トヨタのクルマづくりを1/43に凝縮
京商ミニチュアカーに見る“ミクロコスモス”

Car

文/善福寺正文 写真/阿部昌也

トヨタやLEXUSの多彩なモデルを、手のひらに収まるサイズで精緻に再現する京商のミニチュアカー。そこには、実車のスタイリングや質感を忠実に伝えるための、知られざる工夫と情熱が注ぎ込まれている。

開発は、実車の3Dスキャンから始まり、造形や色、素材の検討を重ねて進められる。さらにトヨタ車の場合は、実車を手がけたデザイナーが原型を直接確認し、細部まで妥協のない表現を追求することも少なくないという。

1/43スケールの小さな世界にも息づく、トヨタと京商の「もっといいものをつくりたい」という想い。その舞台裏を、京商でトヨタ車をはじめとするミニチュアカーの開発を担う足立喜代顕氏に聞いた。

実車を手がけたデザイナー自らが監修するケースも

そもそもの話として、ミニチュアカーづくりは実車を知るところから始まる。京商では新規開発にあたり、まず実車を3Dスキャンする。発売前のトヨタ車であれば、厳格なセキュリティ態勢が敷かれた施設へ赴き、さまざまな角度からボディ全体を計測。ハンディスキャナーでインテリアも3D計測し、同時に内外装の写真も撮影する。

すでに製造・販売を終えたトヨタの希少車を新たにモデル化する場合は、その車両を保存している企業や個人を全国から、いや世界中から探し出す。そして現地へ赴き、3Dスキャンと撮影をさせてもらうそうだ。

こうして得た3Dスキャンデータと画像データをパソコン上で整え、「仕様書」にまとめて製造部門へ渡す。製造部門ではそれらをもとに3Dモデリングデータを制作し、金型製作、彩色サンプルと幾つかの工程を経て、完成品へと仕上げていく。ごく大まかに言えば以上が開発の流れだが、実際は、これほどシンプルに言い表せるほどイージーな作業ではないと、足立氏は言う。

京商株式会社 ミニチュアカーグループ 足立喜代顕氏。1994年の新卒入社から20年間ほどRC(ラジオ・コントロール)カーのボディ開発を担当し、その後、ダイキャスト製ミニチュアカーの開発部署に異動、数多くのトヨタ車のミニチュアカー開発に携わった。

「本番の金型を作る前に『ハードパターン』と呼ばれている原型のようなものを作ります。トヨタ自動車さまの場合は、そのハードパターンを、実車をデザインしたデザイナーさんに直接見ていただきます。そして『ここをもっとシャープにしてほしい』などの監修作業をしていただき、実車のデザイナーさんが納得できる水準まで、ハードパターンのクオリティーを上げていくのです」

形状のアウトラインが正確かどうかを確認するために作られる「ハードパターン」。写真はトヨタ センチュリーの3Dスキャンデータを1/43スケールに落とし込んだうえで製作したハードパターン。

センチュリーの繊細さをミニチュアカーにも

近年のトヨタ車のミニチュアカーづくりでは、実車を手がけたデザイナーが「ハードパターン」を直接確認し、京商と意見を交わしながら造形を磨いていくことが多いという。ミニチュアカーにも実車のデザインに込めた意図をきちんと宿すため、写真だけでは捉えにくい面の張りやエッジの表情まで、丁寧に確かめるのである。

「デザイナーさんとしても、ミニチュアカーの監修というのはご自身の主たるタスクではないわけですから、わざわざ直接監修する時間を作るのは大変なのではないかと思います。なぜそんなにも大変なことをしてくださるのかといえば、結局、クルマに関わるすべてのものが大好きで、そして『もっといいものを作りたい!』と常に思っていらっしゃるからではないかと、私は推測しています」

その関わり方を象徴するのが、トヨタ自動車の最上級車種「センチュリー」のミニチュアカーだ。開発にあたってトヨタからは、「実車のフロントグリルが持つ独特の質感を再現してほしい」というリクエストが寄せられた。日本建築の伝統技法である組子細工をモチーフとし、見る位置や距離によって表情を変え、光のうつろいを思わせるあの質感を、1/43スケールでも表現してほしいというのである。

車両本体価格2,700万円(税込み、2026年9月時点)の超高級車に用いられる、繊細なグリルの質感。それを1/43スケールのミニチュアカーで再現するのは、普通に考えれば不可能な話だ。

だが京商は、不可能とは考えなかった。

京商は、フロントグリルに使う透明樹脂を4種類の色味で試作し、その裏側に貼るグラデーション状のデカールもA、B、Cの3パターンを用意した。計12通りの組み合わせがもたらす「見え方」を徹底的に検討し、ついに「実車のイメージに近い1/43スケールの樹脂製グリル」を完成させたのだ。

トヨタ センチュリーのフロントグリルの質感イメージを1/43スケールの世界でなんとか再現するため、色味が異なる4種類の透明樹脂部品を作り、その裏側に貼るデカールも、3パターンの試作品を作った。
そうして出来上がったフロントグリルがこちら。4眼LEDヘッドランプ(Bi-Beam×1眼/オートレベリング機能付)などのディテールも、実車のイメージに忠実に再現されている。

トヨタと京商がこだわるのは外観部分だけではない。センチュリーのインテリアはもちろん、ランドクルーザー70では足まわりまで作り込んだ。小さくて見えにくい部分にも実車らしさを求める姿勢は、まさに「徹底的」と表現しても過言ではない。

トヨタ センチュリーの後席に標準装備されるリヤマルチオペレーションパネル(脱着式)や、タワーコンソール(本杢パネル付)内のアナログ時計(GPS時刻補正機能付)などのイメージも忠実に再現。ちなみにリヤのプライバシーガラスも忠実に再現しているため、これだけ作り込んだところで外からはほぼ見えないのだが、京商は「妥協はしたくない」ということで、ここまでやっている。
こちらはトヨタ ランドクルーザー70の1/43スケールミニチュアカー。フロントバンパーの下に垣間見えるサスペンションやクロスメンバーの構造までが精緻に再現されている。
ミニチュアカーの場合、「多くの部品を一体として成形し、細かい部分は色の塗り分けで表現する」という製造方法が一般的だが、京商はあくまでも質感を追求するため、1/43スケールのきわめて小さなミニチュアカーであっても、パーツをここまで分割して製造している。よく見るとサイドウィンドウも透明なフロント側と、プライバシーガラスとなるリヤ側とで別々に作られていることがわかる。

トヨタと京商に共通する「もっといいものを作りたい」という想い

「結局、トヨタ自動車の担当者の皆さまが放つ『もっといいものを作りたい!』という情熱のようなものを僕らも受け止めることで、京商としても、元々私どもが持っているモデラーとしてのプライドや誇りに加えて、『さらに作り込んでいこう!』という気持ちが湧いてくるんです。そのため再現手法や細部の造りこみなど夢中になりすぎてしまい、製品開発がなかなか終わらないという問題も正直出てまいります(笑)しかし『もっといいものを作り、それによってお客さまに喜んでいただく』という仕事は、もちろん大変ではありますが、まったく苦には感じないものです」

足立氏が手にしているのは、映画『ワイルド・スピード』に登場したスープラの1/18ミニチュアカー。アメリカカリフォルニアまで行って実車を隅々まで3Dスキャンしたうえで開発したため、映画では確認しにくい車内のリヤシート周辺も忠実に再現されている。

実際に人を乗せて走るトヨタのクルマと、手のひらに収まる1/43スケールのミニチュアカー。両者は当然、まったく別の役割を持つプロダクトである。だが細部まで目を配り、もっといいものをつくることでお客さまに喜んでいただきたいという想いには、確かに通じるものがある。京商のミニチュアカーをじっくり眺めていると、トヨタが大切にしているクルマづくりの姿勢まで見えてくるようだ。

そんな京商は、2026年10月3日(土)と4日(日)に東京ビッグサイトで開催された「第64回 全日本模型ホビーショー」で、新作のミニチュアカーをお披露目した。実車の魅力を小さな世界に映した最新作を、ぜひチェックしてみてほしい。

「第64回 全日本模型ホビーショー」で一般初公開された「LEXUS IS 300h“F SPORT”」の京商オリジナル 1/43スケールミニチュアカー。外からは見えにくいインテリアも、実はここまで徹底的に再現されている
こちらは2026年9月中に発売された「LEXUS LC 500 コンバーチブル “ピナクル”」の京商オリジナル 1/43スケールミニチュアカー。

●京商ミニチュアカー
https://dc.kyosho.com/ja/

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