Harmony 2015年11/12月号
日本ドライブ紀行 松本〜長野

信州 冬のぬくもり旅

文・和田達彦 写真・星 武志

歴史ある名湯を有する城下町・松本から昔話の舞台のような原風景が広がる安曇野を経て、雪深き北安曇野へ至るドライブ旅。北アルプスの美しい雪渓と癒しの湯、そして郷土料理の数々……。絶景と田舎体験に心身共に温まるひとときを。


アクセス
長野自動車道・松本I.C.から松本城までは約15分。松本城から「扉温泉 明神館」までは約14km/約30分、安曇野までは約11km/約25分。安曇野から「星野リゾート 界 アルプス」までは約30km/約40分。「星野リゾート 界 アルプス」から大出の吊り橋までは約25km/約40分。冬季はスタッドレスタイヤの装備を。
Googleマップ


歴史ある名湯を有する城下町・松本から昔話の舞台のような原風景が広がる安曇野を経て、雪深き北安曇野へ至るドライブ旅。北アルプスの美しい雪渓と癒しの湯、そして郷土料理の数々……。絶景と田舎体験に心身共に温まるひとときを。

Harmony 2015年11/12月号より

松本

城下町で味わう蕎麦と由緒正しい温泉

本文を読む

黒を基調としたシックなたたずまいの松本城。寒さを増す信州の空にキリッと映える。

戦国時代に建てられた天守をそのままの形で残している貴重な松本城を筆頭に、松本の街ではさまざまな古い建築物を見ることができる。なまこ壁をもつ蔵造りの建物の他、昭和初期のレトロモダンな建物も多く、中にはカフェやレストラン、ギャラリーに改装して使われているものもある。服飾や工芸品を扱う「ラボラトリオ」も、そんな店のひとつ。1933(昭和8)年に建てられた薬局だった建物は、外観も店内も何とも言えない趣がある。2階のカフェで、まずは休憩がてらのランチ。

さて、今回のドライブは、松本から北上し、雪を抱きはじめた北アルプスの雄大な景色を眺めつつ、豊かな自然の恵みを味わうことが目的。信州は蕎麦切り、つまり麺料理としての蕎麦の発祥の地とされるだけに、特に蕎麦にはこだわりたい。

松本市内には蕎麦の名店はたくさんあるが、極上の温泉と蕎麦を同時に堪能できる所となると、「旅館すぎもと」をおいて他にない。松本市街から東へクルマで15分ほどの地にある美ヶ原温泉は、江戸時代には松本城主のための保養施設「山辺茶屋」が置かれていた、由緒正しい温泉地。その温泉地にある旅館すぎもとでは、宿泊客のために、館主の花岡貞夫さんが自ら手打ち蕎麦をふるまってくれる。目の前で蕎麦打ちの作業も見ることができるが、始めて25年というだけあって、その手際のよさに感心させられる。

蕎麦には、蕎麦の種子の中心部から出る一番粉を用いた白い更科蕎麦、蕎麦粉8割につなぎとして小麦粉を2割混ぜて作る二八蕎麦など、さまざまなスタイルがある。花岡さんの蕎麦は、つなぎを一切用いない十割蕎麦。そして種子の甘皮まで挽きこんだ「挽きぐるみ」なので、できあがった蕎麦はほんのり緑色をしている。

「つゆありきで、主に喉ごしを楽しむ二八の更科蕎麦に対し、香りが強いから塩だけ、一味だけでもおいしい。蕎麦そのものの味を楽しめるんです」と、花岡さん。

松本から北へ向かう前に、もう1泊していきたい所がある。それは、松本市街の南東、標高1050メートルの山中にある扉温泉だ。

ここには同温泉地唯一の宿である「明神館」がある。落ち着いたたたずまいの館の中に入ると、モダンで上質なリゾート空間が広がる。バリエーション豊富な浴場では、温泉に浸かりながら渓谷の美しい景観を眺めることができる。

1931(昭和6)年の創業以来、地産地消を実践してきたこの宿では、自家農園の野菜を使用した和食やフレンチが楽しめる。また、ダイニングの内装には信州の建材や地元作家のアートを使用。洋式客室の無垢のフローリング材の下に敷かれているのは、地元の山辺炭だ。それらには、ここにしかないもの、この土地ならではのものを提供したいというもてなしの気持ちが表れている。

  • 現存する5重6階の木造天守の城としては日本最古の「松本城」。

  • 「旅館すぎもと」の館主・花岡さんが打つ香り高い十割蕎麦。

  • 花岡さん厳選の銘酒が揃う「旅館すぎもと」の「バー ひびき」。

  • 渓谷に面し、自然と一体化した「扉温泉 明神館」の立ち湯「雪月花」。

旅館すぎもと

旅館すぎもと

松本民芸家具などが配されたぬくもりある館内には、オーディオ機材が置かれるなど主人・花岡さんのこだわりが随所に。それは料理にも通じ、食材そのままの味を大切にした会席はどれも美味。

住所:長野県松本市里山辺451-7
電話:0263-32-3379 (受付時間8:00〜21:00)
チェックイン:15:00
チェックアウト:10:00
アクセス:長野自動車道・松本I.C.から約35分、「松本駅」からクルマで約15分
駐車場:20台
扉温泉 明神館

扉温泉 明神館

和モダンの落ち着いたたたずまいとバリエーション豊富な温泉、自家製無農薬野菜や地場の食材を使った四季折々の料理がもてなしてくれる。旅館の温かさとホテルのプライベート性を兼ね備えた客室造りもうれしい。

住所:長野県松本市入山辺8967
電話:0263-31-2301
チェックイン:15:00
チェックアウト:12:00
アクセス:長野自動車道・松本I.C.から約40分、「松本駅」からクルマで約30分(送迎あり要事前予約)
駐車場:35台

安曇野

素朴で美しい原風景と地の恵み

本文を読む

松本から北西へ25分ほど走ると、安曇野に着く。ここに至るまでの国道147号沿いは比較的ありふれた郊外の街道風景だが、そこから東西に入ると、のどかな田園風景が広がる。稲刈りが終わった後の水田は色に乏しく殺風景になりがちだ。しかしそう感じないのは、バックに北アルプスの山々がそびえているからか。さらに、あちこちの辻に置かれた道祖神が旅情をかきたててくれる。

信州では各地で道祖神を見ることができるが、安曇野は道祖神の宝庫と呼ばれるほど数が多い。元々は悪霊や疫病などが集落に入り込んでこないように祀ってきたもので、後に神話や道の神思想などと結びついて、五穀豊穣や子孫繁栄などの願いが込められるようになった。男女の神をあしらった双体道祖神は、寄り添って立つもの、手を握り合うもの、堅く抱き合うものなど、さまざまなパターンがある。いずれもどことなくユーモラスでほほえましく、ひとつ見ると、また別の道祖神を探してみたくなる。

北アルプスの山々から湧き出た水は、複数の清流となってこの地に注いでいる。それらの流れが犀川(さいがわ)に合流する、扇の要のような位置に「大王わさび農場」がある。蕎麦の薬味として欠かせないわさびの栽培には大量の澄んだ水が必要だが、ここでは1日13万トンという豊富な湧き水を利用してわさび作りが行われている。わさび田の横を流れる蓼川(たでがわ)では、古びた3基の水車がゆっくりと回っている。黒澤明の映画『夢』のロケ地ともなったこの場所には、安曇野の原風景が残されている。

一方、安曇野の西側一帯は、緩やかな登り斜面になっている。その先は急に険しくなって北アルプスの山々が始まるが、ちょうどその境界付近に県道25号、通称山麓線が通っている。整った木立の林が見られ、美術館やペンションが点在するこの道を走ると、高原リゾート気分が高まってくる。ここではそんな雰囲気に似合う蕎麦料理を楽しんでいくことにしよう。

フランス語で「黒い実」、つまり蕎麦を表す「ブレ・ノワール」は、フランス・ブルターニュ地方の郷土料理、ガレットの専門店。ガレットにはサクサク系ともっちり系があるが、ここのガレットは八ヶ岳産の蕎麦粉のみを使ってカリカリに焼きあげたもの。香ばしい蕎麦の香りが食欲をそそる。

大王わさび農場

大王わさび農場

1917(大正6)年、もと梨畑の地に作られた水路を利用しわさび栽培が始まる。今では安曇野屈指の観光地として賑わう。2013年、日本の魅力的な観光地を紹介する「ミシュラン・グリーン・ガイド・ジャポン」に生産現場として唯一紹介された。

住所:長野県安曇野市穂高1692(カーナビ利用の際は3640と入力)
電話:0263-82-2118
時間:9:00〜16:30(3月〜10月は〜17:20)無休
駐車場:380台