台北周辺への日帰り旅行台北だけじゃもったいない! 台北から日帰りで行ける郊外の人気スポットへ
台北の街は活気に満ち、魅力にあふれています。けれども旅の醍醐味は、その喧噪の向こう側にこそあるのかもしれません。ひと息つくように郊外へ足を向ければ、ゆっくりと流れる時間や人びとの穏やかな笑顔など“もうひとつの台湾”に出合えるはずです。
Text:Fumihiro Tomonaga
Edit:Yasumasa Akashi(pad)
ビッグシティの喧噪から離れて
にぎわう夜市の熱気、モダンな街並みに溶け込む老舗茶館、そして台北101が放つ眩い輝き・・・。この台北という都市が有する多彩な表情は、多くの旅人を惹きつけてやみません。しかし視野を少し広げ、郊外へ目を移すと、古雅な趣を湛えた山間の集落や往時の面影を色濃く残す港町、そして悠久の時が刻んだ奇岩群など、台湾という島が長い年月をかけ育んできた奥深い魅力も見えてきます。
交通の便がいい台北を拠点にすれば、MRT(都市高速鉄道)やバスなど公共交通機関を使って、このような名所にも気軽に足を延ばすことが可能です。そこで今回は、台北市内から日帰りで楽しめる郊外のユニークなスポットをご紹介。歴史や文化、そして豊かな自然が幾重にも重なり合う台湾。その多面的な魅力にふれる旅へとでかけてみましょう。
北投:台北の奥座敷で、湯煙に包まれる至福
台北中心部からMRT淡水信義線で新北投駅まで約40分(北投駅で新北投支線に乗り換え)。都市の喧噪を離れた北投(ベイトウ)は、長い歴史を誇る台湾屈指の温泉郷です。その最大の特徴は、主に青硫黄泉(青磺泉)と白硫黄泉(白磺泉)という異なる泉質をひとつのエリアで楽しめること。青磺泉は世界でも珍しい放射能泉の一種で、体を芯から温めるほか新陳代謝を促す効果があり、一方、白硫泉は美肌効果や神経痛、リウマチなどによいとされています。
源泉のひとつである「地熱谷」は、湧き出す摂氏90度近い青磺泉がエメラルドグリーンの湯面を湛え、立ちのぼる湯煙が幻想的な光景を演出。とりわけ早朝、霧がかかる時間帯は、まるで異世界へ迷い込んだような静謐な美しさに包まれます。
また1913年建設の旧公衆浴場を改装した「北投温泉博物館」は、日本統治時代の面影を色濃く残す貴重な建築遺産。タイル張りの浴場やステンドグラスが彩る館内に、当時の優雅な温泉文化が偲ばれます。散策の途中、「復興公園」の無料の足湯で地元の方々と肩を並べ、ひと息つくのも旅の醍醐味です。
さらに温泉以外でも、北投で訪れたいスポットがもうひとつ。それが台湾でもっとも美しい図書館と評判の「台北市立図書館北投分館」です。台湾初のグリーンビルディングとして建てられた木造建築が周囲の緑に調和。木材が多用され、自然光の差し込む館内には、心安らぐ穏やかな時間が流れています。
写真提供:台北市観光傳播局
写真提供:台北市観光傳播局
写真提供:台北市観光傳播局
淡水:黄昏に染まる、異国情緒と歴史が交差する港町
北投駅からさらに北へ約20分(台北から約40分)。MRT淡水信義線の終点には、台湾のベニスとも称される淡水(ダンシュイ)があります。淡水河の河口に位置するこの港町の歴史は17世紀のスペイン統治時代に遡り、その後、オランダ、清朝、そして日本の統治時代へと受け継がれた歴史の痕跡が、街の随所に刻まれています。台湾最古の西洋建築のひとつ「紅毛城」はその代表格。赤いレンガの堅牢なたたずまいからは歴史の荒波を乗り越えてきた風格が感じられます。
活気ある淡水老街(ダンシュイラオジエ)を歩いていると目につくのが、地元名物のさまざまなストリートフードです。なかでも「阿給(アーゲイ)」は淡水発祥で、油揚げの中に春雨を詰め、魚のすり身で口を閉じて蒸し、甘辛いタレをかけて食す一品。噛めば素朴でどこか懐かしい味わいが口の中に広がります。
そして淡水のクライマックスは、なんといっても夕暮れ。「漁人碼頭(ユーレンマァトウ)」から望む夕日は台北近郊随一の美しさと称され、河口に架かる「情人橋(チングォンチャオ)」から眺める夕景はまさに圧巻。台湾海峡に沈む太陽が空と海を黄金色に染め上げるさまは、言葉を失うほど感動的です。河畔のカフェで台湾茶を味わいながら、刻々と変化する空の色を眺める。それがこの街でこそ叶う珠玉のひとときなのです。
写真提供:Carlos Huang/Shutterstock.com
写真提供:Kent Lee/ Unsplash
九份:霧に煙る山あいの古都、ノスタルジアの迷宮
一方、山間の集落として広く旅人を魅了するのが九份(チウフェン)。日本統治時代に金鉱で栄えたこの街は、当時の建物が今も残り、時が止まったかのようなノスタルジックな風情に満ちています。狭い石段の路地「豎崎路(スゥチールゥ)」に軒を連ねる茶芸館や土産物店。特に九份老街(チウフェンラオジエ)の「阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)」は、赤い提灯が灯る夕暮れの情景で知られ、その幻想的な光景は数々の芸術作品のインスピレーション源となってきました。
また、九份は台湾茶文化にもふれられる場所。老舗「九份茶坊」では、台湾茶の伝統的な茶芸を学びつつ、山海のパノラマを望めます。小さな茶杯で何煎も味わう「功夫茶」の作法は、茶葉の香りと味わいの繊細な変化を堪能する心豊かな体験。標高数百メートルの山の中腹にある九份では、霧がかかった幻想的な朝があれば、晴天なら雄大な海岸線を見渡せる日もあるなど、訪れるたび異なる情景に出合えます。
写真提供:Richie Chan/Shutterstock.com
十分:願いを天に託す、ランタンが舞う幻想の里
九份と同様、山間にたたずむ街・十分(シーフェン)はランタン飛ばし(天燈上げ)が有名です。元は台湾の元宵節(旧暦1月15日)を祝う「平溪天燈節(ヘイケイテントウセツ)」が由来ながら、現在では願いごとを天に届ける縁起のいい行事として、一年を通して行われています。色とりどりのランタンに筆で願いを書き込み空へと放つ体験は、人びとに忘れがたい感動を与えてくれるはず。赤は健康、黄色は金運、ピンクは恋愛運など願いごとによって色選びするのも面白い。
ランタンは通常、平渓線の鉄道線路上から飛ばしますが、この線路を挟んで連なるのが十分老街(シーフェンラオジエ)。線路と店の1メートルほどの隙間を縫って列車が走る光景も、この地ならではの情趣。旅行客はこぞってフォトジェニックな一枚を写真に収めます。
さらに十分では、ぜひ自然の雄大さも堪能したいもの。老街から約20分歩けば、台湾のナイアガラとも称される美しい滝「十分瀑布(シーフェンプーブー)」に。正面の展望台から眺める瀑布はまさに豪快。
ちなみに台北中心部から九份と十分には、鉄道やバスを使ってともに1時間半前後、九份と十分の間も1時間ほどで移動できます。人気の2カ所を1日で巡ることも可能で、そうしたバスツアーも用意されています。ただし公共交通機関は本数が限られるため、個人で巡る場合は事前に入念なスケジュール立てをしておくと安心です。
写真提供:台湾観光庁
写真提供:台湾観光庁
野柳地質公園:波と風が彫り上げた大地のアート
最後は、台湾ならではの絶景を気軽に楽しめるスポットをふたつ紹介します。まずは台北市内から北海岸へバスで約1時間半。「野柳(ヤリュウ)地質公園」は、台湾でもとりわけ独創的な景観が広がります。目を奪うのは、数千万年に及ぶ波の浸食と風化作用が生んだ奇岩群の壮大なパノラマ。もっとも有名な「女王頭」と呼ばれる岩は、美しい容姿で広く知られるエジプトの女王ネフェルティティを思わせる優雅な輪郭で、自然の力だけで形づくられたとは思えないほどの精巧さです。
そのほか「仙女鞋」や「燭台石」「蜂窩岩」など、眼前に現れる多様な形状が想像力をかき立てます。潮風を受けながら岩場を歩けば、地球の悠久の営みと自然の創造力に圧倒されることでしょう。
写真提供:Maryjoy Caballero/ Unsplash
猫空:茶畑を見下ろすロープウェイと夜景が誘う山上の茶郷
一方、市内南東部、手軽にアクセスできる絶景スポットとして知られるのが「猫空(マオコン)」です。MRT文湖線の動物園駅からロープウェイで空中散歩を楽しみながら山上のティーガーデンエリアへ。眼下には茶畑が広がり、都市の喧噪を離れた穏やかな風景が旅心を癒します。
「猫空」は100年以上の歴史があるお茶の産地で、特に鉄観音茶と文山包種茶の名産地として知られています。周辺には趣ある茶芸館が点在し、台北市街を一望しながら本格的な台湾茶を楽しむことも。夕日が沈み、台北の街に光が灯り始める頃、山上から眺める夜景は格別。台北101をはじめとする灯がきらめき、息をのむほどの美しさです。
写真提供:台北市観光傳播局
多層的な魅力が織りなす、台湾という奇跡
台湾はこれほどまでに多様な文化と景観を抱えています。原住民文化、中国大陸からの移民の影響、スペインやオランダ統治の痕跡、日本統治時代の遺産、そして現代の国際化。それらが重なり合い、唯一無二の風土と文化を形づくってきました。
今回ご紹介した地も単なる観光地ではなく、台湾の本質にふれることができる場所ばかり。ここに挙げた以外にも、台北周辺には台湾のルーツが息づく「烏来(ウーライ)」や、陶磁器の町「鶯歌(インゴー)」など個性豊かな旅先が揃っています。さらに台中や台南まで足を延ばせば、地域ごとに異なる文化の広がりをいっそう体感でき、台湾という島がいかに多面的な世界を内包するか気づかされるはずです。
日本から近く、どこか親しみを感じる台湾。“まだ見ぬ台湾”への期待を膨らませ、この島が秘める奥深い魅力を探る旅にでかけてみてはいかがですか。
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