元プロコーチ&ゴルフ記者
“二刀流”中村修が見た女子ツアー最前線Vol.7
~2025年 女子ツアーで初優勝選手のスウィング分析~

昨シーズン、年間を通じて桑木志帆のコーチを務め、さらには「みんなのゴルフダイジェスト」特派記者も務める「二刀流」のプロゴルファー、中村修プロ。2023年オフから指導した桑木は、24年6月の資生堂レディスでツアー初優勝を挙げ、8月のニトリレディスで今季2勝目、さらにツアー最終戦のリコーカップでは3勝目とメジャー初制覇も成し遂げた。2025年シーズンは特派記者として国内女子ツアーで活動する中村に、女子ツアーで目にした最前線の話題を伝えてもらう。
「アクサレディス」でツアー初優勝を飾った工藤遥加選手
国内女子ツアー第3戦「アクサレディス」にて、最終日に5バーディノーボギーでの逆転劇でツアー初優勝を飾ったのは工藤遥加選手。2011年のプロテストに青木瀬令奈選手、堀奈津佳選手、香妻琴乃選手らと共に合格した工藤選手は、そのポテンシャルは誰もが知るところでした。
しかし、これまでシード権の獲得はならずに今季もQTランク51位の資格で迎えていました。今大会は主催者推薦での出場からの優勝となり、24年の臼井麗香選手、23年の山内日菜子選手に続いて3年連続で推薦出場からの初優勝を飾りました。

昨年の「住友生命Vitalityレディス東海クラシック」の2日目終了後に行われた、JLPGA公認の「朝日インテックドラコン大会」で277.7ヤードを飛ばして女王となった工藤選手を現地で見ていました。普段のラウンドではコントロールしたドライバーショットのイメージが強かったのですが、しっかりと振り切ったスウィングは飛距離を武器に戦える数少ない選手の一人だと感じていました。

同期生の青木瀬令奈選手によると「慎重派」だという性格もあってか、これまでの攻め切れていなかったプレーから一転して今大会ではドライバーを多用しピンを攻めるゴルフを見せ、最終日には5バーディノーボギーで後続を振り切ったプレーは大きな自信になったはずです。
工藤選手のスウィングを見ていきましょう。
始動では体が先行してヘッドがわずかに遅れてスタートしていきます。体のターンでクラブを上げることによって左右の動きは少なく、体幹部がしっかりとねじられエネルギーを貯めていきます。

しっかりと背中がターゲットに向いたコンパクトなトップに入る少し前から左への重心移動が入り、切り返しでは下半身を使って回転力を高めます。インパクト直後のヘッドの位置を見るとほぼレベルに振り抜かれていることがわかります。フェードボールを持ち球とする工藤選手の入射角はアッパー軌道が弱く、レベルに近い軌道の表れです。

インパクトで背骨の傾きも少ないのでドライバーからショートアイアンまで不得手なく振れるスウィングだと言えます。しっかりと胸を張ったフィニッシュは誰もが真似したいポイント。そうすることでスウィングアークの大きく長いインパクトゾーンを実現できます。

優勝会見で「50歳まで現役でプレーしたい」と言い、それに見合うトレーニングや体のケアを欠かさないと話しました。遅咲きの初優勝となりましたが、ここからが工藤選手の第二幕の始まりになることでしょう。
「KTT杯バンテリンレディスオープン」でツアー初優勝を飾った佐久間朱莉選手
国内女子ツアー第6戦「KKT杯バンテリンレディスオープン」でツアー初優勝を飾った佐久間朱莉選手です。21年のプロテストに合格し22年からシード権を獲得。初優勝に最も近い選手の一人として多くの期待の中で優勝を目指すも悔しがる姿を何度も目にしてきました。それでもトレーニングや様々な練習を積み重ね、心技体のすべてで着実にスキルアップし今季に臨んでいました。

身長155センチと小柄ですが体をダイナミックに使い、同大会でのドライビングディスタンスは249ヤードで8位という飛ばし屋の部類に入ります。基礎体力の向上に取り組みながら、練習前後には先端に羽が付いたジャンボ尾崎氏お手製の素振り棒を振って「振る力」をつけることで飛距離と安定性を身につけてきました。
アドレスから見ると手のひらで握るパームグリップ、ワイドなスタンス、ゆっくりとした始動のテークバックと佐久間選手の個性が見て取れます。右ひざの上に胸を乗せるように右サイドに荷重し、それを支えるブレない下半身の強さが飛距離の源になっています。

プレッシャーのかかる場面でもテークバックのテンポが変わらない点も佐久間選手ならでは。パッティングでも同じようにゆっくりとしたテークバックをするので、「ヤマハレディースオープン葛城」では平田智パットコーチお手製のコインドリルでストロークのテンポを一定にする練習をしていましたので紹介します。

通常、コインドリルはパターヘッドに二枚のコインを乗せテークバックでトウに乗せた一枚が落ち、切り返しでフランジ部に乗せた二枚目が落ちるのですが、テークバックがゆっくりな佐久間選手はテークバックで落ちないので、「ぶら下げたコインの振り子の周期に合わせて切り返すことでテンポを一定にするドリルに取り組んでいます」とのことでした。
話をスウィングに戻しますと、鍛えた体幹を使った力強いダウンスウィングはしっかりと胴体を回転させ、クラブが振り遅れない点が佐久間選手のストロングポイントになっています。

オフに宮崎で合宿する佐久間選手にインタビューをした際に聞いた「今までは周りを気にしていた。自分のプレーに集中してもっともっとゴルフが上手くなりたい」という彼女の言葉から今季は初優勝どころか2勝、3勝はするだろうと感じていました。心技体にトレーナーを含めたチーム体制も整った佐久間選手の活躍がこれからも楽しみですね。

中村修(なかむらおさむ)
1968年、千葉県出身。26歳でゴルフを始め、2005年に日本プロゴルフ協会(PGA)入会。PGAティーチングプロB級会員。桑木志帆のコーチとしての実績を持つ傍ら、「みんなのゴルフダイジェスト」特派記者としても活動する。
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