ACADEMIE DU VINカベルネ・ソーヴィニヨンとは?
栽培の特徴から産地までを徹底解説
栽培面積では世界最大を誇るカベルネ・ソーヴィニヨン。個性が強いブドウでありながら、ブレンドや醸造の手法でさまざまな変化が生まれます。飲み比べで味の違いを比較するのも楽しく、好奇心が刺激されるところ。今回はこの品種の栽培の特徴からブレンドの詳細、産地に至るまでを詳しく解説します。一度味わうと何度でも飲みたくなるような中毒性。なぜ世界中でこの品種が愛されているのか、美味しさの秘密を紐解きます。
どんな土壌でも生き抜くことができる
ブドウ界の健康優良児
カベルネ・ソーヴィニヨンは、ワイン用のブドウ品種としては栽培面積世界最大を誇ります。わかりやすい香りと味わいで、登場から瞬く間に世界を席巻しました。
カベルネ・ソーヴィニヨンは、カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランの自然交配によって生まれた品種です。解明したのは、カリフォルニア大学デイヴィス校のキャロル・メレディス教授。「おそらくは1700年代からひどい霜害のなかをボルドーで生き抜いてきたのだろう」と語っています。
書物においても、「プチ・カベルネ」の名前で会計帳簿に登場したのは18世紀後半。「カベルネ・ソーヴィニヨン」という今日の呼び名は19世紀半ばまで見られません。親のソーヴィニヨン・ブランは16世紀には歴史には登場していますから、遅くにできた子どもだったのか、目立たなかったのかもしれません。
カベルネは、カリフォルニア大学デイヴィス校による積算温度による区分で、リージョンⅡからリージョンⅣにかけての幅広い産地で栽培が可能です。グレゴリー・ジョーンズ博士による生育期間の平均気温による分類では、16℃から20℃とかなり広い範囲で栽培が可能とされています。
幅広いタイプの土壌に適合し、ほかの品種ほど、土壌との関係性が話題になりません。ボルドー左岸地区の砂利質土壌はよく合う土壌のひとつですが、合理的な理由があります。砂利質の土壌は水はけがよいだけでなく、有機物も少ない痩せた土壌です。太陽光の熱も蓄えてくれるので、春先に温まるのも早いのです。収穫期にも保温されていて、収穫も早くできます。土壌が肥沃すぎると樹勢が強くなりすぎ、結実や成熟にムラが生じます。
産地に溶け込み
どんな品種とも“友人関係”をつくる
ボルドー左岸では、カベルネ・ソーヴィニヨンにメルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドといった補助品種をブレンドします。生育サイクルの違いを利用してヴィンテージによる天候の変動リスクを分散させているのです。晩熟で、完熟するためにはかなりの気温・日照を必要とするブドウなので、早熟のメルロやカベルネ・フランも栽培することがリスク低減になります。
ブレンドによる風味の複雑化もメリットです。メルロは果実味とアルコールを、カベルネ・フランは香りの華やかさを、プティ・ヴェルドはスパイシーさをもたらします。
オーストラリアではシラーズとのブレンドが有名です。もちろん、単一品種のワインに重きを置く生産者もいますが、骨格のしっかりしたカベルネとスパイシーで果実味が豊富なシラーズのブレンドこそが、オーストラリアのワインだと胸を張る生産者もいます。
ほかにも、トスカーナではサンジョヴェーゼとブレンドすることで、スーパー・タスカンを生み出します。スペインでは、テンプラニーリョとのブレンドが見られます。
温暖な気候でないと、青臭さが出てしまうのは親譲り。カベルネ・ソーヴィニヨンとその両親のカベルネ・フラン、ソーヴィニヨン・ブランなどに現れるこの青臭さは、メトキシピラジンという化合物が原因。この物質は、日光によって分解されて量が減っていくので、果実の成熟度合いのバロメーターと考えられています。
もっともボルドーでは青臭さは必ずしも悪いという認識ではありません。フレッシュさと味わいや香りの強さとのバランスで、上手く収穫を行えばよいという生産者もいます。適量のメトキシピラジンは、ワインに複雑性を与える要素としてプラスという考え方です。
新世界では嫌われがちなメトキシピラジンですが、オーストラリアのマーガレット・リヴァー地区やクナワラ地区では涼しげなミントの味わいとして受け入れられるようになってきています。あまり暖かい環境で長期間に渡ってメトキシピラジンの減少を待っていると、ブドウが過熟してジャムっぽくなってしまいますので、バランスが重要です。
栽培しやすく新樽に合う!
カベルネ・ソーヴィニヨンができるまで
・栽培
カベルネは芽吹きも収穫も遅い品種ですので、遅霜には耐性があるといえます。一方で秋雨には被害を受けることがあります。ウドンコ病にはかかりやすいですが、全体的に病気にかかりにくく、栽培しやすい品種です。
収量は中程度で、ピノ・ノワールでは品質を保つことが厳しくなるような高い収量でも優れたワインを生むことが可能です。ボルドー全般では収穫は9月から10月で、未だ機械収穫の方が割合は多いようです。カリフォルニアのように温暖な産地では、さらに収量が高くなります。灌漑によって収量を上げてもカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴を維持できるというのは、強みといえるでしょう。
・醸造
カベルネ・ソーヴィニヨンは小粒で種に対して果肉の比率が少なく、また果皮も厚いブドウです。そのため、タンニンのレベルも高くてワインの色合いも濃いものになります。この豊富なフェノール成分を抽出するため、醸造温度は高めで30℃程度になることも稀ではありません。醸しの期間は伝統的に3週間程度と長く、場合によっては3か月に渡って行う生産者もいますが、逆に早飲みのワインをつくる場合には数日間で醸しを終える場合もあります。
また、新樽との相性の良さは圧倒的です。果実のカシスの香りがヴァニラや焦がしたスパイスのような香りにとてもよく合うのです。一方で、オーストラリアやカリフォルニアではさらに香りが立つアメリカン・オークが使われる事もあります。
しかし、近年の新樽の使い過ぎへの反動で、フレンチ・オークを加えてバランスを取ることや、そもそも新樽自体の使用比率を落とすという傾向があります。
世界中でつくられるカベルネ・ソーヴィニヨン
主要生産地はどこ?
カベルネの魅力は、果実味と樽風味、そして発酵・熟成によって生じたさまざまな風味が複雑に反応しあって形づくられているもので、シンプルな果実味中心の赤ワインにはない深みがあります。カベルネの香味を表す代表的な表現としては、カシス、ブラックベリーといった黒系の果実香、フレンチ・オークもトーストの程度によって香りが異なってきます。そして熟成すると、第3アロマ、つまり熟成香のブーケであるタバコ、皮革の香りなどが現れます。
こうした長期熟成による複雑な香りや味わいが、カベルネ・ソーヴィニヨンの持ち味といえます。メルロ、テンプラニーリョ、ネッビオーロ、クシノマヴロなどと並び含有量の多いフェノールが、天然保存料としてワインの劣化や酸化を抑えます。酸も高くてpHが低いことも、劣化や酸化を抑え、微生物的にも安定します。また、フルーツの凝縮度が高いと熟成可能性も高くなります。それでは、カベルネ・ソーヴィニヨンの主要生産地を見ていきましょう。
・フランス
カベルネ・ソーヴィニヨン全体の半分ほどがボルドー地方で栽培されていますが、南西地方やラングドック、プロヴァンスでも栽培されています。
同じメドックでも、サンテステフはオー・メドックのコミューン(村)のなかでは粘土質の土壌が有名で、もっともメルロの比率が高い産地です。ポイヤックは左岸でももっとも砂利質に恵まれた骨格のしっかりしたカベルネ・ソーヴィニヨンを生む産地で、メドックの格付け1級の5大シャトーのうち3つまでもがこの産地でつくられています。
なお、ボルドーではスティル・ワイン以外にもロゼやクレレ(ロゼと赤ワインの中間的な色のワイン)でも、カベルネ・ソーヴィニヨンが使われます。ロワールのロゼでも、カベルネはブレンドされます。中でも中甘口のカベルネ・ダンジュは良く知られています。
・アメリカ
中心産地はカリフォルニアで、全ブドウ品種のなかで栽培面積は第1位です。栽培面積にしても、品質においても、カリフォルニアはボルドーと並ぶカベルネ・ソーヴィニヨンの第二の故郷といってもよいでしょう。今や、カベルネ・ソーヴィニヨンはカリフォルニアの中心産地ナパでの取引価格がほかの品種を抑えて、圧倒的に高価格なブドウにまでなっています。
一方で、ワシントンで栽培される黒ブドウ品種は大半がボルドー品種です。そのなかでもカベルネ・ソーヴィニヨンが最大面積を占めています。カリフォルニアとはスタイルを異にしながらも、負けるとも劣らず品質の高いワインが見つかります。
・チリ
フランスに次ぐ栽培面積を有しています。1990年代にチリのカベルネは存在感を高め、低価格帯のヴァラエタル・ワインで世界に進出していきました。
日本でチリのカベルネといえば、未だに安ワインの代表というイメージがありますが、プレミアムワインにもかなり力を入れていて、欧米やアジアでも単価の高いワインが売れています。またチリはフィロキセラが入り込んでいない土地としても知られています。
・オーストラリア
シラーズに続く第22位の品種で、オーストラリアでもカベルネ・ソーヴィニヨンのブドウ価格は値上がり基調にあります。
・南アフリカ
栽培面積は黒ブドウ中の第1位で、シュナンブランの次に位置しています。
・イタリア
地中海性気候に恵まれ、丸みを帯びた柔らかなタンニンは一つの特徴です。かといってカリフォルニアのような果実味を全面に押し出すものではなく、独自のスタイルです。高級銘柄が集中しているのはトスカーナ州です。
・中国
カベルネ・ソーヴィニヨンが消費においても生産においても圧倒的な人気品種で、ワイン用のブドウとしては最大栽培品種です。ワインづくりの歴史も古く、あるワインメーカーはイギリスの『ドリンクス・ビジネス』誌などから幾多の賞を受けるに至っています。
・スペイン
19世紀にカベルネ・ソーヴィニヨンが導入されました。フランスではスペインよりも一足先にフィロキセラやうどん粉病の被害を受けていたので、ボルドーの生産者が移り住み、カベルネ・ソーヴィニヨンも持ち込んだという歴史もあります。
カベルネ・ソーヴィニヨンは個性の強いブドウでありながら、ブレンド、栽培や醸造の手法で味わいには多彩な変化が生まれます。ぜひ世界のカベルネを飲み比べてみましょう。
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