Harmony 2016年7/8月号
開発者に聞く

ウィングレット 覚知 誠
パートナーロボット部 モビリティプロジェクト モビリティグループ 主幹

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「ウィングレット」(Winglet)とは、「すべての人に移動の自由を」をテーマに、歩行を補助し、移動の楽しさを届けることを目的に開発されたパーソナル移動支援ロボット。

移動支援ロボットが可能にする気軽で楽しい“どこでも移動”の自由

みんなで一緒の“クルマ”から、もっとコンパクトに、さらに自由な個人の移動を可能にする“パーソナルモビリティ”の領域へ——。トヨタが長年培ってきたロボット技術を駆使して実用化を目指す「ウィングレット」が描く未来とは……。

文・小沢コージ 写真・小松士郎

世界的に進む“歩車分離”の街作り

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小沢:“未来の竹馬”みたいな「ウィングレット」、久々に乗らせていただき、単純に楽しかったです。いつ頃から開発が始まったんでしたっけ。

覚知:最初にコンセプトモデルが出たのは2008年で、今回乗っていただいた2代目モデルが出たのは13年です。形はほぼ同じですが、信頼性が向上し、作りのよさもまったく違います。お客さまに楽しんで乗っていただけるレベルに仕上がっていると思います。

小沢:この手の2輪走行のモビリティって各社いろいろ出てますけど、最初のきっかけは「セグウェイ」ですよね、アメリカの。

覚知:そうですね。00年頃に登場しました。

小沢:まあ、正直言って、技術的にはどれも大差ない気がするんですよ。結局はタイヤが2つか3つ付いた超小型電動カーで、ジャイロセンサーや加速度センサーが付いていて絶対に倒れない。

それより問題は、これをどうやって社会に適合させるのか、どう使うかってことだと思うんです。ローラースケート代わりなのか、車椅子代わりなのか、はたまた自転車代わりなのか……という。

覚知:その通りだと思います。我々が目指しているのは、歩行空間で人と共存できる新しいモビリティです。加速する超高齢社会やクルマ非所有層の増加など、交通弱者増加の解決策のひとつとして「ウィングレット」があります。

小沢:ああ、やっぱりそういうことなんですね。

覚知:また、日本だけでなく世界的にもそうなのですが、渋滞緩和やCO2削減の問題、交通事故防止の観点からも街の作りが変わってきていて、“歩車分離”が徐々に進んでいます。

小沢:“歩車分離”?

覚知:簡単に言うと、歩行者天国みたいなところが増えるということです。実際、都内の大きな駅前がそうですけど、歩道は充実していますよね?

小沢:ああ、確かに。ヨーロッパでもそうですよね。日曜日とかに駅に行くと、中心部にクルマが入れなくなってたり、広場だか歩道だか分からないスペースが広がって、みんながゆったり過ごしています。

覚知:歩行空間……つまり、歩かなくちゃいけない空間がどんどん広がっていくんです。

小沢:日本でも、地方より都会に住んでいる人のほうが長距離歩いているというデータがあります。東京の地下鉄を乗りついで目的地に行くだけでも、ずいぶん歩きますもんね。

覚知:そうなんです。そうなると、すべての人が安全かつ快適に移動できる“歩行空間でも使えるモビリティ”が、近い将来必要になるはずだと考えるわけです。

発想の原点は、ロボットにあり!

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小沢:そもそもなぜトヨタは、パーソナルモビリティに着手することになったんですか?

覚知:私が関わったのは09年からですが、最初にパーソナルモビリティの開発に乗り出したのは00年以前ですね。当時は着席型や3輪仕様など、さまざまな形のものが研究開発されました。

小沢:ほほう、「セグウェイ」の登場より前だったんですね。それまで覚知さんは、何の開発に携わっていたんですか?

覚知:私が所属する部署は“パートナーロボット部”といいまして、「ウィングレット」以前は、05年の愛知万博に登場したヒューマノイド型ロボットの開発を担当していました。

小沢:なるほど!「ウィングレット」のもともとの発想はロボットなんだ。

覚知:ええ、そうです。トヨタが掲げるテーマのひとつに「すべての人に移動の自由を」というのがありまして、パーソナルモビリティはその一番小さいカテゴリーに相当します。

小沢:ほかにもロボットを開発しているんですか?

覚知:「リハビリロボット」があります。歩行に不安のある方の体幹バランスを補助する装置、あるいは足が動かなくなった方に、歩く感覚を取り戻していただく装置などですね。まだ開発段階ですが。

小沢:そもそも日本には“ロボットの夢”みたいなものがあるんですよね。ほら、鉄腕アトムがいる未来……みたいな。

覚知:ロボットブームはこれまで10年か20年おきに2〜3回は到来しています。しかもロボット技術は、いろいろな工学系先端技術にカテゴライズされますから、自動車産業とは相性がいいんですよ。

小沢:ロボットっていうとついヒト型を想像しちゃうけど、部分的に応用すればリハビリロボットになったり、「ウィングレット」になったりするわけですね。

覚知:やっぱり、ヒト型は面白いですけどね。

覚知 誠

覚知 誠(かくち まこと)

電気通信大学で機械制御工学を学び、医療機器メーカーに就職。しかし、ロボット開発を希望し、2002年にトヨタに入社し、生産技術開発部に配属される。05年にパートナーロボット部が創設され、愛知万博に出品したヒューマノイド型ロボットの開発を担当。その後、09年から倒立2輪走行の「ウィングレット」を担当。趣味はドライブ、スケートボード、BMXなど乗りもの全般。

海外では普及が進む移動支援ロボット

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小沢:ただ、現実をシビアに考えると、この手の新型モビリティって日本は技術的には有利でも、倫理的にかなり難しい気がするんです。結局は法律と安全管理の問題になるじゃないですか。電動アシスト自転車の普及だけでも苦労しているのに、電動歩行補助装置となると法対応が難しいし、事故が起きればバッシングの嵐。実際、「セグウェイ」をたまに海外では見かけても、日本ではほぼ見たことがないですから。

覚知:そうですね。欧米、シンガポールや中国ではかなり普及していますからね。国によってはカテゴリーが曖昧だったりするのですが、自転車の扱いに近いですね。

小沢:そうなんです、その曖昧さが日本にはない。

覚知:日本での普及に関しては、確かに難しい部分はあります。ハンドル型電動車椅子のシニアカーは歩行補助装置として扱われており、結構普及しています。ただ人混みでの走行は厳しいし、一部商業施設には入れません。それを考えると、「ウィングレット」ならスペースを取りませんし、時速も6キロ制限でほとんど歩く速度と同じです。

小沢:オシャレで小回りが利いて、さらに機能的なシニアカーになる可能性があると。

覚知:はい、そう思います。
「誰にでも乗れる」をコンセプトに、ロボットが人の動きを感知してサポートする小さな電気自動車、それが「ウィングレット」です。将来、必ず社会貢献できると信じています。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。 動画試乗レポートはこちら

ウィングレットの詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

toyota.jp