Harmony 2018年1/2月号
開発者に聞く

HILUX 前田昌彦
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

HILUX

HILUX

13年ぶりに復活した日本のピックアップ・トラック

「ハイラックス・サーフ」が若者に圧倒的支持を得て13年余り、装いも新たに、日本に帰ってきた。1ナンバーで毎年車検が必要、全長も約5.3メートル超。都市部での苦戦が危惧されたが、意外にも都市部で売れている。今、トヨタがピックアップ・トラック復活に踏み切ったのはなぜか——。

日本市場から撤退後も約9000台が活躍中

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小沢:懐かしい!そしてやっぱり、カッコいいなぁ「ハイラックス」。1990年以降のバブル期に流行り、当時は海や雪山でよく見かけた気がしますねぇ。

前田:いまだに「ハイラックス・サーフ」って言われる方が結構いらっしゃるんです。荷台にカバーが付いたタイプで、いわばSUVの元祖といったところですか。

小沢:おお、そういえば当時は〝サーフ〟と略語で呼ばれていましたね。イメージ的にはスキー、サーフィン、中山美穂(笑)。バブル期に遊びで使われた〝青春なクルマ〟でした。ピックアップ・トラックなのに、オシャレなイメージすらありました。

前田:そうですね、たしかに「ハイラックス・サーフ」は日本でも人気を集めました。その後、「ハイラックス」は2004年に発売された6代目を最後に、日本での販売を止めたんです。

小沢:まあ、スキーブームも下火になりましたし、車内がもっと広くて快適な「ハリアー」はじめSUVも出ましたしね。そこで、ですよ!SUVブーム絶頂期の今、なぜあえて「ハイラックス」の復活を?

前田:理由はふたつあって、ひとつは「ハイラックス」をずっとお乗りいただいているお客さまの存在です。北海道を中心に、今も商用で乗られているお客さま保有の「ハイラックス」が現在も9000台ぐらいあり、「乗り換えるクルマがない」と……。なかには16年も愛用してくださっているお客さまもいるんです。

小沢:なるほど。トラックとして荷台に荷物が載せられ、同時にダブルキャブならばキャビンに一応5人乗れるクルマって他にない。

前田:もうひとつは、日本のマーケットの変化ですね。クルマがどんどんコモディティ、つまり日用品化していくなか、逆に先鋭化しているお客さまもいる。

小沢:ミニバンや軽のトールワゴンが売れる一方、「86」みたいなスポーツカーを買う人も増えていると。

前田:ええ。大きなきっかけになったのは、「ハイラックス」の親戚とも言える「ランドクルーザー」70系の復活です。正直、社内でもあれだけ売れるとは予測していなかった。1年限定で7000台以上売れましたからね。

前田昌彦

前田昌彦(まえだ まさひこ)

1994年、トヨタ自動車入社、第一パワートレーン設計部に配属。だが、チーフエンジニアを希望し、「38歳で製品企画部に異動」と申告し続け、32歳で初代IMVプロジェクトを担当。2005年から3代目「プリウス」を担当後、16年から「ハイラックス」「フォーチュナー」「イノーバ」のチーフエンジニアを務める。

前から見るとSUV後ろ姿はトラック。独特のカッコよさ

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小沢:クルマに実用性や利便性を求める人がいる一方、面白さを求める人も確実にいますよね。それに「ハイラックス」は日本市場から撤退後も、グローバルでは売り続けて、販売台数は伸びていたと聞きましたが。

前田:そうなんです。04年からグローバル化がさらに広がって7代目が生まれ、世界戦略車のIMVシリーズとなってタイ、アルゼンチン、南アフリカで生産されています。少し大きくなり、ディーゼルでも動くタフなクルマとしてご好評いただいています。

小沢:不思議なんですけど、ピックアップって妙に国際的で独特のカッコよさがありますよね。もともとは国産だったのに、いまだに頑丈なラダーフレームボディを持ち、その分床が高くて重く、前から見るとSUV、後ろから見るとトラックで、英語が喋れる日本人というか、ハーフみたいなクルマというか。

前田:実際「ハイラックス」は、4代目あたりから北米への輸出が始まっています。

小沢:あっ、そういえば、80年代の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマイケル・J・フォックスが乗っていたのは「ハイラックス」ですよね?すごくカッコよかった。

前田:ありがとうございます。ただその後、北米では「ハイラックス」は「タコマ」というクルマに進化し、タイや南米で独特の進化を遂げています。トヨタにとって〝アメリカン・ピックアップ〟と〝グローバル・ピックアップ〟は微妙に違うんです。アメリカで主流のピックアップはより大きなフルサイズで、トヨタも「タンドラ」というのを出しています。

小沢:5L級V8を積んだ全長6メートル超えのクラスもあるヤツですよね。あれは実用で買うんですか?それとも見た目?なぜ今もフレーム付きなんでしょう?

前田:それは開拓時代からの流れで、ある意味文化ですし、そもそもT型「フォード」の時代からフレーム付きなので、僕は「変える理由がなかった」という方が正しいんじゃないかと思っています。

小沢:でも、フレーム付きを求めるのは実用ですよね。重いものを牽引するために必要な性能だと。

前田:それはあります。アメリカ人は荷台に荷物をそれほど積まないですが、4トンとか5トンとかのトレーラーハウスを平気で牽引する。

小沢:だから頑丈なラダーフレーム付きなんですよね。そうじゃないと使えない。その分、乗り心地は妥協する。

前田:ええ、そこのところは日本人には微妙に理解しにくいんですが、ファッション要素というか気持ちの部分もやっぱりあって「俺はこういうのに乗る強い男なんだ」と。

日本人の潔癖性がピックアップを遠ざけているのかも

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小沢:やっぱりそうか。まあ実際、ブルース・ウィリスとかアーノルド・シュワルツェネッガーが小さなセダンから出てきたらカッコ悪いし、そこはゴツくていかついフルサイズピックアップから出てきて欲しい。その感覚はタイや南米で売れるグローバル・ピックアップとはちと違いますね。

前田:ええ、違うと思いますね。タイで「ハイラックス」は2人乗りシングルキャブなどもあって、ほぼ「カローラ」と同じ価格で買えるんです。

小沢:ええ、聞いたことあります。タイじゃピックアップの税金が安いんですよね。なんと3パーセント程度で、乗用セダンの約10分の1だとか。

前田:ただし、タイに行って何度も話をしましたが、決して実用性や税金だけが理由ではないと言うんですね。アメリカのスピリットにも近いみたいですけど、僕ら日本人には100パーセント理解できない、独特の憧れがある。

小沢:いや、わかります。ピックアップってなんだかんだ言っても男らしさの象徴であり、人間の強さ、タフさ、多様性を示す存在で、それは日本人にもわかるけど、まだアメリカやタイのように本当のよさが浸透していない。

前田:ええ、それは感じますね。

小沢:それはおそらく日本人がまだアメリカや東南アジア諸国に比べてクルマを使いこなせていないのと、独特の潔癖性が原因かと思います。たとえば日本でキャンピングカーを使うには道が狭いし、そもそも駐車場代も高いし牽引も面倒。それから、僕は時々スキーに行くんですけど、日本人ってスキー板を車内に入れたがるんです。ちゃんと汚れを拭き取って。だから、汚れものは荷台にぶち込んで、人だけ車内に……という「ハイラックス」のコンセプトは苦手ですよね。

前田:いい意味での清潔感だと思いますけど、そこはありますよね。たとえば〝サーフ〟が売れたのは荷台にカバーを付けたからで、とにかく荷物は車内に入れたい。雨ざらしにしたくないという思いが強いですね。

小沢:僕は昔から「ブーツを履いたまま平気でベッドに寝られる国民じゃないと、本当の意味でピックアップは定着しない」と思ってます。ただ、その独特のカッコよさは万国共通なのでもっと売れるべきではあると。日本はピックアップ後進国なんじゃないかと。下取り価格だってものすごく高いんですよね、世界的に。

前田:そうなんです!せっかく弊社には、こんなにユニークで魅力的なクルマがあるのだから、本家本元の日本でも再度、勝負したいと思いました。もちろんミニバンほど売れるとは思っていませんが(笑)、人生をアクティブに楽しむお客さまの相棒にしていただけたら嬉しいですね。

おざわ こーじ◎バラエティ自動車ジャーナリスト。

  • HILUX

    最大500kgまで積めるデッキスペース。錆や腐食に強い亜鉛メッキ鋼板を採用し、高い防錆性能を確保している。

  • HILUX

    スッキリとシンプルな室内インテリア。上質なシートが快適な乗り心地を約束する。後席は簡単な操作で別々に座面を跳ね上げられ、シートアレンジがラクだ。

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