愛車を、文字通り“愛しつづける”ために生まれた
「GRヘリテージパーツ」とは
文/善福寺正文 写真/トヨタ自動車、阿部昌也、shutterstock
近年、クルマを数年ごとに乗り替える傾向が強まっているが、いっぽう世の中には「ひとつのモノを長く愛用したい」と考える人も少なくない。どちらが良い・悪いという話ではないが、後者は「モノを大切にする」という日本古来の価値観に沿っているとはいえるだろう。
しかしクルマの純正部品というのは、その車種の生産終了からおおむね10年を目安に供給が終了してしまうのが一般的。そのため、いくらユーザーが「ずっとこのクルマに乗っていたい」と考えたとしても、乗りつづけることが不可能になることも多い。
だがトヨタ自動車は2020年、すでに廃版となった旧車用部品を復刻して再発売する「GRヘリテージパーツ」プロジェクトを開始した。廃版となって久しい旧車部品の復刻には、実はとてつもないレベルの手間がかかるものだが、トヨタ自動車はなぜ、そのように困難なプロジェクトをわざわざスタートさせたのか?
GRヘリテージパーツを通じて、トヨタ自動車が「今、考えていること」を探る。
クルマは、さまざまな思い出の「入れ物」でもある
クルマとは、見方によっては「あくまでも無機質な、移動および運搬のための道具」ではある。だが同時にクルマは、人が人として生きていれば必ず付いて回る「思い出」あるいは「愛着」などといったメンタルな部分と、密接にひもづく機械製品でもある。
例えば、まだまだ昭和という元号が用いられていた若き日に、頑張ってローンを組んで購入した1台のスポーティハッチバック。そのステアリングを握ってドラテク修業に励み、ときにボディを電柱にこすってしまったこと。ときに恋人と楽しいドライブに出かけたこと。
そして恋人はいつしか人生の伴侶となり、小さなスポーティハッチバックに段ボール箱を満載し、ふたりの新居となるアパートまでガタゴトと運んだ日のこと。さらに子どもが産まれ、小さなハッチバックで家族3人、海を見に行ったこと――等々の記憶は、もちろん第一義的には当人らの心の中にあるものだが、それと同時に「初めて買った小さなスポーティハッチバック」の中にも存在している。クルマと記憶とは、密接にリンクするものなのだ。
1台のクルマに末長く乗りつづけることが難しい理由
現代では、短いサイクルでクルマを乗り換える人も少なくないが、なかには、記憶と愛着のかたまりであるところの1台に、いつまでも乗りつづけたいと考える人もいるだろう。
だが実際はなかなかそうもいかず、そのうちどうしても買い替えざるを得なくなる。
買い替えが必要となるのは、クルマが壊れてしまうからだろうか?
それはある意味そのとおりで、クルマという機械製品はたとえそれがどんなモノであったとしても、長く乗っていれば100%の確率で、どこかしらが壊れる。
だがクルマは「部品さえ交換すれば、いつまでも使える機械」でもある。さすがにボディがさびてボロボロになってしまった場合は難しいが、それさえ注意していれば、必要な部品交換を行うことで数十万kmでも数十年でも、使いつづけることはできる。
とはいうものの、それはあくまで机上の話。実際に数十年間、1台のクルマに乗りつづけるのは難しい。
なぜならば、その車種の生産終了から約10年を目処に、補修用純正部品の供給は終了してしまうからだ。
まるで和服のように長く使い、そして次世代へ継承するために
クルマは、小さなネジまで含めると約3万点の部品で構成されている。そのすべてを、しかも何十車種、何百車種分のすべての部品を20年間も30年間も作り続け、それを保管し続けるのは、どんな自動車メーカーにとっても困難である。それゆえ、一般的には「生産終了から約10年間」となる純正部品の供給期間は、特に非難されるべきものではない。
しかしいっぽうで、自分にとって「特別なクルマ」というものは確かに存在する。
自身の宝物として長きにわたって手元に置き、どこかが壊れれば我が子のことのように心配し、修理し、その性能を最後まで使い切る。いや使い切るどころか、もしも部品交換とメンテナンスによって当初の性能をおおむね維持できているのであれば、自分がそれの運転をできなくなったときは、我が子に受け継いでもらう。
そのように考える「ちょっと特別なクルマ」のオーナーはいて、また実際にそれを受け継ぐことになった子息や息女もいる。昔の日本では「父と母が使っていたスーツや着物などを子どもが受け継ぎ、補修したうえで大切に使いつづける」というのはよくある光景であり、文化でもあった。そして和装や宝飾品などの分野では今でも、そのような“継承”はそこかしこで行われている。
だが自動車という分野においては、残念ながら前述した理由により「直しながら長く乗る」「最後まで使い切る」「次の世代に継承する」という日本的価値観をいまひとつ発揮できないまま、今日近くまできた。
だが2020年、トヨタ自動車は動いた。「GRヘリテージパーツ」プロジェクトを始動させたのだ。
GRヘリテージパーツ。それは「心」と「文化」のためのプロジェクト
GRヘリテージパーツプロジェクトとは、「思い出の詰まった愛車に乗りつづけたい」というユーザーの想いに応えるべく、すでに廃版となっていた補給部品を復刻し、純正部品として再販売する取り組みだ。ここには代替部品と相互性があると確認できた現在供給中の部品も含まれる。
まずは1993年に生産終了となった「A70スープラ」および2002年生産終了の「A80スープラ」の部品復刻と再発売から始まり、その後は「トヨタ 2000GT」「ランドクルーザー40系」「AE86カローラレビン/スプリンタートレノ」などにも対象範囲を広げている。
もちろんこれは、ユーザーにとっては朗報以外の何物でもないわけだが、実際の復刻作業はきわめて困難なものとなる。
何せ、それら車種の開発に携わったエンジニアはすでに退職していることも多く、社内に残っているのは古びた設計図面のみであったりもする。そんな状況下で「信頼に足る純正部品」を復刻するための技術を当時のエンジニアから若手へと継承し、そして実現させることの難しさは、想像を絶するものがある。
それなのになぜ、トヨタ自動車はGRヘリテージパーツプロジェクトを始動させ、現在もその規模を拡大させているのかといえば――結局のところ「愛しているから」なのだろう。
何を愛しているのかといえば、それは「クルマを」であり、「クルマを愛する人々を」であり、そして「モノを大切にするという美しい文化を」であるはずだ。
はたからは「なにごとにも用意周到な自動車メーカー」とも映るトヨタ自動車だが、その根本部分にあるものは、それだけではないようだ。いや、むしろ「自動車と人々のくらしをより良いものにしたい」という理想と情熱こそが、このメーカーの“主成分”なのかもしれない。
適合を確認するためにも、まずはトヨタ販売店へ
そんな愛と情熱の結晶であるGRヘリテージパーツは全国各地のトヨタ販売店とGR Garage、そしてカー用品量販店「ジェームス(jms)」と「TOYOTA GAZOO Racing 楽天市場店」にて購入できるわけだが、もしもGRヘリテージパーツに興味を抱いたのであれば、まずはトヨタ販売店に行ってみることをおすすめしたい。
あなたと同様の「クルマを愛する人間」であり、その道のプロフェッショナルでもある販売店スタッフに、細かな部品における適合の可否などをしっかりと確認してほしいのだ。そしてついでに――といっては何だが、いわゆる旧車談義にも、大いに花を咲かせていただきたいのである。