モビリティの可能性が広がる――「誰かの助けになりたい」「誰かを笑顔にしたい」。「Japan Mobility Show 2025」でトヨタが描いたモビリティの未来と覚悟
2025年10月30日(木)から11月9日(日)まで、一般社団法人 日本自動車工業会主催による「Japan Mobility Show 2025(ジャパンモビリティショー)」が東京ビッグサイト(東京都・有明)で開催されました。「ジャパンモビリティショー」は、2019年まで開催されていた「TOKYO MOTOR SHOW(東京モーターショー)」の後継イベントとして2023年にはじめて開催され、今回も大盛況のうちに幕を閉じました。そのなかでもひときわ多くの注目を集めた、未来を感じさせるトヨタグループの出展を紹介します。
Text:Fumihiko Ohashi
Photo:Masahiro Miki
Edit:Akio Takashiro(pad inc.)
誰かのために――「TO YOU」に込めた想い
国内外の名だたる大手自動車メーカーが出展した「Japan Mobility Show 2025」。そのなかで最大の出展スペースを確保したのが、トヨタグループでした。広大な南館の1フロア一帯を使った、トヨタ、ダイハツ、レクサス、そして新ブランドのセンチュリーがブースを構えました。
まずトヨタブースで目についたのは、原点回帰です。トヨタグループの起点は、豊田佐吉が苦労する母のために発明した豊田式木製人力織機に遡ります。トヨタは、その「誰かのために」という想いを込めた「TO YOU」をコンセプトに掲げました。プレスデーに登壇したトヨタ自動車の佐藤恒治社長は「私たちは何かをつくるときには、『誰かの助けになりたい』『誰かを笑顔にしたい』という想いを込めています。必ず、誰かひとりの『あなた』の顔を思い浮かべて、そこを目がけてつくっているのです」と強調しました。その思想こそが今回の展示の根幹です。
そのコンセプトを象徴するモデルが、大衆車として多くの人に愛されつづけ、2026年、発売から60周年を迎えるカローラです。トヨタブースでは、その未来の姿を示す「COROLLA CONCEPT(カローラ・コンセプト)」が世界初公開されました。低くて長いノーズに水平基調の切れ長のテールランプは、カローラとは思えない、スポーティーな印象を与えます。
車内も従来モデルとは印象がガラリと変わり、コックピットはスポーツカーのようです。エンジンルームをコンパクトにし、インパネやキャラクターラインを低く設定することで、広い視界と室内空間が確保されています。
次世代のカローラは、時代や地域ごとに最適解を変化させる柔軟性を強化し、BEV(バッテリーEV)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)、ICE(内燃機関)とあらゆる動力源に対応し、多様化する各地域のエネルギー事情に適応する柔軟性を備えています。
画期的な未来のモビリティも世界初公開されました。それは「IMV Origin(IMVオリジン)」。軽トラックのような外見ですが、あるのは土台だけで、その上には何も載っていません。トヨタが生産するのはこの土台だけで、上部は、アフリカをはじめとする新興国のそれぞれのニーズに合わせて現地で製造するとのこと。つまり、人を乗せるニーズが高い地域もあれば、荷物を乗せるニーズが高い地域もある。IMV Originは、そうした“あなた”のニーズに合わせるために、あえて未完成のまま提供する設計思想なのです。
その“あなた”のニーズに合わせた製造を実際に体験するために、トヨタブースでは「TOYOTA Create LAB」が設けられました。バンダイスピリッツとのコラボにより製作されたプロモデルが用意され、来場者が組み立てを楽しみました。使用状況を想定して作成された模型も展示され、IMV Originの社会課題解決に向けた可能性を感じることができました。
ハイエースのコンセプトカー「HIACE CONCEPT」や、お客さまのもとにサービスを届ける社会インフラ・モビリティ「KAYOIBAKO」といった商用車も展示されました。HIACE CONCEPTには標準ルーフタイプとハイルーフタイプがあり、さまざまな用途が想定されています。「KAYOIBAKO」は、小型から大型まで用意されていますが、小型タイプはダイハツが生産し、中型以上のタイプをトヨタが生産しました。
ほかにも子どもの“自立移動”を安全に支援するという新しい価値提供する1人乗りの自動運転モビリティ「TOYOTA Kids mobi」などを展示し、トヨタは未来のモビリティを提案しました。
そして、ひときわ注目を集めたのは、トヨタグループの最高峰ブランドとして独立した「センチュリー」です。豊田章男会長自らが登壇し、緋色が鮮やかな「センチュリークーペ」を世界初公開しました。世界に通用する最高峰の高級車をつくろうと、トヨタ初の主査(開発責任者)である中村健也氏と章一郎社長(当時)が1963年に開発を開始した歴史を紹介した豊田会長は、時折感極まった様子を見せながら、並々ならぬ想いを語りました。
フロントグリルに輝く鳳凰のエンブレムは、世界が平和な時代にのみ姿を見せる伝説の鳥であり、「世界の平和を心から願い、日本から『次の100年』をつくる挑戦」と豊田会長は力強く宣言。最後にその決意を改めて表明しました。
「センチュリーは、トヨタ自動車のブランドのひとつではありません。日本の心、『ジャパン・プライド』を世界に発信していく、そんなブランドに育てていきたい」
センチュリークーペはコンセプトカーですが、展示スペースには、量産を見据えたモデルも2車種展示されました。パールホワイトのセダンタイプ「センチュリーGRMN」と黒のSUVタイプ「センチュリーTAILOR MADE」です。前者は、豊田会長の愛車と同じモデルですが、エンブレムの変更など、追加カスタムを施しているそうです。専用デザインのグリルやアルミホイール、西陣織カーボンが採用され、スポーティーな印象を受けます。
トヨタグループが占拠したフロアの一角には、旧車も展示されました。1936年に発売された「トヨダAA型」と「トヨタGA型トラック」です。前者は、豊田喜一郎氏が中心となって開発したトヨタ初の量産乗用車で、1942年までに1,404台が生産されました。
国策上の理由などから商用車は前年に「G1型トラック」をすでに発売していましたが、それを改良して発売されたのが「トヨタGA型トラック」です。いずれも、トヨタの自動車づくりの原点とも言えるクルマです。
「誰かのために」という創業の精神を出発点に、トヨタは“移動”の枠を超えて、社会やくらしの未来そのものを動かそうとしています。それは、単なる技術革新ではなく、人と人、地域と世界をつなぐ「思いやりの連鎖」を生み出す挑戦でもあります。今回のジャパンモビリティショーで示された数々のモデルやコンセプトは、10年後、20年後の未来に向けた「約束」のかたちなのかもしれません。
豊田会長が語った「ジャパン・プライド」という言葉には、日本のモノづくりの矜持と、次の時代を担う覚悟が込められていました。モビリティの進化とともに、人の心まで動かすブランド――それが、いまのトヨタであり、これからのトヨタなのでしょう。
