TOYOTAのマニュアル車あえてシフト操作を楽しむ
マニュアル車は最強の脳トレ術

クルマの電動化とデジタル化が進む現在、MT(マニュアルトランスミッション)車は希少な存在になりつつある。しかし一見煩わしく思えるシフト操作も、クルマとの一体感を味わえるという意味で、今となっては貴重で贅沢な体験なのかもしれない。
しかもMT車は両手両足をフルに使って運転操作を行う必要があるため、それがいわゆる「脳トレ」につながる可能性もあることが指摘されている。
この時代にあえてMT車を選ぶ意味と価値は何なのか?そして「今でも買えるMT車」には、果たしてどんなモデルがあるのだろうか?
文/善福寺正文 写真/トヨタ自動車
デジタルな世の中だからこそ、マニュアルの「身体性」が逆に新鮮。

昭和の時代はMT車こそが自動車の主流であり、AT(オートマチックトランスミッション)車は「あくまでも傍流」というイメージの立ち位置だった。だがいつの間にか形勢は逆転し、今や新車販売におけるMT車の比率は数パーセントでしかない。
しかしそんな時代にあっても、MT車を選ぶ意味と価値は大いにある。
あえてMT車を選ぶべき一番の理由は、なんといっても「運転が楽しい」ということに尽きる。機械やコンピューターではなく自分の意思でギヤを選択し、自らの手と足でクラッチとシフトレバーを操作する身体的で直接的な感覚は、多くの物事がデジタル仕掛けになってしまった現代だからこそ、我々に新鮮な喜びと面白みを感じさせてくれるのだ。
「脳トレ」につながるかも?MT車の意外な効能

そしてMT車の運転は、いわゆる「脳トレ」につながる可能性も秘めている。
AT車はアクセルとブレーキという2つのペダルを踏んだり離したりするだけで、とりあえずは加速と減速、そして停止を行うことができる。それに対してMT車は、クラッチを含む3つのペダルを両足で操作し、さらには(右ハンドル車の場合は)左手でシフトチェンジも行うことになる。
しかもそれらのペダルやレバーは単に動かせば良いというものではなく、あくまでも速度や状況に応じた「適切な操作」を都度判断しながら行わない限り、MT車をスムーズに走らせることはできない。
そういった身体行為が脳の活性化にどれほどの影響を及ぼすかについての正確で科学的な判断は、専門家の研究結果を待たねばならないが、五感をフルに使うMT車の運転が「脳への刺激」となることだけは、おおむね確かであるといえるだろう。
カックン運転にならない上手なMT運転術とは

とはいえMT車を初めて運転する人や、久しぶりに運転する人は「・・・大丈夫だろうか?」と心配に思うこともあるかもしれない。結論から申し上げると「すぐ慣れるから大丈夫!」ということにはなるのだが、一応、簡単なコツをご紹介しておこう。
まずクラッチのつなぎ方は、左足でペダルを踏み込み、シフトレバーを1速に入れてから、ゆっくりと左足の力を抜いてクラッチペダルを元に戻しつつ、右足でじわじわとアクセルペダルを踏み込んでいきながらクラッチペダルを完全に戻す――というイメージで行えば、エンストしてしまうことはまずないはず。
そしてシフトチェンジは、一般的にはエンジン回転数2000~3000rpm付近を目安にシフトアップしていくと、スムーズに加速していくことができる。とはいえ車種によって違いもあるため、最初のうちは、スムーズにギヤがつながる回転数を探りながら操作していくといいだろう。
MT車の運転における難関ポイントのひとつは「坂道発進」だが、近年のMT車は、坂道でブレーキペダルから足を離しても、しばらくの間は車体が後退しない「ヒルスタートアシストコントロール」などの機能が付いている車種が増えている。そのため、昔のMT車のように緊張する必要はないと言っていい。
今でも買うことができる人気のMT車は?
昔と比べれば、MTをラインアップする車種はずいぶんと少なくなった。しかし今でも下記のトヨタ車であれば、MTを操作しながらのダイレクトで痛快な走りを存分に堪能できる。
●ヤリス

1.5リッターガソリンエンジンを搭載する「Z」「G」「X」グレードの2WD車で、6速MTを選択可能。程よいパワーの1.5リッターだからこそ、そのエンジンパワーをMTによってフルに引き出しながら走る喜びと面白みは格別だ。
●GRヤリス

すべてのグレードで8速ATのほか、6速iMT(インテリジェンス マニュアルトランスミッション)も選択可能。「iMTスイッチ」を押すと変速後のエンジン回転数が自動的に調整され、よりスムーズでスポーティな変速を楽しむことができる。
●GR86

すべてのグレードに6速MTを用意。こちらはシフトフィールにとことんこだわった6速MTで、次のギヤに吸い込まれるような、なめらかな感触が磨き上げられている。
●スープラ

3リッター直列6気筒ターボエンジンを搭載する「RZ」グレードに6速iMTが用意されている。シフトノブは握りやすく操作しやすい球体形状で、ショートストロークのレバーと相まって、小気味よい操作フィーリングを愉しめる。2026年春の生産終了がすでに決定している点が惜しまれる。
MT車を手に入れたら「イベント」に参加してみよう

普通の公道を普通に走るだけでも楽しいのがMT車だが、せっかくMT車を手に入れたのであれば、初心者向けのサーキット体験走行や、同好の士が集まるミーティングなどに参加してみると、今まで知ることのなかった「クルマの新たな楽しみ方」が見えてくるかもしれない。
例えばトヨタ自動車が主催している「GR CIRCUIT EXPERIENCE in 富士スピードウェイ(本コース)」は、モータースポーツ活動から得られた知見と経験で開発された「GRシリーズ」のクルマをレンタルして、手軽にサーキットで楽しめるというプログラム。先導車付き走行なので、サーキット走行が初めてという人でも安心して楽しめるだろう。
自身のMT車で富士スピードウェイまでドライブし、そして富士スピードウェイの本コースをGRシリーズのMT車で疾走できるというのは、MT免許を所有し、MT車を運転できる人だけが味わえる貴重な体験。興味がある方は、ぜひご注目いただきたい。
■GR CIRCUIT EXPERIENCE in 富士スピードウェイ(本コース)公式サイト
https://toyotagazooracing.com/jp/experience/circuit-challenge/fuji/