気になるトヨタ車開発者に聞く、全力投球の“感動”ミニバン「NOAH&VOXY」 Photo:Ukyo Koreeda
日本一売れるミニバン、トヨタ・ノア&ヴォクシーが約8年ぶりにフルモデルチェンジ。デザイン、ワイドボディ、驚愕の低燃費ハイブリッド、自在に止まるバックドアや抜群の安全性など、全面進化した“新ノア&ヴォクシー”を、モータージャーナリスト・小沢コージさんと、トヨタ車体開発本部本部長・水澗英紀さんが語ります。
水澗英紀
トヨタ車体㈱開発本部本部長(チーフエンジニア兼務)。1985年トヨタ自動車に入社。2006年からノアヴォクシーのチーフエンジニアとして活躍。2 ~ 3代目のノアヴォクシー、エスクァイア、エスティマ、アイシス、ウィッシュなども手掛けてきた国内ミニバンのプロ。
小沢コージ
神奈川県横浜市出身。自動車メーカー勤務を経て、1990年に二玄社へ入社し、自動車情報誌『NAVI』の編集に携わる。1993年にフリーランスとして独立後、現在は「バラエティ自動車ジャーナリスト」という肩書も持つ。
ミニバンにしかできない部分を突き詰めたかった
- 小沢
- 約8年ぶりの新型ノア&ヴォクシー誕生、おめでとうございます。しかしビックリしました。それぞれ、2つのデザインをパワーアップさせただけでなく、骨格やハイブリッド、先進安全、便利装備まで満載してくるとは! 作りのよさを考えると納得ですが、冷静にみるとミニバンは過渡期だと思うんです。少子高齢化で全体需要は減っている。海外で売れるジャンルでもないし、正直、僕はここまで全面進化するとは思っていなくて。
- 水澗
- 2019年にエスティマがなくなり、その前にアイシスやウィッシュがなくなり、ミニバンは四角いノア&ヴォクシーやアルファード、シエンタに集約されてきました。そのなかで変わらずミニバンが必要なお客さまっていらっしゃるじゃないですか。便利さを求める声にしっかり応えたかったんです。
- 小沢
- 単純に減っているというより、お客様が絞られてきた。逆に求められる性能も明確になっているとか?
- 水澗
- そうですね。需要のほぼ半分は買い換えで、ノア&ヴォクシーからノア&ヴォクシーなど。全体的にSUVが増えて行くなか、SUVと同じ土俵で戦うのではなく、ミニバンにしかできない部分を突き詰めようと。
- 小沢
- だからここまでの進化なんですね。走りや燃費もそうですが、まず僕が驚いたのはミニバンならではのシカケ物です。自由自在に開閉位置が決められる電動バックドアはもちろん、手動のフリーストップバックドアに驚きました。確かに今までのミニバンは狭い駐車場で後ろが開けられないんですよ。バックドアが壁や後ろのクルマに当たるから。でも新型ノア&ヴォクシーはその心配がない。特に電動は開ける方と閉じる方のスイッチが別々に付いているので使いやすい。
- 水澗
- バックドアに関しては、競合のセレナさんがガラスハッチを付け、ステップワゴンさんがわくわくゲートを付け……物凄くアイデアを凝らしてこられました。根本はどちらも駐車スペースの問題で、日本の駐車場って長さが約5.2mから5.4mあるんです。それに対し、基本5ナンバークラスのミニバンだと全長は4.7mありますから、バックドアを開けるとプラス1mで5.7mになってしまうんです。
- 小沢
- スペースが限られた駐車場の中では開けられないと。
- 水澗
- これはどのメーカーさんも気付いているミニバンの大難問でして、バックドアを開けやすくする、使いやすくするというのは絶対やりたかったんです。ガラスハッチもいいですが、上から物を入れなければいけないし、やはりドアの開閉を自由に止められるのが一番いいよねと。
- 小沢
- しかもそれが電動だけでなく手動バックドアでもできるから凄い。
- 水澗
- どちらの開発が大変かというと、手間でいえば手動の方です。キモのフリーストップ機構が複雑なので。担当者が一生懸命考えた結果、生まれたのがあのからくりのギア構造です。
- 小沢
- 窓のロールスクリーンというか、釣り用のリールみたいだなと思ったんですよね。一定方向に動き、逆に動かすと一瞬で止まるという。
- 水澗
- 設計者はいろんなものをバラしていましたね、どこでも止まるメジャーとか。変な話、僕も釣具メーカーのシマノさんに頼めばと言ったくらいで(笑) 。
- 小沢
- 実際、フリーストップバックドアで凄いと思ったのは価格です。ベースグレードにも付いてるのでオプション価格は表示されていないですが、あの便利な開閉機構がそれだけ安いってことじゃないですか。
- 水澗
- あれは、従来の開発委託だと、恐らくできていないですね。
- 小沢
- どういうことですか?
- 水澗
- 今はトヨタ自動車のバン事業がトヨタ車体へ移管、集約されています。かつてはトヨタ自動車が企画し、トヨタ車体がそれを開発委託として受けていました。すると、トヨタ自動車は「この構造を使って」は言えても、 「どこでも止まるバックドアを作って」なんて委託できません。
- 小沢
- なるほど。漠然とした夢のようなシカケは子会社に投げれないと。
- 水澗
- トヨタ車体にが企画から手掛けられるのは大きいです。
- 小沢
- バンが専門の会社だけに、バンで失敗するわけにはいかないですしね。
「こんなもんだよね……」と言うお客さまの期待値を大きく超えたかった
- 水澗
- 日本全体で考えると、人口もファミリーも減っています。そんななか、ミニバンを伸ばすためには、幅広いお客さまに訴求しないといけない。正直、今までのミニバンは運転にしろ先進安全にしろ、ガマンする部分がありましたよね。今回、ノア&ヴォクシーのデザイン差別化はもちろん、チャレンジングな技術を多く盛り込んで、 「ミニバンてこんなもんだよね」と思われているお客さまの期待値を大きく超えたかったんです。
- 小沢
- だからこその超絶進化なんですね。今回凄いと思った部分は沢山あって、デザインから装備まで全部です。正直競合に比べて遅れ気味だった先進安全は、最初から最新世代のTSS(トヨタセーフティセンス)を投入してきましたし、新世代ハイブリッドシステムも投入。飛び道具を3つ同時に入れてきたというか(笑) 。
- 水澗
- どちらもトヨタ自動車に開発して貰っているんですが、今回は担当者が「先進装備をより普及させるために」と、ファミリー向けで台数も出るノア&ヴォクシーへの搭載により前向きになってくれてました。
- 小沢
- 今までなら、最初に載せるのはクラウンやレクサスからでしたよね、たぶん。
- 水澗
- ミニバンはファミリーで使うし、小さなお子さんが遊ぶ中、駐車しなくてはならない場合もある。要は自慢する装備ではなく、リアルな利便性や安全性を感じていただけるお客さまにまずお届けしたいと。
- 小沢
- プロアクティブドライビングアシストにも感動しました。まさにかつてない“予測”の安全技術で、目の前で道を横切ろうとしている人間がいたら、動きを予測してクルマを止めたり、同一車線内で避けたりすることもできる。 。
- 水澗
- 交通事故死者ゼロという高い目標に向け、より台数の出るクルマに最新装備を付けるという方針が定着してきた部分もあるかと。
- 小沢
- それから斜め後ろから来たクルマを感知して、スライドドアを止める安心降車アシストも凄いなと。完全にトヨタのアドバンテージでしょう。
- 水澗
- あれは設計者のアイデアです。元々はレクサスNXにも入っている斜め後ろを検知するブラインドスポットモニターを応用したもので、NXが普通のドアに対して使えるのに対し、ノア&ヴォクシーはそれをスライドドアで使えるようにしました。
- 小沢
- お子さまが後ろから出入りするノア&ヴォクシーにはピッタリですよ。あと、ジャーナリスト目線でいうと、骨格たるプラットフォームから一新したのが一番意外でした。お金がかかるわりに目立たないから、現行の改良版でいくと予想してまして。
- 水澗
- 現行ではフロアを下げることが最優先で、骨格に苦労していました。その方が室内を広くできますからね。今回は考え方を変えて、フロアは高くなってもいいからボディ剛性を上げて、根本的な走りと安全性を高めようと。床が高くなった分は、ユニバーサルステップをお安くご提供しよう。また、ボディ横幅もギリギリ使いやすい範囲まで広げて、広い車内を実現しようと。
- 小沢
- だからこその全幅1.7mを3cm超えたワイドボディなんですね。ここでも「ガマンしなくて済むミニバン」という考え方があったと。それから、僕は乗ってからも驚いたんです。まず1.8Lハイブリッドは、非常にスムーズかつ静か。速くなっているうえに上質感もある。下手すると、実燃費で20km/Lを超える。かたや2Lガソリンはノーズが軽くて、セダンみたいに気持ちよく走れる。こちらも高速燃費で15km/L前後まで行く。まさかここまで素性からよくなっているとは。
- 水澗
- さきほどの話にもつながりますが、プラットフォームが古いと最新パワーユニットを積むのが難しいんです。これまではなんとかハイブリッドを載せてきましたけど、今は最新のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)という考えになり、骨格から新しくせざるを得ない。でも、そうすることで最新世代のハイブリッドユニットと、2Lダイナミックフォースエンジンを載せることができましたし、サスペンションも摩擦の少ない良質なものが使えるようになった。それから今、TNGAのトヨタ車が増えてきたのと同時に、お客さまの走りに対する期待値も上がってきています。それに対応するためにも、新型ノア&ヴォクシーが振り切れた部分はあるのかなと。
日本のミニバンは絶対になくならないと思える圧倒的完成度
- 小沢
- だからこその全幅1.ちなみに今回のノア&ヴォクシー、どちらも顔の個性化が進みましたよね。特にノアはちょっとアルファード似という声も(笑) 。一体なぜですか?
- 水澗
- 一昨年、トヨタが全車全チャンネル併売に踏み切ったことが理由のひとつでもあります。どちらも同じ店で売るのに、なぜ兄弟車が必要なんだと。兄弟車を作るのなら従来の延長線じゃ意味がなく、もっとチャレンジングなキャラクター分けをしなければならない。要は好き嫌いがハッキリ分かれる顔にしようと。その結果生まれたのが、新型のノア&ヴォクシーの顔なんです。
- 小沢
- ミニバンの逆襲というか、再定義みたいなイメージですか?
- 水澗
- そうですね。今まではパッケージング最優先、他は不満が出ないレベルにしようと頑張ってきましたが、今はこうしてミニバンの種類が少なくなってしまった。そんななか、より普及させるためにはミニバンの魅力をもう一度しっかり高め、たとえばエスティマに乗っていた方が新型ノア&ヴォクシーに乗り換えた時に、「やっぱりミニバンはいいな」 、「広さだけでなく、走りも安全性もいいな」と感じていただけることが重要だと思うんです。
- 小沢
- 実際、実燃費で20km/L行くとなると、コンパクトカーから乗り換えても違和感がないレベルだと思いますよ。それに、日本のミニバンは絶対になくならないと思います。この狭い日本で、走るワンルームマンションみたいなクルマは永遠に魅力的ですし、ましてやガマンする必要がないクルマなら、もう鬼に金棒ですって! (笑)
【NOAH】
Specifications
- サイズ
- 全長4,695mm×全幅1,730mm×全高1,895mm
- 乗車定員
- 7名、8名
- 燃費消費率
- ハイブリッドS-Z、S-G、Z:23.0km/L(WLTCモード、国土交通省審査値)
ハイブリッドG:23.2km/L(WLTCモード、国土交通省審査値)
ハイブリッドX:23.4km/L(WLTCモード、国土交通省審査値)
ガソリンS-Z、S-G、Z:15.0km/L(WLTCモード、国土交通省審査値)
ガソリンG、X:15.1km/L(WLTCモード、国土交通省審査値) - エンジン
- 型式:[ハイブリッド]2ZR-FXE [ガソリン]M20A-FKS
総排気量:[ハイブリッド]1.797L [ガソリン]1.986L
最高出力(ネット):[ハイブリッド]72kW(98PS)/5,200r.p.m. [ガソリン]125kW(170PS)/6,600r.p.m.
最大トルク(ネット):[ハイブリッド]142N·m(14.5kgf·m)/3,600r.p.m.[ガソリン]202N·m(20.6kgf·m)/4,900r.p.m. - フロントモーター
- 型式:1VM
種類:交流同期電動機
最高出力:70kW(95PS)
最大トルク:185N·m(18.9kgf·m) - 動力用主電池
- リチウムイオン電池
【VOXY】
Specifications
- サイズ
- 全長4,695mm×全幅1,730mm×全高1,895mm
- 乗車定員
- 7名、8名
- 燃費消費率
- ハイブリッドS-Z、S-G:23.0km/L(WLTCモード、国土交通省審査値)
ガソリンS-Z、S-G:15.0km/L(WLTCモード、国土交通省審査値)
エンジン 型式:[ハイブリッド]2ZR-FXE [ガソリン]M20A-FKS
総排気量:[ハイブリッド]1.797L [ガソリン]1.986L
最高出力(ネット):[ハイブリッド]72kW(98PS)/5,200r.p.m. [ガソリン]125kW(170PS)/6,600r.p.m.
最大トルク(ネット):[ハイブリッド]142N·m(14.5kgf·m)/3,600r.p.m.[ガソリン]202N·m(20.6kgf·m)/4,900r.p.m. - フロントモーター
- 型式:1VM
種類:交流同期電動機
最高出力:70kW(95PS)
最大トルク:185N·m(18.9kgf·m) - 動力用主電池
- リチウムイオン電池
詳しい情報・お問い合わせ
トヨタ自動車株式会社 お客様相談センター
TEL:0800-700-7700 (全国共通・フリーコール)
受付時間:9:00~16:00 年中無休
ウェブサイト: toyota.jp/noah/
toyota.jp/voxy/
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