Harmony 2019年9/10月号
開発者に聞く

GR SUPRA
多田哲哉
GR開発統括部 チーフエンジニア スープラ開発責任者

文・小沢コージ 写真・小松士郎

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名車復活の舞台裏

17年ぶりに復活した新型「GRスープラ」。トヨタとBMWの初の協業によるクルマ作りも話題だが、世界的に自動運転技術や安全性能の向上が至上課題の時代に、なぜスポーツカーを? ということも大いに気になる。あえて試乗前に、開発責任者の多田哲哉氏を直撃した。

スポーツカーは成長産業である

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小沢:そもそも一体なんのため、誰のために、BMWと組んでまで「スープラ」を復活させなきゃいけなかったんですか?

多田:ああ、のっけからいい質問ですねえ(笑)。「自動運転とカーシェアリングの時代になったらスポーツカーってなくなるんですよね?」などと、最近みなさんに聞かれますので。

小沢:まあ、そうでしょうね。みんなそう思ってますよ、やっぱり。

多田:でもね、僕らはその逆だと思っているんですよ。たしかにカーシェアリングの時代になったら、クルマは今の3割ぐらいあれば十分だって言われています。それどころかクルマの所有はステイタスにもならないだろうし、単なる移動用のクルマなら個人で所有する必要もないから、駐車場も要らなくなるでしょう。

小沢:そうなるでしょうね。

多田:でもそういう時代になってもクルマを買ってくれる人がいるとしたら、それってよっぽど趣味性が高いとか、愛情を注げるプロダクトだってことじゃないですか。その最たるものがスポーツカーだと思うんです。

小沢:最も要らないものですけどね(笑)。

多田:そこですよ! 生活には最も要らないものだとしても、だからこそ最も買いたいものでもあるわけです。今の自動車業界では、数少ない成長産業のひとつだと思っています。

小沢:ええっ、成長産業!? 本気でそう思ってるんですか?

多田:小沢さんは、そう思いませんか?

小沢:うーん、僕はいつも言ってますけど、今、スポーツカービジネスで成功しているのはポルシェとフェラーリだけですよね。そのポルシェですら、最近ではSUVが販売の7割を占めているわけで。

多田:まあ、たしかに全体として捉えるとね。だけど、それは今だから厳しいんですよ。今後、モビリティ社会にパラダイムシフトが起こると、逆にスポーツカーが生き残れる道が生まれ、スポーツカーに限らずとも極めて趣味性の高い、お金を払ってでも所有したくなるクルマが絶対に求められる。そういうもの作りに対するノウハウは、今からこうしてやっておかないと絶対に蓄積しない。

小沢:いわゆる機械式時計みたいなものですよね。趣味性の高い、娯楽としての機械的小宇宙。

多田:そうです。だから僕らも単なるスポーツカーを作っているわけではなくて、クルマ自体は凄いノスタルジックな古典的スポーツカーなんだけど、新しい遊び方みたいなところに最新テクノロジーを使っていろいろトライしてるんですよ。

小沢:それはゲームの「グランツーリスモSPORT」に実測データを直結させ、自分の走りをゲーム上に再現できる、みたいな部分ですか?

多田:その通りです。あれは自動運転時代のセンサーとかカメラとかそういうテクノロジーが進化したからこそ可能になった新しい遊び方なんです。技術の導入ハードルがどんどん下がってきています。

多田哲哉

多田哲哉(ただ てつや)

1987年、トヨタ自動車入社。ABS(アンチロックブレーキシステム)やスポーツABSなどの新システム開発を担当し、93年にドイツでWRCラリー用のシャシー制御システム開発等に従事。「ラウム」「パッソ」「アイシス」などのチーフエンジニアを担当した後、新型スポーツモデルの企画統括に携わり、開発責任者としてスバルと共同で「86」を担当、続いて「スープラ」も復活させた。

直列6気筒エンジンがどうしても必要だった

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小沢:「スポーツカーは成長産業である」と、ひとつ解決したところで次の質問ですが(笑)、なぜ、BMWと協業することにしたんですか?

多田:それはですね、話が複雑で、その部分だけで1時間はもらわないと無理。2〜3分では語りきれません(笑)。

小沢:えーっ、そんな壮大な話なんですか!? でもまあ、「スープラ」を作らなくなってから17年、スポーツカー作りのノウハウがなくなっていたという部分は大きいんですよね?

多田:単純に技術云々だけではなく、「スープラ」を新しく作るためには、BMWと協業するのが最もいい道だったと思います。というのも、「スープラ」の伝統といえば、やはり"ストレート6(直6)"、つまり直列6気筒エンジンじゃないですか。4世代続いた「スープラ」すべてに搭載されています。ただ、直6はスポーツカー用としてはいいけど、一般の乗用車用と考えると凄く非効率。だからみんな作るのをやめちゃったじゃないですか。

小沢:はい、トヨタはもちろん日産も、一時はメルセデスも製造を中止してましたね。

多田:となると、そんな中でもう1回直6を作るとなると、さらにハードルが上がるわ、時間はかかるわ、工場も建てないといけないわで、どんどん大ごとになってしまう。そこで、すでに直6を持っていたBMWと一緒に作ろうと。

小沢:まさか本気で、トヨタが直列6気筒を作るのは難しすぎると言ってたりします?

多田:いや、もちろん技術的に難しいことはないと思いますが、仮に直6エンジンを作ったとして、果たしてそれをシェアできる仲間がどれだけいるんだ、という話ですよ。昔ならば「スープラ」のほかに「ソアラ」もあって、「マークⅡ」にも直6を搭載できたけど、もう今はクルマ自体がない。

小沢:ああ、なるほど。結論として、どこかと協業して直6を手に入れる必要があったと。

多田:そういうことです。

五感に響くエンジン音が「スープラ」最大の魅力

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小沢:新型「スープラ」のセールスポイントはなんですか。やはりあの独特のデザイン?

多田:デザインはもちろんですが、なんといっても人間の五感に響く乗り心地ですね。乗った時にクルマから伝わってくる振動然り、特にエンジン音がもう最高です。

小沢:いわゆるクラシックなスポーツカーの味ですね。

多田:なぜなら、あの直6や直4ターボの音は今しか作れませんから。来年作って売り出すのも無理かもしれない。

小沢:それは技術的にですか?

多田:いえ、法的にです。特に欧州には"パス・バイ・ノイズ"という通過騒音試験があって、年々厳しくなっています。もうとてつもなくハードで、音量などで規制値をクリアしながら、気持ちいいエンジン音をお届けするのが難しい。再来年になったら、エンジンを全部カバーで覆うくらいのことをしなければいけなくなるかもしれない。

小沢:排ガス規制と同じですよね。ガソリン、ディーゼルの排出ガスが許されなくなるからEV普及が見込まれてるわけで。同時にフェラーリですら小排気量ターボ化がなされて音が普通になってきた。

多田:スポーツカーにはもちろんパワーも大事ですが、楽しみの大きなところは感動的な音です。この(対談の)あと「スープラ」を試乗していただくと思いますが、想像以上にいい音がすると思いますよ。

小沢:五感で味わってこそ真のスポーツカーだと。それから事前説明で聞きましたが、新型「スープラ」はホイールベースとトレッドの比率が凄いと。かつてないほどタイヤ配置の横幅が広くて前後が狭く、極端な回頭性重視になっている。

多田:もともとピュアスポーツカーを作ろうってことでBMWとやってたんですが、なかなかうまく行かない。しかし、極端なプラットフォームを作ればポルシェと互角に戦えるってことがわかったんです。

小沢:ガチで「打倒! ポルシェ」なんですね。でも極端にホイールベースを短くすると、逆に直進安定性が悪くなって、高速道路で真っ直ぐ走れなくなりそうですけど。

多田:たしかに寸法ではもの凄く攻めています。ただそれもアクティブディファレンシャルなどの新技術あればこそで、あれがあるからホイールベースが短くても高い直進安定性を得られるんです。

小沢:「スープラ」は古典的だけど、ハイテクでもあるわけですね。

多田:その通りです。兄弟車のBMW「Z4」も含め、ポルシェの「ボクスター」「ケイマン」に決して負けてないクルマになったと思います。

「トヨタはスポーツカー作りをやめないぞ!」

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小沢:で、どうでしょう。「スープラ」は新しいスポーツカー・マーケットを切り拓けますか?

多田:そこは正直、わかりません。いいクルマができたから売れる、そういう単純な世界ではないので。スポーツカーはその時の景気とか、買う人のマインドとか、いろいろな要素で左右されるもので、1、2日で売り切れたりすることもありますが、たとえば災害などが発生すれば、逆にまったく売れなくなりますから。

小沢:おっしゃる通りです。だからやっぱりもの凄いことなんですよ、今どきスポーツカーを作って売るというのは。新しいビジネスを切り拓く可能性もあるけれど、時代の流れに左右されるもので、軽トラを売るようなわけにはいかない。でもまあ、これからずっと作りつづけるんですよね、「スープラ」を?

多田:もちろん、そのつもりです。

小沢:すでに"GRカンパニー"ってバーチャル会社までできちゃったし。

多田:あれは「トヨタはスポーツカー作りをやめないぞ!」宣言みたいなもんですからね(笑)。

小沢:それから多田さんが「スープラ」以前に復活させた「86」も順調に代を重ねているし。

多田:そうなんです。「86」もなんやかやで30万台近く売れてますけど、当初は「10台売れて終わりになるんじゃ?」って悪夢を見たほどでした。

小沢:やっぱり、スポーツカー作りって、楽しいけど心臓に悪いんだ(笑)。

多田:そこは言わんといてください(笑)。

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

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