Harmony DIGITAL

「気になるトヨタ車」開発者に聞くニッポン独自の送迎用高級車
ニッポンが生んだアジアの新高級車!?

Car

ある意味、まったく新しい高級車が登場した。トヨタ・グランエース。
一見ハイエースの高級版だが本質は違う。
そこには、ミニバンではできない新たな広さと快適性を提供する。
真のターゲットは日本だけでなくアジア。独特の開発哲学をエンジニアに聞く。

GRANACE
石川拓生

トヨタ車体 開発本部 領域長
ZU チーフエンジニア

text:Koji Ozawa photos:Kazuya Hayashi

“本当の意味での上質な高級車として理解してもらいたい”

人を運ぶことに特化したまったく新しいワゴン

小沢

まずは乗って驚きました。ネーミング的にハイエースの延長上かと思いきや、全然違う。物凄い高級車じゃないですか。今までにない室内の広さやアルファードもビックリのボックスシートに加えて、乗り心地が超いい。ディーゼルエンジンなのにビックリするほど静かで、ここまで出来がいいとは思いませんでした。

石川

ありがとうございます。あのクルマは見た目の無骨さから、そういう印象を持たれます。つまり期待値の割に評価がグッと高くなる。

ブラックを基調としたパネルは、空調吹き出し部に金属調加飾、助手席正面に木目調加飾を配して華やかさを演出。
小沢

言わばギャップ萌えですね。見た目はバスっぽいし、床の高さも日本のハイエース譲りかと思いきや、ボディ構造がまったく違ってフルキャブではなく、セミキャブオーバーレイアウト。エンジンが室内に入ってないのでノイズが抑えられている。こういう多人数高級車ってなかったんじゃないですか?

石川

本当の意味で上質な送迎車として作りました。そういう意味で競合はなく、強いてあげるならば帝国ホテルのミニバン用タクシー乗り場に並んでいるメルセデス・ベンツVのクラスぐらいかと思います。

さまざまな路面状況でも、高級ワゴンのような静粛性を追求したトレーリングリンク車軸式リアサスペンション。
エンジンは2,754ccの直列4気筒ディーゼルターボ。車重をカバーするために、トルクフルなディーゼルを採用。
小沢

ロールスロイスでも後ろは2人乗りですからね。でも本当のライバルはアルファードのエグゼクティブラウンジじゃないんですか? 同じようなボックスシートが2つ付いていて700万円台。

石川

エグゼクティブラウンジの場合、後ろ2人はいいのですが残りは普通のシートになりますし、同時に荷物は沢山載せられません。

小沢

やはり送迎となると前席を除き4人は乗れないとダメなんだと。だからグランエースは8人乗りのGと6人乗りのプレミアムなんですね。

室内長は3,290mm、室内幅1,735mmと驚くほどゆとりのある空間に、3列シート6人乗りと4列8人乗りの2タイプを設定している。
石川

アルファードは元々オーナーカーで、お客さまの7〜8割はプライベートユーザーです。送迎用で使われるのはほんの一部で、本当のボリュームゾーンは一般の方なんです。あのクルマのリアを広くして人も荷物も載せるようにするとお客さまを失います。

小沢

なるほど、そこでアルファードとは違うカテゴリーだと言ってるんですね。ミニバンというスタイルを踏襲しながらも、利用用途も含め、これまでとはまったく別の乗り物が誕生したということですね。納得しました。だって販売目標の年600台もあり得ないと思いましたよ。最初僕は月販600台だと勘違いしてました。

ブラックを基調とした低くワイドなインストルメントパネル。メーターフードには表皮巻きと本ステッチを使用。ステアリングホイールには本革を使うなど上質なインテリアになっている。

“この市場に対抗するクルマがいないことに正直驚きましたね”

石川
まあ開発中はまったく新しいジャンルの送迎車という位置づけで予想が付かないし、それくらいなのかなと。ただ、開発が進むにつれ、みなさんの御意見を聞くともう少しイケるのかなと。東京モーターショーに出した時も凄い反響でした。
小沢

確かに運転手付高級車のセンチュリーも月販50台でグランエースと同じですから。でもあちらは2,000万円です。こちらは620万円からと全然安いし、なにより僕が言いたいのは今や高級車のど真ん中がミニバンだってことです。我らがニッポン、アルファード、ヴェルファイアが月1万台近く売れる国なんですよ。比べるとクラウンは月3,000台で完全に逆転。つまりあの広さと快適さを知った人はもはやセダンには戻れない。超巨大でゴージャスなミニバンを求めているリッチ層は絶対にいる。しかもアルファードのエグゼクティブラウンジは価格700万円台なのに全体の1割、月7〜800台は売れるって言うじゃないですか。だったら600万円台で、ボックスシートが倍の4脚付きも選べるグランエースも月数300台の年間3,000台はかたいですよ!

石川
もうちょっと強気に行けばよかったですかね(笑)。
LEDサイドカラーイルミネーションが室内を優しく照らす。
大きな開口で乗り降りしやすいパワースライドドア。
小沢
そう思います。価格もリアをマルチリンクのエアサスにして、3.5リッターV6の大排気量ガソリンハイブリッドを搭載して800万とか1,000万円級とか。
石川
確かに東京モーターショーではかなり高めの価格を予想されている方もいらっしゃいました。
対談は試乗会の発着場所になった横浜のホテルで行われた。グランエースの印象を「高級車」と言い切る小沢氏に、開発担当者の石川氏も納得の様子。

メインの市場は海外でも扱い易さはピカイチ

小沢
ところで8人乗り4列シート車はどのような狙いで?
石川
今お話したようなコンセプトであれば6人乗りの豪華仕様だけでいいと思うのですが、タクシー需要やプライベート需要も考えると8人乗りもありじゃないかと。でも現状注文が多いのは6人乗りです。
6人乗りは十分な後席スペースを確保しながらも広いラゲージスペース。8人乗りはチップアップ機構のリア席3列目を跳ね上げスペースを確保できる。
小沢
ただ唯一、気になるのはデザイン。ちょっと業務用過ぎるかと。個人的にこの手は絶対中国で受けると思うので、アルファードを超えるスーパーアルファードのようなデザインの超高級ミニバンが生まれればよかったと思っていたんですが。
石川
デザインに関して言うと見た時にオオ! という声が出るのがアルファード。ミニバンの乗用車は5〜6年サイクルでモデルチェンジします。一方、グランエースは社用でありモデルライフが長い。送迎車という位置づけもあってデザインには「できるだけオーソドックスで飽きの来ない意匠」「かつ存在感を付けてくれ」と言ったんです。
小沢
僕とは思考が真逆(笑)。
石川
車内イルミネーションもアルファードは天井に入っていますが、グランエースはあえてベルトラインに入れました。料亭の石畳では下に電気が付くのをイメージしたのと、その方が外から見た時にお客さまの顔がわからないんです。
小沢
そうか。顔の部分が暗いから外から逆に見えないんだ。
石川
そういうことなんです。例えば、VIPの方だと顔を見られたくない方が多いですから。
小沢
凄い配慮。そういえば、最初に発売されたのは海外でしたよね。
石川
去年5月に台湾で発売され、その後タイ、フィリピンとASEANを中心に80カ国展開中です。
小沢
メイン市場はそちらに?
切り替えレバーを操作することで鏡面ミラーモードから、車両後方カメラの映像をインナーミラー内に表示するデジタルミラーモードに切り替えも可能。
ワイドなサイズにもかかわらず、最小回転半径5.6mを達成している。縦列駐車はもちろん、市街地での取り回しのよさも突出している。
石川
そうなると想定しています。取り回しをよくする工夫は目一杯入れましたけど日本では大きいですし、ほとんどが社用車です。現時点の販売状況でのお客さま全員のプロフィールはわかりませんが自家用は少ないと思います。
小沢
そうなるとやはり中国で売れると思うんですよね。あちらではご存知アルファードをロールスロイスと一緒に買うようなスーパーリッチがいて、香港と本土のダブルナンバー付きで香港から長距離商談の旅に出たりする。そういうお客さまには、アルファードのエグゼクティブラウンジ用ボックスシートが4つもついたプレミアムなんて最高ですよ。中国のスーパーリッチが4人でマージャンしながら乗る(笑)。
石川
現状中国での販売は考えていません。引き合いはありますが。
小沢
高級車はその国のカルチャーですからね。日本は運転手付で乗るクルマが少ないし、確かに社用がメインかも。
石川
アジアでは日本企業の社員も大抵運転手付で乗りますからね。危なくて自分でハンドルは握れない。
小沢
でも、送迎車っていうからちょっとわかりにくくなる。アジアを狙ったまったく新しい大容量高級車ですよ。日本でももっと売れるはずの。
石川
だといいんですが(笑)。
プロフィール

石川拓生/Takuo Ishikawa
トヨタ車体 開発本部 領域長
ZU チーフエンジニア

1962年愛知県生まれ。1985年にトヨタ車体へ入社し、乗用車、ミニバンのボディ設計に携わる。2014年に商用車開発部部長としてハイエースを担当。現在は開発本部の領域長および、ハイエース、コースターのチーフエンジニアを務める

GRANACE Specifications

サイズ
全長5,300mm×全幅1,970mm×全高1,990mm
車両定員
6人(Premium)、8人(G)
燃料消費率
10.0km/L(WLTCモード)国土交通省審査値
エンジン
型式:1GD-FTV
総排気量:2,754cc
最高出力(ネット):130kW(177 PS)/3,400r.p.m.
最大トルク(ネット):450N・m(45.9kgf・m)/1,600〜2,400 r.p.m.
メーカー小売価格
650万円(税込み)※Premium
620万円(税込み)※G
シルバーメタリック
グレーメタリック
ホワイトパールクリスタルシャイン
ブラック

“上質なおもてなし空間”をテーマに新たな市場開発を実現する

上質かつ快適な移動空間として圧倒的な存在感を放つフルサイズワゴン「グランエース」。セミボンネットを採用したことで、上質な室内空間を実現したことはもちろん、静粛性や走行安定性も確保し、何よりクルマとしての基本性能を高次元で叶えている。シンプルな外形スタイルながら、華やかな運転席回りや心地よい後席空間のデザインが、従来にないフルサイズワゴン市場を開拓することになりそうだ。

詳しい情報・お問い合わせ

トヨタ自動車株式会社 お客様相談センター
TEL:0800-700-7700 (全国共通・フリーコール)
受付時間:9:00〜18:00 年中無休
ウェブサイト:toyota.jp/granace/

※「新型コロナウイルス感染症」による影響に鑑みて、4月13日(月)より当面の間、受付時間を下記の通り変更させていただきます。また、お電話がつながりにくい状況となっておりますので、緊急案件のみの受付とさせていただいており、お客さまにはご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承いただきますようよろしくお願いいたします。
【通常】9:00~18:00 →【変更後】10:00~16:00

[ グランエースに試乗してみて ]
Test Drive Impression

“飛行機のビジネスクラス並みの快楽を最大4人で味わえる至福……”

乗るなりビックリ。まさに前代未聞の高級車である。飛行機のビジネスクラス並みのゆったり快楽を最大4人で味わえる「Premium」を筆頭に、今まで聞いたことがない8人乗り4列シートの「G」が選べる。
最初は正直ハイエースの上級版かと思った。事実ASEANで発売済みの300系ハイエースと骨格は共通。だが、300系自体がエンジンをノーズに押し込み、セダン並みの静粛性を獲得しているうえ、それをベースに上質な設えとしなやかなコイルサスで仕上げたのがグランエース。マジメな話、このレベルの快適性を4人で味わえるクルマは世界のどこを探してもない。メルセデスはもちろんロールスロイスすら超える不思議な高級車である。
4つのボックスシートを持つプレミアムは全後席でオットマン機能が味わえるし、8人乗りGの最後列の乗り心地も予想以上。ヘタなミニバンの2列目を凌ぐ快適性だ。
運転感覚もビックリでディーゼルノイズがほぼ気にならないうえ、ステアリングフィールもリニアで上質感がある。唯一気になるのは業務用に振ったエクステリア。これにアルファード級の迫力が加われば、世界に類のないアジアを制する高級車になれるはず。日本でも芸能人、政治家が放っとかないって!

小沢コージ KOJI OZAWA

神奈川県横浜市出身。自動車メーカー勤務を経て1990年に二玄社に入社し、自動車情報誌『NAVI』の編集に携わる。1993年にフリーランスとして独立後、現在は「バラエティ自動車ジャーナリスト」という肩書きももつ。

2020 Spring

アクティブな毎日、ゆとりと調和のある生活に役立つクオリティマガジン「Harmonyデジタルブック」をお届けします。