Harmony 2017年7/8月号
日本ドライブ紀行 山梨県

甲州ワイン成熟の地、勝沼探訪

文・原口りう子 写真・竹崎恵子

日本一のブドウ産地、山梨県。県内にある約80のワイナリーのうちおよそ半数が集まる勝沼は、日本ワイン発祥の地。日本固有のブドウから醸造される甲州ワインは、和食ブームと相まって、今や世界にも認められる日本ワインの代名詞だ。連綿と続くブドウ栽培やワイン造りの歴史を紐解きながら、個性あるワイナリーを訪ねる旅へ。

  • 国宝である薬師堂内には、本尊の他、鎌倉時代の仏師・蓮慶制作の十二神将立像や武田勝頼の家臣の家から寄進されたという文殊菩薩像なども祀られている。

    国宝である薬師堂内には、本尊の他、鎌倉時代の仏師・蓮慶制作の十二神将立像や武田勝頼の家臣の家から寄進されたという文殊菩薩像なども祀られている。

  • 全客室から、新日本三大夜景に選定された甲府盆地の夜景が見渡せる。

    全客室から、新日本三大夜景に選定された甲府盆地の夜景が見渡せる。

  • 通常非公開の地下セラーには、1909(明治42)年醸造の“100年物ワイン”の他、瓶口に鉛製のシールを施したワインなど、老舗の歴史を感じさせる希少な逸品が眠る。

    通常非公開の地下セラーには、1909(明治42)年醸造の“100年物ワイン”の他、瓶口に鉛製のシールを施したワインなど、老舗の歴史を感じさせる希少な逸品が眠る。

  • 世界最大級のワインコンクール「デカンタ ワールド ワイン アワード 2014」で日本ワインとして初めて金賞受賞の快挙を達成。2016年に行われた同コンクールでは、代表銘柄のひとつである「グレイス甲州」がプラチナ賞を受賞した。

    世界最大級のワインコンクール「デカンタ ワールド ワイン アワード 2014」で日本ワインとして初めて金賞受賞の快挙を達成。2016年に行われた同コンクールでは、代表銘柄のひとつである「グレイス甲州」がプラチナ賞を受賞した。


アクセス
ワイナリーへは、「フルーツパーク富士屋ホテル」からJR中央本線「山梨市駅」までの送迎を利用して「勝沼ぶどう郷駅」まで行くか(所要約20分)、直接お目当てのワイナリーまでタクシーで移動を(所要約40分)。ホテルから御坂峠までは約28.5km、約40分。御坂峠から「フジプレミアムリゾート」までは約17.5km、約30分。
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珍しき薬師如来と勝沼のブドウ栽培

長い歴史を誇るブドウ産地・勝沼

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昨今の日本ワイン躍進を語るうえで、外せないのが山梨県甲州市であり、甲州ブドウ。そのルーツを探るべく、まずは市の南西部、柏尾山の麓に位置する国宝・大善寺へ。ブドウを持った薬師如来像が祀られたこの寺は、別名“ぶどう寺”と呼ばれ親しまれている。その謂れについて、住職の井上哲秀さんはこう教えてくれた。

「今から約1300年前の奈良時代、西方から来た僧・行基が日川渓谷の岩上で修行をしていたところ、夢の中にブドウを持った薬師如来さまが現れたそうなんです。この霊威に感激した行基が、その姿を像に刻み、日光・月光菩薩とともに薬師三尊として安置し、当寺を開山。法薬としても尊ばれたブドウ作りを村人達に伝え、広めたのが甲州ブドウの始まりと言われています」

ただし、その起源については、別の説もある。前述の「大善寺説」から400年以上を経た1186(文治2)年、大善寺より西に位置する上岩崎地域に住む、雨宮勘解由(かげゆ)という人物が、近くの山で山ブドウの変性種を発見、自園で育て実らせ、村人達に広めたという「雨宮勘解由説」だ。このふたつの説、いずれも伝説の域を出ていない。とはいえ、長らくこの勝沼の地で栽培されつづけているというのは紛れもない事実なのである。

さて、その甲州ブドウ、江戸時代には年貢の対象となり、棚作りの栽培法が広まってからは栽培量も一気に増加。1870(明治3)年には、甲州ブドウを使った日本初のワインが造られ、殖産興業の動きとともに、本格的なワイン醸造がスタートする。その後、77(明治10)年には、初の民間ワイナリー、大日本山梨葡萄酒会社が誕生、同年秋には、高野正誠(まさなり)、土屋龍憲(りゅうけん)というふたりの青年を、ブドウ栽培とワイン醸造の技術習得の目的で、フランスへと派遣。さらに帰国した彼らとともに、抜群のマーケティングセンスで、日本ワインの“産業化”に尽力した宮崎光太郎の功績もあり、甲州ワインが日本ワインを牽引する存在となっていく。その理解を深めるためにもぜひ立ち寄りたいのが、宮崎光太郎の自邸兼醸造所を整備した「宮光園」。甲州市の近代産業遺産にも指定されているここでは、大正期のワイン造りを記録した希少な動画フィルムを始め、貴重な資料を数多く所蔵しており、必見だ。

大善寺

本尊が祀られる薬師堂は、1286(弘安9)年築で関東最古の木造建造物。

大善寺

718(養老2)年開創と伝わる真言宗智山派の寺院。平清盛や源頼朝、武田信春など時の為政者と民衆から篤く信仰され、今では“ぶどう寺”の愛称で親しまれている。

住所:山梨県甲州市勝沼町勝沼3559
電話:0553-44-0027
時間:9:00〜16:30(受付は16:00まで)
駐車場:50台

努力が実り日本ワインの代名詞に

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さらに近年では、DNA解析により、新たな事実も分かってきた。この甲州種が、ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ種と、東アジア系野生種の交雑種であったということだ。カスピ海周辺、コーカサス地方で産まれ、シルクロードを渡る長い間に一帯の野生種と掛け合わされ、日本に伝来……。ヨーロッパのワイン用ブドウ品種が、遠く離れた東洋のこの山麓の地にもたらされたとは!そのミステリアスで壮大なロマンを感じるストーリーは数奇かつ偉大だ。後述するワイナリー巡りにおいても、同地の醸造家達は、この点を常に口にした。だからこそ、この土地でワイン造りを守りつづけ、次世代へとつなげ、世界に発信していかねばならない、と。

そしてその思いを同じくした仲間達が集まり、勝沼ワイナリーズクラブや、KOJ(Koshu of Japan)といった組織を発足、甲州ワインの品質・地位向上のために奔走する。さらに同地に拠点を置く大手ワインメーカーや行政の支援もあり、2010年、ついにワインの国際的審査機関「OIV」に品種登録。ラベルに「Koshu」と明記した甲州ワインの輸出が可能になったことで、甲州の名は世界に一気に広まった。さらに13年には、ワインとして日本で初めて「山梨」の地理的表示が認可される。この地理的表示とは、“ボルドー”や“シャブリ”のように、品質や評価の高さがその土地に由来する場合に、原産地を特定した表示を行うこと。つまり、地理的表示ができるワイン産地として認知、保護されることで「山梨」ワインの信頼度と価値が国際的にも高まるという訳だ。また、甲州市では行政支援を強化すべく、市役所産業振興課内にワイン振興室を設置。原料ブドウ畑の出自を明らかにして生産工程を透明化させる「甲州市原産地呼称ワイン認証制度」の導入を始め、甲州ブランドの底上げや原料ブドウの供給援助などを積極的に行っている。

こうした多くのワイン従事者らによる努力が結実し、近年、甲州ワインは海外の権威ある国際コンクールでも次々と受賞を果たすようになってきた。そして、この土地で脈々と受け継がれてきたワイン造りは今、さらなる飛躍の時を迎えようとしている。

これまで分業化されていたブドウ栽培と醸造を一貫して行うワイナリーの登場に加え、甲州ワインの世界標準を目指した二世醸造家達、その次の世代となる若手ワインメーカーがさまざまなチャレンジを試みているのだ。20年の東京オリンピックに向けてもますます期待が高まる日本ワインの故郷、甲州市。ここには現在、30を超えるワイナリーが存在するという。そこで、小高い丘に佇む洋館風ホテル「フルーツパーク富士屋ホテル」を拠点に、旗頭ともなる勝沼地区を中心に注目のワイナリーを巡ることにした。

宮光園

主屋2階は、約1年半の工事期間を経て資料展示室として生まれ変わった。何気なく置かれている椅子は、醸造所時代に数々の賓客をもてなしてきたもの。

宮光園

宮崎光太郎が創業した葡萄酒醸造所と観光葡萄園を修復整備し、資料館として公開。宮崎の事績や、明治・大正期のワイン造りの一端をうかがい知ることができる。各ワイナリーを巡る前に、当地におけるワイン産業の興りを学んでおきたい。

住所:山梨県甲州市勝沼町下岩崎1741
電話:0553-44-0444
時間:9:00〜16:30(受付は16:00まで)
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
駐車場:周辺の協定駐車場を利用(ぶどうの国文化館など、近隣の4施設)

Where to Stay in KOSHU

フルーツパーク富士屋ホテル

瀟洒な雰囲気にまとめられた館内。階段正面にはフルーツを模した巨大なレリーフが。

フルーツパーク富士屋ホテル

名門、富士屋ホテルの流れを汲むホテルとして1997年開業。標高約560mの小高い丘の上に立つ南欧風の建物が別天地を思わせる。早朝は朝日に輝く富士、夜は眼下に広がる夜景と昼夜の絶景はもちろん、季節ごとにフルーツが変わるパフェも人気でリピーターが多いとか。フルーツ王国“山梨”を実感しながら、ワイナリー巡りの拠点としたい名宿だ。

住所:山梨県山梨市江曽原1388
チェックイン:15:00
チェックアウト:11:00
アクセス:中央自動車道・勝沼I.C.から約30分、JR中央本線「山梨市駅」からクルマで約8分、「山梨市駅」より送迎あり(無料・要予約)
駐車場:100台
カード:TS CUBIC CARD(Visa、MasterCard、JCB)