Harmony 2015年11/12月号
開発者に聞く

SIENTA 粥川 宏
製品企画本部 チーフエンジニア

SIENTA(シエンタ)

衝撃的なイメージチェンジに込めた “FUN” への想い

12年ぶりにフルモデルチェンジした「シエンタ」。発売1カ月でなんと4万9000台を受注し、話題となった。黙っていても売れるトヨタの人気コンパクトミニバン、ここまで大胆に一新したそのモチベーションは何だったのか──。

文・小沢コージ 写真・小松士郎

軽自動車の強烈な自己主張にどこまで対抗できるか

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小沢:粥川さん、お久しぶりです。「プリウスα」以来ですよね。いやしかし、すごいじゃないですか、新型「シエンタ」! 今どき5ナンバーのミニバンで、発売1カ月で受注が4万9000台なんて。

粥川:ありがとうございます。ホッとしてます。

小沢:また、何ですか、あのCM! 僕がサッカー好きなこともありますけど、ハメス・ロドリゲスを起用しちゃって、久々に商品と非常によくマッチしたイメージ戦略に感心しました。ある意味、“脱ミニバン”みたいなところすらあるなと。

粥川:ええ、実際、今回はトヨタらしくないくらいに広告、カタログ、Webと多角的にタイアップしてPRしています。

小沢:こんなこと言うと申し訳ないんですが、僕らは少々ミニバンに飽きていたんですよね。それはスペースや燃費をめぐる、ほら、膝が入ったとか、頭が入ったとか、そういうせめぎ合いにね。確かにそこは大切だし、そういうミニバンが欲しいのもわかる。でもやや食傷気味でした。そこにハメス・ロドリゲス、ドーン! ですから。しかも、“走るスポーツバッグ”をキャッチに訴えてくるとは……やられました(笑)。

粥川:ちょっとピリッと……。

小沢:いえ、ピリッとどころか強烈に衝撃的(笑)。いったい、どこから出てきた発想なんですか。

粥川:もちろんアイデアは営業からですけど、裏テーマには軽自動車への対抗意識があったんです。白ナンバーのクルマの購入層であるお客さまが今、だいぶ軽自動車に流れているじゃないですか。そんな現状の中で、「宣伝にしても軽自動車って強力だよね」という話になったんです。

小沢:確かに、軽自動車はベタベタにライフスタイルの匂いを押しつけてくる。

粥川:……ガンガン来ますよね。

小沢:ガンガン来ます(笑)。

粥川:それがいいか悪いかは別として、“軽接点”とも呼ばれるコンパクトカーを作る上で、逆に「シエンタ」の魅力をどう訴えていくかというのが大きなテーマでした。特に、軽自動車をめぐるお客さまは、WebでもCMでもかなり情報に精通なさっています。最初に何か、フックとなる事象といいますか、振り向くきっかけがないと、クルマをなかなか見に来てくれないんですよね。

小沢:「クルマが大好き!」という層ではありませんもんね。

粥川:私達は、商品には絶対の自信がありますけど、それだけではお客さまに届かない。

小沢:そうか、だからあれだけスポーツバッグ一本で振り切れたんですね。とにかくスペースの“ス”の字も出てこないんだから(笑)。

コンパクトカーをギリギリまで広げるという発想

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小沢:商品自体も非常によく出来ています。どう考えていくと、あのデザインとパッケージに到達できるんですか?

粥川:まず大前提として、「シエンタ」は「ノア」や「ヴォクシー」を小さくしていったクルマではないということ。四角い箱にしたくなかったんです。どちらかというと扱いやすいハッチバックをミニバンのサイズまで引き上げて出来上がった感じです。

小沢:大きなモノを小さくしたというより、小さなモノを出来る範囲で大きくしたと。

粥川:はい。おかげで取り回しのよさは残っていて、見た目もコンパクトで「これなら乗れるわ」と女性のお客さまに言っていただけるところに収められました。ただ、それで狭くちゃ軽自動車に負けてしまうので、先ほどおっしゃられたように、室内空間は足元が広いとか、頭がぶつからないというレベルを十分確保してあります。

小沢:要するにコンパクトカーと言われる範囲の中で、ギリギリまでスペースを取ったと。そこが「ウィッシュ」との最大の違いですね。あれは結構スタイル優先だったから。

粥川:我々のもっているコンパクトカーをもうちょっとだけ大きくすれば、十分なスペースや使い勝手を備えながらも、扱いやすいクルマと見なしていただけると思うんですよね。

小沢:しかもそれは、特に女性にしっかり響きますよね。「私にも運転できるわ」と。

粥川:そうです。やっぱり女性にダメ、奥さまにダメって言われると売れませんから。

小沢:そこが「ノア」「ヴォクシー」との最大の違いですね。あのサイズは小柄な女性だと、乗る気にならないでしょう?

粥川:確かに、スーパーとかショッピングモールの駐車場で、女性がひとりで運転なさっているのを見ると、少し大変そうに感じますよね。

小沢:それとスタイルですよね。あのラテン・テイストはどこから生まれたんですか?

粥川:デザイナー達は「エモーショナル・ファンクション・アイコン」とキーワードにしているんですが、その“エモーショナル”がラテンに繋がった気がします。とにかく「機能追求=つまらない」になりがちなので、開発チーム内では「これしかないね」って合意して、首尾一貫してブレずに開発を進めました。

小沢:ほう! キーワードは“ラテン”じゃなくて“エモーショナル”だったんだ。

粥川:はい、“エモーショナル”なんです。

粥川 宏

粥川 宏(かゆかわ ひろし)

1984年入社。血液型はAB。最初はボデー設計部に配属、鳴り物入りの初代「セルシオ」開発に関わる。当時学んだことは今も基礎になっていると言う。のちに「スープラ」を担当後、東富士研究所でアルミを使った環境対応車の先行開発、愛知万博に出品した「I-unit」などの開発に携わる。ボデー計画室長としてFF系乗用車全般を担当し、2006年から「プリウスα」の開発主査、11年から「シエンタ」を担当。趣味はガーデニング。

優秀な3列目シートをたためば驚異の荷室空間に

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小沢:ところで、僕は疑問に思っていたんですが、今どきのファミリーカーに、やっぱり3列目シートは絶対必要ですかね。

粥川:うーん、そうではないかもしれません。僕が担当していた「プリウスα」も、3列シート車より2列シート車のほうが売れてましたからね。ただ、1台もつんだったらやはり3列目があったほうが、使い方は広がりますよね。

小沢:欲張れば、ですね。

粥川:「シエンタ」の今回のウリは、3列目をたためば完璧な2列シート車になること。しかもたたんでも、まったく邪魔にならないんです。

小沢:それで、あのものすごく凝った3列目の“ダイブイン格納”なんですね。伸ばせば前の2列目シートの下に完璧に収まる。

粥川:あの、実はウチは共働きでして、これは以前もお話ししましたけど、年末年始とかに「コストコ」のような大型スーパーへ行くわけです。で、この時とばかりに買い物して、荷室にドサッとのせようとした時に──。

小沢:どこかで引っかかると。それが嫌なんですよね、粥川さん(笑)。覚えてます。

粥川:嫌なんです! でも、新型「シエンタ」は何でもバンバンのりますから。実際、大型テレビも積載可能でした(笑)。

小沢:そういえば粥川さん、「プリウスα」の時も、「自分が乗りたいクルマを作った」とおっしゃってましたよね。

粥川:ええ、私も一般庶民のひとりですから。

小沢:その感覚ですよね。だから今回もクルマが欲張りですもん(笑)。パワートレインにしても「アクア」譲りのハイブリッドや、新開発のエコな高圧縮1.5リッターまで選べる。全然妥協してない欲張りコンパクトミニバン。

粥川:すみません、今回もAB型のせいにしといてください(笑)。

小沢:大いに結構! だからこそ、いいクルマが生まれるんですから。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。 動画試乗レポートはこちら

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