初夏の日本にラリーカーの鼓動が響いた
ラリージャパン2026が見せた新しい景色

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文/山本シンヤ 写真/TOYOTA GAZOO Racing

世界最高峰のラリーが、今年も日本の公道に帰ってきた。2026年のラリージャパンは開催時期を秋から初夏へ移し、新緑のトンネルをラリーカーが駆け抜ける新たな景色を世界へ発信。名古屋での華やかなオープニングセレモニー、刷新されたステージ、そしてトヨタ勢の圧巻の走り。現地でしか味わえない興奮を、あらためて感じさせる4日間となった。

日常の道が、非日常の舞台になる

田植えを終えたばかりの田園の中をラリーカーが駆け抜ける。まさに日常が非日常に変わるひと時だ。

ラリーの最高峰WRC(世界ラリー選手権。以下、WRC)の最大の魅力といえば、「普段私たちが走っている一般公道」を舞台に、「市販車をベースにしたマシン」が全開で駆け抜ける所にある。まさに「日常の中に突如現れる非日常」。この圧倒的な臨場感は他のモータースポーツでは絶対に味わえない。

さらに観戦スタイルそのものが“旅”になるのも魅力の1つだ。ラリーの最高峰となるWRCは世界各国を転戦するが、開催される国や地域によって気候や風土がまったく違う。ターマック(舗装路)、グラベル(未舗装路)、スノー(雪道)などあらゆる過酷な条件下で走るため、「ラリーを観戦することは、その国の文化や景色を知る旅である」ともいえる。

初夏の日本が生んだ、新しいラリージャパン

中山道の宿場町として栄えた岐阜県恵那市の旧市街を走るGRヤリス ラリーカー。沿道には夏を思わせる浴衣姿の観戦者も多く見られた。

そんなWRCの中で唯一のアジア地域での大会となるのが、「フォーラムエイト・ラリージャパン」である。2022年の開催以降、その人気は年々高まっているが、2026年は大きな変革があった。その1つが開催時期で、これまでの11月から5月へと変更。5月28日(木)〜31日(日)の4日間、新緑が美しく映える初夏の日本を舞台に開催された。

まず秋から初夏への変更で“コースの見た目”の美しさがガラリと変わった。これまでは「紅葉の中を激走するラリーカー」が日本の象徴的なビジュアルだったが、2026年は「新緑の青々としたトンネルを突き抜けるラリーカー」という新たな日本の美しさが世界に発信された。加えてルートやステージ構成も大幅にリニューアル、これまでのラリージャパンとは一味も二味も違う新しい魅力も詰め込まれた。

紅葉から新緑へ。2026年のラリージャパンは背景が大きく変わった。ジャンピングスポットをクリアするGRヤリス ラリーカー。

そのひとつが愛知県の県庁所在地・名古屋市で行われたセレモニアルスタートだ。より多くの人にラリーの魅力を伝えるための新たなチャレンジだったが、名古屋城をバックに“武士の出陣”を思わせる演出の下、最新のRally1マシンがスタートしていく様は圧巻の一言だった。また、立地の良さから平日にも関わらず多くのファンに見守られながらの華やかな開幕は、ラリーという競技がより根付き“文化”になりはじめていることをリアルに実感した。

拠点となるサービスパークは2025年に引き続き豊田スタジアムに置かれ、初日には名鉄豊田市駅前の公道を封鎖してのオープニングセレモニーなど、競技以外にも“体感するラリー”をテーマにさまざまなイベントも実施された。

ラリーファンから「神(ジン)ジャンクション」と呼ばれる三河湖SS(スペシャルステージ)。熊野神社前の直角コーナーをラリーマシンがドリフトで駆け抜ける。

競技区間となるSSにも大幅な見直しが行われた。これまで数々の名勝負を生んできた新城がスケジュールから無くなったが、それに代わる魅力的な新しいSSが追加。伝統ある足助エリアに新たに組み込まれた本格的な山間部ステージや藤岡エリアに新設されたジャンプ台があるスーパーSSなど、新たに挑戦するステージが用意された。

ちなみに開催時の季節が変わった影響はドライバーにとって想像以上に大きかったと聞く。コースを覆う落ち葉はなくなったが、路肩には水を含むとより滑りやすいコケが顔を出した。加えて、山間部の木々が青々と生い茂ったことでブラインドコーナーの先が見えにくくなっていた。また、木漏れ日による路面の「明暗差(光と影)」の激しさ、さらには初夏にもかかわらず真夏日の気温から予想以上に上昇した路面温度に対するタイヤセレクトの悩みなど、多くのドライバーが「今まで以上に走行が難しい」と語っていた。この辺りは四季の変化が大きい日本らしいところだろう。

難路に揺れた勝田選手と、モリゾウの言葉

TOYOTA GAZOO Racingから世界ラリー選手権に挑みつづける日本人ドライバーの勝田貴元選手。初日にパンクを喫し総合6位に沈んだが、徐々に巻き返しラリージャパンを4位で終えた。

この初夏の路面の影響を大きく受けたのが、TGR-WRTの勝田貴元選手である。WRC 2026では初優勝となった第3戦ケニア(サファリラリー)に続いて第4戦クロアチアで2勝目を挙げ、地元での優勝も期待されていたが、初日のSS1のドライ/ウエットが混在する路面で路肩にタイヤを落としたことが原因のパンクで後退。さらに初日のSS1でトップを奪い、速さを見せていた、今季Rally1に復帰したオリバー・ソルベルグ選手も2日目のSS10の難しい路面に足をすくわれコースオフしてしまい、デイリタイアとなった。

2人ともホームタウンでの戦いの中でのアクシデントにいつも以上に落胆していたが、それを救ったのはチームオーナーである“モリゾウ”の一言だった。

「ドライバーなんだから、こういうこともある」

チームのお父さん的な存在であると同時に自身がドライバーだからこそ伝えられるリアルなエールに2人は気持ちを切り替え、その後のSSでは素晴らしいタイムを次々と刻みファンを驚かせ、喜ばせた。

地元で見せた、トヨタ勢の圧巻の強さ

GRヤリス18号車をドライブした勝田選手の走り。公道でのこんな走りを間近に見られるのはラリージャパンならでは。

結果は1位がラリージャパンに相性の良いエルフィン・エバンス選手(自身3度目のラリージャパン制覇)、2位は最強のパートタイマーのセバスチャン・オジェ選手、3位は成長著しいサミ・パヤリ選手、4位は初日の出遅れから驚異的な追い上げを見せた勝田貴元選手とトヨタ勢は地元で1-2-3-4を達成した。

TOYOTA GAZOO Racingのユハ・カンクネンチーム代表代行に、シャンパンファイトならぬ日本酒ファイトを仕掛けるモリゾウこと豊田章男トヨタ自動車会長。

ホームタウンでの素晴らしい結果に、モリゾウは嬉しそうに語った。

「日本のファンの方に、チームメンバーみんなが『いいところを見せよう』と思うのが、アスリートならではの気持ちだと思います。きっと選手はそれぞれが凄いプレッシャーだったと思いますが、皆さんのおかげで1~3位までのポディウムだったと思います。

これまでならラリージャパンを終えて一息つける時期ですが、今年は違います。まだまだシーズンの折り返し、そしてこの先はグラベルの厳しい道ばかりです。チームのみんな、まだまだハードワークをよろしくお願いします!」

一生モノの非日常体験が待っている

年を重ねるに連れ、ラリージャパンを観戦する人たちの楽しみ方も、多様化&深化してきたように思える。

開催時期の変更が心配されたが、蓋を開けてみたら前年を超える53万5,000人(観戦エリア/サービスパーク/イベント会場/沿道での応援)が来場。国内で開催されるモータースポーツ競技としては非常に高い数値である。個人的にはイベントの拠点が名古屋市と豊田市の二つになり人の流れが分散されないか心配したが、どちらも凄い人・ヒト・ひとだった。来年は名古屋市内にもSSの設定が検討されているので、そちらも楽しみである。

ラリージャパンは人とクルマが触れ合う場所。このワクワクする空間に、来年はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

2027年はレギュレーションの変更や新型マシン・新チームの参入、そして開催地の刷新などWRCは常に目まぐるしく変化を続けている。しかし、目の前をラリーカーが駆け抜けたときのあの震えるような感動、五感に突き刺さる興奮は、時代が変わっても、ステージが変わっても、変わらない。

今回は現地に行けなかったという方も、ぜひ次の機会にはスケジュールを調整して、日本のステージの中に飛び込んでみてほしい。画面の中だけでは絶対に分からない、一生モノの「非日常体験」が、あなたを待っているはず。

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