世界で鍛えられたタフネスが日常を変える。
街中でこそ光るランドクルーザー“FJ”の真価
文/河村 大 写真/奥隅圭之
世界の過酷な環境で人々のくらしを支えつづけてきたランドクルーザー。その最新ラインアップに加わった「ランドクルーザー“FJ”(以下FJ)」は、優れた悪路走破性と信頼性を受け継ぎながら、日本の道路事情にもマッチするコンパクトなボディを手に入れた新たな1台だ。
本格四輪駆動車と聞くと、オフロードでこそ真価を発揮するイメージが強いが、日常では、通勤や買い物、高速道路を走る機会も多い。だからこそ気になるのは、「街ではどれほど快適で扱いやすいのか」という点だ。
今回は市街地や都市高速を中心に試乗し、取り回し(狭い道や駐車時などでの扱いやすさ)や視界、乗り心地、積載性など、毎日の足として使ったときに見えてきた”小さなランドクルーザー”の実力を検証した。
なぜ今、「コンパクトなランドクルーザー」が必要だったのか
75年の歴史の中でランドクルーザーは常に進化を続け、FJ登場前のラインアップは、フラッグシップの300系、業務・悪路重視のヘビーデューティの70系、日常使用も重視するライトデューティの250系という3シリーズで構成されていたが、従来モデルより扱いやすいサイズへの期待が高まっていた。背景にあったのは、よりコンパクトで、手の届きやすいランドクルーザーを求める声だった。
そんな市場のニーズに応えるべく生み出されたのがFJだ。
その名前と愛嬌あるデザインから、かつて北米で人気を博した「FJクルーザー」の再来、と捉えられることもあるが、両者の成り立ちは大きく異なっている。
FJクルーザーが北米の若い世代に向けた「タフな実用車」として開発されたのに対し、新型FJに求められたのは、世界各地の過酷な現場や狭い場所でも縦横に走り回ることができる「コンパクトなボディ」と「高い機動性」、そして人と荷物を確実に運ぶための純然たる「実用車」としての在り方だった。
コンパクトボディが生む抜群の扱いやすさ
その真価は、市街地に連れ出した瞬間に実感できる。ボディサイズは兄貴分の250系と比べ、全長で350mm短く、全幅で125mm狭い。全長、全幅はトヨタの現行RAV4 Zと比べると、全長は25mm短く全幅は同じ。ホイールベースは110mm短く、最小回転半径も0.2m小さい。おかげで狭い道でも取り回しの良さを実感できる。
運転席に収まると、まずその見切りの良さに驚かされる。ボンネットは短く、中央部が掘り込まれているため、前方視界は想像以上にいい。サイドウィンドウの下端も低く、周囲を把握しやすく感じられることもメリットとしてあげられる。
印象的だったのは頭上と顔まわりの開放感の良さ。身長172cmの筆者がFJの座面を一番上に上げても頭上には拳2個分の余裕があった。またフロントウィンドウやボディサイドのラインが立っているおかげで、顔まわりの空間は前方にも側方にも広く、この開放感によって、前後席の乗員が「十分に快適」と感じられる仕上がりとなっている。
加えて、着座位置が高いことから、前方に停止した車両の屋根が見渡せるほどの視点となるのだが、この高いアイポイントも魅力のひとつだ。単に高い位置から周囲を見渡せるというだけではなく、渋滞でも先までよく見通せる安心感がある。信号発進からの出足が少々遅れても気にならず、ゆったり大らかな気持ちで運転することができる。
ラダーフレームは無骨。そのイメージを覆す走り
走り出してまず驚くのは静粛性の高さだ。もとよりラダーフレーム(車体と骨格が分かれた構造)車は、フレームとボディの間にボディマウント(振動を吸収する緩衝材)を介する構造により、路面からの振動や騒音を車内へ伝わりにくくする特徴がある。FJはさらに遮音・防振対策を施しており、純正タイヤの性能も含めた相乗効果によって、今回の試乗ではタイヤノイズ(タイヤと路面が接触する際の音)やロードノイズ(路面から伝わる走行音)がよく抑えられていた。
パワーユニットは実績のある2.7L直列4気筒ガソリン「2TR-FE」を搭載。同じ2.7Lガソリンエンジンを搭載する現行250系VXより280kg軽いボディであることも手伝って、街乗りで力不足を感じるようなことはない。それよりむしろガソリンエンジンであることで得られるメリットのほうが大きい。ノーズが軽いため、ステアリングを切った時の挙動が素直で軽快なのだ。
ここでひとつ注目したいのが、日本仕様のFJにのみ施された味付けだ。海外仕様とは異なり、ラダーフレーム中央部からフロントサスペンションのメンバー(サスペンションを取り付ける骨格部品)にかけ、左右1本ずつ「補強ブレース(剛性を高める補強パーツ)」が追加されている。
これは、舗装路の割合が高い日本の道路環境で求められる操縦安定性を高めるための味付けともいえる。実際、ステアリングを切った瞬間の応答性にダルさはなく、車線変更やワインディングでも車体との一体感が高く感じられた。
一般的に「ラダーフレーム構造」を持つ本格オフローダーは、舗装路での乗り心地やハンドリングが課題となりやすい。モノコック構造のSUVに比べ、車体が必要以上に揺すられたり、挙動が重く感じられたりすることが多いからだ。
しかし、FJはその予想をいい意味で裏切ってくれた。
フレームはハイラックスなどで実績のあるIMV(トヨタの世界戦略車シリーズ)用ラダーフレームをベースに、ランドクルーザー基準の過酷なテストをクリアした強靭なものだが、サスペンションの調律が見事。筆者の印象では、300系よりやや引き締まった乗り味だが、不快な硬さはいっさいない。路面の凹凸をいなした後の収まりが良く、むしろ心地よく感じられる。これはとてもいい味付けだ。
後席も荷室も妥協なし。“実用車”としての完成度
後席にも座ってみた。膝まわりには十分なスペースがあり、足もとの空間も広い。座面はやや短めだが、座面高の設定が絶妙で疲労感は少なめ。一般にリヤリジット(左右の後輪を車軸でつないだ構造)サスペンション車の後席には硬めの乗り味を想像する人もいるが、FJは路面からの突き上げが抑えられ、不快な揺れは少なく、快適に過ごせる。
後席が前席より高く配置されていることもあって前方向の視界も良好。左右を高いコンクリート壁で囲まれた首都高でも、壁向こうの景色や川が見渡せて、サファリカーに乗っているかのような楽しさを感じられた。リクライニングやシートスライドが可能なところも嬉しいポイントだ。
荷室も外観から想像する以上に広い。スクエアなボディ形状が幸いして高さ方向に積み上げることができれば、相当な量の荷物を積むことができる。荷物が多いときは後席のシートを前にスライドさせれば荷室はさらに広がるが、それでも後席は膝が前席に当たるほどの狭さでもない。このあたりの造り込みの妙は本当に素晴らしく、「コンパクト」でも人と荷物を効率よく、快適に移動させたい、という開発陣の本気度が感じられた。
なお、エアコンは後席専用吹き出し口こそ省かれていたが、酷暑の中でも車内全体を十分に冷やすことができ、前後席共に快適な試乗を続けることができた。
これは砂漠やジャングルなど過酷な環境で使われるランドクルーザーにとってはとても大切なポイントで、今回の試乗では、東京の高温下でも前後席を快適に保てた。
FJは、コンパクトSUVという枠だけでは語れない。小さなボディにランドクルーザーらしい価値観が凝縮され、シンプルな構造のなかにも、人と荷物を確実かつ快適に運ぶための工夫が盛り込まれている。オンロードでの乗り味と操る楽しさは期待以上だった。
次号のHarmony 2026年秋号(誌面版)では、オフロード走行を通じて、過酷な道を走破してきたランドクルーザーの強靭なDNAを受け継ぐFJの実力を検証している。
■トヨタ ランドクルーザー“FJ”
https://toyota.jp/landcruiserfj/