Harmony 2015年9/10月号
開発者に聞く

G’s 多田哲哉/江藤正人
多田哲哉:モータースポーツ本部 スポーツ車両統括部長/江藤正人:凄腕技能養成部

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G’s HARRIER(ジーズ ハリアー)

普通のクルマがスポーツカーに変身? “走り”を極めるトヨタの凄腕ブランド

「SPORTSCARS for ALL」を合言葉に、5年前にスタートした「G’s」。トヨタ自らが開発・生産を行い、「走りの味」にこだわり、トータルチューニングを施したスポーツコンバージョン車シリーズだ。しかし、トヨタはどこまで本気で“走り”を追求しているのだろう。G’sでどこまで攻める気なのか──。

文・小沢コージ 写真・小松士郎

G’sとはG Sportsの略。クルマファンとともに、スポーツ車を「所有する」楽しさ、「走らせる」楽しさ、「語らう」楽しさの拡大に取り組むGAZOO Racingで、G’sは“走りの楽しさ”を多くの人に楽しんでいただくブランド。GRMNはドイツのサーキット、ニュルブルクリンクで鍛えた“走りを極めた”ブランド。

トヨタは果たしてどこまで、スポーツカー戦略に本気で取り組んでいるのか

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小沢:のっけからナンですが、単刀直入にお聞きします。

多田:はい、なんでも聞いてください。

小沢:5年前に始まったこのG’sプロジェクト。トヨタは一体どこまで本気なんでしょうか? 正直言って、一般のお客さまには「走りに特化した仕様」と説明しても分かりにくい気がするし、第一、“G’s”のネーミング自体が取っつきにくい気がするんですよ。

あるいはBMWの「M」モデルのようにやる、アウディの「S」モデルのようにやると言ってますけど、いつまでやるのかと……。うがった見方をすると、豊田社長が引退したら、このプロジェクトも終わっちゃうんじゃないのか? という心配すら個人的にはあるわけです、ぶしつけながら。

多田:なるほど。そもそもG’sを中心に、トヨタのスポーツモデルやモータースポーツ車戦略はどうなっているのかと。そこですね?

小沢:まあ、ある意味そうですね。

多田:まさに、僕がお話ししたかったのもそこです! 僕はちょうど2014年の1月からG’sを担当し、それを発展させた「GRMN」や、今や貴重なFRスポーツの「86(ハチロク)」など、トヨタのスポーツモデル全体を担当することになったんですが、小沢さんがおっしゃるような問題をしっかりやろうということで、組織が再編成されたんです。

小沢:ん? どういうことですか。

多田:まず、そもそもの話をしますと、G’sは単発のプロジェクトで、5年前の発足当時は「86」も出てなかった。トヨタのスポーツモデルがすべてなくなっていた時代で、豊田章男社長の「走りに特化した楽しいモデルを作ろうよ!」ということから始まったわけです。

小沢:とはいえ、最初に出たG’sは「ヴォクシー/ノア」などのミニバン系でしたよね。それがまた意図を分かりにくくさせたような気がしますけど(笑)。

多田:うーん、「マークX」のほうがスポーツモデルとしては分かりやすかったかもしれないですね。その後、G’sは「マークX」「ヴィッツ」「アクア」が追加されました。また、「86」とともに充実していくんですが、僕が担当になった昨年あたりは、小沢さんのご指摘どおり、「これらにはどういう関係があるのか」「トヨタはスポーツカー戦略をどうするのか」が、みんなの疑問になりつつありました。

「エコカーとスポーツカーはクルマの両輪。どちらかだけではダメだ」

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小沢:やっぱり! ほら、G’sバージョンは、1台1台はやたらよくできてるじゃないですか。エンジンには手を付けてなくても、足回りだけじゃなくボデーも真面目に補強してあって、こんな手間のかかること、トヨタが本当にずっと続けるのかと疑問なんです。

多田:G’sが目指すカスタム技術の思想や関連性も分からないと。

小沢:ええ、まさしく。

多田:そこはお客さまからもご質問いただいています。本当は「86」が欲しいけど、今は家族がいるから他車種のG’sに乗っている。同じスポーツ車であるならば、「86」の技術とどう繋がっているのかとか、乗り味はどう違うのかとか……。

たしかにスポーツカーにはヒエラルキーがあって、頂点にレーシングカーがいて、そのフィロソフィー(哲学)が末端のカスタムカーにまで流れているというのがあるべき姿ですからね。

小沢:おお、分かってらっしゃるじゃないですか(笑)。

多田:説明不足な部分もあったとは思いますが、最初のG’sを先代の「ヴォクシー/ノア」で作ったのは、少しでも多くのお客さまに、トヨタの“スポーツ車”への思いを伝えたかったからです。そこで、既存のベース車がたくさんある車種からやろうということになったんです。

小沢:つまりそれが、“アキオイズム”ということですかね。

多田:同時に「86」などのプロジェクトも始まっていましたが、全くの新規車種の開発は時間がかかるじゃないですか。だからまずは、既存車種ベースのG’sから手を付けたんです。

小沢:それと、大きな流れとしては「プリウス」をはじめとするエコカーを流行らせたトヨタ特有の責任感もあったんじゃないんですかね? ここまで日本を低燃費ブームにしちゃったんだから、その分、走りの楽しさも伝えなければならない……と。

多田:たしかに、それもあったと思います。まさに2000年代にエコカーが売れると同時にスポーツモデルも全部なくなってますから。ただ、エコカーとスポーツカーはクルマの両輪なんです。どちらかだけでは絶対にダメだというのが社長の強い信念でした。

多田哲哉/江藤正人

左:多田哲哉(ただ てつや)

モータースポーツ本部 スポーツ車両統括部長
1987年入社。ABSなど新システム開発を担当後、初代「bB」や「ラウム」、2代目「ウィッシュ」などファミリーカーのチーフエンジニアに。2007年に悲願とも言えるスポーツカー開発を任され、12年に「86」を発表。14年からは、「86」に加えGRMN、G’s等トヨタスポーツモデル全体を統括する。週末はほぼイベント漬けというトヨタスポーツカー文化の伝道師である。

右:江藤正人(えとう まさと)

凄腕技能養成部
1973年入社。技術部の車両試験課に配属され、数々の車両テストを担当。運転の腕を見込まれ、テストドライバーの中で最も高い技術を有する「特A」に抜擢。長年にわたり日本中を走り回るほか、欧州駐在も経験し、過酷なことで有名なドイツのニュルブルクリンクサーキットなども走り込む。2010年頃からG’s担当となり、15年4月から凄腕技能養成部に配属。

モータースポーツ本部の設置が意味するもの。その先にあるスポーツカーの未来

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小沢:実際、これからG’sはどうなっていくんですか?

多田:ますます“走り”を極めていきますよ。じつは、今年4月から会社組織が大きく変わりまして、ついに「モータースポーツ本部」というのができました。

小沢:あれっ、前からありましたよね?

多田:“部”はあったかもしれませんが“本部”は初めてです。で、この“本部”というのがトヨタ的には大変な単位で、既に流通本部とか国内営業本部とかありますが、それと同じ規模で動くんです。

小沢:つまり何百人とか何千人単位で?

多田:ええ、おそらく。その組織の頂点にル・マン24時間レースを戦うチームがあり、WRC(世界ラリー選手権)のチームもあると。いままでは縦割りの組織でまとまりがなかった。モータースポーツもレギュレーションがバラバラですから、市販車とはリンクしていなかったんですが、今後はそこもちゃんと連動させていきます。

小沢:そうですか! やっとトヨタが本気でモータースポーツから始まるスポーツカー作りであり、スポーツカーカルチャーを再構築すると。この変革がもつ意味は大きいですよ。もちろん不景気になったからって、すぐにF1から撤退……なんてことはなくなるわけですよね。

多田:そうなると思います。“本部”は一度できると、基本的に永久に不滅ですから。

小沢:ところでお隣りの江藤さんの名刺にある「凄腕」っていう肩書き、非常に気になるんですが(笑)。

江藤:正式には“凄腕技能養成部”ですね。テストドライバーを育てる部署なんですが、ちょっと分かりにくいですね(笑)。

多田:現在、30人ぐらいいるんですけど、江藤みたいに走りを極めた熟練テストドライバーがいて、彼らが乗って「うん」と言わないとG’sやGRMNはこの世に出ないんです。

小沢:つまり、トヨタモータースポーツ本部の量産車部門には走りのシェフがいて、彼らがちゃんと味を見極めたクルマしか世には出さないと。

江藤:そういうことかな。

小沢:それはすごい。いろいろと期待しています!

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。 動画試乗レポートはこちら

G’sのラインナップ(2015年7月現在)は全6車種。詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

toyota.jp

メイン写真:スポーツ車両統括部のG’sチーム。写真右から:南 輝之、江藤正人、渡邊 篤、赤嶺修造、多田哲哉、佐々木良典、今井孝範、石井和哉