ハチロクやスープラに乗りつづけるために。
旧車文化を継承するトヨタ自動車の“本気”
文/善福寺正文 写真/阿部昌也、トヨタ自動車
2026年4月10日(金)から12日(日)までの3日間、幕張メッセで開催された日本最大級の旧車イベント「オートモビルカウンシル2026」に、トヨタ自動車はTOYOTAブースとGAZOO Racingブースを出展、同時にGRヘリテージパーツプロジェクトとして、ファン待望の復刻生産が決定した「A80スープラ用インストルメントパネル」なども展示した。
まごうことなき新車メーカーであるはずのトヨタ自動車はなぜ、旧車とその文化を継承するべく奮闘しているのか?そして旧車を愛でるということには、そもそもどんな意味があるのだろうか?
オートモビルカウンシル2026のふたつのブースの展示内容を通じて見えてきた、トヨタ自動車の狙いと夢を分析する。
トヨタ自動車は「新車を売る」だけのメーカーではない
トヨタ自動車は2026年4月10日(金)から12日(日)までの3日間、幕張メッセで開催された日本最大級の旧車イベント「オートモビルカウンシル2026」に、TOYOTAとGAZOO Racing、ふたつのブースを出展した。
新車メーカーであるトヨタ自動車が、なぜ旧車のイベントに公式ブースを出展するのか?と不思議に思う人も多いかもしれない。だがトヨタ自動車とは、新車の開発および製造販売だけでなく、ヘリテージカー(自動車産業の歴史において重要な価値と意味を持つ名車や旧車)とその文化を保存し、継承していくことにも大いに注力している自動車メーカーだ。それを考えれば、日本最大級の旧車イベントであるオートモビルカウンシル2026への出展は必然ともいえる。
「スポーツカーの歩み」を表現したTOYOTAブース
TOYOTAブースに展示された車両はトヨタ パブリカスポーツ(レプリカ)とトヨタ スポーツ800、そしてトヨタ 2000GTの3モデル。
そのうちのトヨタ パブリカスポーツは、1962年に開催された全日本自動車ショー(東京モーターショーの前身)に出展されたプロトタイプを、忠実に復元したものだ。ドアの代わりに後方へスライドするキャノピーを持つ未来的なキャビンが特長だ。
その隣に展示されたトヨタ スポーツ800は、あくまでも試作モデルだったトヨタ パブリカスポーツを量産モデルへと発展させ、1965年から1969年にかけて販売された小型スポーツカー。愛称は「ヨタハチ」で、今なお旧車ファンからの絶大な人気を誇っている。こちらは人材育成とノウハウの継承を目的に、トヨタ自動車の元町工場内にあるグローバル生産推進センターでレストア(修復)された一台である。
そしてその隣に展示されたのが、1966年に行われた速度記録チャレンジにおいて3つの世界記録と、13の国際新記録を樹立することで、ついに世界を捉えたと言われた1967年発売のスポーツカー、トヨタ 2000GT。つまり今回のTOYOTAブースは、自社のヘリテージカーをただ展示するだけでなく、トヨタのスポーツカーの歩みを表現しているのだ。
「GRヘリテージパーツ」を訴求するGAZOO Racingブース
トヨタ自動車のモータースポーツ活動と、モータースポーツを起点とする「もっといいクルマづくり・人材育成」の強化を担当しているGAZOO Racingのブースでは、今回発売を予定しているGRヘリテージパーツと、この部品をはじめ、現在販売中のGRヘリテージパーツを使用してレストアを行ったA80スープラと、現在販売中/販売予定のGRヘリテージパーツを使用し、GR Garage水戸けやき台がレストアしたスプリンタートレノ(AE86)を展示。さらには、GRヘリテージパーツプロジェクトの復刻対象車種ではないものの、スポーツカー部品の永続的な供給という思いを共有する車両としてレクサス LFAも展示された。
往年の内装部品を現代の素材と工法で復刻
GAZOO Racingブースで特に注目されたのは、GRヘリテージパーツプロジェクトによって復刻されたA80スープラ用のインストルメントパネルだ。
A80スープラとは、トヨタ自動車が1993年から2002年にかけて製造販売したFR(後輪駆動)のスポーツカー。新車当時はもちろんのこと、映画『ワイルド・スピード』の劇中に登場したことなどをきっかけに、製造終了から20年以上が経過した今も、世界中で大人気を博している一台である。
だがスープラに限らず旧車のダッシュボードは一般的に、フロントガラスを通じて日光と紫外線を長時間受け続けるという厳しい環境に置かれるため、経年劣化による表皮の縮みやひび、割れが発生しやすくなる。とはいえ旧車となったクルマのインストルメントパネル(ダッシュボードを構成する部品のひとつ)は、これまた一般的には、自動車メーカーが復刻して販売することはほとんどない。そのため多くの旧車ユーザーはやむなく、ひびが入ってしまったダッシュボードを交換できないまま乗りつづける――ということになってしまう場合も多い。
だがトヨタ自動車は、愛車をより良い状態に保ちながら、長く愛してほしいという想いを形にする意味で、A80スープラのインストルメントパネルを見事に復刻した。それも、過去の製品をただ単に作り直すのではなく、オリジナルにきわめて忠実でありながら、最新の技術や材料、工法を取り入れた新製品として復刻させたのだ。
1990年代当時の質感を忠実に再現しながらも、材料を現代のものに置き換えることで、課題であった耐久性に配慮。そして耐久性の面では現代化しつつも、表面のシボ加工(表面の微細な凸凹模様)は、その“向き”に至るまで、オリジナル部品を忠実に再現。それにより、長い時間をともにしてきた愛車に組み付けても何ら違和感のない、きわめて自然な仕上がりとなっているのだ。
愛車を愛しつづけるために、トヨタ自動車は本気だ
これまでGRヘリテージパーツプロジェクトは、愛車にこれからも乗りつづけるための部品、つまりクルマの基礎的な機能である「走る・曲がる・止まる」に関わる部品の復刻と販売を優先して取り組んできた。その一方で、今回のインストルメントパネルのような、愛車をよりよい状態に保つための内装・外観部品の復刻・販売についても、ユーザーから多くの要望があり、取り組みが強く待ち望まれていた。
GRヘリテージパーツプロジェクトは、いよいよその段階へと進んだようだ。「走る・曲がる・止まる」とは異なる、愛車を、より愛するために必要な部品の復刻・販売にも、ついに取り組み始めたのだ。
GRヘリテージパーツプロジェクトの「本気」を物語る象徴とも思えた展示が、前述した茨城県のGR Garage水戸けやき台がレストアしたスプリンタートレノ(AE86)。その完成度の高さからは、トヨタの人々の旧車愛の深さ、車をひとつの文化として継承していこうという強い意志が、強く放たれていると感じた。