クルマの中に、ステージが立ち上がる。
JBLプレミアムサウンドシステムの魅力
文/会田 肇 写真/小林岳夫、トヨタ自動車、© Harman International Industries, Incorporated、ベストカー編集部
車内で聴く音楽は、移動時間の心地よさを大きく左右する。トヨタ車に採用されるJBLプレミアムサウンドシステムは、JBLが長年培ってきた音場づくりと、トヨタとの車両開発初期からの共同開発によって磨かれてきたものだ。
そもそもJBLとはどんなブランドなのか。映画館やレコーディングスタジオ、コンサートホールなど、音のプロフェッショナルの現場で約80年にわたり信頼を築いてきたJBLの歴史と偉大さをひもときながら、ダッシュボードの先にステージが広がるような自然な響きが、なぜトヨタ車の中で味わえるのかを紹介したい。
車内の時間を変える、JBLという価値
カーオーディオは、もはや単に音楽を流すための装備ではありません。静粛性やシートの座り心地と同じように、車内で過ごす時間の質を高める重要な要素となり、プレミアムカーでは車両の商品価値を左右する装備のひとつに数えられています。その中でも、多くのユーザーから高い評価を受けているのが、トヨタ車に採用される「JBLプレミアムサウンドシステム」です。
JBLは世界的なオーディオブランドとして知られていますが、その魅力は単なるブランドネームだけではありません。約80年にわたって映画館やレコーディングスタジオ、コンサートホールなど、音のプロフェッショナルが求める現場で磨きつづけてきた技術が、現在のカーオーディオにも活用されていることに大きな価値があります。
JBLは1946年、映画館向けスピーカーの設計者として名を馳せたジェームス・B・ランシング(James B. Lansing)によって、アメリカ・カリフォルニア州で設立されました。ブランド名は創業者の頭文字に由来します。創業当初から「本物の音」を追求し、映画館や放送局、レコーディングスタジオ向けスピーカーを開発。プロフェッショナルの世界で高い評価を獲得するとともに、家庭用オーディオでも世界に知られるスピーカーブランドへと発展しました。
名機が語る、JBLの音づくりの原点
その歴史を語るうえで欠かせない存在が、1957年に発売されたD44000「パラゴン(Paragon)」です。
調度品としての造形美をも備えた一体型ステレオスピーカーであり、中央に設けられた曲面リフレクターパネルによって左右の音を自然に拡散させるという、当時としては極めて革新的な構造を採用。全長約2.6mにも及ぶ大型キャビネットは、優れた音響性能だけでなく、家具のような美しいデザインも兼ね備え、「世界で最も美しいスピーカー」と評されることもありました。現在でもヴィンテージオーディオ市場では特別な存在として扱われ、JBLを象徴する名機として語り継がれています。
そして、JBLを代表するモデルとなったのが、1960年代後半から登場したスタジオモニター「4310」、その後継モデルとなる「4311」、さらに現在まで販売が続く「4312」シリーズです。
これらはアメリカ西海岸のレコーディングスタジオで数多く採用され、多くの名盤制作を支えてきました。「アーティストやレコーディングエンジニアが聴いていた音」を家庭でも楽しめるスピーカーとして世界中のオーディオファンを魅了し、日本でも1970~80年代のオーディオブームを象徴する存在となりました。半世紀以上にわたって進化を続ける4312シリーズは、JBLの音づくりを今もなお伝えるロングセラーモデルでもあります。
プロの現場で磨かれた、音を届ける技術
こうした歴史を持つJBLは、家庭用スピーカーだけでなく、映画館やライブ会場、コンサートホールなどでも高い評価を受けています。大規模な映画館ではスクリーンの映像と一体になった迫力あるサウンドを再現し、ライブ会場では数万人規模の観客へできるだけ均一な音を届けるなど、“音を創り、音を届けるブランド”として確かな実績を積み重ねてきました。
そのサウンドを支える代表的な技術のひとつが、JBLが長年磨きつづけてきたホーン技術とコンプレッションドライバーです。ホーンは高音域を効率よく遠くまで届けることができ、映画館やコンサートホールでは欠かせない技術となっています。また、コンプレッションドライバーは一般的なツイーターに比べて高効率かつ低歪みで、ボーカルの息遣いやシンバルの余韻、ギターの弦を弾く瞬間まで繊細に再現できます。
その結果、まるで演奏者が目の前にいるようなライブ感と、音楽の細かな表情まで感じ取れる豊かな表現力を実現しているのです。
では、このJBLが培ってきたノウハウをどうやってクルマへ展開できることになったのでしょうか。当たり前ですが、映画館で使われるような大型ホーンをそのままクルマへ搭載することはできません。しかしJBLは、その音づくりの思想をカーオーディオへ巧みに取り入れました。高域の指向性や音場形成のノウハウを車載スピーカーへ応用することで、音がスピーカーから直接聞こえるのではなく、ダッシュボードの先、フロントガラスの向こう側にステージが広がるような自然な音場を作り出しています。
この「車内に音楽空間を創り出す」という発想こそが、後にトヨタとの共同開発へとつながっていきます。単に高性能なスピーカーを搭載するのではなく、そのクルマだけの音響空間をゼロから設計するという考え方が、現在の「JBLプレミアムサウンドシステム」の原点となっているのです。
トヨタとJBL、四半世紀を超える共同開発
トヨタとJBLのパートナーシップが始まったのは1990年代後半のこと。当時、高級車に求められる価値は、走行性能や快適性だけではなく、移動中にいかに上質な音楽体験を提供できるかという点にも広がり始めていました。そのパートナーとしてトヨタが選んだのが、映画館やレコーディングスタジオなどで世界的な実績を築いてきたJBLだったのです。
この協業の最大の特徴は、完成した車両へスピーカーを組み込むのではなく、車両開発の初期段階からJBLのエンジニアが開発に加わるケースもあることです。車室の広さや形状、ガラス面積、シート素材、内装材の反射・吸音特性まで細かく分析し、それぞれの車種に合わせてスピーカー配置やDSP(デジタルシグナルプロセッサー。音声信号をデジタル処理して、音質や音場を最適化するための電子制御装置)の制御を最適化。こうして、そのクルマだけの音響空間をゼロから設計しています。「長時間聴いても疲れず、どの席でも自然な音を楽しめる」という両社共通の思想を共有しながら、車種ごとに最適なサウンドを作り上げてきたのです。
アルファード/ヴェルファイアに広がる音響空間
2026年8月現在、日本仕様の「JBLプレミアムサウンドシステム」は、アルファード/ヴェルファイア、bZ4X、ハリアー、ランドクルーザー300、GRカローラ、GRヤリスなどに設定されています。その中でも象徴的な存在がアルファード/ヴェルファイアです。
両モデルのJBLプレミアムサウンドシステム装着車には15個のスピーカーが車内各所へ最適に配置され、ダッシュボード上のツイーターやセンタースピーカー、ドアスピーカー、リヤスピーカー、サブウーハーを組み合わせることで、広い室内全体をひとつの音響空間として設計しています。運転席だけではなく助手席や後席でも音のバランスが崩れにくく、どの席でも自然な定位と豊かな音場を楽しめる点は、ショーファーカーとしての完成度をさらに高めています。
実際にアルファードで音楽を再生すると、まず驚かされるのは音場の広がりです。一般的なカーオーディオでは、音は左右のドアスピーカーから聞こえてくる印象がありますが、JBLプレミアムサウンドシステムでは、音像がダッシュボードの先、フロントガラスの向こう側へと自然に広がり、目の前にステージが現れたかのような感覚になります。
ボーカルはセンターへしっかり定位(※ボーカルや楽器の音がどの位置(方向や距離)から聞こえてくるかが定まる度合い)し、左右に配置されたギターやピアノ、ドラムの位置関係も明確です。ライブ音源ではホールの空気感まで伝わり、目を閉じればコンサート会場にいるかのような臨場感が味わえます。JBLが長年培ってきた音場形成の技術が、車内という限られた空間でも確実に活かされていることを実感できます。
どの席でも心地よく、聴き疲れしない音へ
低音は必要以上に量感を強調するのではなく、ベースラインやバスドラムのリズムが埋もれることなく、広い室内でも豊かな厚みを感じさせています。一方、高音域は伸びやかで耳に刺さることがなく、ボーカルの息遣いやストリングスの繊細な表現まで自然に表現します。長時間のドライブでも聴き疲れしないサウンドは、トヨタとJBLが目指してきた「快適な移動空間」という思想そのものと言えるでしょう。
また、DSP(デジタルシグナルプロセッサー)による精密な音場制御の効果は、乗員全員が恩恵を受けられることにつながりました。運転席だけを優先したセッティングではなく、後席でも定位や音色の変化を抑えるよう配慮されているため、家族やゲストが乗車する機会の多いアルファードやヴェルファイアでは、その価値をより強く実感できます。単に高音質というだけでなく、車内全体で音楽を共有するという発想が、このシステムの完成度を高めているのです。
移動時間を豊かにする、プレミアムサウンドの本質
1957年のパラゴン(Paragon)が切り拓いた革新的な音響設計、4310・4311・4312シリーズが築き上げたスタジオモニターとしての名声、そして映画館やライブ会場で磨かれたホーン技術と音場形成。その長い歴史の中で育まれたJBLのDNAは、トヨタとの四半世紀を超える共同開発によってカーオーディオへと受け継がれました。
「JBLプレミアムサウンドシステム」は、単なる高級オーディオという枠にとどまらず、車両設計と一体となって作り込まれた「音響空間」であり、移動時間そのものをより豊かで上質なものへ変えてくれる装備といえるでしょう。世界中の音楽制作や映画文化を支えてきたJBLの技術を、日常のドライブで体感できること、それはトヨタが四半世紀以上にわたってJBLをパートナーとして選びつづけてきた、大きな理由のひとつであると思います。