Harmony 2018年7/8月号
開発者に聞く

Toyota
Safety
Sense
稲垣匠二
自動運転・先進安全統括部 部長

文・小沢コージ 写真・小松士郎

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予防安全技術開発の先駆者としての誇りと葛藤

今やほぼ“常識”と言っても過言ではない、被害軽減ブレーキに代表されるクルマの先進予防安全技術。トヨタはその衝突回避機能を「プリクラッシュセーフティ」という名で1990年代から開発してきた。30年間、安全技術開発ひと筋のエンジニアに聞く。

「正直に言いますと、危機感はムチャクチャあります」

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小沢:実は今回、インタビューを始める前にお願いがありまして。クルマの先進安全技術を論じると、どうしても話が難しくなってしまうんです、長い専門用語しかり。そこで今回は、"技術"ではなく、それを作り出した"人間"の話から始めたいんです。

稲垣:承知いたしました。

小沢:先日、ボルボ・カー・ジャパンの社長と話していて「最近クルマの見方の潮目が変わった」「安全性能が付いているかいないかで、クルマの売れ行きが変わるようになった」とおっしゃるんです。具体的には、ボルボがスバルと比較されるようになったと。メルセデスやBMWとではなく、ですよ。

稲垣:すごい時代になりました。

小沢:そこで厳しいことを申し上げますと、トヨタはこの分野で一瞬出遅れたと思うんです。もちろん今回の2世代目「Toyota Safety Sense(以下TSS)」で大幅に巻き返されたと思いますが、そこのところの率直なお気持ちをお聞きしたい。

稲垣:正直に言いますと、危機感はムチャクチャあります。

小沢:いや、ぶっちゃけ、ものすごく悔しかったと思うんですよ。僕はこの業界をウン十年見てきていますけど、トヨタは1990年代から「プリクラッシュセーフティ」という名で被害軽減ブレーキの開発を進めて、かなり早い段階での商品化もしていた。ところが価格戦略で先を越されてしまった。なんせ2010年に驚きの価格でスバルから「アイサイト」が発売されちゃいましたからね。

稲垣:技術開発そのものは80年代から始めていたんです。ESV(エクスペリメンタル・セーフティ・ヴィークル/実験安全車)という国のプロジェクトにも絡んでいたこともあって、当時は東富士研究所でセンサーの開発をしていました。軍事技術の延長で何ができるか、何がクルマの安全に繋がるかを考えていたんです。

吉岡憲一

稲垣匠二(いながき しょうじ)

1986年東京工業大学制御システム工学科卒業、トヨタ自動車入社。アクティブサスペンション、先進安全のVSC、レーダークルーズコントロール、プリクラッシュセーフティなど一貫して電子制御分野を担当。2009年から操舵回避、インテリジェント・クリアランス・ソナーなど先行開発技術を担当している。趣味は麻雀。

人間の検知能力が及ばない領域における高いレベルの安全確保

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小沢:やっぱりトヨタがこの手の技術の元祖だったんですね。最初に製品化されたのは何ですか?

稲垣:97年に「セルシオ」に搭載した「レーダークルーズコントロール」です。当時は今のようなミリ波レーダーではなく"ライダー"と呼ばれる光のセンシング技術を使っていました。

小沢:えっ、それって今注目されている高性能センサーじゃないですか!

稲垣:当時僕はVSC(ヴィークル・スタビリティ・コントロール)と呼ばれる車両のスピンを回避するシステムを研究していまして、今ではすっかり当たり前になりましたが、アクセルやブレーキの出力を自動でコントロールするのに大変苦心していました。

小沢:なるほど、安全技術の土俵ではトヨタもスバルもホンダも関係なくて、世に出せること自体がうれしい側面もあるんですね。つまり、その頃から、トヨタにはある種の高い理想があったわけですよね。人間の検知能力が及ばない領域、たとえば夜間の視覚であったり、360度の視界であったり、そういうところをカバーしてより高い安全性を確保しようとしていた。

稲垣:そこは今もまったく変わっていません。すべてはお客さまの安全のためです。

小沢:その後、どんな機能へと繋がっていったんですか。

稲垣:03年発売の「ハリアー」にプリクラッシュセーフティを初めて装着し、「セルシオ」のプリクラッシュセーフティに、ブレーキが作動するシステムを導入しました。そして、06年の「レクサスLS」にプリクラッシュセーフティ第1世代の集大成ともいえるシステムを付けました。

「すべてのお客さまに同じTSSをお届けしたかった」

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小沢:他社も同じだと思いますが、こういう、いつ日の目を見るかわからない先端技術って報われない時期が長いですよね。開発にお金がかかるわりに、高いと売れないし、かといって安くすると利益が出ない。将来必要な技術だと知りつつも、いつ需要が追いつくかまったく読めない。社内で相当肩身が狭かったんじゃないですか?

稲垣:「オマエら会社を潰す気か」と言われたこともあります。でも今は逆に猛烈なモテ期が到来していまして、「俺のクルマにも付けてくれ」と(笑)。初代TSSを発表した15年当時は、開発分野では追う立場でした。一方で、より多くの車種に付けたかったので、シンプルなTSS「C」と多機能な「P」に分けて搭載しました。しかし、本当は分けたくなかった。すべてのお客さまに同じTSSをお届けしたいというのが本音でした。

小沢:今回の第2世代TSSの注目点を教えてください。

稲垣:まずはカメラ性能やセンサー性能を大幅に上げました。そして、より高性能な被害軽減ブレーキ、クルーズコントロールシステム、ペダル踏み間違い防止機能を付けた上で、初めて自動運転のエッセンスを取り入れた「レーントレースコントロール」を標準装備しています。少なくとも安全機能と運転支援機能では、他社に勝るとも劣らないものがリリースできたと自負しています。レーントレースでは、白線以外の道端(どうたん)も捉えていますし。

小沢:どのクラスまで標準装備になるんですか?

稲垣:すべてです。今後は全トヨタ車に分け隔てなく搭載します。

小沢:さすがはモテ期。やりたい放題ですな(笑)。

ToyotaSafetySense

Toyota Safety Sense

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

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