トヨタが60年続いた新車物流管理に革命的進化!!
豊田会長の悲願、その名も「J-SLIM」年内に全車種全店舗導入へ
文/ベストカーWeb編集部、画像/TOYOTA

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2023年10月、トヨタは都内で記者会見を実施。今年1月から一部車種一部店舗に導入している新たな販売物流統合管理システム「J-SLIM」(ジェイ・スリム/Japan-Sales Logistics Integrated Management system)を、年内にもトヨタ全車種全店舗へ導入すると発表した。これにより全トヨタ車の納期の「見える化」が進み、多くの車種で納車期間の短縮が見込める画期的な仕組みだという。

「これはおれのリベンジなんだ」

会見にのぞんだトヨタ自動車の友山茂樹国内販売事業本部本部長(「TPS(トヨタ式生産方式)の伝道師」という異名を持つ)は、昨年(2022年)6月に豊田章男会長から直接電話があり、この「J-SLIM」の開発と早期導入を依頼されたことを明らかにした。

章男会長は「これはおれのリベンジなんだ」と語ったという。

「J-SLIM」画面。写真左に写るのが友山本部長、左画面の左列が各車種で、緑のポイントが注文可能キャパシティ。右にいくほど短納期となる

約30年前、トヨタの業務改善課長だった章男会長は、当時の「自動車製造メーカーはひたすらたくさんクルマを作り、それをできるだけたくさん販売会社に売ってもらう」という流通の仕組みについて、「このままではまずい」と、改善を提案したとのこと。

販売会社は(人気車をなるべくたくさん確保したいために)一部車種に大量の受注を入れ、いっぽう製造メーカーは、その受注のどれが切迫していて、どれが(いわゆる)空注文なのか判別する手段を持たないため、注文が入った台数を入った順に処理していくしかなく、結果、商品(新車)の滞留や大幅な偏りが生まれ、ユーザーや各販売店では納期が長期化したり、納車日が二転三転することが常態化していたからだ。

問題意識はあったものの、いっぽうで生産管理や調達部門は、トヨタ自動車にとって王道ど真ん中の花形部署。「あの」豊田章男氏とはいえ、一課長だった当時、それぞれの部署の根本的な業務改善提案には、耳を傾けてはもらえなかったそう。

それでもまだ、車種数やグレード数、部品仕入れ先が少なく、(社会が安定していて)それらが滞りなく流通していれば、この方式(月に何回か、メーカー側と販売会社が合同で会議して供給車種と台数を調整するというアナログ式な解決法)でなんとか通用していた。

しかし時代が下るにつれ、トヨタを筆頭に車種数やグレード数は増え続け、メーカーオプションとの組み合わせは複雑化の一途をたどり、部品の仕入れ先も多様化、そうすると、新型車の注文と製造・流通の危ういバランスは、不均衡に陥った。

そのうえで、新型コロナ感染症の流行による世界中の工場停止と、半導体を中心とした部品の流通不安定化が襲い、状況は劇的に悪化。膨大な受注残が発生し、その全容を生産サイドが正確に把握できず、絶対的な納期は超長期化し、多くの車種で注文時から納車時期が二転三転する事態となった。

冒頭の「抜本的な物流システムの見直し」は、こうした背景のもとで友山氏へ依頼された。

トヨタが目指す「J-SLIM」の概要図

【注意】「全車種の納期が短縮」というわけではない

新たに構築された「J-SLIM」の特徴は、一言でいえば「メーカー側からも販売店側からも、いまどのクルマにどれくらいの注文が入っており、注文したクルマがいまどの工程にあっていつ頃納車されるか、リアルタイムで見える仕組み」。

現時点から2年先までの注文(システム入力)が可能で、メーカー側と全販売会社の双方がリニアに状況を把握できる。調達時期の見通しが比較的難しい部品の納品管理も透明化され、法改正やモデルサイクルにより「改良/価格改定」を受ける時期も、メーカーと各販売会社が共有することで、「納期を待っている間に改良や価格変更が発生して注文を取り直す」という事態が減少する。

ざっくり言えば、大雑把な受注がなくなることで、商品の偏りが減って、納期が透明化するわけだ。

トヨタといえば、全国各地に(「自販時代」から続く)「その地域に根差した競争意識の強い販売会社」を数多く抱えており、そうした各社の足並みを揃えて一気に(透明化された)販売管理システムを導入する、というのは至難の業だったのでは…と予想したが、会見で友山氏にその旨を聞くと、意外や「販売会社の皆さんからの反発はほぼなく、皆さん歓迎してくれました」とのこと。

コロナ禍と半導体不足に苦しんだこの3年、多くの車両について「納期不明」、もしくはいったん決まった納期が何度も変更…と告げられた経験を持つユーザーは多いのではないか。ユーザー側も苦しかったが、販売店側も大変だったこと、これをなんとか改善したいという願いが強かったのだと察せられる。

トヨタの組み立て工場。コロナ禍では「生産ラインが動かせない」というジレンマがあった

少なくともトヨタでは、この「J-SLIM」の導入により「納期の揺れ」は大幅に減少され、また(商品の滞留や偏りが減るぶん)全体的な納期も短縮されることになる。

今年1月から10月にかけて、トヨタの平均納期は、トヨタブランドで「6カ月」から「4.7カ月」へ、レクサスブランドで「5.5カ月」から「3.5カ月」へとそれぞれ短縮している。もちろんこの短納期化は、増産体制が整ったことや各種物流関連の改善努力も寄与しているが、そのうえでJ-SLIM導入により(増産し増量した)商品が滞留することなく管理され、スムーズに「現場」へ届けられた効果は大きい。

これまで60年以上続いた、自動車を作る側と売る側の(ある種の不文律をベースとした)需給の仕組みが、この「J-SLIM」の導入により一気に刷新する。今年1月の新型プリウスから導入され、年内には全車種全店舗へ展開するというから、「効果」は加速度的に進むと見た。「巨人」トヨタの力が、さらに強まりそうだ。他メーカーもがんばってほしい。

最後に一点注釈を。このJ-SLIMの最大の恩恵は「見える化」による物流の滞留や偏りの解消、「待っているあいだのストレス解消」にあるため、ランクル300やレクサスLX、新型アルファードなど、生産台数が限られる特殊な超人気車種については、絶対的な需給格差が埋まっておらず、今後も長納期化は続かざるをえない見込み(現時点ではそうした「納期が見えない=納車前にモデル改良が実施される見込みのため納期を出せないモデル」については、「注文停止」という対応をとっている)。

いやもちろん、いま人気があるからといって即増産など一朝一夕にできるわけがなく、世界的な需要バランスや部品供給、組み立てラインの問題、人気が続くかどうかわからないというジレンマがあるのはわかるのですが…。多くのお客さんが待ち望んでいる超長納期(とそれにともなう中古価格の高騰)は困るわけで…、こうした一部の人気車については、気長に待ち続けるか、リースや(KINTOなどの)サブスクサービスで一時保有を狙う…というのが、新時代の「こだわりのクルマの持ち方」なのかもしれない。

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