料理の“十八番(おはこ)・常備菜”で料理はもっと楽しく、カンタンになる常備「菜」で料理上手に!
家族も喜ぶ“十八番(おはこ)”をつくろう

忙しい毎日でも、「きちんと食べたい」「丁寧にくらしたい」と思う気持ちは、誰にでもあるもの。けれど、毎日ゼロから料理をつくるのはなかなか大変です。そんなとき、冷蔵庫に“頼れるおかず”がひとつやふたつあれば、ぐっと心と時間に余裕が生まれます。
今回は、常備菜をくらしの味方にしている料理研究家の山路恵美さんに、常備菜の魅力と、初心者でも無理なく取り入れられるおすすめレシピを教えていただきました。
Text:Sei Igarashi
Photo:Emi Yamaji
Edit:Akio Takashiro(pad inc.)
常備菜とは?どんなところがいいの?
常備菜とは、つくりおける副菜やおかずのこと。明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、3日程度からそれ以上、冷蔵保存できるものを指します。
常備菜の一番の魅力は、忙しいときにすぐに食べられるおかずがあるという“幸せ”ではないでしょうか。「帰りが遅くなってメイン料理しかつくれない日の副菜に」「お弁当にもう一品加えたいとき」「食卓に彩りや栄養バランスを添えたいとき」など、冷蔵庫に常備しておけば、さまざまなシーンで頼もしい味方になってくれます。
「こうした魅力を知っていながら、毎日の料理を負担に感じてしまう方が多いのは、本当にもったいないと思います。常備菜を習慣にできれば、料理はもっと楽しく、ラクになるんですよ」と語るのは、常備菜づくり歴20年以上になる、料理研究家の山路恵美さんです。
もともと野菜が大好きで、野菜を使ったレシピ開発にも熱心に取り組んでいた山路さん。2011年の夏、その思いに感銘を受けた仕事仲間のご実家の農家さんから、長野県産の採れたて野菜がふんだんに届いたことをきっかけに、「この新鮮な野菜をどうしたら長く美味しく食べられるか」と考え、酢や塩で野菜を“漬ける”ようになったのだとか。
ピクルスは、野菜の栄養と発酵食品である酢の力を同時に摂取できる一品。キャベツを塩で漬けて乳酸発酵させたザワークラウトも、腸内環境を整え、免疫力アップが期待できるといわれています。そのほかにも、梅干しやふりかけなど常に数種類を常備しているという山路さんは、朝と夜に食べるものの組み合わせを決めておき、その日の体調やスケジュールに合わせてバランスよく取り入れているそうです。
「最初は、香辛料やハーブを入れてつくっていたのですが、だんだんとシンプルなレシピに落ち着いてきました。今では、新鮮な野菜と、少しだけこだわって選んだ“さしすせそ”の調味料を中心にしたつくり方が定番になっています。
というのも、常備菜は、文字どおり“常に備えておく”ことが大切。そのためには、誰もがくり返しつくりたくなるレシピであることも大事だと感じるようになったのです。これから常備菜づくりを始める方は、まず『私にも無理なくできる!』と思えるものから試してみてほしいですね。自分や家族が好きな料理を選ぶのもおすすめです。例えば肉料理が好きなら、そぼろやしぐれ煮から始めてみるのもよいと思います」
アレンジ自在、多彩な魅力をもつ常備菜
“すぐに食べて美味しい”だけでなく、さまざまなお料理にアレンジできるのは、常備菜ならではの醍醐味です。パスタに加えたり、チーズやナッツと合わせて前菜にしたりと、さまざまな料理に活用できます。
「例えば、発酵キャベツ(ザワークラウト)は、サンドイッチの具にするのがおすすめです。チーズやマヨネーズと合わせたり、ハーブや大葉を刻んで加えてアクセントを効かせたりすることも。また、野菜だけを重ねて煮込んだラタトゥイユは、ピザのトッピングにするほか、煮汁をパスタソースに活用して楽しんでいます。
ピクルスは大好物なので、すぐに食べてしまうのですが(笑)、ピクルス汁を健康ドリンクのようにそのまま飲むほか、再利用して紫キャベツのアチャールをつくることもあります。紫キャベツをひと玉買ってきて、千切りにして塩もみをし、にんにくとスパイスをカレー粉で炒めたものと一緒に保存ビンに入れ、そこに沸騰させたピクルス液を注ぐと、インド風の新たなお惣菜ができあがります。こうした応用のためにも、なるべくシンプルな材料と味つけにしておくのがいいのかなと思っています」
野菜を余すことなく使い、最後まで飽きずに食べ切る工夫もできる常備菜。日々の生活に取り込むことは、丁寧なくらしへの第一歩なのかもしれません。
くり返しつくることで、“私の味”になる
常備菜のあるくらしを楽しむために、「ほんの少し丁寧に仕込むことも大事です」と山路さんはアドバイスを送ります。
つくりおき=時短というイメージもありますが、「常備菜そのものは、手間をかけすぎず、素材の味を活かしながら、丁寧につくるもの」。そのひと手間が、美味しさをぐっと引き立て、くらしの楽しみを2倍にも3倍にも膨らませるといいます。
「まな板や容器を熱湯消毒する、食材が空気に触れないように工夫して保存する。こうした基本を守るだけでも違います。また、できれば野菜は包丁で切るのがおすすめです。ピーラーを使うと繊維を傷めてしまい、必要な水分や栄養が抜けてしまうことも。その結果、仕上がりの食感や美味しさに差が出てくることがあるのです。ただ、まずは始めることが大事ですので、最初から無理をせず、自分のできるところから始めてもらいたいですね」
そしてレシピどおりに始めて、くり返しつくっていくと、家族から感想や要望などが出てくるはず。その意見を参考に、今度は分量や材料の加減に少しずつ工夫を加えていくと、やがてうれしい瞬間に立ち合うことができるのです。
「これをつくると、家族が喜んでくれる。お友だちにふるまうと、『美味しい!』と笑顔になってくれる。この味がやっぱり落ち着く――。そう感じられるようになったら、それはもうあなたの“十八番(おはこ)”です。みんなの笑顔が料理を続ける力になりますし、美味しいものがあるところには、人が集まってきます。常備菜は、そんな人と人との絆を深める頼もしいパートナーでもあるんですね」
無理をせず、でも少し丁寧に、「美味しくなあれ」と声をかけて。いつもの冷蔵庫に、“私の常備菜”をつくりおきしてはいかがでしょうか。
まずはこの3品。“十八番(おはこ)”にしたい常備菜レシピ
山路恵美さんが日々の食卓で活用している、初心者にもおすすめの常備菜レシピをご紹介します。材料の分量は、ご家族の人数や保存量などに合わせて調整してください。
メニュー名:ピクルス(2リットル保存ビン用)

材料(目安)
パプリカ(黄・赤・オレンジ)・・・各1個
にんじん・・・2本
セロリ(または玉ねぎ)・・・2本(または2個)
かぶ(または大根)・・・2個(または1/3本)
[ピクルス液]
りんご酢・・・2カップ
水・・・3カップ
てんさい糖・・・80グラム
にんにく・・・1片
赤唐辛子・・・1本
塩・・・小さじ1
ローリエ・・・1枚
つくり方
1 野菜を食べやすい大きさに切る。
2 熱湯で消毒した保存ビン(2リットル)に1の野菜を彩りよく詰める。
3 鍋にピクルス液の材料を入れて火にかけ、沸騰させたら2のビンに注ぎ入れ、密閉して冷蔵庫で保存する。
※野菜の量はビンの容量に合わせて調整してください。
※熱々のピクルス液を注ぐことで、野菜にほどよく火が通ります。
※冷蔵庫で1〜3カ月保存可能です。
メニュー名:発酵キャベツ(ザワークラウト)

材料(目安)
キャベツ・・・2キログラム
塩・・・40グラム(キャベツの重量の2%)
つくり方
1 キャベツを千切りにし、塩をまぶし、水分が出てきたら軽くしぼる。
2 熱湯で消毒したタッパーや保存ビンに1のキャベツを詰め、フタをせずにラップをかけ、重し(塩や水を入れたビンなど)をする。
3 水分が上がり、ふつふつと発酵してきたらフタを閉め、冷蔵庫で熟成させる。
※発酵にかかる日数は季節により異なり、3〜10日が目安です。
※冷蔵庫で半年ほど保存可能です。
メニュー名:ラタトゥイユ 重ね煮風

材料(目安)
トマト(大)・・・2個
なす・・・4本
ピーマン・・・5個
玉ねぎ(中)・・・2個
オリーブ油・・・大さじ2
塩・・・小さじ1
つくり方
1 野菜はすべて薄切りにする。
2 カレー用などの鍋(土、鉄、セラミック、ステンレスなどの素材で、フタに穴がないもの)を用意し、鍋底にオリーブ油を引く。
3 トマト(野菜を入れる際に塩を小さじ1/4)、なす(野菜を入れる際に塩を小さじ1/4)、ピーマン(野菜を入れる際に塩を小さじ1/4)、玉ねぎ(野菜を入れる際に塩を小さじ1/4)の順に重ね、フタをして弱火で30分ほど煮込む。
※水は加えず、野菜の水分だけで煮るのがポイントです。
※冷蔵庫で3〜5日保存可能です。
教えてくれた人
料理研究家:山路恵美さん
神奈川県横須賀市出身。ダイビングのライセンスを持つほど海が好き。栄養士資格取得後、専門学校で助手・講師を務めた。その後、料理家やフードコーディネーターの現場を経て独立。現在は料理家として自然栽培素材にこだわる味噌や梅干し、柚子胡椒づくりなどのワークショップを年に数回開催している。