手のひらサイズでたどる自動車史
トミカに息づくトヨタ車の魅力

Car

文・コレクション協力/片岡英明 写真/森山良雄

1970年夏、日本の子どもたちに身近な国産車を届けたいという思いから生まれたトミカ。実は、最初に発売された6車種のうち4車種を占めたのがトヨタ車である。以来、クラウン、カローラ、ランドクルーザー、ハイエース、スープラなど、時代を映す数多くのトヨタ車がトミカとして登場してきた。手のひらに収まる小さな一台を通して見えてくるのは、トヨタ車の歩みであり、日本の自動車文化の記憶である。

トミカの始まりとトヨタ車

筆者のコレクションにある、最初に発売されたトミカのうちの3台。左からクラウン パトロールカー、クラウン スーパーデラックス、コロナ マークII 1900ハードトップ。

1970年8月18日、日本に新しい自動車文化が誕生した。トミー、現在のタカラトミーが発売したダイキャスト製ミニカー「トミカ」である。それまで小さなミニチュアカーは海外製が中心で、日本の子どもたちにとって身近な国産車を再現したミニカーは多くなかった。そこでトミーは、街で見かける日本のクルマを手のひらサイズで届けたいという思いから、トミカを世に送り出した。

その第1弾として選ばれた6車種のうち、ダットサン ブルーバード SSS、フェアレディZを除く4車種がトヨタ車だった。コロナ・マークIIハードトップ、クラウン・スーパーデラックス、クラウン・パトロールカー、そしてトヨタ2000GTである。つまりトミカの歴史は、始まりの時点からトヨタ車と深く結びついていた。以来、トヨタ車はトミカのラインアップにおいて、いつの時代も中心的な存在であり続けている。

パッケージの基本サイズに収めるためトミカはボディサイズによってスケール(縮尺)が異なる。左からシエンタは1/60、ランドクルーザー(300)は1/66、コースター(ようちえんバス)は1/89。

トミカの標準的なサイズは約3インチ。子どもの手のひらに収まり、しっかり握って遊べる大きさだ。スケールは1/60から1/64程度が中心だが、車種によって異なる。これは、横幅約78mm、高さ約39mm、奥行き約27mmというパッケージの基本サイズに収めながら、それぞれのクルマらしさを表現するためである。限られたサイズのなかで実車の印象を凝縮することに、トミカならではの工夫がある。

幅広いラインアップが映すトヨタの歩み

新旧さまざまなクラウン。トヨタ自動車を代表する高級車の歴史を、手のひらの上で感じられるのもトミカの醍醐味のひとつ。

トヨタ車のトミカを眺めると、トヨタが築いてきた幅広いモビリティの世界が見えてくる。センチュリーのようなVIPカー、長い歴史を誇るクラウン、国民車として親しまれてきたカローラ、日常に寄り添うヤリス、プリウス。そしてランドクルーザーやRAV4などのSUV、アルファードに代表されるミニバン、ハイエースやトヨエースといった商用車まで、実に多彩である。

なかでもクラウンは、トヨタ車の歴史を語るうえで欠かせないモデルだ。トミカでは乗用車としてのクラウンだけでなく、パトロールカーやライトバン、救急車など、働くクルマとしての姿も製品化されてきた。トミカの大人向けモデルである「リミテッド ヴィンテージ」では、初代クラウンの観音開きモデルやパトカー仕様も再現されている。時代ごとのクラウンを集めれば、日本の高級車がどのように進化してきたのかを、手のひらの上でたどることができる。

トミカでモデル化されたトヨタ自動車の働くクルマたち。左からクラウン タクシー、ハイエース山岳救助車、メガクルーザー JAF パトロールカー、コースターようちえんバス、日本交通タクシー(ジャパンタクシー)。

商用車や働くクルマの分野でも、トヨタ車の存在感は大きい。ハイエースは初代から現行の200系までモデル化され、現行200系についてはマイナーチェンジ後の仕様も商品化されている。救急車、パトカー、消防指令車など、街を支えるクルマとしてのトヨタ車もトミカでは人気が高い。小型トラックのトヨエースも、リミテッドヴィンテージモデルとして初代の前期型やヘッドライト違いの仕様が再現されるなど、細かな違いを楽しめる。こうしたラインアップは、トヨタ車が社会のさまざまな場面を支えてきたことを伝えている。

スポーツカーがつなぐ憧れ

筆者の集めたトヨタ2000GTコレクションの一部。手前のモデルは1966年に3つの世界新記録と13の国際新記録を樹立したスピードトライアル車仕様。

トミカにおけるトヨタ車を語るうえで外せないのがスポーツカーである。第1弾から登場したトヨタ2000GTは、その代表格だ。流麗なスタイルと高い性能で伝説となったこのスポーツカーは、トミカでも長く愛されてきた。初期の日本製、後年の中国製、現在のベトナム製まで、時代ごとに多くのバリエーションが存在する。ホワイトやグリーン、ゴールドなどのボディカラーに加え、パトカー、覆面パトカー、消防指令車、日本グランプリ仕様、78時間スピードトライアル仕様、ラリー仕様など、多彩な姿で展開されてきた。実車の希少性と憧れを、トミカは小さなボディで受け継いでいる。

AE86レビン/トレノも、幅広い世代に愛されるトヨタの名車だ。ライトウエイトスポーツとしての魅力に加え、漫画作品をきっかけに若い世代にも知られるようになったAE86は、トミカでも複数のモデルが作られている。セリカ、セリカXX、スープラ、そしてGRスープラへと続くスポーツモデルの系譜も、トミカでは重要なテーマである。トヨタのスポーツカーが持つ走る楽しさや時代ごとの個性を、トミカは身近なコレクションとして伝えてきた。

トミカガレージに並べたトヨタ自動車の歴代スポーツカー。いつの時代も「速いクルマ」はクルマ好きの心をわしづかみにしてきた。

近年、とくに注目したいのが、トヨタとトミカの連携による新車の商品化である。従来、トミカは実車が発表されてから製品化の作業に入ることが多く、店頭に並ぶまで半年ほどかかることもあった。しかし2019年以降、トヨタは新車発売に合わせてトミカを発売する取り組みを進めている。発売前の車両デザインデータをトミカ側に提供し、実車発表前からモデル化を進めることで、より早いタイミングでの発売が可能になった。

GRスープラは、その象徴的な存在だ。実車の発表会場では関係者にトミカが配布され、その後カタログモデルも店頭に並んだ。GRスープラやGR86の商品化にあたっては、当時の開発責任者である多田哲哉氏が、屋根のふくらみや細部のディテールにまでこだわってチェックしたという。小さなミニカーであっても、実車の魅力を正しく伝えるために妥協しない。その姿勢は、トヨタのクルマづくりと共鳴している。

小さなモデルに宿るものづくり

センチュリーのフロントマスク。ヘッドライトが樹脂部品として埋め込まれ、グリル中央にはセンチュリーの象徴でもある鳳凰が配されている。

トミカの品質も、トヨタ車の魅力を引き立てる大きな要素だ。発売当初から、重量感や金属の質感を大切にするため、ダイキャスト製を採用している。ボディには実車と同じように静電塗装が施され、細かな文字やマークにはタンポ印刷が用いられる。硬い素材でありながら、フロントグリルやライト、ボディライン、車種ごとの表情を巧みに表現している。センチュリーやクラウンのような高級車では、塗装の美しさや仕上げの精度がとくに重要になる。

遊びの面でも、トミカには長年受け継がれてきたこだわりがある。手で転がすだけで軽やかに走ること、板バネ式サスペンションによって心地よく動くこと、車種によってはドアやボンネット、リヤゲートが開閉すること。こうした仕掛けは、子どもが夢中になって遊べる楽しさを生み出すと同時に、実車の機能や構造への興味を育てる。

トミカの開閉ギミックの一部。ドアはもちろん、リヤハッチゲートや後席ドアのスライドなども再現したモデルもある。

大人向けシリーズの充実も、トヨタ車の世界をさらに広げている。「トミカプレミアム」では、MR2、セリカXX、スープラ、AE86レビン/トレノ、ソアラなどのスポーツクーペに加え、アルファードやランドクルーザーといったモデルも製品化されている。また、15歳以上を対象とした「トミカリミテッドヴィンテージ」では、クラウン、パブリカ、初代カローラ、コロナ、マスターライン救急車、初代トヨエースなど、トヨタの歴史を深く味わえるモデルがそろう。日本の自動車史そのものをコレクションするような楽しみがある。

手のひらの上のトヨタ車

トミカには特定の場所やイベントなどで手に入る限定モデルが存在する。(写真上から時計回りに)東京オートサロン2026会場で販売されたGRスープラ、トミカ初のファン感謝祭「TOMICA OWNERS MEETING」で販売されたGRヤリス カモフラージュバージョン、全国に3店舗しかないトミカ公式ショップとトミカショップインターネット店で販売された86消防指揮車ヨーロッパ仕様、トミカ博 in TOKYOで販売されたハイエース。

トミカにおけるトヨタ車は、子どもにとっては初めて手にする「自分のクルマ」であり、大人にとってはかつての愛車や憧れの一台を思い出させる存在である。実車ではなかなか所有できない2000GTやGRスープラも、トミカなら手のひらに置くことができる。家族で乗ったカローラ、街で見かけたクラウンのパトカー、仕事を支えるハイエース、サーキットへの憧れを抱かせたスープラ。そうした記憶や夢が、小さな箱の中に詰まっている。

ずらりと並んだトミカ版トヨタ車たち。子供たちに独占させるのは惜しいコレクションといえる。

トミカは、累計10億台以上を生産してきた小さな自動車文化である。トヨタが世界最大級の自動車メーカーであるなら、トミカは世界最小サイズの自動車メーカーとも言えるだろう。トヨタ車のトミカを集めることは、単なるミニカー収集にとどまらない。トヨタ車の歴史を知り、日本の自動車文化を振り返り、これからのモビリティへの期待をふくらませることでもある。手のひらに収まる小さなトヨタ車には、実車に負けない物語が、この小さな1台に息づいている。

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