トヨタが大豆!?豆乳、拉麺、パン・・・用途はさまざまに広がるトヨタが大豆の国産化を応援、笑顔と幸せを量産
自動車生産での知見を活かして事業領域を広げてきたトヨタは、これまでマリン事業やヘルスケア事業など多種多様な新規事業を立ち上げてきました。その中でも、特に社会課題の解決と密接に結びついている分野のひとつが農業です。「HAPPY AGRI」というブランドを立ち上げ、さまざまな事業を展開していますが、今回注目したいのは「国産大豆応援プロジェクト」です。それはどのような取り組みなのでしょうか。関係者に話を聞きました。
Text:Fumihiko Ohashi
Photo:Emi Takeshita
Edit:Akio Takashiro(pad inc.)
「高オレイン酸 国産大豆の無調整豆乳」が豆乳好きの間で話題です。通販限定の1000ミリリットルに加えて2026年3月2日(月)に125ミリリットルサイズも全国の量販店で販売が開始されました。
豆臭さが少なく飲みやすいと評判の同商品は、豆乳を中心とした大豆製品を製造販売するマルサンアイとトヨタ自動車が共同開発したもので、「高オレイン酸大豆」は、トヨタが佐賀大学、九州大学と共同開発した新しい品種の大豆なのです。
トヨタが大豆づくりに取り組んでいると聞くと多くの人が驚くでしょう。しかし、実はトヨタはアグリバイオ分野との関わりが深く、1990年代から環境問題対策のひとつとして、バイオテクノロジーの研究開発に取り組んできました。2003年には自動車部品として世界初のバイオプラスチックを採用し、バイオ燃料の開発にも取り組んでいます。また、2014年からは、トヨタ生産方式を農業へ応用し、農業支援サービスを提供しています。
そうした中、2020年にトヨタは「HAPPY AGRI」というブランドを立ち上げました。アグリバイオ事業室事業企画グループ主任の嶋本泰代氏が、取り組み内容を次のように説明します。
「『HAPPY AGRI』は、農業を通じて笑顔と幸せを量産したいという想いを込めたブランドです。「農業の生産性向上」「食の安定供給」「環境にやさしい農業」の実現を目指し、生産者さんをはじめ、JAや行政、食品メーカーや飲食店などのパートナーとともに、農業の持続的発展に向けて取り組みを進めています。トヨタ自動車のミッションは「幸せを量産する」なので、『農業を通じて笑顔と幸せを量産する』という思いを込めて『HAPPY AGRI』と名付けたのです」(嶋本氏)
無調整のイメージが変わる一杯
冒頭の高オレイン酸大豆も、「HAPPY AGRI」の事業のひとつです。トヨタと大豆との関わりも長く、その始まりは2012年に遡ります。
「大豆は高たんぱく質で日本食に馴染みが深いにも関わらず、自給率が低いことから、将来の食糧有事に備え栽培技術の研究に着手しました」(嶋本氏)
国産化を推進するためには、大豆の付加価値を高める必要があります。そこでトヨタは、2019年に佐賀大学と九州大学との共同研究をスタートさせました。2つの品種を交配して栽培し、優良な系統を選別するというサイクルを繰り返すため、育種には長い年月がかかります。
そうして開発されたのが、「高オレイン酸大豆の新品種(SKT01)」です。2020年より「国産大豆応援プロジェクト」として本格的に商業向けの大豆栽培を開始しました。同じくアグリバイオ事業室事業企画グループ主任の長岡寛氏が、その取り組みを説明します。
「品種開発から栽培、そして流通、販売の出口づくりまで、大豆のサプライチェーンの上流から下流までを一気通貫でサポートするのがこのプロジェクトの特徴です。生産者の方々に大豆を栽培いただき、食品事業者へご提供する。メーカーや商社などに商品化のご提案をし、一緒に知恵を出しながら活動を広げています」(長岡氏)
その商品化の提案を最初に持ちかけたのが、マルサンアイでした。高オレイン酸大豆の特徴が活かせる商品は豆乳ではないかと考えたからだと、嶋本氏は言います。
「大豆の脂質成分の中には、独特の臭みの原因となるリノール酸が含まれています。高オレイン酸大豆は、このリノール酸が少なく、代わりにオレイン酸が多く含まれているので、青臭さが少ないという特徴があります。この美味しさを感じていただくには、大豆のうまみをダイレクトに味わえる豆乳だと考えました。そこで豆乳づくりに定評があり、同じ愛知県の企業であるマルサンアイにお声がけをさせていただきました」
提案を受け、トヨタの思いにすぐに共感したと、マルサンアイ開発部・企画課 豆乳・飲料グループ副課長の市岡直樹氏は振り返ります。
「世の中に出回っている豆乳のほとんどは、外国産の大豆を使用しています。しかし消費者は、大豆を日本の食材として認知されていて、国産へのニーズは根強いです。そうした声に応えようと、当社では近年、国産大豆の使用比率を引き上げる方針を打ち出しています。トヨタも国産大豆を盛り上げ、大豆農家を支えていくことを目的に取り組んでおられ、両社の思いが合致しました」(市岡氏)
かくして両者の共同開発が始まりました。そして、何十回も協議を重ねて開発されたのが「高オレイン酸 国産大豆の無調整豆乳」です。
「臭みが出にくい大豆なので、その特徴を製造過程でより高めていくことに気をつけて商品化を進めました。それが奏功して、青臭みが少なく、飲みやすい味わいに仕上がっています。この飲みやすさと大豆のうまみとの両立が特徴で、今まで当社にはなかった商品です」(市岡氏)
飲みやすさの要因は、大豆の特徴だけではありません。無調整豆乳にこだわるマルサンアイの独自技術「大豆まろやか製法」もそれに寄与しています。
「高温で加熱処理することで、豆乳の青臭さや渋みの原因となる酵素『リポキシゲナーゼ』の働きを抑えます。また、圧力をかけて大豆の粒子を細かくし、ムラのない状態にする『均質化』により、まろやかで飲みやすい豆乳に仕上げています」(市岡氏)
こうした両社の技術が結集した「高オレイン酸 国産大豆の無調整豆乳」ですが、すぐに商品化とはなりませんでした。まだ大豆栽培のノウハウが確立しておらず、収量が想定よりも少なかったからです。そこでまずは2024年10月、1000ミリリットルサイズをオンライン限定で販売することになりました。スーパーのように試飲ができないため、認知されるのに時間がかかったものの、手応えを感じたと市岡氏は言います。
「最初はスロースタートだったのですが、徐々に美味しさにご共感いただき、販売量が増えていきました。無調整豆乳は定期購入されるこだわりの強い方が多く、安定的に買っていただけるようになったと実感しています」
売れ行きが好調のなか、大豆の作付面積も東海エリアを中心に年々拡大し、現在は150ヘクタールに達しているそうです。これは、東京ドーム約32個分の広さに相当します。それによって収量のめどがたったため、2026年3月から125ミリリットルサイズの全国販売を開始したのです。まだ発売したばかりですが、消費者の反応は上々とのこと。今後は、商品の魅力をより実感していただく取り組みに力を入れていきたいと市岡氏は意欲を見せます。
「当社では、売れ行きがいい商品があると、それに味をつけてバリエーションを増やす戦略を取ることが多いのですが、この商品は、そういうキャラクターではないと考えています。このまま大豆のうまみを感じていただきたいという思いがあるので、例えば料理に使うなどの提案をしていきたいです」
マルサンアイの公式WEBサイトはこちら。
無調整豆乳の公式WEBサイトはこちら。
小麦粉の代替や大豆ミートの原料にも
高オレイン酸大豆は、豆乳だけでなくさまざまな商品に使用されています。
2023年には、京都の老舗・ゆば庄と共同開発した大豆拉麺の販売を開始しました。これはゆば庄の考案だったと前出の嶋本氏は言います。
「湯葉に加えて、高オレイン酸大豆の豆臭さが少ない特長を活かした商品ができないかということで、大豆100パーセントでつくる拉麺を考案していただきました」(嶋本氏)
ゆば庄の公式WEBサイトはこちら。
大豆拉麺が買える、ゆば庄のオンラインショッピングサイトはこちらから。
また、大豆を加工した大豆粉も提供しています。2024年、豊田市のベーカリー「バーバラはうす」は、高オレイン酸大豆粉を小麦粉に配合したパンの販売を開始しました。
バーバラはうすの公式WEBサイトはこちら。
「一般の大豆粉に比べ、高オレイン酸大豆粉は臭いが少なく、使用量を増やせるため栄養価の高いパンをつくれると評価していただいています」(嶋本氏)
2026年3月には、旭松食品と共同開発した高野豆腐も地域・数量限定で発売されました。オレイン酸はリノール酸よりも酸化されにくいことから、包材などの工夫なしで賞味期限を1年に延長することを実現しました。
旭松食品の公式WEBサイトはこちら。
このように、小麦粉の代替としての利用も期待される高オレイン酸大豆粉。前出の長岡氏は、その可能性をさらに広げていきたいと意気込みます。
「最近はグルテンフリーへのニーズが強く、ある食品メーカーは、大豆粉を代替として使ったことが、どうしても臭いが出ると悩んでおられました。高オレイン酸大豆粉であれば、その課題を解決できます。こうして高オレイン酸大豆の価値を高めるとともに、食品メーカーなどに『HAPPY AGRI』にご賛同いただき、日本の農業の課題に目を向けていただけたらと考えています。そのためにも、これからもっと想いを共にする仲間を増やしていきたいです」(長岡氏)
農業を通じて笑顔と幸せを量産する。全国に広まる高オレイン酸大豆は、トヨタのその高い志を実現するための核になるかもしれません。大豆の自給率に少しでも貢献し、日本の農業を盛り上げるというトヨタの挑戦は続きます。