「Japan Mobility Show 2025」のその先へ。未来を切り拓くモビリティの可能性「モビリティ」って一体何だ?
なぜ今「モビリティ」のショーなのか?

Car

2025年秋に開催された「Japan Mobility Show 2025」では、モビリティが持つさまざまな可能性が紹介されました。本企画では、トヨタの展示を手がかりに、テクノロジーの進化が広げるモビリティの未来を、モータージャーナリストの小沢コージ氏が身近な視点で易しく読み解いていきます。

Text:Koji Ozawa
Edit:Akio Takashiro(pad inc.)

モビリティとは何か?「移動」を超えた概念

みなさん、そもそも「モビリティ」とは何を意味する言葉だと思いますか?

直訳するとそれは「移動」になります。クルマや二輪車だけではありません。自転車や飛行機、電車もモビリティの一部なのです。もちろん宇宙船もそれに含まれます。

今最大の問題は21世紀に入り、その「モビリティ」、特に個人で使える移動体の定義が限りなく広がりつづけていることにあります。

かつては電車や路線バスのような公共交通機関を除き、個人で自由に購入でき、人間活動を広げられる乗り物(モビリティ)はクルマ(四輪)や二輪車、自転車ぐらいのものでした。しかし今のモビリティはまったく違うのです。

世界有数の自動車大国・日本の現在地

もうひとつ押さえておきたいポイントは、日本が世界有数の自動車大国であるという事実です。

トヨタグループをはじめ、巨大な自動車メーカーを数多く擁す、2024年の国内自動車生産台数は800万台以上。国別で見ると、中国(約3,000万台以上)、北米(約1,600万台以上)に次ぐ世界第3位の規模を誇ります。さらに海外での生産分まで含めると、世界で販売される新車のおよそ4台に1台が日本ブランドともいわれており、その存在感は今なお際立っています。

また2024年実績での自動車製品輸出総額は約22.5兆円。これは製造業全体の約19%を占め、日本経済を支える最大の産業となります。サービス業などを含め、約550万人ともいわれる自動車関連業の雇用者数も就業人口全体の約1割を占めるとされ、「日本はクルマで食べている国」といっても過言ではないのです。

ハードウェアだけでは生き残れない「モビリティ危機」

そんな中、今、電動車ではアメリカのテスラや中国のBYDが勢力を拡大しているのはもちろんですが、他にもカタチを変えて日本の地位を脅かしています。それが本当の「モビリティ危機」なのです。

例えば、自動車のライドシェアアプリで世界No.1はどこか?

ご存知のとおりアメリカのウーバーテクノロジーズです。年間売上げ約6兆円レベル。その次は中国DiDiで、年間約4兆円レベル。小さな自動車メーカーを上回り、日本のモビリティプラットフォーム業界はまだまだ拡大途上です。

AI化する自動運転ソフトウェア産業で先端を走っているのもアメリカや中国です。モビリティが今までのようなハードウェアビジネス一辺倒と思ったら大間違い。ハードウェアに加え、ソフトウェアにサービスにサブスクリプションに金融に通信とありとあらゆる事業が「モビリティ」の世界で進化し、切磋琢磨しています。クルマで稼いできた日本がこの流れに乗り遅れるわけにはいかないのです。

日本でモビリティショーが行われる根本はそこにあります。いつまでもモビリティ=クルマ製造&販売ビジネスだと思っていたら、世界に完全に取り残されてしまうのです。

「Japan Mobility Show 2025」が示した未来のかたち

よって「Japan Mobility Show 2025」の本当の見どころは「新しいビジネスの創造」にあったのです。新型カローラやRAV4の仕上がりも大切ですが、いかに新しいモビリティを日本で生み出せるか?使い勝手を含め、国全体で検証してこそ、世界に輸出できます。どこが面白くて、どこに可能性があるか?それを見極めるのが楽しく、なおかつ大切なのです。

第一の注目はハードウェアからいくと、新型「センチュリークーペ」でしょう。これはハードウェアとしての新しさ以上に、同時に宣言した「新たにセンチュリーブランドも立ち上げる」という事実が凄い。価格感も店舗数も判明していませんが、一台数千万円以上の富裕層向けビジネスになることは間違いありません。販売店やサービスも含め、国内初のネットワークを構築することになるはずです。

センチュリークーペ

次は「IMV Origin(IMVオリジン)」です。一見するとリヤカーのフロアに電動機やバッテリーが付いただけの車両にも見えますが、まったく新しい、新興国・アフリカ向けの車両プロジェクトです。安全基準が先進国とまったく違う国では、動くフロアをまず開発し、上屋を自由に設計して付ける。驚くべきフレキシビリティを持った車両であり、売り方も含めて、既存のハードウェア販売とはまったく異なるビジネスになる可能性を秘めています。

IMV Origin

車両とはまったく違うモビリティでは「Joby S4」があります。これはトヨタが支援するアメリカの Joby Aviation社が開発したいわゆる空飛ぶクルマであり、具体的には電動モーターで垂直離着陸ができる実車サイズの有人ドローンです。現在は全長約7.3メートル×全幅10.7メートルで車重は約1.95トン。合計6基の電動モーターでプロペラを回し、各モーターのピーク出力は約316馬力。パイロット1名と乗客4名の乗車が可能で、最高速度は時速約320キロメ―トル。2030年の実用化を目指し、すでに世界各地で実証実験が行われています。

Joby S4

一方、個人的に「今すぐ欲しい!」と思ったのが、トヨタの「walk me(ウォークミー)」(4足歩行型シート)です。これはイスの下に、タコの如くにょろにょろ動く電動4本足を備えたまさしく移動するイス。人を乗せたまま階段の上り下りや段差を超え、あぐらを組むように地べたに座ることができるという、既存の車両概念から完全に逸脱したモビリティです。実際何時間稼働するのか?体重何キログラムまでOKか?耐久性など気になるところもありますが、見るなり、介護が必要な自分の母に買ってあげたいと思いました。部屋でも使えますし、介護&日常使いの車いすとしては画期的です。

walk me

さらにmeシリーズは全部で3つあり、ほかにはスポーツでも使える二輪モビリティの「boost me(ブーストミー)」があります。これは重心移動を感知し、前後左右に自由に動ける半座りのイス。足が不自由な障がい者のスポーツ用にも使えますが、健常者でも楽しめそうです。新たなエンターテインメントの可能性を感じました。

boost me

同様に、アウトドア使用を前提とした車いす版ランドクルーザーともいうべき「challenge me(チャレンジミー)」もユニークです。フレームを握ってからだを支え、ジョイスティックで操作し、ブロックタイヤで荒野を駆け巡る。3台とも今すぐ試してみたい!欲しい!と思える完成度なのが素晴らしいです。

challenge me

最後に、気になったのが水素エネルギーを使ったまったく新しいソリューションの数々です。正確にはこれらはモビリティとは呼べないかもしれませんが、モビリティを彩る新作ハードウェアとして興味深い。ひとつはリンナイと共同開発した「水素コンロ」(水素調理器)です。この類のものは石油もしくはLPGが一般的ですが、水素ガスならば熱だけを生み出し、余計な排ガスは出しません。クリーンかつ安全なのです。

水素の農業への活用や浮力を使った「水素凧」もユニークです。どちらも先日稼働が始まった裾野のToyota Woven Cityで実証実験が行われるそうですが、今すぐ製品化されても需要が見込めそうなアイテムばかり。

「マザーシッププロジェクト」
トヨタが挑む次世代エネルギー構想。浮力を持つ凧で成層圏の強風を捉え発電し、得た電力を地上へ送る“空飛ぶ風力発電”を目指すプロジェクト。

対流圏界面域を吹く強く安定した風を、次世代エネルギーに変えるトヨタの挑戦。浮力を備えた凧が上空の風を捉え、その力を地上へ伝えて発電する「空飛ぶ風力発電」構想。燃料電池車で培った水素技術の知見も活かし、将来的には水素を媒体とした活用も視野に入れています。

もちろん、販売のためには安全性の確保や量産体制、販売体制が必要です。何より動く椅子一台が数十万円ではそうそう売れないでしょうし、低コスト化が厄介ですが、どれも価格次第ではビジネスチャンスが望めそうな逸品ばかり。日本が生み出した新しいモビリティとして、ぜひとも実用化されてほしいものなのです。


小沢コージ

モータージャーナリスト。自動車メーカー勤務を経て1990年に二玄社へ入社し、自動車情報誌『NAVI』の編集に携わる。1993年に独立後は「バラエティ自動車ジャーナリスト」として活動。新車試乗から自動車文化、産業動向まで幅広く取材・執筆し、雑誌やテレビ、ラジオ、ネットなど多彩なメディアで、生活者目線の分かりやすい解説に定評がある。


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