Harmony 2016年11/12月号
開発者に聞く

エスティマ 水澗英紀
CV製品企画 チーフエンジニア

エスティマ ハイブリッド アエラス プレミアム-G

“スタイリッシュなミニバン”を必要とするお客さまのために

発売から26年、今も根強い人気を誇る「エスティマ」3代目がモデルチェンジした。じつに10年ぶりだが、“フル”ではなく“マイナー”。が、そうとは思えない変貌に込められた思いとは……。

文・小沢コージ 写真・政川慎治

“マイナーチェンジ”にとどまった理由とは

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小沢:今回の「エスティマ」ですが、ホントにフルモデルチェンジではなくてマイナーチェンジなんですか? そうは見えないんですけどねえ。

水澗:ホントです。3代目は2006年にフルモデルチェンジしましたから、ちょうど10年目のマイナーチェンジとなります。

小沢:しかも今回は、「ノア」「ヴォクシー」の生みの親である水澗さんがチーフエンジニアを務めていらっしゃる。

水澗:ええ、これまで僕は、「エスティマ」の開発には関わっていませんから、これが初めてですね。

小沢:何か深い事情がありそうですね……。なぜマイナーチェンジにとどまったんでしょうか?

水澗:通常ですと、モデルチェンジのタイミングはもっと早かったはずなんです。ただ、今やミニバン市場は「ノア」「ヴォクシー」のような箱型が主流です。「エスティマ」の卵型フォルムのように、スタイルに特徴がある車種の販売台数は減少していますし、今後、大幅に回復するとも想像しにくいんですよね。

小沢:とはいえ、「エスティマ」ほどのビッグネームになると、長年愛用しているお客さまも多そうだし、代替えの方だけでもかなりの台数が見込めそうですけどねえ。

水澗:たしかに、それはあります。今も「エスティマ」の保有台数は40万台を超え、数年前まで月販3000台前後ありました。新型「エスクァイア」が出るまでは、ですが。

小沢:なぬっ、「エスクァイア」って、アレも水澗さんの担当じゃないですか(笑)。

水澗:はい……すみません。

小沢:なるほど、要するに「エスティマ」はフルモデルチェンジするには台数が見込めないし、かといって生産をやめるには惜しい存在だということですね。

水澗:そういう部分はあると思います。

「エスティマ」ならではの卵型フォルムの美を強調

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小沢:僕は今でも、初代「エスティマ」の“TOYOTAの天才タマゴ”ってCM、覚えてるんですよ。すごく印象的だったし、当時は売れてましたからね。水澗さんも、相当悩まれたんじゃないですか、モデルチェンジに際しては。

水澗:ええ、手強かったですね。お客さまからの期待は大きいし、それでいてマイナーチェンジなので、できることには限りがあります。与えられた開発費の中でエンジンに手を付けるのか、装備に手を付けるのか。全部はとてもできない。

小沢:つまりは、家を新築するんじゃなくて、リフォームするようなものですよね。いかに求められる要素を見切って上手にリフレッシュさせるか。

水澗:その通りです。僕は「エスティマ」の立ち位置やお客さまを考えた時に、もう一度「エスティマ」に、そのキャリアにふさわしいかっこよさと、質感の内装を与えようと考えたんです。

小沢:実際、見た目はかなり変わりましたよね。ヘッドライトはこんな切れ長じゃなかったし、フロントマスクは驚くくらいにクリーンでスッキリ。

水澗:まずは、ツルッとした卵のようなフォルムの美しさをもう一度出そうと。だから複雑なキャラクターラインは入れませんでした。また、18年から始まる歩行者保護の法規に対応すべく、ボンネットやフェンダー形状を見直し、衝突時の衝撃緩和を図っています。

一方、パッケージングは基本的にいじらずに、見た目のクオリティーを上げました。実際、「エスティマ」のお客さまは30〜40代の女性がメインでして、さりげなくファッショナブルかつスマートなデザインを好まれるんです。

小沢:マイルドヤンキー路線ともファミリー路線とも微妙に違う。あえて言えば、輸入車のミニバンを買う客層に近いかもしれないですね。だから上級グレードの「AERAS SMART」で合皮シートを採用しているんですね。かなりインパクトあります、ツヤツヤした質感で。

水澗:「エスティマ」では初採用で、汚れが付きにくく、夏でも熱くなりにくい加工がされています。

小沢:上級グレードで選べる3列目の電動床下格納シートもいいですねえ。

水澗:あれは一部グレードで標準装備ですが、今回からオプション設定できるグレードを拡大しました。それから着目していただきたいのは、インストルメントパネルの質感を大幅に上げているところです。これまでの「エスティマ」は、正直言って残念な質感でしたから。

小沢:内装の要を、しっかりリフォームしたって感じですね。

水澗:装備面でもぬかりありませんよ(笑)。全クラスにスーパーUVカットガラスを採用し、一部上級グレードの後席にはナノイーを放出するエアコンも設定しています。また、ボデーカラーではミニバンには珍しいツートーンを採用。今回は塗りかたから変え、ドアを開けた所に色が残らないようにピラーまですべてブラックアウトし、高級感を上げています。

水澗英紀

水澗英紀(みずま ひでき)

1961年石川県生まれ。横浜国立大学工学部を卒業後、85年トヨタ自動車入社。実験部で車両の機器、強度等の評価を担当し、車両実験部信頼性実験室長を経て製品企画本部へ。「ノア」「ヴォクシー」は先代から2世代継続して担当。他にも「エスクァイア」「アイシス」「ウィッシュ」などを手がけたミニバンのプロフェッショナル。趣味はウォーキングとサイクリング。意外なところではマンガ収集など。

トヨタが極めるミニバンのさじ加減

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小沢:ところで走りはどうですか? ステアリングがちょっとスッキリしたとは思ったんですが。

水澗:パワートレインはハイブリッドもガソリンも変えていません。ただ、足回りのダンパーとパワーステアリングの設定は変えてあります。

小沢:まさに必要にして十分な改良に留まっていると。それにしても、最近のトヨタのミニバン戦略は当たっていますよね。水澗さんが担当なさった「ノア」「ヴォクシー」「エスクァイア」を核に、ゴージャス系の「アルファード」「ヴェルファイア」や、最近じゃ小さな「シエンタ」まで売れている。

水澗:トヨタのミニバンは他にもいろいろあるんです。ただ、日本の市場規模を考えると、そんなに多くの車種は必要ない。基本的に3列シートでスライドドアであることを考えると、大中小3車種あれば十分とも言えます。

しかしその一方で、スタイリッシュなミニバンを必要とするお客さまも確実にいらっしゃるし、そういう方々に「欲しい」と思ってもらえるミニバンにしたかった。

小沢:さすが、実用性を追いがちなミニバンにあって「かっこよさ」「スタイル」がどのくらい必要かを読み切ってる。この「エスティマ」は、他社じゃ逆立ちしたって出せないような気がしますよ。

水澗:ふふふ……ほめ過ぎですって、小沢さん(笑)。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。 動画試乗レポートはこちら

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