ACADEMIE DU VINスプマンテを楽しもう!
プロセッコにとどまらないイタリアの泡の魅力に迫る
イタリアはブドウの宝庫。300種類とも400種類ともいわれる数多くのブドウが栽培されています。そして、さまざまな品種を使ったスパークリングワインが至る場所でつくられています。安くて美味しい銘柄も多く、日本でもイタリアのワインは大人気ですが、スパークリングも押さえておくと泡の選択肢が大きく広がります。今回は、スプマンテの代表的な種類と醸造方法、アペラシオンを解説します。
スプマンテの代表選手はプロセッコとアスティ
タンク方式とアスティ方式とは
イタリアは世界最大のスパークリングワイン生産国です。2018年には、世界の生産量の4分の1を超える生産を記録しました。そして、それまでの10年間で生産量は2倍以上に増えています。
生産量にして6割以上、消費量にして半分をプロセッコが占めます。輸出においても、価格ベースではフランスに次ぐ第2位ですが、ボリューム・ベースでは世界の4割を超え断トツのトップ。プロセッコのDOCとDOCGを合わせて5.5億本を生産しており、フランスのシャンパーニュの2.5億本やスペインのカバの2億本をはるかに上回っています。
・プロセッコ
プロセッコのほとんどはタンク方式でつくられます。タンク方式は澱と長期間にわたって接触することがないので、市場に早く投入できて、コストも抑えられます。フルーティ、フローラルな果実由来の香りに重きを置いて、シャンパーニュの特徴のトーストやブリオッシュの香りを必要としないスタイルには最適です。
スパークリングワインの二次発酵を、密閉された容器で行なうこのタンク方式は、イタリアでは「シャルマ方式」とフランス風に呼ぶよりも、「マルティノッティ方式」と言う方が通です。
プロセッコDOCは、最もベーシックなアペラシオンです。基本はスパークリングワインで、やや甘口のエクストラ・ドライと辛口のブリュットが、あわせて9割を超えています。輸出も8割近くで、世界的に飲まれています。最近ではロゼも登場しました。グレラとともに10~15%のピノ・ノワール(ピノ・ネロ)を使います。また、トレヴィーゾとトリエステで収穫、醸造、瓶詰されたワインは、その産地名をラベルに追記できます。
中でも、プロセッコ・スペリオーレ・コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネDOCGは、イタリアで最も重要なスパークリングワインと言っていいでしょう。大陸性気候で、ヴェネト州の標高にも恵まれた丘陵地のブドウからつくられます。
・アスティ
ピエモンテ州の最大アペラシオンでもあるアスティは、モスカート・ビアンコからつくられる甘口のスパークリング。2020年には5,000万本を超える生産量がありました。醸造方法に特徴があり、タンク方式の中でも特に「アスティ方式」と呼ばれています。ベースとなるワインを発酵させますが、完全にドライになる前に中断。そのあとに発酵を再開します。5~6気圧程度の、残糖のあるスパークリングになります。
最初の発酵で、二酸化炭素はタンクの外に排出させます。発酵が進んで所定の糖度まで落ちると、今度はタンクを密閉して発酵を再開させるのです。気圧と残糖が計画通りになれば、冷却して発酵を止めます。アスティ方式は、一次発酵を分けて行うというタンク方式の変則版なのです。
現在では、ほとんどがこの方式でつくられています。果実味が豊かでフレッシュなタイプのスパークリングには、アスティ方式が向いています。一般的に、発泡酒は3気圧以上、微発泡は1~2.5気圧と覚えておきましょう。
代表的なアペラシオン3選
海外輸出には回らないアペラシオンも
それでは、代表的なアペラシオンを見ていきましょう。
・フランチャコルタ
イタリア北西部、州都ミラノを有するロンバルディア州にあります。フランチャコルタはイゼオ湖の南のアペラシオン。この地方では、中世から発泡酒がつくられていたといわれています。
伝統方式のスパークリングでは、一次発酵でベース・ワインをつくったあと、酵母や糖分などを含んだリキュール・ド・ティラージュを添加します。ゆっくりと発酵が進み、二酸化炭素がワインに溶け込んでいきます。その後、酵母が自己分解して澱が放出されます。沈殿した澱を静かにワインのネック部分に集め(動瓶)、冷却して氷の塊とともに澱抜き(デゴルジュマン)をします。そして、目減りしたワインや甘味の調整のため、糖分(ドサージュ)やワインを含む、「門出のリキュール」を加えます。複雑で時間もコストもかかる方式です。
・トレントDOC
トレントDOCは、イタリア北東部トレンティーノにある、伝統方式でつくるスパークリングワインのアペラシオンです。いまや年間1,200万本ものスパークリングを生産する規模になりました。しかしイタリア国内販売が好調なので、海外にはなかなか回ってきません。
この産地は山が多く、「山から生まれるスパークリング」と評されています。800メートル以上の標高でも栽培が行われているというから驚きです。フランチャコルタよりも収穫は1カ月ほど遅くなり、ブドウがゆっくりと成熟して、香り高く、また高い酸も保持できます。
・アルタ・ランガ
ピエモンテ州にある、伝統方式でつくるスパークリングのDOCGアペラシオンです。ブドウはシャルドネとピノ・ネロが使用されます。このアペラシオンに認められるには厳格な規則を守らなければなりません。30カ月の澱熟成が必要で、リゼルヴァは36カ月間必要です。スタンダード・キュヴェを比べると、シャンパーニュはおろか、フランチャコルタよりもさらに長い熟成期間です。
産地の標高は、フランチャコルタよりも高め。250メートル以上で栽培され、谷間の平地での栽培は許されません。石灰質や泥灰土、砂質といった土壌の500~800メートル程度の標高で、ゆっくりとブドウが成熟します。
生産量は限定的で、65万本程度です。ヴィンテージのスパークリングのみが生産されていて、前年以前のリザーヴ・ワインは使われません。
ピノ・ネロの聖地と
ブレンドが認められない特別なスパークリング
ピノ・ネロの聖地と言われているオルトレポー・パヴェ―ゼ・メトード・クラシコは、フランチャコルタに次いで2番目に、伝統方式のスパークリングのDOCGを2007年に取得しました。このアペラシオンの特徴は、ピノ・ネロを主要品種としている点。最低でも7割はピノ・ネロを使わなければなりません。
ピノ・ネロの産地としては、イタリア最大です。地元では、“我こそはブルゴーニュやシャンパーニュに次ぐピノ・ネロの産地”と自負しているほどです。なおロゼの中には、「クルアゼ」という名称が与えられた特別なワインがあります。100%のピノ・ネロが必要になり、醸造にも厳しい規定があります。
今やシャンパーニュを含めてほとんどのロゼ・スパークリングでは赤ワインのブレンドが一般的ですが、スパークリングのロゼでは例外として認められています。しかし、クルアゼではブレンドは認められません。ベース・ワインをロゼワインとしてつくり、それを瓶内二次発酵するのです。どの程度果皮からの抽出をするのかにもよりますが、赤ワインをブレンドするよりも、繊細な果実香や柔らかな食感が出ると考える生産者もいます。
どれだけご存知?
イタリアの赤いスパークリングワインの醍醐味
皆さんは赤いスパークリングワインはお好きでしょうか。代表的な赤いスプマンテを3つご紹介します。
・ランブルスコ
エミリア・ロマーニャ州の赤いスパークリングワインで、アルコール度数が控えめで明るい色をしたこのワインが70年代、80年代に一世を風靡しました。米国では廉価で甘口のワインが特に人気がありましたが、一方で“大量消費型のバルク・ワイン”と酷評されたこともありました。
ランブルスコは、さまざまな種類の黒ブドウ品種のグループです。ワインがつくられる地域やアペラシオンによって、使われる品種が変わります。微発泡の割合が大きいのですが、スパークリングもタンク方式を中心に生産されています。
・ブラケット・ダックイ
ブラケットはアロマティックな黒ブドウ品種。早熟な品種で、ピエモンテ州の南東部や古代ローマの都市で、アックイ・テルメという温泉地の周辺に栽培が集中しています。味わいは、赤系のストロベリーやラズベリーの風味。タンク方式でつくられたスパークリングで、アルコールは、5~6%と抑え気味です。香りの高さを活かすため、低温で発酵させます。このアペラシオンでは、スパークリング以外にも、赤ワインや低圧の微発泡ワインもつくられています。
・ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ
マルケ州のヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナDOCGは、イタリアでも最小面積のDOCGのひとつです。厳しい規定があり、谷間の平地での栽培や、700メートルを超える高地での栽培は認められません。また、日照も十分な土地での栽培が必要です。
赤色のスパークリングワインだけをつくるたったひとつのDOCGで、黒ブドウのヴェルナッチャ・ネラを最低でも85%使用しなければならないと決められています。珍しいことに3段階の発酵がなされ、手間暇がかけられています。
「シャンパーニュで乾杯!」といういつもの習慣を、時にはイタリアの泡に変えてみてはいかがでしょうか。新しい世界があなたを待っているかもしれません。
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