TS CUBIC SHOPPING倉敷帆布の鞄が長く愛されるわけ ― 日本の名品の物語を紐解く
丈夫で実用的、そして使うほどに深まる味わい。港町・倉敷で130年以上受け継がれる伝統の技と、帆布に込められた職人のひたむきな思いとは。
Text:Fumihiro Tomonaga
Edit:Yasumasa Akashi(pad)
使うほどに深まる味わい
「帆布(はんぷ)」という質感豊かな美しい生地をご存知でしょうか。帆布とはその名のとおり、かつて船の帆に使われていた丈夫でしなやかな布地のこと。瀬戸内海に面した港町・倉敷は、国内有数の帆布生産地であり、そこでつくられる鞄が今、“上質”を知る成熟した大人を中心に、広い世代で人気を集めています。
倉敷帆布の鞄を手にして魅了されるのは、綿100%ならではのハリのある独特な風合い、シンプルなデザイン、そして長年の使用に耐える堅牢さです。多くの人に愛される理由は、この温もりのある存在感と使い勝手のよさにあるといえるでしょう。
帆布は、使い始めこそ硬めですが、愛用するうち少しずつ柔らかさを増し、使い手のからだに寄り添うように馴染んでいきます。表面も摩擦によってなめらかになり、シワやアタリはその人だけの表情に変化。倉敷帆布の広報担当の武鑓悟志さんは、「10年ほど使いつづけると、ハンドル部分がほつれるなど多少の劣化はありますが、それを“味”と感じ、愛着を感じてくださる方も多いですね」と話します。時間をともに過ごして初めて完成する“自分だけのバッグ”をもつ喜びは、まさに天然素材ならではの特権です。
また、重い荷物を入れても型崩れしにくく、多くの製品が床に置くと自立するなど、機能性も十分。流行に左右されないシンプルで洗練されたデザインは、どんなスタイルにも自然とフィットし、持ち主の個性を引き立てます。伝統技術と現代性が見事に調和した、モダンな“ニッポンプロダクト”の代表ともいえるでしょう。
港町倉敷が育んだ帆布文化
倉敷で織られる帆布の歴史は、江戸時代末期にまで遡ります。当時、港町として栄えた倉敷では、海運の発展に伴い、速く丈夫な船の建造が求められ、必然的に強靭な帆が必要とされていました。事業体としての倉敷帆布の創業は1888年(明治21年)、のちに同社の発展を加速させた武鑓織布工場が設立され、古くから地元で栽培されていた良質な綿花を活用し、船の帆として使える丈夫な布の開発が本格的にスタート。こうして、瀬戸内の穏やかな気候と豊富な水資源、そして港町として栄えた立地が相まって、帆布産業は発展を遂げます。以来、倉敷は「帆布の街」として日本有数の生産地に。丈夫で実用的な帆布は、船の帆だけでなく、トラックの幌やシート、作業着、アウトドア用品に至るまで、時代ごとに用途を広げながら社会を支えるさまざまな製品に活用されていきました。
しかし、時代の流れとともに、一時期、帆布業界は試練の時を迎えます。海外製の安価な帆布や化学繊維の台頭により、国内の帆布産業は低迷。多くの同業者が廃業を余儀なくされる中、倉敷帆布は伝統の技術を守りつづけながら、新たな道を模索しました。その中で帆布本来の魅力を活かした鞄づくりを展開。その挑戦が功を奏し、生地メーカーの枠を超え、ユニークなものづくりブランドへと見事に飛躍を遂げたのです。
こだわり抜いたものづくり
倉敷帆布の最大の強みは、原料の糸選びから織布、さらに製品化までを一貫して担える点にあります。厳選した綿糸を撚り合わせて強度を高め、旧式のシャトル織機で時間をかけて織り上げることで、両端に「セルヴィッジ」と呼ばれる美しい耳をもつ帆布が完成します。
このシャトル織機は現在では製造されておらず、非常に貴重なもの。最新の織機に比べて5倍もの時間を要しますが、その分、ふっくらと空気を含んだような独特の仕上がりになるといいます。「時間はかかりますが、その分だけ生地に優しい表情が生まれます。だからこそ、毎日手をかけ、メンテナンスを欠かさず大切に扱っています」と武鑓さん。
帆布は1号から11号まで、用途に応じた厚さに織り分けられ、それぞれの生地の特性に合った製品へと生まれ変わります。例えば、厚手の6号帆布は底が二重になったトートバッグに、軽くて柔らかな11号帆布はストライプ柄の小物類にするなど、製品のバリエーションも豊富です。
そして近年は、地元企業とのコラボレーションも積極的に実施。最近も倉敷のチョコレート工房「SUN CACAO」で捨てられていたカカオハスク(カカオの外皮)を染料に使用したトートバッグを企画製作しました。廃材に新たな命を吹き込む取り組みとして注目されるなど、新しい価値創造に挑戦を続けています。
長く愛される逸品たち
倉敷帆布が手がける製品は、どれもシンプルでありながら、私たちの日常を豊かに彩り、サポートしてくれるものばかり。その中でも人気の高いシリーズをいくつかご紹介します。
まずは、伝統の輝きを纏う「クラシックス」から。これは鞄づくりを始めた当初から製作しているバッグを中心に、帆布とレザーの組み合わせを基本としたシリーズです。「クラシックス」という名は、「倉敷帆布の古典となるように」という意味が込められており、倉敷帆布の原点を体現する製品群といえます。
代表的な「グロメットトート」は、帆布と鈍く光るオリジナルの真鍮グロメット(ハトメ)、レザーハンドルという3種の素材の組み合わせが特徴的。取り外し可能なショルダーが付いており、肩掛けもできる2WAYタイプです。高品質なコーマ糸で織られた厚手の6号帆布はパラフィン加工が施され、ハリがあり、床に置いても自立します。また、バッグの口はフックで閉じられるなど、実用性の高さと落ち着いたたたずまいからビジネスシーンで利用する方も多いとか。そのため、バッグのマチも比較的薄くすることで、A4書類やPCがきれいに収まり、出し入れがしやすいように配慮。帆布、レザー、金具それぞれ異なる経年変化を眺めるのも楽しみのひとつです。
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クラシックス・グロメットトート(小)
クラシックス・グロメットトート(大)
さらに、倉敷帆布の顔ともいえる「fabrica.(ファブリカ)」も人気のシリーズ。ヴィンテージ感のある帆布と赤茶色の牛革を組み合わせ、カジュアルな中にも大人の落ち着きと品のよさが感じられます。ほどよい厚みの9号帆布に撥水加工を施したあと、洗いをかけてシワ感を演出。そこにベジタブルタンニン鞣しの牛革を熟練の職人が丁寧に縫い合わせています。
糸から染めた先染め帆布を使っているため発色が豊かで色落ちしにくく、購入直後から使い込んだような絶妙な風合いが楽しめます。数年使用した製品では、ボディの帆布は時の経過を感じさせる色味になる一方で、レザー部分の艶が増し、使い始めとはまったく違った印象に変化します。
fabrica.(ファブリカ)のご購入はこちら
fabrica. トートM 0002
fabrica. ショルダー 0003
ミニマルな美しさが際立つプロダクトシリーズ「JOBU(ジョーブ)」も見逃せません。こちらも先染めならではの豊かな発色と、無駄を削ぎ落とした飽きのこないデザインが目を引きます。海外展開もしており、鞄については、明るめのカラーバリエーションとやや丸みを帯びた形から、特に若い世代の支持を集めているようです。
素材使いにも凝っており、柔らかさと硬さの適材適所を考慮し、鞄は4号と11号の2種の帆布を使い分けています。この点について、武鑓さん曰く「バッグは4号帆布のボディにハンドル部分のみ11号帆布を組み合わせるなど、帆布の生地感の違いを楽しめます。さらに、生地の両端(セルヴィッジ)もデザインに巧みに取り入れている点も、ぜひ注目してください」とのことです。
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人生のパートナーを得て
これら3つのシリーズは、それぞれ異なる個性を持ちながら、倉敷帆布が培ってきた伝統技術と品質へのこだわりを体現しています。どれを選んでも、日本のものづくりの粋を日々味わうことができるでしょう。
もし、帆布がもつ唯一無二の風合いを実際にご覧になりたい方は、倉敷の本店に足を運ぶことをおすすめします。商品を手に取った瞬間に伝わる質感は、写真や説明だけでは伝えきれないもの。一度その魅力に触れれば、「この鞄を人生のパートナーとしてともに歳を重ねたい」、きっとそう思えるはずです。
倉敷帆布 本店
住所:岡山県倉敷市曽原414-2
電話番号:086-485-1212
営業時間:10時~17時30分(不定休)
アクセス:瀬戸中央自動車道・水島I.C.より約2分
駐車場:あり(倉敷帆布隣の丸進工業株式会社の駐車場をご利用ください)
https://www.kurashikihampu.co.jp/
