2025 WRC World Rally Championship2025年もアツい!WRC世界ラリー選手権
ラリージャパン取材記者に聞く
ラリーの魅力と生観戦の楽しみ方
Text:Daisuke Katsumura

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2024年のWRC(世界ラリー選手権)は、11月21日(木)~11月24日(日)に行われた最終戦のラリージャパンで逆転優勝を果たし、TOYOTA GAZOO Racingチームが4年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得しました。2025年も開幕を前に、早くも連続タイトル獲得への期待が膨らみます。今回は、ラリーの取材経験が豊富な自動車研究家、山本シンヤさんに、ラリーの魅力やWRC生観戦の醍醐味を伺いました。

ついにWRC2025シーズンが開幕!
今年もTOYOTA GAZOO Racingの活躍に期待が高まる

大逆転の末にマニュファクチャラーズタイトルの連覇を成し遂げた2024年の閉幕から約2カ月、2025年1月23日(木)に開幕戦となる「ラリーモンテカルロ(モナコ・フランス)」がスタートを切ります。2025年シーズンは、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、南米を巡ったあと、11月下旬の最終戦となるサウジアラビアまで、2008年以来最大規模のカレンダーになっています。

2024シーズン最終戦で逆転勝利を果たし、見事マニュファクチャラーズタイトルの4連覇を達成。

大逆転で終了したWRC2024シーズン
TOYOTA GAZOO Racingはシリーズタイトル4連覇を達成!

まずは、2024年の最終戦、日本の愛知県豊田市などで開催されたラリージャパンを実際に取材した自動車研究家、山本シンヤさんに、もっと楽しくラリーの魅力が味わえる基礎知識や観戦方法などを伺いました。これさえ知っておけば、2025年のWRCと、11月に日本で開催されるラリージャパンをもっと楽しめます。

まずは、2024年11月21日(木)~11月24日(日)に開催された、WRC(世界ラリー選手権)の2024年シーズン最終戦となるフォーラムエイト・ラリージャパンを振り返ってみましょう。

2024年のラリージャパンは、トヨタ自動車の拠点がある愛知県豊田市をはじめ、岡崎市や岐阜県恵那市などで開催された。

愛知県豊田市や岡崎市、岐阜県などの周辺で開催された最終戦は、11月24日(日)の開催最終日に、TOYOTA GAZOO Racingチームの33号車のエバンス/マーティン組が、劇的な大逆転を遂げ優勝。17号車のオジエ/ランデ組が2位と1-2フィニッシュ。さらに18号車の勝田/ジョンストン組が4位という結果に。TOYOTA GAZOO Racingチームが上位を占めたことにより、ポイント差でヒョンデチームに逆転し、2024年のマニュファクチャラーズタイトルを2023年に引き続き獲得。4連覇という結果でシーズンの幕をとじました。

この最終戦を観戦、取材した自動車研究家の山本シンヤさんに、ジャーナリストとしての視点だけでなく、ファンとしての目線で2025年シーズンやラリーの魅力について知っておくべきことを解説してもらいます。

山本シンヤさんに聞く
WRCの魅力とは?

----ずばり、WRCの魅力はどんなところですか?

まずラリーの魅力は、普段走っている一般道を、多くの人が知っている市販車ベースのマシンでレースをするところです。そこが、サーキット舗装が施されたレーシングコースでの戦いとは大きく異なる点です。一般車が侵入できないクローズドコースとはいえ、公道をラリーカーが物凄いスピードで駆け抜ける様子は、まさに「日常の中の非日常」です。

また、観戦スタイルもサーキットのレースとは異なります。山の中などを走るSS(スペシャルステージ)を見に行ったり、ラリージャパンではスタジアムを疾走するラリーカーを観戦したりすることも可能です。さらに、リエゾンと呼ばれるSSとSSをつなぐ移動区間の一般道では、移動のために街中を一般車と並走するラリーカーを間近で見ることができるのも、WRCならではの魅力ではないでしょうか。

----日本で開催されるラリージャパンの特徴は?

WRCは世界各国を転戦しながら年間タイトルを争います。それぞれの国や地域で異なる気候や風土によって、各ステージをターマック(舗装路)からグラベル(未舗装路)、サンド、さらには天候によっては雪や大雨など、さまざまな条件下で走行しなければなりません。各国の特徴的な景色を背景に、ラリーカーが走る姿を見ることができ、「観戦でその国を知ることができる旅」でもあるのが、ラリーの魅力だと思います。

WRCはスノー(雪)コンディションで競技を行うこともある。

2025年も11月の開催が決まっているラリージャパン。メインのコースは山間部の狭い舗装路になります。晩秋の紅葉が見頃のタイミングで、「日本の峠」を走るSSのステージは、紅葉がきれいな山道を疾走するラリーカーを観戦することが可能です。

またWRCはファンサービスを大事にしているのも特徴です。ドライバーとファンの距離もほかのモータースポーツと比べて圧倒的に近いし、ピット内での作業風景も基本的にすべてオープンです。モータースポーツの中でもかなり特殊です。

2025年も、紅葉のシーズンにラリージャパンが開催される。

----WRCを観戦するうえで、知っておくべき基礎知識を教えてください。

まず、ラリーはスタンドに座って観戦するだけではありません。決められた観戦場所へ行くのに、山道を歩くケースもあります。そのため、ハイキングに行く感覚で、動きやすい服装と歩きやすいスニーカーなどで観戦するのが基本です。さらに、高度があり、平地よりも寒いことも多く、天候変化もあるため雨が降ってくる可能性も。雨具や防寒装備も必須で、観戦場所によっては折りたたみ可能な椅子や飲料水、簡単な食料の確保も必要です。少々大げさに聞こえるかもしれませんが、ラリー観戦に慣れている海外では当たり前の知識といえます。

海外ではさまざまな環境や天候変化に備えて万全の装備で挑むファンが多い。

----ラリージャパンでの生観戦で重視すべきことは?

まず、自分が観戦する場所やラリーカーが走る時間帯、そこから移動できる別の観戦場所などの情報を事前に調べておくと、効率よく観戦できます。スマートフォンやタブレットなどを使って、常にオフィシャルサイトをチェックできるようにしましょう。また、ラリージャパンの本部が設置されていた豊田スタジアム(2024年)でも、情報の入手が可能です。競技内容も時間とともに刻々と変化するので、リアルタイム情報を逐一チェックしておくことも必要ですね。

2024年のラリージャパンでは、豊田スタジアムに大会本部が設置された。

----日本のファンにとって、実際に観戦する際のメリットとデメリットを教えてください。

まずメリットは、画面越しでは決して味わうことのできない臨場感ですね。山中の狭い道を、想像をはるかに超えるスピードで駆け抜けて行くラリーカーを間近で見るのは壮観です。「長時間歩くのはたいへんだったけど、やっぱり来てよかった」と感じる人は多いようです。ラリーカーが通り過ぎるのはほんの一瞬ですが、それを目の前で見るためだけでも訪れる価値は絶対にあります。

また、ラリーは決められた観客場所で観戦するだけでなく、SSをつなぐリエゾン区間でひいきのラリーカーを沿道から応援することもできます。こういった、生観戦でしか味わえない特別な体験ができるのも魅力です。

SSとSSとをつなぐリエゾン区間は、間近でラリーカーを見ることができる貴重な機会。

デメリットは、ひとつ挙げるとすれば、競技全体を見通せないという点です。観戦する場所は一部なので、リアルタイムでレース全体を把握するのはなかなか難しいのです。SSは広い範囲に点在しているだけでなく、それぞれが山中にあると移動にも時間がかかります。また、山道を何時間も歩いて観戦場所に到着しても、トラブルでそのSSでの競技がキャンセルになることも。ラリーカーをまったく見ることなく帰らざるを得ない・・・、そんなこともありますが、「これもラリー」なんです。

ラリージャパンでは、日本ならではの景観の中でラリーカーが駆け抜ける。

---2024年は取材するジャーナリストとして、どんな点に注目しましたか?

2024年はTOYOTA GAZOO Racingチームとヒョンデチームの一騎打ちでした。最終戦であるラリージャパンでタイトルが決まるというときに、最終日の最終ステージで逆転劇が起こるというドラマも生まれましたよね。そういった意味で2024年シーズンのWRCは、ここ数年で一番盛り上がったと思います。ジャーナリストの間でも、あそこで逆転劇が繰り広げられる結末を予想した人は少なかったはずです。この瞬間は、関係者はもちろん、ジャーナリストたちも大いに盛り上がりました。

私は自動車研究家なので、勝敗はもちろんのこと、その背景にあるメーカーとしての取り組みやマシンの研究開発にも注目してレースを見ていて、ひとつのレースでの勝敗だけを見ているわけではありません。トヨタは「モータースポーツを起点とした、もっといいクルマづくり」というコンセプトを掲げています。レースで得たノウハウや技術を市販車にフィードバックしつつ、改良された市販車をベースとすることで、ラリーカーもよりよくなるという好サイクルを生み出すことに成功しています。

TOYOTA GAZOO Racingチームは、市販車のヤリスをベースにレース仕様に改良して参戦している。(PHOTO : Rally Japan)

----いちファンとしての山本さんは、2024年のラリージャパンをどんなポイントに注目して観戦しましたか?

普通のファンと一緒です(笑)。やはり日本人ですから、TOYOTA GAZOO Racingチームを応援していました。当然、あの逆転劇には感動しましたよ。3日間で豊田スタジアムSSSと併設されたサービスパーク、伊勢神トンネルSS、岡崎SSS、三河湖SS、表彰式会場などに行きました。仕事で訪れたわけですが、いろいろなタイプのエリアで観戦したので、すごく満喫できましたね。

中でも行ってよかったと思ったのは、豊田スタジアムですね。屋内なので、本来のラリーたるべき観戦場所ではありませんが、2台が同時にスタートして競うSSSはエンタメ性が非常に高く、ルールに詳しくなくても単純に楽しめるのがよいですね。また、巨大モニターでレースの状況を確認することができるし、デモランやラリーカーへの同乗体験、ライブなど、さまざまなイベントが充実しています。移動せずに丸一日楽しむことができる豊田スタジアムは、ビギナーにはおすすめの観戦場所といえます。

2024年10月27日に韓国のエバーランドスピードウェイで「Hyundai N x TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL」を共同開催した様子。

---最後にWRC2025年シーズンの開幕へ向けた注目ポイントを教えてください。

2025年も、TOYOTA GAZOO Racingチームの最大のライバルとなるのは、ヒョンデチームでしょう。ここ数年は特に力をつけてきており、チーム力でも拮抗しています。強敵ではありますが、世界選手権であるWRCというカテゴリーで、アジアの2カ国が接戦を繰り広げているのは誇らしく感じます。2024年10月に韓国で、この2チーム合同によるイベントも開催されました。ヒョンデチームのチョン会長が、2023年のラリージャパン開催時に来日した際、「競争するけど、協調もしていきましょう」と豊田章男会長と意気投合したことから生まれたイベントで、こうした結束がアジア勢がWRCを席巻している要因になっています。

レギュレーションの視点で見ると、2025年シーズンの最大の変更はハイブリッドシステムが搭載されない点です。これによって、どのようにチームの勢力布図が変わるかが見ものとなります。また、2024年シーズンのドライバーズタイトルはヒョンデチームのヌービル選手が獲得しました。TOYOTA GAZOO Racingチームのドライバー体制は大きく変わりませんが、来シーズンはドライバーズタイトル奪還が最大の目標となるはずです。

2025年シーズンもいよいよ開幕です。レギュレーションの変化やドライバー体制の変更で、どのようなレースが展開されるか、今から楽しみですね。

自動車研究家 山本シンヤさん

1975年生まれ。自動車メーカーの商品企画、チューニングパーツメーカーの開発を経て、いくつかの自動車雑誌で編集長/編集次長を務めたあと、2013年にフリーランスに転身。元エンジニア、元編集者の経験を活かし、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを「わかりやすく上手」に伝えることをモットーに、「自動車研究家」を名乗っている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員。

TOYOTA GAZOO RacingのWRCスペシャルサイト
https://toyotagazooracing.com/jp/wrc/



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