Harmony 2017年9/10月号
開発者に聞く

Vitz HYBRID 末沢泰謙
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

Vitz HYBRID

Vitz HYBRID

国民的コンパクトカー 待望のハイブリッド化

1999年の登場以来、累計世界販売台数は700万台を突破し、3代目にしてようやく、ハイブリッドが導入された「ヴィッツ」。「アクア」譲りのシステムをさらに改良して搭載、「ハイブリッドはトヨタ」を決定づけるマイナーチェンジとなった。

初代は3兄弟、栄光の歴史

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小沢:ついに「ヴィッツ」にもハイブリッド仕様が登場しましたね。これは、国民的コンパクトカーが本気で覚醒した……と見てよいのでしょうか。

末沢:ぜひ、そうありたいと願っております。

小沢:初代「ヴィッツ」は一時期、ものすごく売れていましたが、国内販売は現状でどんな感じなんですか?

末沢:「ヴィッツ」は1999年に、「プラッツ」「ファンカーゴ」と合わせて、3兄弟の末っ子として発売されたわけですが、一時は「ヴィッツ」だけで月間1万台以上売れていました。現行の3代目も発売当初は1万台ほど売れましたが、年々約1000台ずつ減っていき、2016年が月平均で、6000台ほど。その間に、環境車がぐんぐん伸びてきています。

小沢:おお、懐かしい! たしかに3兄弟は、街を走りまくってましたね。正直言って、現在はあの頃ほど存在感はないような気がします。「ヴィッツ ハイブリッド」の最大のライバルは、もしかして「アクア」ですか? それとも、軽自動車やミニバン「シエンタ ハイブリッド」からの突き上げも大きいとか?

末沢:販売の現場では、最も比較されるのは「アクア」になると思います。

小沢:とはいえですよ、そもそも「アクア」は「ヴィッツ」と同じプラットフォームを使ったハイブリッド専用車として誕生しました。で、今回は逆に「アクア」用1.5リッター ハイブリッドシステムをかなり改良して搭載しちゃったわけですよね。壮絶な社内バトルというか、食い合いになったりしないんですか?

末沢:実際、半分すると思います。でもいいんです、別に(笑)。

小沢:なるほど、社内で競合してこそ販売も活性化するということですか。しかし実際、「ヴィッツ」と「アクア」、どちらがいいんでしょう。スペースは「ヴィッツ」のほうが広い気もするし、片や燃費では、まだ「アクア」を抜いてないですよね? 最良モード燃費は34.4㎞/Lで。

末沢:いえ、それが、たしかに「アクア」は最良で38.0㎞/Lですが、装備レベルを同等にした人気モデルは34.4㎞/L。「ヴィッツ ハイブリッド」と実質では同じなんです。

小沢:あ、そうなんだ〜。車室も「ヴィッツ」のほうが「アクア」より広いですよね?

末沢:全長は「ヴィッツ」が微妙に短いんですが、車高は「ヴィッツ」が4センチぐらい高い(※クロスオーバーを除く)んです。総合で考えれば、「ヴィッツ」のほうが広々してますかね。車高があるから乗り降りもしやすいですし。

小沢:うーむ、実燃費は同等で、広さは「ヴィッツ」のほうが上か……。トヨタ的にはそれでいいんですか?

末沢:後発ですからねえ、どこか優れたところがないと(笑)。

末沢泰謙

末沢泰謙(すえざわ やすのり)

1991年トヨタ自動車入社。10年間のボデー設計を経て、製品企画に異動。ベルギー・ブリュッセルの開発部門に3年間赴任。そこで欧州向けの「オーリス」や北米向け「カローラ」の開発を担当し、2015年「ヴィッツ」のチーフエンジニアに就任。トヨタの欧州プロジェクトのキーマン。趣味はテニス。

「ヤリス」と名を変え、圧倒的人気を誇る世界戦略車

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小沢:となると、今後「ヴィッツ」の立ち位置はどうなっていくんですかね。

末沢:「ヴィッツ」はこれまでも、これからも変わらずに重要で、世界的にも必要な存在だと思うんです。ベーシックなコンパクトカーで、パッケージ効率もいいし、デザインもまとまっている。逆に「アクア」のほうが、今のままでは難しくなってくると思いますよ。

小沢:えっ、それは想定外の答えですなあ。“ミニ・プリウス”として今後ますます燃費をよくしていくのだと思っていました。日本じゃ相変わらず売れてますし。

末沢:その燃費向上の方針は継続しつつ、新しいチャレンジをまさに今、一生懸命考えているはずです。私が担当しているわけではありませんが。

小沢:日本では、どういうバックグラウンドの人が「ヴィッツ」のお客さまなんですか?

末沢:セカンドカーとして所有なさる方が多いですね。ご主人が「クラウン」や大きなミニバンに乗っていて、その奥さまや娘さんが「ヴィッツ」をマイカーになさっているとか。あとはやはりレンタカー需要も多いです。

小沢:もっと小さなトヨタ最小カーの「パッソ」とは競合しないんですか。

末沢:多少ありますけど、やはりサイズが違いますから。なにより「ヴィッツ」は海外に強い。欧州では「ヤリス」の名前で月販2万台弱出ていて、トヨタの欧州最量販車種ですし、北米向けにもフランス工場から月1000台ぐらい輸出しています。しかもハイブリッド仕様が3年前に発売になっています。

小沢:そうか。「ヴィッツ」は国内じゃさほどに目立たないけれど、それでも月に6000台ぐらい売れてるし、海外と合わせると3万台前後は行くし、逆に「アクア」のほうがツラいんですね。

「ヴィッツ」が見ている未来、「アクア」が担う役割

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末沢:「アクア」はハイブリッド技術が生まれてその展開普及の役割を負ってきたわけです。お兄ちゃんが「プリウス」で弟が「アクア」。もちろん日本はいま新車販売のほぼ半分ぐらいが環境車になっちゃったので売れていますが、今後の方向性はまだわかりません。

小沢:なるほど。見方を変えると、「アクア」がこれほど売れる日本が珍しくて、海外じゃトヨタのコンパクトカーの代表は「ヴィッツ」で、すでに当たり前のようにそのハイブリッド仕様が売れていると。

末沢:グローバルセールスでは断然「ヴィッツ(ヤリス)」ですね。他にもトヨタは欧州で、より小さな「アイゴ」というクルマを「プジョー・シトロエン」との共同開発で出していますが、「ヤリス」「ヤリス ハイブリッド」3車の合計で月販約2万台以上売れています。

小沢:海外に目を向けるとそんなことになっているんですね。ハイブリッド化も果たし、今後も引き続き世界戦略車として、「ヴィッツ」は進化を続けていく。

末沢:その通りです。

小沢:僕としてはかえって気になったのが、「アクア」のほうが、今後の進化の方向性を見定めるのが難しいだろう……という末沢さんの見解ですね。今後、エコカーの主流がどちらを向いていくかもわからないし。

末沢:次の「アクア」は、またいろいろ新しいことをやって、チャレンジを続けていけばいいんです。

小沢:あくまでも「アクア」はチャレンジャーであり、アンテナショップ的なクルマであって、そこで生まれた技術を順次グローバル市場で「ヴィッツ」や「カローラ」に投入していく。そういう流れなんですね。

末沢:そうです。欧州の「ヤリス」にしても、ハイブリッドを導入したらいきなり販売が伸びましたしね。フランスなどでは、年間20万台レベルで売れていたこともあります。

小沢:ほう、日本で「プリウス」が爆発的に売れた時のように勢いがあったと。やはりコンパクトカーって難しいんですね。国によって趣味嗜好が全然違うわけで、「ヴィッツ」の真価は、日本での売れ行きを見ているだけでは計り知れない。

末沢:ええ「ヴィッツ」がもつ奥行き、ぜひ試乗でご体感いただきたいですね。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。

  • Vitz HYBRID

    1,240mmの室内高を確保することで、全体的に広々とした空間を実現。後席でも、膝まわりにゆとりをもって座れる。シートの質感も向上した。

  • Vitz HYBRID

    2017年FIA世界ラリー選手権(WRC)第2戦にて、ヤリスWRCで出場のヤリーマティ・ラトバラ選手が優勝。TOYOTA GAZOO Racing WRTに初優勝をもたらした。

Vitz HYBRIDの詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

toyota.jp