。

佐伯:当時のSUVは競合車種も含め、「車内がうるさい」とか「装備が足りない」と言われ、トラックの匂いを拭い切れていなかった。そこで3代目は荒々しさを抑えて快適性に注力したんです。その結果、セダンやハッチバックのお客さまからの乗り替えが増えたんですよ。

小沢:なぜ今回、デザインを大きく変えてクロスカントリー性能を上げたんですか。

佐伯:現在のSUV人気を“マーケットの拡大”と捉えることもできますが、この先どうなるんだろうという目で見たときに、“売れる”を基準に同じようなスタイルのモデルが出つづけるとお客さまはSUV市場から興味を失う……と考えたんです。

小沢:うーむ、すごく深い先読みですねえ。

佐伯:マーケットに特徴ある商品をしっかり入れていくことにより、お客さまから注目され、また注目されることにより新しいお客さまが増えていくだろうと。

小沢:そして、非常にポジティブですねぇ。

佐伯禎一

佐伯 禎一(さえき よしかず)

1984年入社。シャシー設計部で「ランドクルーザー」のサスペンション設計に携わる。その後製品企画部にて2代目「アバロン」、6代目「カムリ」「ES300」を担当。97年に北米の研究開発部門TTC-USA(Toyota Technical Center、現TMNA R&D)に赴任。帰国後、7代目「カムリ」、3代目「RAV4」「ヴァンガード」の製品企画を担当。現在、「RAV4」「ハイランダー」「ハリアー」のチーフエンジニアを務める。

もっと愛されるクルマを。お客さまの“愛車”を作ろう

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佐伯:ご存じのように、弊社社長の豊田(章男)は「もっといいクルマづくりをしよう」と言いつづけています。さらに「愛車と呼ばれる“愛”の付く商品づくりをしよう」と。私はこれを“守りに入るのではなく、もっと愛されるクルマ”を意味すると捉えました。「RAV4」だけに限った話ではなくて。

小沢:なるほど。

佐伯:ふたつ目に考えたのは鮮度です。「RAV4」ももうすぐデビューから25年が過ぎようとしており、新鮮味が失われつつあります。今一度、際立たせるためにはどうすればいいのか。今回はこのふたつの方向性がうまい具合にちゃんと重なったんだと思います。

小沢:とはいえ、日本は今や、背の高いミニバンや軽自動車ばかりが売れる国です。ぶっちゃけ、ワイルドなSUVやハンドリングのいい4WDがどれだけ売れると思います?

佐伯:そこはさほど重要ではないと思っています。売れる、売れないより大事なことがあるんです。

小沢:本気ですか?それ。

佐伯:いや、売れなくてもいいという意味ではなくて、売ろうと思って売っちゃダメという意味です。まずはお客さまに気に入ってもらい、買っていただいて、そこで初めて「どうもありがとうございました!」ですよ。気に入っていないものを、いくら便利だからって押し付けても信頼関係が崩れるだけですから。

小沢:そうか!それって恋愛と同じですよね。最初に「あなたは俺とつき合う運命だ」と高飛車に言うより、まず「僕ってどう?」と気に入ってもらうのが王道なわけで、最初に「売れるクルマ」は順番が違う。「愛されるクルマ」になったら売れると。

佐伯:そもそもクルマを買ってもらえる・もらえないというのは、お客さまとわれわれトヨタとの信頼関係であり、ディーラーとの信頼関係です。私どもを信頼していただいて初めて買ってもらえるわけですから。

小沢:「売れてるSUVだから」ではなく。

佐伯:愛車の「愛」は購入が前提ではなく、最初にクルマを愛していただくのが前提。青くさいことを言いますが、それが社長の言う「愛冷蔵庫、愛パソコンとは言わないけどクルマは愛が付く商品」という大きなメッセージなんです。

豪腕新人ピッチャーを投入するワクワク感

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小沢:いやあ、今回は目からウロコが落ちる話ばかりだ。われわれ自動車メディアは、つい売れる・売れないを重視しがちで……。
ただ、今回「RAV4」で選べる「ダイナミックトルクベクタリングAWD」、さっきダートで乗ったら大変面白かったんですが、実際この四駆の価値が分かる人はどれくらいいるのだろうという疑問はもちました。

佐伯:そうかもしれませんが、そこは分からないからやめようじゃなく、分からなくてもそういう機能をもっていることが大切なんです。ブランド力を育てるのはそこなんですよ。

小沢:分からなくてもいい?

佐伯:たとえば「RAV4」で北海道を走行中、すごい吹雪になり脱輪しちゃったとします。自宅には、運転中の娘の帰りを待っているご両親がいる。しかし「ダイナミックトルクベクタリングAWD」機能が付いていたからこそ窮地から脱出でき、無事に家に帰ることができたとします。すると後日、帰り道でゲリラ豪雨にあったとしても、「『RAV4』だったら性能高いから大丈夫でしょ」と思うことができる。そういう積み重ねが信頼性であり、ブランド力に繋がると思うんですよ。

小沢:性能が過剰なくらいでちょうどいいってことですね。

佐伯:ブランド力は1+1=2ではないと思うんです。2プラスαとか、それくらいあるから魅力を感じられるんじゃないかと。僕はエンジニアなので、あまりマーケットを語りすぎると笑われるかもしれませんが、そのプラスαをしっかりやっていかないと、今認められているブランドでも25年経ったら飽きられちゃうよ、と。

小沢:確かに「フェラーリ」にしろ「ポルシェ」にしろ、公道じゃ絶対試せない速さをもっていますからね。

佐伯:たとえばお客さま全員に、「今度の『RAV4』、まあまあだね」って言われるよりも、ひとりに「あっ、このクルマ!」って思われて、“LOVE4”と呼びたくなるぐらいがいいんです。

小沢:だから今回はデザインと4WD性能なんですね。

佐伯:昔、フロリダにサウスイースト・トヨタという販売統括会社がありまして、ジム・モーランさんという販売の神様がおられたんです。すでにお亡くなりになっていますが、二十数年前にお会いした際、「どんなクルマがいいクルマなんですか?」と聞いたことがあります。

小沢:どストレートですね(笑)。

佐伯:ジムさんは「シンプルで力強いメッセージをもった商品がいい。思わずワォ!って感嘆詞が出るくらい。それは計算してないから出るんだよ」と教えてくれたんです。

小沢:なるほど、ワォ!と驚かれるのがいい商品の目安。それこそがブランドだと。

佐伯:自分で3〜4代目の「RAV4」を手がけた経験も生きていて、3代目の一例としてはスペアタイヤを背負い式でバックドアに付けたんです。2代目から変更しなかっただけなんですが、その結果何が起こったかというと、あるタイミングで「オールドファッション」と言われちゃったんです。

小沢:ダメですね。「RAV4」がオールドファッションじゃ。

佐伯:そこで今回は新しいジャンルのパイオニアとして原点に立ち返り、もっとチャレンジしようと思ったんです。「モデルチェンジしても、たぶん現行モデルの延長線上にあるんだよね」をいい意味で裏切らなくてはいけない。ワォ!をゲットしないと。

小沢:つまり、つねにお客さまを驚かせたいんですね。

佐伯:はい、いい意味でお客さまを裏切りたい。おかげさまで4代目は北米一番になり、グローバルで83万台も売れていますが、だからこそ攻めなきゃいけないと思うんです。

小沢:一番前を走っていても、安心しちゃダメだと。

佐伯:ほら、負け試合が続くと、雰囲気がネガティブになってしまうじゃないですか。負けつづけている野球チームで新人ピッチャーに投げさせても、奇跡でも起こらない限り、また負けるって気分になるじゃないですか。でも、勝っているチームに、新人ピッチャーを先発で入れるとなったら、そこに何か妙な期待感ありません?

小沢:はい、ありますね。

佐伯:それと同じです。だから今回は攻めるんです。

小沢:相当な勝負師ですね。

佐伯:いやいや(笑)。

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

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