Harmony 2017年11/12月号
開発者に聞く

CAMRY 勝又正人
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

CAMRY

CAMRY

セダン再認知を目指す“ビューティフル・モンスター”

日本での販売は控えめだが、米国では15年連続で乗用車セグメントのトップに君臨する「カムリ」。ところが今回のモデルチェンジでは「前例のない変革」を標榜。TNGAに基づき、プラットフォームやパワートレーンなどすべてを一新した。永遠の定番を“ビューティフル・モンスター”へと変貌させた原動力とは——。*Toyota New Global Architectureの略。トヨタ自動車が全社を挙げてグローバルに取り組むクルマづくりの構造改革。

食パンやバニラアイスの安心・無難ゾーンに甘んじていていいのか!

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小沢:正直言って、驚愕しました。あのド定番「カムリ」が、これほどに生まれ変わることができたなんて。特にあのアグレッシブなフロントマスクにはびっくり仰天しました。

勝又:あのマスクに関しては賛否両論あると理解しています(笑)。でもね、小沢さん、最近「カムリ」がアメリカでどう呼ばれているか知っていますか? 〝食パン〟とか〝バニラアイス〟って呼ばれているんですよ。

小沢:……と言いますと?

勝又:なんとなく無難に選ばれるもの。あえて買ってもらえるクルマでなくなりつつあるんです。

小沢:でも、売れてるんですよね?特にアメリカじゃ安泰なイメージがありますが。

勝又:はい、たしかに売れています。年間36万〜37万台ぐらいいっています。

小沢:すごいじゃないですか!

勝又:とはいえですね、一時は40万台売れていましたからね。今、実質的にお客さまは少しずつ減っていて、SUVに流れています。なにせアメリカはガソリン代が安いですから。

小沢:ああ、そうか! 世界的な原油安もあって、ユーザーはセダンよりもデカくて広くてカッコもいいSUVを選ぶ傾向にあると。中国もそうでしたよね。

勝又:ええ、そこで今回はあえてデザイナーのやりたいようにやってもらったんです、フォルムについては特に。そうして生まれた新型「カムリ」のフォルムは、デザイナーがノートの片隅に描いていたスケッチをそのまま形にしたといってもいいですね。企画の段階では、「リスクが高すぎないか」という声もあったくらいです。

小沢:それだけトヨタもセダンの凋落には危機感があったんですね。

勝又:なにしろ「カムリ」は、グローバルで見ると完全にトヨタの大黒柱ですから。単一車種では「カローラ」を超えるほどで、台数や収益の幅も奥行きも大きい。

小沢:日本ではあまり知られていないトヨタの4番バッターだ。

勝又正人

勝又正人(かつまた まさと)

1987年東京大学工学部大学院修士課程修了、数値流体力学専攻。同年トヨタ自動車入社。足回りの設計を担当するが、空力ソフトウェアにも明るい。基本フィールドは国外で、「カムリ」は4代目のオーストラリアでの生産から担当。5代目の生産を北米で立ち上げ、6代目も手がけた。8代目からチーフエンジニアに。

そもそもセダンの存在価値は、全然なくなっていない

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勝又:そもそも私には、セダンが時代遅れとは思えないんです。今はなんとなくブームでなんでもSUVに流れますが、本当にそれでいいのかと思います。

小沢:根本的な意味でセダン復活の意思があったんですね。

勝又:そもそも日本の若い世代は、セダンの存在であり定義そのものを知らないんです。「『プリウス』ってセダンですよね?」と、突然聞いてきますから。

小沢:ええっ……マジですか!? もしやソレって30代?

勝又:ええ、おもに30代ですね。40代は、小学生の時にオヤジさんがセダンに乗っていたから知っているんですが、それ以下になるとクルマと言えばミニバンとかワゴンだと思っているわけです。若いメカニックの人達には「セダンって意外に後席広いんですね」と言われたり……。なにしろ子どもにクルマの絵を描かせると、セダンではなく、2ボックスのミニバンを描きますからね(苦笑)。クルマ好きでもせいぜい知っているのはスポーツカーまでで、セダンの知識はそこあたりで停止しているんです。

小沢:そうですか……今や30代の誰も美空ひばりや植木等を知らないようなもんですね(苦笑)。

勝又:ですから、正確に言いますと、「セダンの復権」ではなくて、「セダンの再認識」であり、「再認知」なんです。

小沢:うーん、勉強になります。

勝又:要するに、今はセダンだからダメとか、クロスオーバーだからよいとかジャンルの問題ではなく、単純に僕らがよいセダンをつくってこなかっただけじゃないかと。実際、ドイツのセダンは売れ続けているわけだし、我々を含めて日系メーカー全体の罪だと思っています。それは僕の本音でもありました。

小沢:たしかに、僕らマスコミ関係者も含めて反省の余地、大ありです。

勝又:セダンは、存在価値として全然なくなっていませんから。F1や、ラリーカーを見てもわかる通り、物理現象として背が高くて重心の高いSUVより、背の低いセダンのほうがよく走るのは当たり前。それはガソリン車でもEV車でも変わらないんです。

小沢:たしかに、その通りです。

勝又:さらにセダンは、人と荷物をしっかり分けることができて、盗難防止にもなる。キャビンの窓ガラスを割ってもトランクの荷物は盗めません。日本では、「なんで室内からシートバックを倒してトランクスルーにできないんですか?」などと聞かれますが、防犯面からあえて、トランク側からしかできないようにしています。この認識は、アメリカ市場はもちろん、欧州やASEAN諸国でもごく当たり前のことなんです。

小沢:日本は安全ボケの国ですからね。セダンの本当の価値に気付いていない。もちろんある意味、シアワセなことではありますが。

エンジンもハイブリッドもすべて最新技術

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小沢:それにしても今回、スタイルはもちろん走りからハイブリッドから、完全に生まれ変わりましたよね。特にエンジンの最大熱効率41パーセントには驚きました。あの「プリウス」をも超えたと。

勝又:ええ、そこも新型「カムリ」のポイントで、今回は非常にタイミングがいいんです。もちろんすべてを変えなきゃとは思っていましたが、そう簡単にはいかない。ところが今回は、全社的に新世代プラットフォームであるTNGAを導入するタイミングとちょうど合致したので、ボデー骨格をイチからつくり直しましたし、ハイブリッドシステムも一部は「プリウス」のものを流用していますが、ほとんどが「カムリ」専用と言ってもいいくらいです。

小沢:おお、生まれ変わる千載一遇のチャンスだった!

勝又:特筆すべきはエンジンで、これには相当な技術を取り入れています。たとえば燃焼室にガスを取り入れる吸気ポートがほとんど真っ直ぐになっています。おかげでガスがそのままロスなく中まで入って、強いタンブルを発生させることで混合気がよく混ざり、少ない燃料でも効率よくトルクが出せるんです。

小沢:えーっと、今ひとつよくわかりませんが、かなりとんでもない技術ではあるようですね(笑)。

勝又:同時にこの技術により、燃焼室内の着火が真ん中から均一に素早く広がることが可能になって、それだけでもエネルギー伝達効率はよくなります。これはエンジン設計はもちろん、工場の生産技術まで一新したからこそできたこと。他ではどこも取り入れていないはずです。

小沢:〝エンジンのトヨタ〟への変革……聞いたことない技術です。

勝又:じつは、ハイブリッドシステムも完全に「プリウス」譲りの最新の技術を投入し、ものすごく進化しています。

小沢:ネーミング的には「THSⅡ」で旧型と変わっていないようですが。

勝又:そうなんですが、「カムリ」としては世代交替をしていますし、新世代と言ってもいいです。

小沢:つまりは、「カムリ」とは思えないくらいに、トヨタの威信をかけた技術が投入されているんですね。でもたしかに、現行の「プリウス」より回転フィールはずっと緻密だったし、なにより高速燃費がすごかった。高速だけだと実燃費で20㎞/Lを超えてくる。

勝又:ですから新世代なんです。

小沢:しかし勝又さんって相当ポジティブですよね。日本で〝セダン〟って言ったら、やや日陰者のイメージすらあるのに。

勝又:はい。前向きです(笑)。でも実際に、世界でセダンを見ると、まだまだ先があることがわかりますからね。

小沢:わかりますね。例のプレミアムEVも結局はセダンですからね。やはり日本だけでクルマ見てちゃダメですね。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。

デザインコンセプトは「性能」「智能」を突きつめた先にある「官能」。低重心でワイドなスタンスを強調したフロントは、まさに“ビューティフル・モンスター”だ。

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