Harmony 2017年5/6月号
開発者に聞く

C-HR 古場博之
MS製品企画 主査

C-HR

C-HR 2WD G

トヨタ式唯一無二の「ちいちゃいSUV」

ここまで走りとスタイルに特化したトヨタ車も珍しい。「このクルマを世に出せたら本望」。“走り屋“開発主査が腹を括った「C-HR」の凄さとは……。

「このクルマが完成したら、思い残すことはない」と言っていました

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小沢:のっけからナンですが、よくぞここまで思い切ってつくれましたね。

古場:そうですね……。全力投球でつくりました。

小沢:ご自分がやったことの凄さって、なかなか気づきにくいとは思うんですけど、たとえば今の日本のクルマって「広さ」と「燃費」ばかりじゃないですか。「ノア」「ヴォクシー」もそうですけど、両側スライドドアの軽自動車を見れば分かるように。
ところが「C-HR」は燃費はともかく「広さ」を相当無視してる。スタイルは露骨にタイヤがデカくてキャビンは小さいし、後席や荷室はライバル車より微妙に狭い。あくまでもカッコよさと走りが最優先で、今どきこんなクルマ、あり得ないでしょう(笑)。

古場:光栄です。多くのお客さまに気に入ってもらえるといいなぁ。

小沢:実際、僕もやや不安でしたけど、発売後1カ月で受注が4万8000台ですよ? いやあ、初販も凄すぎてビックリです。

古場:いやいや、最初だけですよ。勝負はそのあとですね。

小沢:そうかなあ、そうじゃないような気がする。ただ僕がもっとも驚いているのは、トヨタでこんなにワガママなクルマづくりがよく許されたなと。

古場:ありがたいことに、それが許されちゃったんです(笑)。

小沢:開発スタッフでもあるトヨタ自動車東日本の方が「古場さんはこのクルマが完成したら、もう思い残すことはないと思っているみたい」だと言ってたんですよ。そこまで思い詰めてつくるって、それが凄いなと。

古場:たしかにそれは言ってましたね。今年1月に55歳の誕生日を迎えたんですが、クルマの開発って5年ぐらいかかるでしょ。おそらく僕が担当するのは、このクルマが最後やなあ……と、ずっと思っていて。

小沢:引退時に思い残すことはないように、と?

古場:ええ。「C-HR」はクロスオーバーにもかかわらず、ドイツのニュルブルクリンクというもの凄いサーキットで開発したんですね。結構ぜいたくな出自なんですけど、「走り」は絶対に妥協できなくて、「これが最後だから思うようにさせて」を貫きました。

小沢:おお……ほとんど遺言作戦。でも、それって会社員としては究極のワガママじゃないですか?

古場:はい、ワガママです。申し訳ありません(笑)。

古場博之

古場博之(こば ひろゆき)

愛知県出身。大阪工業大学大学院を修了後、1986年に入社。生産技術を担当し、「セリカ」「MR2」のFRPパーツを生産。90年、シャシー設計に異動し、「カローラ」のサスペンションを10年間担当した後、2010年1月から「C-HR」開発主査に。愛車は「MR-S」「86」を経て、現在は80型の「スープラ」。レーシングカートや「FJ1600」など本格モータースポーツもこなす筋金入りの走り屋エンジニア。

開発のテーマは「ディスティンクティブ(唯一無二)」

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小沢:まあ実際、トヨタ自動車の変革期にちょうどうまく当たったというのもありますよね。豊田章男社長の言う「もっといいクルマづくり」戦略の。

古場:それはあると思います。社長が「もっといいクルマをつくろうよ」と言ってなかったら、「C-HR」はできていなかったでしょうね。

小沢:同感です。そもそも“C-HR”って名前からして、大変分かりにくいわけで……。

古場:“コンパクト(Compact)・ハイ(High)・ライダー(Rider)”の頭文字をつなげただけですから。

小沢:スタイリッシュなコンパクトSUVとしては最後発なので、よりカッコよく、走りを濃厚にしないと目立たない……という判断もあったのでしょうが、トヨタの販売力があれば、もっと普通につくっても売れたと思うんです。国内マーケットに限って言えば。

古場:そこには理由があるんです。このクルマは2010年に「ちいちゃいSUVをつくれ」って指令があって開発が始まったんです。

小沢:えっ、「ちいさくしろ」だけですか?

古場:ええ、本当にそれだけです。単純に「ちいちゃいSUV(笑)」。

小沢:スタイルとか広さとか、装備などに対する指示はなかったと?

古場:その通りです。だから北米、中米、南米、東南アジア、欧州と、海外のSUV事情をリサーチしたんですが、新興国と先進国では、SUVに求められている要件が違うんですよね。

小沢:そりゃそうでしょうね。

古場:両方追うのは無理だし、どっちかに絞ろうとなって、当時は日産の「キャシュカイ」が売れてたし、「シトロエンDS4」とかかなり思い切ったデザインのクルマも出ていた。しかもユーザーの方に購入理由を聞くと、「カッコいいから」「ディスティンクティブだから」と返ってくる。これまでにないスタイリッシュなクルマにしないとダメだと思いました。

小沢:ディスティンクティブ……。うーむ、感覚的ですね。

古場:でもそれが、凄いキーワードになりました。で、方針が決まったら、あとは走り切るしかない。スタイル的にはより大きなタイヤを付け、下半身を力強くして、上半身をスピード感のあるものにしようと。この手のクルマはたいてい、実際に走るとコンパクトカーと比べて背が高く、だるいというか、どこか物足りない感じになりがちですからね。

小沢:だから「スタイル」と「走り」に絞ったんですね。でも、ひと口にスタイルで違いを出すって言っても、結構難しくないですか。

古場:そうなんです。開発当時は、担当役員と廊下ですれ違うたびに、「ディスティンクティブ」って小声で囁かれてました。

小沢:なんとも言えないプレッシャーですねえ(笑)。

古場:だからデザイナーと「ディスティンクティブ」をトコトン議論して、リアはもっと寝かして、前後ももっと絞って……と。ラゲッジは少々荷物が積めんでもよしとしよう、とか。

C-HR

運転のしやすさ、楽しさを追求したコックピット。長距離ドライブでも苦にならないよう、ドライビングシートのクオリティにもこだわった。

数字では表せない価値を打ち出したトヨタの“これから”

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小沢:八方美人じゃ「ディスティンクティブ」の実現は無理だと。割り切りや犠牲が必要と判断したんですね。

古場:ええ。しかしそうなると、当然ですが異論や反論が出てきますよね。なにしろトヨタはそれまで、「コンパクトなのにキャビンや荷室が広い」「燃費がいい」で売っていましたから。キャビンや荷室の広さ、燃費のよさなど、どれも数字で表現できるから分かりやすいんです。

小沢:たしかにそれこそが、トヨタにおける王道のクルマづくりというイメージがあります。

古場:でも「あ、カッコいいな」って言ってくれる人もいまして、僕は開発初期から一貫して、スタッフに「『C-HR』はSUVではない。“クロスオーバー”だから」と言いつづけました。

小沢:そうやって「C-HR」に実用性を求めさせない細かい努力、あるいはワザが必要だった。

古場:一方で前述の担当役員には「古場君な、このクルマはいろんな人がいろんなことを言ってくるけど、自分が思ったようにやれ」って背中を押してもらいました。

小沢:きっと、トヨタにも危機感があるんだと思います。今まで通りのクルマづくりではダメだと。新世代プラットフォームのTNGAにしろ、欧米はもちろんアジアの新興自動車メーカーに対して、販売力や燃費だけじゃなく、本気で質感やデザインでリードを取っていかないとダメだという。

古場:僕はもてるすべてを出し切り「C-HR」をつくらせてもらいました。あとはお客さまの判断に委ねます。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。 動画試乗レポートはこちら

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