クルマと家がつながり生まれるハーモニー電動化で変わる、これからの住まいとカーライフ
高速道路のサービスエリアや道の駅、商業施設などで電動車用の充電スタンドを見かけることが珍しくなくなった昨今。政府も2030年までに充電インフラを30万口に増設する計画を掲げ、インフラとしての充電スタンド増設は加速する一方です。こうした電動車が社会に溶け込む時代において、人々のくらしはどのように変わっていくのでしょうか。
Edit & Text:Yasumasa Akashi(pad inc.)
クルマ選びの常識が変わってきた背景
かつてクルマはガソリンで走るのが常識で、ほかの選択肢はありませんでした。ところが昨今は、クルマを購入しようとしたとき、ガソリン車と同時にHEV(ハイブリッド車)やBEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)などの電動車が候補となる時代を迎えています。その背景には、充電インフラの整備とバッテリー性能の進化による航続距離の伸長があります。
トヨタは1997年に世界初の量産HEV車「プリウス」を発売し、グローバルに大きなインパクトを与えました。以来約30年にわたり、電動モーターの高効率制御やバッテリーの高性能化を磨き続け、電動車を“特別な存在”から“現実的な選択肢”へと進化させてきました。
現実的な選択肢となったBEVとPHEV
ガソリンを使わず、バッテリーに充電した電気だけを使ってモーターで走行するのが「BEV」です。代表例が2025年に改良モデルが発売されたトヨタの「bZ4X」。かつては「航続距離が短い」「充電場所が少ない」といった課題がありましたが、技術進歩とインフラ整備により、今では日常使いから長距離移動まで視野に入る存在になっています。災害時には大容量バッテリーを非常用電源として活用できる点も大きな特長です。
1.クルマ×家はどのようにつながるか
■「ビークル・トゥ・ホーム(V2H)」
一方「PHEV」は、外部充電が可能な大容量バッテリーを備え、電気でもガソリンでも走行できるモデル。トヨタではRAV4、ハリアー、クラウンスポーツ、クラウンエステート、プリウス、アルファード、ヴェルファイアなどを展開しています。充電が切れてもガソリンで走れる安心感が魅力です。
クルマを電気で走らせることによる快適さ
BEV・PHEVの大きな魅力は、高い静粛性と滑らかな加速。電気での走行はエンジン音がないため車内の会話がしやすく、小さな子どもがいる家庭でも移動時間そのものが快適なコミュニケーションの場になります。職場や商業施設など、生活動線の中で充電できる柔軟性も向上しています。BEV・PHEVは今、「どこで充電するか心配」な存在から、「生活の中で自然に使える安心感」のあるクルマへと変わりつつあります。
住まいに目を向けると、自宅に充電設備を設ければ、ガソリンスタンドに立ち寄る手間も不要になり、深夜電力を活用すれば燃料コストも抑えられます。そして何よりも、災害時・非常時には、家族を守る最後の砦としても機能します。クルマは単なる移動手段ではなく、「くらしの一部」として組み込まれる存在になってきたのです。
そして、クルマと住まいをセットで考えると、電動車を選ぶメリットがさらに見えてきます。
2.クルマ×家はどのようにつながるか
■「クルマde給電」
クルマの中にたくさんのヒントがあった
今回、住まいの生産工場とともに、モデル展示棟や住まいづくりの体感施設が配されたトヨタホーム春日井事業所で、実際にBEVが「くらしの一部」となっている姿を見せてもらい、トヨタホーム執行役員・宇佐美 正さんに、クルマと住まいの未来を拓いてきた同社とトヨタのこれまでを教えてもらいました。
トヨタのクルマづくりの歴史は、トヨタホームの歩みとも深くつながっています。創業者・豊田喜一郎氏は戦後の焼け野原で「人は誰でも皆、ある一定水準以上の住宅に住む権利を有すべきだ」という志を抱き、父・佐吉氏の「燃えない家を」という言葉を原点に、ユタカプレコン(現・トヨタT&S建設)を設立。工業化による中高層住宅開発で、住宅不足の解消に貢献しました。一方で、トヨタでも工業化住宅の開発が本格化し、1975年に住宅事業部が新設され、現在のトヨタホームへと発展します。
トヨタホームの特長は、自動車生産で培った技術と「トヨタ生産方式」を住まいづくりに生かしている点です。主力の「鉄骨ラーメンユニット工法」は、鉄の高耐久技術と自動車の構造思想を応用したもので、工場生産により強靭な構造躯体と高い断熱性能を実現しています。
「最新の工業技術の結晶・クルマの安全性、快適性、省エネルギー、操縦・安定性、信頼性、耐久性・・・。クルマづくりのコンセプトの中に家づくりのヒントがたくさんあり、時代のニーズに合わせて進化させてきたのがトヨタホームの歴史なのです」(宇佐美氏)
国内初の「家とクルマとのエネルギー連携」――環境配慮型住宅
2000年代以降、地球温暖化への関心が高まる中で、トヨタホームはクルマと住まいが不可分となる未来を見据え、スマートハウス(環境配慮型住宅)の取り組みを加速させます。
象徴的なのが、2011年に発売された「シンセ・アスイエ」です。ここでは「家とクルマとのエネルギー連携」をテーマに、ホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)や太陽光発電システム(PV)、BEV・PHEV用の充電設備などを組み合わせ、エネルギーを“見える化”しながら賢く使う発想を前へ進めました。
さらに、クルマ(トヨタのエスティマのハイブリッド車)を外部電源とする非常時の給電システムも搭載。東日本大震災後の計画停電の中で家々に電気を送り届けたこの住宅は、住まいの新たな価値創出へとつながる重要な転換点となりました。
クルマとつながる先進的な「V2ZEH」
このようなコンセプトを引き継ぎながら、クルマとつながる、より進化・発展した住まいとして現在注目されているのが、トヨタホームの「ビークル・トゥ・ゼッチ(V2ZEH)」です。ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称で、「高断熱+省エネ+創エネ」によって、家庭における年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロ以下にする住宅のこと。
トヨタホームの戸建住宅は、標準的に太陽光発電システム(PV)を搭載した創エネ(自ら電気をつくり出す取り組み)住宅で、外壁・天井・床に加え、窓やドアなど開口部の断熱性能も高めた高断熱仕様です。また、宅内電力消費の多くを占める冷暖房については、オリジナルの全館空調「スマート・エアーズPLUS」を採用し、エネルギー管理の中心を担うホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)とあわせて、省エネ化に貢献します。これにより、創エネ量が家庭における年間のエネルギー消費量を上回るネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)を実現しています。
「そのうえで私たちが目指すのは、家とクルマをつなぎ『家での生活も、移動も脱炭素にする』ことです」と宇佐美さんは強調します。背景には、再生可能エネルギーの発電量と宅内消費電力量とのアンマッチがあります。
「太陽光発電システム(PV)による発電は、晴天日の日中には豊富に得られるので、CO₂排出ゼロの再エネで生活することができます。しかし、日中に発電した電力を使い切ることは難しく、宅内消費との時間的なアンマッチにより、通年の自家消費率はおおよそ3割から4割にとどまり、残りは電力網へ逆潮流されていきます。一方、クルマに目を向けると電動化が進んでいます。余った再エネでBEV・PHEVに充電すればゼロ円で、かつCO₂排出ゼロの電気で走る可能性が広がります。経済性と環境性の両立を図り、家での生活も、移動の自由も、脱炭素を実現できるのです」(宇佐美氏)
クルマと家の連携を支えるのが、双方で電力をやりとりできる充放電システム「ビークル・トゥ・ホーム(V2H)」です。「いつも」は太陽光発電システム(PV)でつくった電気や安価な深夜電力をクルマ(BEV・PHEV)に蓄え、エネルギーを効率的に活用。一方で、停電時にはクルマから家全体へ給電し、太陽光発電システム(PV)による発電とあわせて「もしも」の安心につなげます。
3.クルマ×家はどのようにつながるか
■「V2Hスタンド」
「トヨタグループには“次の道を発明しよう”というビジョンがあります。クルマと家のエネルギー連携の先にある新たな可能性を、業種の垣根を越えて広く考察し、より快適で豊かなくらしをご提案していきたいですね」(宇佐美氏)
クルマを選ぶことと家を決めることを、セットで考える人が増えています。クルマと家をつなげることで、安全でサステナブルなくらしを実現する「ビークル・トゥ・ゼッチ(V2ZEH )」は、走るだけではないクルマ、住まうだけではない家という次世代の幸せなくらしのあり方を示唆しているようです。
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