Japan made eyewearデキる大人は“目”が違う。
こだわりが詰まったジャパンメイド眼鏡をかけよう
目元のアクセントやファッションとしても注目度の高い眼鏡。普段、どのような基準で眼鏡を選んでいますか? 日本製の眼鏡は、高品質、堅牢性、劣化のしづらさといった点で世界的な評価を得ています。また、最近では独創的なデザインを多く輩出していることでも注目を浴びています。今回は、日本における眼鏡の歴史と現在のトレンドをご紹介。日本の眼鏡事情をよく知る人気店のオーナーに伺った、「運命の1本」を選ぶコツもお伝えします。
日本製の眼鏡は、なぜ質が高いのか?
1980年の技術革新で、
チタニウムがメタルフレームの標準素材に
古くから視力矯正のためにかけるというイメージが強い眼鏡ですが、近年では目元の印象を決定づけるファッションアイコンとしても注目されています。そんな眼鏡、実は日本は世界に誇る産地を抱えていることをご存じでしょうか。たとえば世界的にも知られている、福井県鯖江市。眼鏡の要であるフレーム(レンズ以外の枠の部分)づくりの名産地として、有名です。
昔から腕利きの眼鏡職人が多く集まっていますが、その理由はなぜでしょうか。まずは、歴史をひも解いてみましょう。
眼鏡が日本に伝来したのは16世紀中頃。海外の文化が徐々に広まるなかで、日本初の眼鏡製造は17世紀の長崎でした。そして18世紀には京都・大坂・江戸の街へと製造拠点が拡大していきました。この頃は、学者や聖職者など文字を読み書きする特定の職業の人以外眼鏡を手にすることはありませんでしたが、手作業から機械によるレンズの本格的な国内生産がスタートした19世紀後半になると、視力矯正のための眼鏡は一気に普及します。1950年代には、デコ付きモンロー型セルロイド眼鏡が大流行したのをきっかけに、トンボ眼鏡、セル・ウェリントン、メタルフレームなどが人気を博します。
技術的な革新があったのは1980年代。それまで眼鏡フレームは合金でつくられていましたが、当時の合金における最大の問題が腐食による劣化でした。そこで着目したのが、腐食に強い素材、チタニウム。接合が難しいチタニウムを、日本の優れた技術力によって課題を乗り越え、見事チタニウム製のフレームを実現することに成功したニュースは、世界から注目を浴びました。
国内外のアイウェアに精通した「グローブスペックス」の岡田哲哉代表はこう話します。「チタニウムは腐食に強いことはもちろん、軽いのに強度が高くしなやかで、しかも、アレルギー反応も極めて少ない。この利点がニーズとなり、2000年代にはチタニウムが眼鏡における金属製フレームのスタンダードとなりました。結果、世界のアイウェアブランドから『日本で製造を行いたい』という発注が相次いだのです」
チタニウム製フレーム開発に成功し、工場を近代化した福井県鯖江市と失われた「東京製法」の眼鏡
このチタニウムフレームの開発に成功したのが、福井県鯖江市でした。鯖江が眼鏡づくりを始めたのは1905年のこと。雪深く冬には農作業ができない鯖江で収入を得る手段として眼鏡製造が始められたと言われています。1935年にはすでに全国一の生産量を誇るようになりましたが、チタニウム製フレーム開発に成功したことで世界から脚光を浴びました。工場の近代化に成功し、現在では国内生産の90%以上のシェア率を誇っています。
鯖江眼鏡の特徴に、分業制が挙げられます。プレス、切削、研磨など200にも及ぶ工程をひとりで行うのではなく、それぞれ専門の職人が担当します。そのため、各工程に熟練した職人の技が反映され、精巧なつくりを実現しています。
一方で、鯖江以外の日本製眼鏡も、注目を集めています。もともと鯖江の人々に眼鏡づくりを教えたのは、東京と大阪の職人たちでした。とくに東京の眼鏡づくりの歴史は、江戸時代以前まで遡ります。
手仕事による眼鏡づくりにこだわるショップ「メガネナカジマ」を運営する有限会社スクランブル 中島正貴代表に話を聞きました。
「鯖江は量産化のため、工作機械化を進めてきました。東京の眼鏡工場は1980年代以降に減少し、2011年に最後の工場が閉鎖したのですが、鯖江に比べ工場の整備の近代化に遅れたのが原因です。しかし、手仕事で行う工程が多く残されました。プラスチックメガネに使われる材料(アセテート材)の変形を防ぐために、乾燥などの加工前下処理に時間をかけます。これは現在鯖江ではほとんど行いません。また、東京での眼鏡づくりは研磨時間に多くの時間をかけます。私達の工場では、鯖江よりも磨く時間を2.5倍ほど費やしています。これにより深いツヤが生まれ、独特の風合いとなります。傷がついても輝きが残るのが特徴で、このツヤが海外のバイヤーに認められ輸出が増えています」
経年劣化が最小限で修理にも強いジャパンメイド眼鏡
しかし、「ジャパンメイド」と言っても、いくつかの側面があります。
グローブスペックスの岡田代表は、「ジャパンメイドのなかには、日本で企画・デザイン・製造されたものと、海外で企画・デザインされ日本で製造されているブランドと大きく分けて2つの流れがあります。海外で企画・デザインされ日本で製造される理由として、海外のアイウェアブランドには自由な発想のデザインが数多くあり、それを活かせる複雑な形状・構造が実現できる高い技術が日本にあること、さらにフレームの表面処理やカラーリングの自由度・耐久性にも長けていることがあります。
一方で、日本で企画から製造されるブランドは、以前は「品質の高さ」だけが注目されることが多かったのですが、最近は非常にモダンで今までにない緻密なデザインの眼鏡も増えています。高品質とデザインのよさの両面を兼ね備えた日本のアイウェアブランドの素晴らしさが世界中のユーザーに認められています」と話します。
では、日本を代表する眼鏡の“目利き”ショップがおすすめする「運命の1本」をご紹介します。
グローブスペックスがおすすめする、日本で企画から製造までされる眼鏡
■YUICHI TOYAMA. U-1 “YUICHI”- 24KGP | 5th Anniversary limited model
165,000円(税込)
ブランドの創業5周年を記念し、製作された24金の厚メッキが施された200本限定のアニバーサリーモデル。小ぶりながら縦に幅を持たせた特徴的なラウンドフレームはクラシカルな印象。モダンさとクラシックな玉型がバランスよく組み合わされている。
■MASAHIROMARUYAMA MM-0081
63,800円(税込)
ガラスが割れることで生まれる、不規則な形からヒントを得てデザインされたコレクション。フロント部分はバラバラの三つのパーツがネジによって組み上げられており、そのネジが飛び出しているのがユニーク。バイカラーのフレームは、意外にも顔によく馴染む。
さて、ユーザーにとって日本製眼鏡のメリットは何なのでしょうか?
「率直につくりのよさだと思います。フィッティングのよさは調整のしやすさです。日本人がつくる眼鏡は日本人の顔に合います。また海外製は塗装やメッキの品質がよくないので劣化しやすかったり、フィッティングのことをあまり考えていなかったりするので、当然、日本製に軍配が上がります」(メガネナカジマ・中島正貴代表)
「よいものを長く、大切に使う」という日本人が古来もっていた考え方に、ジャパンメイドの眼鏡はフィットするようです。
脱・見慣れた自分
似たようなフレームを選ぶのをやめてみる
信頼できるスタッフを見つけ、第三者の目から意見を言ってもらう
それでは、自分にもっとも似合う眼鏡を選ぶには、どういう点に気をつけるべきなのでしょうか。眼鏡は、ファッションの一部であると同時に視力の矯正、眼鏡としての快適さが欠かせない医療器具としての側面もあります。
「視力測定やフィッティング(調整)は、海外だと検眼士(オプトメトリスト)と呼ばれる国家資格保持者ではないとできない業務で、店舗には基本的に常駐しているものです。こうした検眼士資格が日本にはありません。だから、店舗の善し悪しを見つけるポイントが難しい。いい眼鏡に出合うには、ネットで検索してお店の口コミなどを参考にして、医療器具の側面をもつ眼鏡とファッションとしての眼鏡を両立させた優良店を見つけるのが最短ルートでしょう」(メガネナカジマ・中島正貴代表)
眼鏡の作製には、非常に高度な技術と知識が求められます。安いから、おしゃれだからという理由のみで眼鏡を購入するのは早計です。フィッティングという大切なパートを重視するお店を中心に選んでみるとよいかもしれません。
眼鏡のフレームを選ぶとき、一般的にはどのような基準で選んでいるのでしょうか。
「いつもの自分の印象に近くなるフレームを選びがちです」と言うのはグローブスペックス・岡田哲哉代表。眼鏡選びで冒険したくても、自分に似合うものがよく分からない方が多くいらっしゃいます。鏡を見たときに「見慣れている自分」であることが安心と感じる方が多いのかもしれませんね。
「ご夫婦の場合、パートナーに選んでもらう方もいますが、それでは自分で選ぶのとあまり印象は変わりません。なぜなら、やはり『見慣れた顔』になるフレームを選びがちだからです。より自分に似合う眼鏡を探す場合、きちんとアドバイスを言ってくれるスタッフを見つけて相談するのがよいですね」(同)。
「見慣れた自分」を知らない他人だからこそ、新たな魅力を引き出す提案や意外性のあるアドバイスを聞かせてくれるのかもしれません。なお、グローブスペックス渋谷店3Fにあるサロン「オーク・ルーム」では、予約制で岡田代表に見立ててもらうことができます。
日本製眼鏡の醍醐味を知る、厳選ブランド
では、再び日本を代表する眼鏡の“目利き”ショップがおすすめする「運命の1本」をご紹介します。
メガネナカジマがおすすめする、Harmony読者にふさわしい眼鏡
■BEYOND THE GROOVER ARMSTRONG COL-1 ビヨンドザグルーバー:アームストロング [armstrong-1]
88,000円(税込)
東京製法の眼鏡づくりを行う、メガネナカジマの生産工場「G-YARD」。GROOVERはその最高峰のブランドだ。精悍な印象のデザインと、ゴールド&シルバーのツートーンカラーのメタルパーツが特徴的。
■MASUNAGA since 1905 GRACE col-15 BL-BR/SilV [grace-15]
62,700円(税込)
MASUNAGA(増永眼鏡)は、福井が眼鏡産地となるきっかけをつくった増永五左衛門氏の会社。アセテート生地との組み合わせによりエレガントな印象のフレームで、ユニセックスなボストンシェイプで、無駄のない美しいデザイン。
■FACTORY900 ファクトリー900 Titanos×FACTORY900 チタノス×ファクトリー900 MF-001 col-03 [mf-001-03]
59,400円(税込)
メタルフレームが得意なマルマンオプティカルと、ブラスフレームが得意な青山眼鏡のコラボレーション。ブロウラインやブリッジとレンズの間に生まれる空間が美しく、角度によって多彩な表情を見せるモデル。
■MASUNAGA ACT-11 col-2 SL-NAVY-BK [act-11-c2]
44,000円(税込)
人間工学に基づいて設計された「Kazuo Kawasaki」の眼鏡。使いやすくかけ心地のよい機能性は、一度は試したいもの。フレームの角を落としており、ミニマルながら個性のあるデザインに。
■今回取材に協力いただいた2店舗
<グローブスペックス>
GLOBE SPECS 渋谷店
住所:東京都渋谷区神南1-7-5 1F・3F
電話番号:03-5459-8377
営業時間:12:00~19:00
休み:年末年始
http://www.globespecs.co.jp/
1998年創業。現在は渋谷・代官山・京都の3店舗を構えます。世界最大級の国際眼鏡展示会「MIDO展」で、世界中の眼鏡店から優れた店舗を表彰する「Bestore Award」において、2017年に代官山店、2018年に渋谷店と2年連続で受賞しました。眼鏡作製に際しては、視力測定だけでなく使用環境や生活習慣などをきめ細かにヒアリングし、ベストなレンズを提案。海外製のブランドにありがちな「鼻からずり落ちてしまう」「レンズにまつ毛が当たる」などの問題も、一人ひとりの顔に合わせ調整してくれます。
<メガネナカジマ>
住所:神奈川県川崎市多摩区中野島3-14-2
電話番号:044-933-1343
営業時間:10:00~19:00
休み:木曜
https://style-n.net/
日本製の眼鏡を基本にセレクト。業界内で世界的に産地偽装が横行するなか、中島代表が「自分の目で生産の現場を確認し、嘘がなく、トレーサビリティが確かである」ことを最重要視して探した結果、ファクトリーブランド(工場直営ブランド)を中心とした品揃えとなりました。2015年、小売店ながらも横浜に自社の眼鏡工場を設立して話題に。クラフトマンシップの背景とストーリーをもちながら、独自性のあるデザインを提案しつづける姿勢が評価され、生産現場を訪れる海外の眼鏡関係者が多いのが特徴です。