ドライブの先で、名建築と出合う旅へ家族で楽しむ、建築を巡る3つの目的地

Travel

週末は少し足をのばして、建築を巡るドライブへ出かけてみてはいかがでしょうか。建築は、見る人の心を動かし、訪れる時間そのものを豊かにしてくれます。今回ご紹介するのは、ただ眺めるだけではない、五感で体験できる建築ばかり。里山に溶け込むお菓子のテーマパーク、登ることで富士山を感じられるミュージアム、未来的なドームで太古のロマンに触れる博物館――。それぞれが家族みんなで楽しめる工夫に満ちています。ドライブの行き先を「名建築」にして、学びと遊びが融合する特別な一日を過ごしてみませんか?

Text:Mari Maeda(lefthands)

ラ コリーナ近江八幡(滋賀県)

自然とお菓子と建築がひとつになる場所
藤森照信氏の“調和する建築”

緑に包まれた草屋根の建物が印象的なメインショップ。里山の風景と調和し、まるでジブリの世界のよう。©︎たねや

緑に覆われた三角屋根が、物語の中に迷い込んだような景色を生み出す「ラ コリーナ近江八幡」。このユニークな建物を手がけたのは、建築史家から建築家へと転じた異色の経歴を持つ藤森照信氏です。藤森氏は、「建築と自然の共存」をテーマに、土、木、草、炭などの自然素材を大胆に用いた独自の“自然建築”を追求してきました。

藤森氏の象徴的なデザインのひとつが「草屋根」です。屋根に草や花を植える建築は、人類のくらしの原風景ともいえる存在。かつては日本をはじめ、ユーラシア大陸の広い地域で見られました。藤森氏は、この失われつつある伝統を現代建築に蘇らせ、「藤森建築」とも呼ばれる独自のジャンルを築き上げています。

自然素材で作られた素朴なカステラショップの建物に、大人も子どももホッと心が和みます。©︎たねや

ここ「ラ コリーナ近江八幡」でも、里山の風景と一体化した草屋根の建築が訪れる人を優しく迎えてくれます。その外観を眺めているだけで、自然とともに生きた太古の記憶に懐かしさを覚えるかもしれません。建物が点在する敷地は広大。子どもたちはのびのびと駆け回り、大人はベンチに座って風を感じたりと、自由に楽しむことができます。

さらに建物内にも楽しみが。和・洋菓子のショップだけでなく、職人がお菓子を作る工房、カフェを併設し、内装にも木などの自然の温もりが満ちて、美味なお菓子とともに訪れる人の五感を優しく癒します。

100本以上の栗の木を用いたカステラショップの店内。柱はたねやの社長が長野県の御岳山で自ら選んだそう。©︎たねや
藤森照信氏とともに、スタッフが炭片を貼り付けて仕上げた天井が味わい深いメインショップ内のカフェ。©︎たねや

バームファクトリーでは、目の前でバームクーヘンを焼き上げている様子を見学できます。ドイツ語で“木のケーキ”を意味し、木の年輪を模したお菓子は「ラ コリーナ近江八幡」のテーマにもぴったり。出来立ての甘い切り株を頬張れば、旅の思い出がもうひと味、深まることでしょう。

「焼きたてバームクーヘンmini」はカフェで食べてもよし、ドライブ途中のおやつやお土産にも。©︎クラブハリエ
たねや自慢のカステラに和菓子屋らしい餡子を添えたカフェの人気メニュー「焼きたてたねやカステラ」。©︎たねや

自然に寄り添いながらも遊び心に満ちたこの場所は、まさに藤森氏が建築を通して問いかけてきた「人と自然が調和する美しさ」の結晶のよう。草屋根の建築は、訪れるたびに表情を変え、風景の一部となって生きつづけていくことでしょう。

ラ コリーナ近江八幡

住所:滋賀県近江八幡市北之庄町615-1
営業時間:9時〜18時 ※フードコートは10時〜17時
休館日:1月1日
アクセス:名神高速道路・八日市I.C.から車で約30分
駐車場:あり
URL:https://taneya.jp/la_collina/

静岡県富士山世界遺産センター(静岡県)

登るようにめぐり、富士山の本質に触れる
坂茂氏が手がけた“逆さ富士”の建築

逆さ富士を象った建物が水面に映える、壮大な外観。

日本の象徴である富士山。その美しさと雄大さを、まるで詩のように建築へと昇華させたのが、世界的建築家・坂茂氏による「静岡県富士山世界遺産センター」です。坂氏は、紙管といった環境負荷の少ない素材を活用した建築など、持続可能な社会と建築の関係を追求しつづけてきたことで知られています。その彼がここで描いたのは、自然と調和しながらも象徴性の高い“逆さ富士”の建築でした。

水面には建物のみならず、富士山の姿も映し出されます。

静かな水面に映る建物のシルエットは、訪れる人の心に富士山への敬意と憧れを呼び起こします。内部は、全長193メートルの螺旋状のスロープが大きくゆるやかに伸び、海抜0メートルから標高3,776メートルへと“登山”するように展示を体験できるユニークな構成。映像や資料が山の成り立ちや自然の脅威、そして文化的な意味合いまでを丁寧に伝えてくれます。

映像展示を通して富士山の自然と文化を深く学ぶことができます。

頂上にたどり着くと、目の前には実際の富士山が現れます。四季折々の装いを見せるその姿は、まさにこの建築のフィナーレ。晴天の日はもちろん、霧や雪に包まれる富士山もまた趣深く、自然と人の営みの距離を改めて考えさせてくれます。

頂上から望む本物の富士山が、建築体験のクライマックスに。

館内めぐりをしたあとは、富士山を象ったスイーツや、地元食材を使ったメニューが充実しているカフェでひと休み。屋外の池や周辺の散策路を歩けば、自然の中に身を置く心地よさも味わえます。さらに映像シアターに立ち寄り、ダイナミックな映像を楽しんではいかがでしょうか。富士山の自然美を、さまざまな視点から堪能することができます。

4K画質のプロジェクターを設置する映像シアターでは、天空から眺める富士山など、壮大な姿を堪能できます。

登って、学び、そして味わう。坂茂氏の建築が生み出したこの空間は、富士山という存在を、体験として全身で受け止めることができる特別な場所です。
(画像提供:静岡県富士山世界遺産センター)

静岡県富士山世界遺産センター

住所:静岡県富士宮市宮町5-12
電話番号:0544-21-3776
開館時間:9時〜17時(最終入館は16時30分)※7、8月のみ9時~18時(最終入館17時30分)
休館日:毎月第三火曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)、施設点検日、年末
アクセス:新東名高速道路・新富士I.C.から車で約10分、東名高速道路・富士I.C.から車で約15分、道の駅・朝霧高原から車で約35分
駐車場:なし
※近隣の富士宮市神田川観光駐車場(有料/センターまで徒歩1分程度)をご利用ください。
URL:https://mtfuji-whc.jp/

福井県立恐竜博物館(福井県)

未来的な建築と恐竜時代のロマンに触れる
黒川紀章氏が描いた“恐竜の卵”

森の中に突如現れる巨大なドーム。

日本最大級の恐竜博物館として名高い「福井県立恐竜博物館」。建物の設計を手がけたのは、メタボリズム建築の旗手として知られる黒川紀章氏です。都市と自然、過去と未来をつなぐ思想を掲げつづけた彼の代表的な作品のひとつでもあり、銀色に輝く巨大ドームは、まるで恐竜の卵のような神秘的な存在感を放っています。

銀色に輝くドームは、恐竜の卵を思わせて鮮烈な印象を残します。

未来的でありながら、太古の記憶を呼び覚ますようなこのドーム。内部は傾斜地を活かした構造で、長いエスカレーターが地中深くへと誘い、時をさかのぼる旅が始まります。展示エリアでは、50体もの恐竜骨格標本が圧巻のスケールで並び、生体を再現した恐竜ロボットや化石、ジオラマなどが、恐竜時代の息吹をリアルに伝えます。

地中へと続くエスカレーターが、“時をさかのぼる旅”の始まり。

特に子どもたちには、動くティラノサウルスやフクイラプトルのロボットが大人気。恐竜たちの迫力ある姿を前に、大人も思わず夢中になることでしょう。さらに、化石クリーニング体験(事前予約制)ができるエリアなど、インタラクティブなコンテンツも豊富に揃っています。

動く恐竜ロボットに、子どもたちは大興奮!

また、野外恐竜博物館ツアー(事前予約制)に参加すれば、恐竜化石が発見された地層を見ながら、化石発掘を体験できるのも魅力のひとつ。親子で夢中になって石を叩く時間は、ここでしか味わえない思い出になるはずです。

常設展示には恐竜の実物の化石や、誕生と絶滅を繰り返す生命の歴史を巡るゾーンも。

黒川紀章氏が創り上げた建築は、単なる展示施設ではありません。未来を感じさせるデザインと、悠久の時間をさかのぼる物語性が融合し、“時空の旅”へと誘います。その醍醐味を満喫したあとのドライブは、きっと興奮が冷めやらないことでしょう。
(画像提供:福井県立恐竜博物館)

福井県立恐竜博物館

住所:福井県勝山市村岡町寺尾51-11かつやま恐竜の森内
開館時間:9時〜17時まで(入館は16時30分まで)※夏季延長開館期間あり
休館日:第2・4水曜日(祝日の時はその翌日、夏休み期間は無休)、年末年始(12月31日と1月1日)
アクセス:中部縦貫自動車道・勝山I.C.から車で約10分
駐車場:あり(乗用車約1,200台)
URL:https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/
※観覧には事前予約と決済が必要です。

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