165年の歴史を刻む長良川の名宿「長良川温泉十八楼」で川の恵みと歴史を体感する

2025.06.20

岐阜市中心部からクルマでわずか10数分、明治時代に舟運の要所であった長良橋のたもとに、風格ある建物が姿を現します。それが万延元年（1860年）創業、165年の歴史を誇る旅館「十八楼」。織田信長ゆかりのこの地で、代々受け継がれてきたおもてなしの心が、今も訪れる旅人を温かく迎えてくれます。

Text：Fumihiro Tomonaga
Edit：Yasumasa Akashi(PAD)

江戸時代より長良川とともに歩んで

「十八楼」の名は、松尾芭蕉が岐阜に滞在した折に記した紀行文『十八楼の記』が由来。地域の誉を尊び語り継ぐべく、初代当主がその名を宿に冠したそう。

入り口は古風な街並みが続く川原町の通りに面し、風情ある格子戸の門をくぐり、館内に足を踏み入れると、そこに広がるのは洗練されたレトロモダンな空間。ロビーには芭蕉の「十八楼」の碑文や古い鵜飼の写真、往時のパンフレットなど、歴史を物語る品々も展示されています。ウェルカムドリンクで喉を潤し、ガラス越しに長良川の清流を望めば、旅への期待もいっそう膨らみます。

選べるバリエーション豊富な客室

客室は、落ち着いた和室を中心に、ベッドを備えた和モダンなタイプから露天風呂付きの部屋まで、ニーズに応じて実にさまざま。リバービューから見る夕暮れどきは川面がオレンジに染まり、また朝には陽光を反射してきらめくなど、窓の外の景色は表情豊かに移り変わり、見る者を飽きさせません。

また、2023年には、要人の常宿として愛された名旅館を受け継ぎ、一日1組限定の離れ「宿いとう」を2棟オープン。こちらはよりプライベート感あふれる空間で、ドラマティックな時間を過ごせます。

ふるさとの食材を活かし、守り継いだ料理の技

夕食は宿の向かいにある「時季（とき）の蔵」でいただくことに。ここは100年以上前の土蔵を移築した直営レストラン。まるでタイムスリップしたかのような趣ある空間で、ゆっくりと食事を楽しめます。今夜のメニューは、人気の「飛騨牛会席」を注文。極上の飛騨牛を使ったにぎり寿司やローストビーフ、牛鍋など、どれも滋味深く、口に含むととろけるような食感が絶妙です。

充実した温泉施設で赤褐色の湯に浸る

食後は、旅の疲れを癒してくれる宿自慢の温泉へ。「十八楼」には1階に「川の音」、2階に「川の瀬」というふたつのお湯処と、旧家の蔵を改装した大浴場「蔵の湯」（「川の瀬」に併設）があります。長良川温泉は鉄分豊富で、大気に触れると赤褐色へと変化。からだの芯からじっくりと温まり、至福の時間に。ライトアップされた夜の湯船に浸かれば、幻想的な世界に心からリラックスできるはず。一方、ガラス張りで陽光が差し込む朝の浴場では、川のせせらぎを耳にしながら、爽快な一日の始まりを迎えられます。夜と朝とで男女の湯が変わるため、異なる雰囲気を味わえる朝夕2回の入浴がおすすめです。

夏に見逃せない鵜飼見学

そして「十八楼」に宿泊する最大の特権のひとつといえば、目の前の長良川で行われる伝統の鵜飼を手軽に間近で見学できること。事前に予約をすれば、宿のスタッフの案内で、明治時代から宿専用通路として使われている船乗り場まで続く「鵜飼小路」を通り、そのまま乗船が可能です。鵜飼は毎年5月11日〜10月15日まで行われ、1300年以上の歴史を誇る、国の重要無形民俗文化財。夜の闇の中、かがり火が揺らめく様子は神秘的で、鵜匠の巧みな技で鮎を捕る鵜たちの姿は、まるで時代絵巻を見ているよう。「火と闇と水の芸術」とも称される鵜飼の光景は、いつまでも記憶に刻まれることでしょう。

長良川の鵜鮎をいただくならぜひ塩焼きで。一口頬張ると、皮はパリッと身はふっくら。川の清らかさそのものが感じられ、まさに五感で味わう伝統文化といえます。