TOYOTA AUTOMOBILE MUSEUMトヨタ博物館で、胸躍るクルマ体験を

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トヨタ博物館は単なる展示施設を超え、クルマ文化を多角的に体験し、学び、楽しむことができる総合的な空間です。2025年1月に就任した新館長のもと、技術と文化の両面からクルマの魅力を伝えるさまざまな取り組みが進められています。

Text:Fumihiko Tomonaga
Edit:Yasumasa Akashi(pad)

トヨタ博物館に新館長が就任

愛知県長久手市の広大な敷地に立つトヨタ博物館は、クルマの誕生から現代に至るまでの歴史と文化を体系的に学べる世界屈指の自動車専門ミュージアムです。トヨタ自動車創立50周年記念事業の一環として1989年4月に開館し、2025年7月には累計来館者が816万人を超えるなど、多くの人に親しまれています。

博物館のふたつの建物のうち「クルマ館」では、19世紀末のガソリン自動車誕生から現代まで、日米欧の名車を時代順に展示。クルマの歴史を約150台の車両で一望できます。2025年4月には3階の展示を一部入れ替え、国内外で人気の高い1980~90年代の日本車を充実させました。

20世紀の数々の名車が並ぶ「クルマ館」3階の圧巻の風景。

もうひとつの「文化館」は2階に「クルマ文化資料室」を設け、「移動は文化」をテーマに、博物館のクルマに関わる20万点におよぶ膨大な文化資料から約4,000点を展示。中でも時間軸に沿って体系的に並ぶ約800台ものミニチュアカー(1/43模型)が収められた大型ケースが目を引きます。さらにフランスのガラス工芸家ルネ・ラリックが製作した全29種類の貴重なガラス製カーマスコットのほか、自動車玩具、ポスター・カタログ、切手、ライセンスプレートなど、多彩なコレクションは一日を費やしても見飽きないほどです。

「クルマ文化資料室」にはクルマにまつわる多様なコレクションが揃っている。

「クルマ館」の1階にはミュージアムレストラン「AVIEW」もあり、見学途中に休憩が可能です。クルマのプレートに乗ったお子様ランチや、「トヨタ 2000GT」の名前の付いたドッグサンドなど、クルマにインスピレーションを得たメニューの数々が舌と目を楽しませてくれます。

「クルマ館」の1階にあるミュージアムレストラン「AVIEW」。ロールカーテンはクルマのデザイン。

トヨタ博物館で出合える時代を彩った名車たち

2025年1月、トヨタ博物館に、エンジニア出身者として初めて榊原康裕館長が就任しました。榊原氏は1988年にトヨタ自動車に入社以来、「ランドクルーザー」や「カローラ」など、トヨタの主力車種の開発に携わってきたキャリアの持ち主。就任にあたって「時代を変えたクルマ誕生の裏にある苦労や開発ストーリー、技術的背景まで、丁寧に伝えていきたい。そして次世代を担う子どもや若者にも博物館へ足を運んでいただき、クルマへの興味を深めてもらえれば」と抱負を語っています。

榊原 康裕(さかきばら やすひろ)
1988年トヨタ自動車入社。第1トヨタセンター ZV(7代目カムリ製品企画主査・8代目カムリ コンセプトプランナー|2008年―)、Lexus International Co. ZLチーフエンジニア(LEXUS ES、UX、LM、LBX 開発責任者|2017年―)などを経て、2025年にトヨタ博物館 館長に就任。

トヨタ博物館を巡れば、エポックメイキングな名車の数々に出合えます。展示の冒頭を飾るのは、1886年にカール・ベンツが製作した世界初のガソリン自動車として知られる「ベンツ・パテント・モートルヴァーゲン(レプリカ)」。また、トヨタ自動車の前身・豊田自動織機製作所が1936年に開発し、日本の自動車産業発展の原点となった「トヨダAA型乗用車(レプリカ)」(博物館の開館にあわせて1986年に復元)。あるいは当時の最新技術を結集した世界水準の美しきスポーツカー「トヨタ 2000GT」など、自動車愛好家の記憶に残る車両が、次々と目の前に現れます。

榊原館長の心に留まるのは、ひとつは1898年に日本に初めて持ち込まれたクルマとされる「パナール・エ・ルヴァッソール」。“日本初の輸入車は何か”に関する見解が分かれていた中、1996年、フランスでトヨタ博物館の学芸員が雑誌『LA FRANCE AUTOMOBILE』の中に該当する記事を発見。長年の論争に終止符が打たれたとか。このクルマは世界初のFR方式でもあり、1895年の世界初の自動車レースで最速タイムを収めたそうです。そしてもうひとつが「ボルボ PV544」。これも世界で初めて3点式シートベルトを採用したクルマとのことで、その特許をボルボ社は無償で公開。おかげで世界中の自動車メーカーが装備できるようになり、「100万人以上の命が救われた」といわれる、とても意義深い一台です。「背景にあるこうした物語を知れば、クルマへの興味もいっそう高まるはずです」と榊原館長。

日本初の輸入車「パナール・エ・ルヴァッソール」。

そして2025年9月28日(日)までは、夏休み特別企画として「乗ってみよう!ドキドキワクワク はたらくクルマ」展を開催。ハイウェイパトロールカーや消防車など、普段、乗る機会のない珍しいクルマにも乗車できる貴重な体験イベントで、子どもから大人まで好奇心がくすぐられます。その後、2025年10月3日(金)~2026年4月5日(日)の期間には、文化館2階の企画展示室で「What’s JDM?-世界が熱中する’80-’90年代の日本車ー」展を開催予定。JDMとは「Japan Domestic Market」の略で、今回の企画展では、クルマ館の展示でも力を入れている1980〜90年代に生産された日本車をフィーチャーし、海外の視点からその魅力を探ります。

企画展「What’s JDM?-世界が熱中する’80-’90年代の日本車ー」

見て、触れて、楽しめる体験空間

トヨタ博物館の魅力は、実車を見学できるだけではなく、文化資料の展示や体験型プログラムを通じて、楽しみながら学べる空間を提供している点にもあります。

2024年にリニューアルオープンした図書施設「クルマの図書室」。

2024年秋には、文化館3階にある図書館が大規模なリニューアルを行い、「クルマの図書室」としてオープン。フロアには5つのコーナーとカタログコーナーのほかに、親子で楽しむ「のりもの・えほん・としょしつ」を設け、クルマ関連の書籍や雑誌など貴重な資料を多数収蔵。クルマについて多角的に深く学びたい方に開放されています。そして現在は「未来のクルマ屋へ-夢が動き出す本たち-」と称した展示も実施(2025年9月30日(火)まで)。これは、トヨタで活躍している社員が、ものづくりやクルマに興味をもつきっかけとなった本について、自身のコメント付きで紹介する選書フェアで、豊田市立中央図書館とのコラボレーション企画です。

豊田市立中央図書館とのコラボ企画「未来のクルマ屋へ-夢が動き出す本たち-」。

榊原館長の就任を機に、博物館内ではみんなでアイデアを出し合って、より幅広い層にクルマの魅力を伝えるため、いくつかの試みを始めました。そのひとつが、2025年の夏休みに実施した「学芸スタッフツアー」です。これは館内を巡る通常のガイドツアーに加え、デザインやモータースポーツなど、多彩なバックグラウンドをもつ学芸スタッフたちが、各自の専門や関心のある領域について、深掘りをして解説するもの。「カーデザインが決まるまで!」「異なる視点から展示車両を見てみよう!カーマスコット編」など、テーマごとに異なる切り口で展示品を紹介しました。

ガイドツアーの様子。

単に過去の名車を紹介するだけでなく、クルマ文化の継承と未来への橋渡しという重要な使命をトヨタ博物館は担っています。そうした活動のベースにもなっているのが、クラシックカーの「動態保存」です。多くの博物館が静態展示にとどまる中、トヨタ博物館では収蔵車両のほとんどを走行可能な状態で保存するということを実践してきました。

テスト走行前の「トヨタ 2000GT」のメンテナンスの様子。

今までも博物館では定期的に「走行披露」イベントが開催されてきましたが、2025年からそれとは別に、不定期で小規模な会を設けることに。これはレストア直後の展示車両が試験走行する様子を来館者に公開するもの。往年の名車が、エンジン音や排気音を奏でながら専用コースを走行する姿は、写真や映像では伝わらない生の迫力があり、クルマの魅力を肌で感じられます。レストアのスケジュールの都合上、試験走行は直前に決まることが多く、参加人数も限られますが、その分スタッフとのコミュニケーションの機会が多くあるため、参加した方の満足度が高く、毎回好評とのことです。

未来へつなぐクルマ文化

2025年4月、トヨタはヘリテージ活動を強化する「TOYOTA CLASSIC」を発表。これは従来、会社の各部門が個別に行ってきた歴史的車両の保存や修復技術の継承といった活動を、トヨタ博物館が中心となってより体系的に、一体感をもって推進しようというもの。この取り組みを通じて、クルマ文化がさらに醸成されていくことが期待されます。

榊原館長は、自動車の今後についてこう語ります。「自動車産業は100年に一度の大変革期を迎えています。電動化、自動運転、コネクティッド化といった革新が加速する中で、私たちは過去の挑戦と創意工夫に学びながら、持続可能なモビリティ社会を築いていかなければなりません」

また、博物館の使命については、「開館時に豊田章一郎社長(当時)が掲げた『皆さまとともに自動車の歴史を学び、人と車の豊かな未来のための博物館とする』という理念を、今あらためて胸に刻み、クルマ文化の発信拠点として、過去と未来をつなぐ架け橋となる。そのためにも来館者のリアルな声やSNSを通じた対話を大切にしながら、ともに未来のモビリティを考える場でありつづけたいと考えています」と話しています。

トヨタ博物館は、人とクルマの歩みを見つめ、次の時代に向け、その意味を問いつづける生きたミュージアム。そこには、クルマの進化を紡いだ人びとの夢や希望、情熱が息づいています。その鼓動を感じつつ、過去から未来へと続く壮大な物語を自らの足でたどれば、心揺さぶられる体験になるはず。時を超えて受け継がれるクルマの叡智に触れる旅に、ぜひ出かけてみてはいかがでしょうか。

トヨタ博物館

住所:愛知県長久手市横道41-100
電話番号:0561-63-5151(代表)
開館時間:9時30分~17時(入館受付は16時30分まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
入場料:大人1,200円、シルバー(65歳以上)700円、中高生600円、小学生400円、未就学児無料(いずれも税込み)
※文化館1階、3階は無料でご入場いただけます。
※TS CUBIC CARDをご提示のうえ、カードでお支払いいただくと、入場料が200円引き(小学生は100円引き)となります。
URL:https://toyota-automobile-museum.jp/

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