Harmony 2016年5/6月号
開発者に聞く

プリウス 豊島浩二
製品企画本部 チーフエンジニア

プリウス 2WD E

デビューから18年、ようやく“普通車”になった「プリウス」のこれから

1997年に世界初の量産型ハイブリッド車として世に出て18年、世界が待ちに待った4代目は、月販目標台数1万2000台に対し、昨年12月の発売後1カ月で受注台数約10万台と、相変わらずの破壊力を誇る。ようやく“普通車”になった「プリウス」の次なる使命とは──。

文・小沢コージ 写真・小松士郎

4代目「プリウス」は“普通車”として他車種と競合していく

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小沢:いやあ、いきなり売れてますねぇ、4代目。1カ月で受注が10万台ですもんねぇ。

豊島:はい、おかげさまで。ありがとうございます。

小沢:3代目の発売時と比べるとどうなんですか?

豊島:3代目は発売1カ月で約18万台を受注しましたから、数字だけを見れば負けていますけれど、当時は「エコカー減税政策」の恩恵があり、また、原油価格も高かったですからね。

小沢:しかし、正直言って予想以上です。トヨタのハイブリッド車ということでは、売れ行きトップクラスの「アクア」もあるし、強力コンパクトミニバンの「シエンタ」もあるのに、やっぱり「プリウス」ブランドは強かった!

豊島:先代から6年半、大変長らくお待たせいたしました(笑)。

小沢:3代目は結局、どれだけ売れたんですか?

豊島:最終的にはグローバルで約250万台、国内で約120万台販売されました。

小沢:おおっ、そりゃあ買い換えのお客さまが殺到しますわ。
ただ、問題は買い換え需要が一段落した後ですよね。「プリウス」19年目の難しさって、守る立場と挑戦者の両方のスタンスを求められることだと思うんですね。ハイブリッド車のパイオニアとしての安定感とともに、進化も求められる。しかも販売する国によっても立場が違って、爆発的に売れた日本では「守り」ですけど、あまり売れていない欧州や新興国では「攻め」て行かなくてはならない。豊島さんは4代目のプロトタイプ発表時に「『プリウス』はやっと社会人1年生になりました」とおっしゃいましたが、やはりそういうプレッシャーを感じているのかな、と。

豊島:いえ、グローバルではもちろんのこと、日本でも社会人1年生だと思っていますよ。

小沢:え、そうなんですか。これだけバカ売れしてるのに?

豊島:たしかに台数は出ていますが、「プリウス」はこれまで“環境車”という枠組みの中で育ってきました。しかし今後は、クルマ全般、つまり“普通車”のカテゴリーの中で勝負しなければならない。そういう意味では1年生です。

小沢:うーん、謙虚だなあ、豊島さん。でもたしかに今の時代、クルマは社会性が求められますからね。高い環境・安全性能が求められ、規制もどんどん厳しくなっています。「プリウス」はこれまで社会性の高さで売れてきた部分がありますよね。

安全、交信、給電……クルマに求められる社会性とは?

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豊島:ただ、環境車ひとつとっても今はダウンサイジングターボだったり、クリーンディーゼルだったり、選択肢が増えていると思うんですよ。その中でハイブリッドはもはや単なるひとつの選択肢に過ぎず、しかも3代目「プリウス」はお客さまに我慢を強いてきた部分があったと思うんです。

小沢:たとえば、走りがイマイチつまらない、おっとりしてる……とか言われますよね。

豊島:それから、長距離を乗ると疲れる、とか。

小沢:え、そうですか? そんなに疲れますかねえ。

豊島:僕は3代目にも乗っていましたが、たとえば、運転ポジションが上向きで、街乗り程度なら気になりませんが、名古屋─東京往復なんかだと腰にストレスがかかるんですね。正直言って疲れるし、もっと道具として、運転者の感性で操れるものであるべきだと思いました。ですから今回は基本性能を上げました。それは決して走りの楽しさをアピールするためではなく、安全性のためなんです。違和感なく意のままに操れれば、集中力も途切れない。さらにトヨタセーフティセンスなどの予防安全性能も加えていくと、さらなる安全にもつながります。

小沢:なるほど。新型「プリウス」はより広い意味での社会貢献の道を歩き出したと。

豊島:そのほか、つねに社会とつながっている「コネクティブカー」ということでも進化させましたし、外部給電性能、つまり災害などの非常時に発電機として使える性能も上げました。安全、交信、給電の分野で社会貢献ができるようにもなったんです。

小沢:ついでに言えば、後を追いかけてくるであろう「プリウス PHV」。電池を増やしたプラグインハイブリッドもきっと、凄いことになるんでしょうね。

豊島:さあ、そこはよくわかりませんが(笑)、とにかくクルマの社会性がより高く問われている中で、新型「プリウス」は単に“走りがいい”だけではない進化を遂げているわけです。

豊島浩二

豊島浩二(とよしま こうじ)

1985年入社。大阪府出身。ボデー設計部に配属され、以後、17年間「カローラ」の設計に携わる。2001年にレクサスLSの製品企画室に異動し、LS460とLS600 hを担当。その後、チーフエンジニアとして欧州向け商用車やEV企画を経て、11年から3代目「プリウス」「プリウスPHV」のチーフエンジニアに就任、現在に至る。4代目開発については「自分が本当に欲しい『プリウス』を開発しました」とのことで、自身も発売と同時に3代目から買い換えた。趣味はジョギングと手を動かすこと。最近はパン作りにハマっており、バゲットまで焼くこだわり派。さらに、長男が子どもの頃は洋服まで作っていたという手仕事の達人。

4代目「プリウス」は“完成度の高い醤油ラーメン”

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小沢:そうか、ある意味大人になったというか、それこそ“社会人”になったわけだ! ちょっと運動神経がよくなったとかそういうレベルではなく。

豊島:そうですね、そうとらえていただけると助かります。そういえば、あるジャーナリストの方に、「僕は普通のクルマを作りたかったんです」と言ったら、「ええ、完成度の高い醤油ラーメンですよね」と。いわゆる豚骨とか味噌味とか担々麺じゃなくて、すごくおいしい普通の醤油ラーメン。「でも、実はそれが一番難しいんです」とも言われました。

小沢:ええ、わかります。毎日食べても飽きない醤油ラーメン。それこそが一番難しい。まさに4代目はそういう出来映えかもしれません。
ところで今後「プリウス」はどこへ向かうんですか。「カローラ」の代わりになるんですかね?

豊島:そこは難しいですね。18年経って「プリウス」はようやく、環境車普及の役割をあるレベルまで果たしたところで、さらなる普及活動を担うのか、新たな先進技術普及の任を負うのか、その岐路に立っているとも言えます。この先の進化は、5代目のチーフエンジニアが自分で探るしかないと思います。

小沢:究極の醤油ラーメン……苦労しそうだ。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。 動画試乗レポートはこちら

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