気になるトヨタ車生まれ変わったクラウンを体現!
ベイエリアでクラウンスポーツに乗る
文/鈴木 直也 写真/平野 学、三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY、トヨタ自動車
長くセダンボディを踏襲してきたクラウンに、新たなモデルが加わった。クラウンスポーツ。今や自動車マーケットの主役ともいえるSUVのボディを纏ったその姿は、クラウンの変革を象徴するのにふさわしい存在だ。果たしてその走りはどうなのか。モータージャーナリストの鈴木直也氏が、横浜ベイエリアを試走した。
4車型を同時開発するという異例のモデルチェンジ
新型クラウンが発表されたのは昨年7月のこと。ルーティンワークとしてのモデルチェンジではなく、4車型のバリエーションをイッキに披露。新しいクラウンは単体ではなくチームでユーザーニーズに応える。そんな大胆な戦略転換に驚かされたのは記憶に新しい。
この発表会で、豊田章男社長(当時)、中嶋裕樹ミッドサイズカンパニープレジデント両氏によって、この判断が必然であったことが熱く語られた。
オーソドックスな高級セダンを作り続けていては、クラウンはいずれジリ貧となる。実際、21世紀最初のクラウンとなった12代目“ゼロ・クラウン”以降、さまざまなトライを続けてきたもののクラウンの販売が大きく上向くことはなかった。「一度原点に戻って、これからのクラウンを本気で考えてみないか?」。豊田章男社長は開発チームにそう問いかけたという。
その結果として生まれたのが、4種類のクラウンを同時開発するという異例のモデルチェンジだったわけだ。
数的にメインストリームとなるのは時代のニーズを反映したクラウンクロスオーバー。スポーツカーに迫る運動性能を与えられたクラウンスポーツ。カーゴスペースを広げてマルチユースを楽しめるクラウンエステート。最後に、フォーマルカーとしてのクラウンの伝統を引き継ぐクラウンセダン…。
豊田章男社長の言葉を借りるなら「迎えた16代目、日本の歴史に重ね合わせれば徳川幕府も15代で幕を閉じております。何としてもクラウンの新しい時代を作らなければいけない」という決意のもと、まさに“維新”ともいえるような革命的なモデルチェンジが行われたのだった。
革命的モデルチェンジはユーザーの意識も変える
この4種類の新しいクラウンのなかで、クルマ好きにもっとも衝撃を与えたのは、おそらくクラウンスポーツだろう。
前後ともにオーバーハングを削った躍動的なプロポーション。最近のトヨタ車に共通する、シャープな“ハンマーヘッドグリル”。グッと大地に踏ん張る筋肉質なリアフェンダーのふくらみ。そこから絞り込まれたマッシヴなリアビュー・・・。
こんなにスポーティな出で立ちのクラウンは間違いなく史上初。今度のクラウンが革命的に生まれ変わったことを、もっとも体現したニューモデルといっていい。
このプロポーションを創り出すため、クラウンスポーツはボディサイズにかなり設計変更の手が入っている。先行デビューしたクラウンクロスオーバーに対して、全長を210mm、ホイールベースを80mm短縮。シリーズ車種でここまで思い切ったサイズ変更を行うのは珍しいが、結果として引き締まった筋肉質のプロポーションを完成することができたともいえる。
すでに述べたとおり、今度のクラウンには4車型のバリエーションが用意されるが、その4車型が似たり寄ったりでは意味がない。妥協のない個性の際立たせ方についても、開発陣は相当な覚悟を持って臨んだと言っていいだろう。
余談だが、最近ネットでは「クラウンスポーツはフェラーリ・プロサングエのパクリ」という書き込みが見受けられる。ご存知のとおり、クラウンの発表は去年7月15日、プロサングエは9月13日。どちらが先かといえばクラウンの方が早い。
実際には、このタイミングだとどちらもデザインはほぼ完成していたのだろうが、注目すべきは新しいクラウンスポーツのデザインは、ネット民が「フェラーリをパクった」と勘違いするほどカッコいい、そう認識されていることだ。
クラウンといえば、長らくコンサバティブな高級サルーンと思われていたわけだが、今回の革命的モデルチェンジは早くもユーザーの意識を変えつつあるようだ。
スポーツカーのPHEV、バランス感覚のHEV
パワートレーンに関しては、クラウンスポーツにはPHEV(プラグイン ハイブリッド)とHEV(ハイブリッド)の2種類の設定がある。
容量18.1kWhのリチウムイオン電池を搭載するPHEVは、満充電状態で90kmのEV走行が可能なだけではなく、駆動用モーターの出力を高めることでシステム最高出力306psを達成。さらに、シャシー面では対向6ピストンアルミキャリパーで強化したブレーキ性能や、トンネル部へのブレース追加によるボディ剛性アップを実施している。
つまり、クラウンスポーツにおけるPHEVの位置付けは、EV走行レンジ90kmのエコ性能のみならず、スポーティな走りも楽しめる最強スポーツバージョンでもあるわけだ。
一方、主力車種となるクラウンスポーツHEVについては、優れた燃費効率と高い走行性能を両立させたバランスのよさが魅力のグレードだ。
HEVの駆動用バッテリーは容量1.2kWhのバイポーラニッケル水素電池で、これとバランスを取るためフロントモーターは一回り小さい3NM型(120ps/20・6kgm)を選択。A25A-FXS型エンジンと後輪駆動用モーターはほぼ共通ながら、システム最高出力は234psに抑えられている。
今回のリポートでは、このHEV仕様のインプレッションをご紹介しよう。
余裕を持った快適な高速クルージングこそが真骨頂
ドライバーシートについて電動シートを動かしてポジションを設定しベルトを締める。パワースイッチを押すとドライバー眼前の12・3インチ液晶HDディスプレイと同じく液晶表示のメーターナセルに火が入り、システムが準備完了を告げる。
このあたりはトヨタのハイブリッド車経験がある人にはお馴染みの手順。センターコンソールのシフトレバーをコクンと一段手前に引いてDレンジを選択すればレディ・トゥ・ゴー。バッテリー容量に余裕があればこの段階ではまだエンジンは停止したまま、アクセルを踏めばモーター走行でしずしずと走り出す。
市街地走行は基本モーター走行で時どきエンジン始動というパターンだ。フロントモーターだけでトルクは20kgm以上あるから、1810kgの車重に対してドライバビリティは十分余裕があり、エンジンがアシストするまでもなくスムーズに加速してゆく。
高速道路の料金所から、思い切ってアクセルを深く踏み込んでみる。現代の水準からすると、加速フィールはパワフルではあるもののビックリするというレベルではない。制限速度の100km/hまではアバウト7秒チョイくらいの実力といえるだろう。
もちろん、フル加速すれば大抵のクルマはバックミラーのなかで小さくなってゆくが、クラウンはそういう走りの似合うクルマじゃない。余裕を持った快適な高速クルージングこそがクラウンの真骨頂で、シリーズでもっともスポーティなクラウンスポーツにおいても、その基本的なキャラクターは変わっていないことを実感する。
では、何がクラウンスポーツの“スポーツ”たる所以かというと、それはシャシー性能の素晴らしさにある。
揺るぎないボディコントロール。安心感あるハンドリング
例えば、思ったよりも速い速度で高速道路のインターチェンジなどに進入したような状況を考えてみてほしい。こういうシチュエーションでは、ステアリング操作やブレーキングがワンテンポ遅れているため、その分クルマのシャシー側に大きな負荷がかかる。
こんな状態にクルマを追い込んでみると、クラウンスポーツの骨太なシャシー性能の実力に驚かされる。
少しくらい切り遅れがあろうとステアフィールの正確さが落ち着いた対処を助けてくれるし、コーナー入り口までブレーキングが残ったとしても、ビシッと揺るぎないボディコントロールで姿勢の乱れは最小限。ひと言で要約すれば、ハンドリングにものすごく安心感があるのだ。
スポーツドライビングを好む人ならコーナー立ち上がりでアクセルを踏み込むと思うが、余裕で全開パワーを受け止めるロードホールディングのよさにも感心するはず。電子制御で前後の駆動力を最適化する4WDシステム“E-Four”と、ダイナミック後輪操舵システム“DRS”によって守りを固めたシャシーは、普通のドライバーではなかなか限界に到達できないほどフトコロの深い能力を備えている。
また、この優れたシャシー性能がしなやかな乗り心地と両立している点も特筆すべきクラウンスポーツの魅力だろう。235/45の21インチという太いタイヤを履きながら、段差越えや道路の継ぎ目からくるショックのいなし方や、対処の難しい微小アンジュレーション時のブルブル感などを上手に抑え込んでいるのはお見事。
開発者に聞くと「単純に固めるのではなく、しなやかに路面を捉え、思った通りのラインをトレースできる足を目指した」とのことだが、その目標はしっかり達成されていると評価できる。
クラウンの「クロスオーバー」に対して「スポーツ」の80mmホイールベース短縮は、後席居住性には明らかにマイナスだが、傑出したハンドリング性能はそれを補って余りある。まさに、際立つシャシー性能こそが、クラウンスポーツ最大の魅力。それを実感したクラウンスポーツHEVの試乗だった。
スポーツカーのPHEV、バランス感覚のHEV
まずはパワートレーンから説明しよう。クラウンスポーツにはPHEV(プラグイン ハイブリッド)とHEV(ハイブリッド)の2種類の設定がある。
容量18.1kWhのリチウムイオン電池を搭載するPHEVは、満充電状態で90kmのEV走行が可能なだけではなく、駆動用モーターの出力を高めることでシステム最高出力306psを達成。さらに、シャシー面では対向6ピストンアルミキャリパーで強化したブレーキ性能や、トンネル部へのブレース追加によるボディ剛性アップを実施している。
つまり、クラウンスポーツにおけるPHEVの位置付けは、EV走行レンジ90kmのエコ性能のみならず、スポーティな走りも楽しめる最強スポーツバージョンでもあるわけだ。
一方、主力車種となるクラウンスポーツHEVについては、優れた燃費効率と高い走行性能を両立させたバランスのよさが魅力のグレードだ。
HEVの駆動用バッテリーは容量1.2kWhのバイポーラニッケル水素電池で、これとバランスを取るためフロントモーターは一回り小さい3NM型(120ps/20・6kgm)を選択。A25A-FXS型エンジンと後輪駆動用モーターはほぼ共通ながら、システム最高出力は234psに抑えられている。
今回のリポートでは、このHEV仕様のインプレッションをご紹介しよう。
余裕を持った快適な高速クルージングこそが真骨頂
ドライバーシートについて電動シートを動かしてポジションを設定しベルトを締める。パワースイッチを押すとドライバー眼前の12・3インチ液晶HDディスプレイと同じく液晶表示のメーターナセルに火が入り、システムが準備完了を告げる。
このあたりはトヨタのハイブリッド車経験がある人にはお馴染みの手順。センターコンソールのシフトレバーをコクンと一段手前に引いてDレンジを選択すればレディ・トゥ・ゴー。バッテリー容量に余裕があればこの段階ではまだエンジンは停止したまま、アクセルを踏めばモーター走行でしずしずと走り出す。
市街地走行は基本モーター走行で時どきエンジン始動というパターンだ。フロントモーターだけでトルクは20kgm以上あるから、1810kgの車重に対してドライバビリティは十分余裕があり、エンジンがアシストするまでもなくスムーズに加速してゆく。
高速道路の料金所から、思い切ってアクセルを深く踏み込んでみる。現代の水準からすると、加速フィールはパワフルではあるもののビックリするというレベルではない。制限速度の100km/hまではアバウト7秒チョイくらいの実力といえるだろう。
もちろん、フル加速すれば大抵のクルマはバックミラーのなかで小さくなってゆくが、クラウンはそういう走りの似合うクルマじゃない。余裕を持った快適な高速クルージングこそがクラウンの真骨頂で、シリーズでもっともスポーティなクラウンスポーツにおいても、その基本的なキャラクターは変わっていないことを実感する。
では、何がクラウンスポーツの“スポーツ”たる所以かというと、それはシャシー性能の素晴らしさにある。
揺るぎないボディコントロール。安心感あるハンドリング
例えば、思ったよりも速い速度で高速道路のインターチェンジなどに進入したような状況を考えてみてほしい。こういうシチュエーションでは、ステアリング操作やブレーキングがワンテンポ遅れているため、その分クルマのシャシー側に大きな負荷がかかる。
こんな状態にクルマを追い込んでみると、クラウンスポーツの骨太なシャシー性能の実力に驚かされる。
少しくらい切り遅れがあろうとステアフィールの正確さが落ち着いた対処を助けてくれるし、コーナー入り口までブレーキングが残ったとしても、ビシッと揺るぎないボディコントロールで姿勢の乱れは最小限。ひと言で要約すれば、ハンドリングにものすごく安心感があるのだ。
スポーツドライビングを好む人ならコーナー立ち上がりでアクセルを踏み込むと思うが、余裕で全開パワーを受け止めるロードホールディングのよさにも感心するはず。電子制御で前後の駆動力を最適化する4WDシステム“E-Four”と、ダイナミック後輪操舵システム“DRS”によって守りを固めたシャシーは、普通のドライバーではなかなか限界に到達できないほどフトコロの深い能力を備えている。
また、この優れたシャシー性能がしなやかな乗り心地と両立している点も特筆すべきクラウンスポーツの魅力だろう。235/45の21インチという太いタイヤを履きながら、段差越えや道路の継ぎ目からくるショックのいなし方や、対処の難しい微小アンジュレーション時のブルブル感などを上手に抑え込んでいるのはお見事。
開発者に聞くと「単純に固めるのではなく、しなやかに路面を捉え、思った通りのラインをトレースできる足を目指した」とのことだが、その目標はしっかり達成されていると評価できる。
クラウンの「クロスオーバー」に対して「スポーツ」の80mmホイールベース短縮は、後席居住性には明らかにマイナスだが、傑出したハンドリング性能はそれを補って余りある。まさに、際立つシャシー性能こそが、クラウンスポーツ最大の魅力。それを実感したクラウンスポーツHEVの試乗だった。
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