Harmony 2017年7/8月号
開発者に聞く

プリウスPHV 金子將一
MS製品企画 主査

文・小沢コージ 写真・小松士郎

PRIUS PHV

PRIUS PHV S

プラグインハイブリッド車の存在意義

力強いEV走行を実現した2代目「プリウスPHV」。次世代エコカーの先鋭が冷静に問いかけるPHVの同時代性とEVの必然とは……。

EV車の大容量電池がもたらすもの

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小沢:満を持して登場した「プリウスPHV」ですが、今回はあえてハードウエアについて深く突っ込むのではなく、「PHVで世の中をどう変えるのか」をお聞きしようかと。CMでも、「ハイブリッドの次は、なんだ?」と謳っていることですし。

金子:なるほど、PHVの存在意義とはなんぞや、ということですね。わかりました。

まず今、日本はもちろんアメリカや欧州などで叫ばれているのは車両の電動化。つまりEV車の普及です。近い将来、石油の枯渇が危惧される中、風力、水力、太陽光はもちろん化石燃料を燃やしても取り出すことができる電気をクルマの燃料に……ということで、EV化が進んでいるんですが、その一方で電気は貯蔵が大変難しく、エネルギー密度も非常に低いことが難点です。

小沢:貯蔵とは、電池のことですよね。つまり電池の性能が低すぎるという意味ですか?

金子:わかりやすく言うと、今回の「プリウスPHV」の燃料タンク容量は43リットル。満タンのガソリンの重さは40キロ以下で、しかもハイブリッド走行でのモード燃費が37・2km/Lですから、満タンならざっくり言って1500キロほど走れる計算になります。

ところが電池のみですと、8・8kWhのリチウムイオン電池をフル充電しても、68・2キロしか走れない。

小沢:「プリウスPHV」は電池重量だけで120キロ。つまりガソリンの3倍以上の重さのくせに、航続距離はたった20分の1。同じ距離を走ろうとすると電池はガソリンの約60倍の重量が必要になる。逆に言うとガソリンがいかにエネルギーとして持ち運びしやすいかという。

金子:その通りです。もちろん電池の性能が上がると多少軽くはなりますが、ご存じの通り、急速にEV化が進んでいる今、そもそも航続距離が短いというEV車の問題を、バッテリーの大容量化で解決しているんです。

小沢:たしかに! 某・国産EVが新たに30kWhの電池を搭載しただけでも驚いたのに、昨年登場した北米のプレミアムEVは、100kWhっていう巨大電池を搭載していました。

金子:ええ、すると何が起こるかと言うと、クルマが変わっていくんです。重量を支えるために大きく頑丈なタイヤが必要になり、その重量で衝突安全性能を成立させるためにボデーがどんどん肥大化していく。

小沢:そうですよね、たとえば「テスラ」なんか、尋常でなくデカいEVセダンですしね。

金子:じつは、ここで冷静に考える必要があるんです。人が1日平均何キロぐらいクルマを運転するかというと、日本の場合はせいぜい15〜20キロで、欧米でも30キロぐらいなんですね。

小沢:そんなもんでしょうね。

金子:つまり今はフル充電で300〜400キロ走れるEVが出ていますけど、まだ270〜370キロ走行可能な電池を、たんに重りとしてクルマに搭載していることになりませんか?

小沢:なるほど、そういう計算もできるのか。重い電池を積んでも短い距離しか走らないなら。

金子:もちろん、考え方にもよりますが、それは非常に無駄だと思うんですよ。クルマが必要以上に重く頑丈になるばかりか、バッテリーって貴金属とかレアメタルなどが大量に使われるわけですから。

小沢:電池は希少マテリアルの宝庫ですからね。

金子將一

金子將一(かねこ しょういち)

青山学院大学理工学部を卒業後、1991年にトヨタ自動車入社。エンジン設計にたずさわった後、99年に製品企画室に配属。ミニバンの「イプサム」「ガイア」「アイシス」や、「カローラ」を手がけた後、現職。趣味はバイクとスキーとスピード系アクティビティー。

「ガソリンを10リットルだけ入れて納車してみたら?」

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金子:一方、PHVなら必要最低限のバッテリーを積んで適度に毎日EVとして走れ、長距離はガソリンを使ってエンジンとモーターのハイブリッドで走れるじゃないですか。

小沢:ある意味、効率的で無駄のないジャストサイズEVだと。

金子:最近、僕は販売店のみんなに言うんです。「『プリウスPHV』は満充電にして、ガソリンを10リットルだけ入れて納車してみたら?」と。毎日充電して使っていただければ、たった10リットルですらなかなか使い切らないはずだから。ヘタすると数カ月もつからと。

小沢:そうすれば、PHVが事実上の“使えるEV”であることが理解できる。

金子:私が言いたいのは、400キロ走れるEV車1台分の電池で、4台のPHVがつくれるんです。EV車の電池の無駄な大容量化と航続距離競争を食い止めたい……というのが本音です。

小沢:たしかに、今やドイツのフォルクスワーゲンが2025年にはEV車生産100万台を目標としていたり、中国は20年に累計500万台のEV、PHVの生産を目標に掲げていますが、じつは僕は疑問だったんです。一体どうやって、そんなに大量のリチウムイオン電池をつくり出すのかと。もちろん韓国のLGとかサムスンとか中国のBYDとか世界中に巨大電池メーカーはたくさんあって、どこも開発・量産競争の真っ只中ですけど、資源的な限界もありますからね。

金子:そう、そこなんです。ですから私は、お客さまに「68・2キロしか走れないEVでも十分」であることに気づいていただきたいんです。たとえば軽自動車オーナーで長距離走行をなさらない方なら、次にエコカーがEV化した時に、20〜30キロ走れる電池で十分だとわかっていただけるかもしれない。そうすると地球資源的にもよいはずだ……と。

電池容量は時代ごとに最適解がある

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小沢:うーん、すごくおもしろいですね。実際、昨今のEV化の流れって、みんな漠然と「よいこと」だと信じ込んでいて、「EVはエコだ」「ガソリンを使わないから素晴らしい」って感じています。

でも、そもそも大容量電池を量産し、クルマに搭載できることがはたしてそんなにいいことなのか?という根本的疑問も生じます。リチウムイオン電池は、廃棄にもエネルギーを使って大変らしいし。

金子:けっしてEVを否定するわけではありませんし、自動車の電動化はどんどん進んでいくと思うんです。ただ、電池容量については時代によっての最適解があるだろうし、大容量電池搭載のEV車は、普及をなるべく遅らせたほうが地球環境的によいのではないかと思うわけです。

小沢:ますます、おもしろいなあ。環境にとってはEVがいいのか、PHVがいいのかという、ほとんどイデオロギーの闘いになりつつありますね。当然の如く、EVこそ正義だと言う人もいますものね。

金子:話は飛びますが、やっぱりガソリンなど化石燃料の携帯性、そしてエネルギー密度の高さというのは大変価値が高いもので、昨冬、大雪の鳥取で自衛隊がガソリンと軽油を持ち運んで、動けないクルマに配っていたんです。ああいうことって電気ではできない。電池を運んでポンと補給して100キロ走るなんて。

小沢:たしかに。

金子:限りあるガソリンをいかに大切に使うかという取り組み。我々は「省石油」と呼んでいますが、その意味でもPHVは有効です。もちろん、ガソリンが本当に枯渇する事態に備えた「脱石油」も視野に入れていますけれどもね。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。

  • PRIUS PHV

    量産車では世界初となる大型ソーラーパネルを車両ルーフに設置(S“ナビパッケージ”、Sにメーカーオプション)。駐車中に駆動用バッテリーへ太陽光の自然エネルギーを供給。1日に最大で6.1km走行分の充電が可能だ。

  • PRIUS PHV

    ナビゲーションシステムには11.6インチの大型ディスプレイを採用。見やすいのはもちろん、タブレット感覚で操作できる。

PRIUS PHVの詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

toyota.jp