今、クラフトビールが美味しい、楽しい日本の小さなブルワリーがつくる個性豊かなビールたち

Lifestyle

(c)iStock/EyeEm Mobile GmbH

Text:Reico Watanabe
Edit:Yasumasa Akashi(pad inc.)

今、クラフトビールが面白い。ただ喉を潤すためではなく、つくり手の哲学や、その土地の空気感に想いを馳せる。そんな豊かな時間を楽しむ大人たちが増えています。日本のクラフトビールが辿ってきたおよそ30年の軌跡と、職人たちが紡ぐ一期一会の物語を巡る旅へご案内します。

「地ビール」から「クラフトビール」へ

16のタップが並ぶカウンター。その日の気分を伝えて、運命の一杯を提案してもらうのもクラフトビール専門店ならではの醍醐味。

日本のビール史における大きな転換点は、1994年の酒税法改正でした。ビールの最低製造数量基準が大きく引き下げられたことで、全国に小さなブルワリーが誕生し「地ビール」ブームが巻き起こります。しかし、当時は技術が追いつかないブルワリーもあり品質も千差万別で、ブームは一度沈静化し、実力のあるつくり手だけが残る厳しい冬の時代を経験しました。

2010年頃、再び転機が訪れます。志ある醸造家たちが技術を磨き上げ、「手工芸品(クラフト)のように職人が魂を込めて手づくりしたビール」として定義しはじめたことで、再び光が当たり始めます。その担い手には、ビール好きが高じて脱サラし、夢を追いかけて異業種から飛び込んだ情熱的な醸造家も少なくありません。現在、全国のブルワリーは900カ所を超え、日本の四季や感性に海外の文化も溶け合う“百花繚乱の時”を迎えています。

知っておきたい、ビールの「系譜」

クラフトビールを楽しむ第一歩として知っておきたいのが、製法の違いです。世界でもっとも普及している「ラガービール」は、低温でゆっくり発酵させるため、スッキリとした喉越しが特徴。対して、多くのクラフトビールが採用する「エールビール」は、やや高めの温度で発酵させ、フルーティーで豊かな香りと深いコクを引き出します。

一口にクラフトビールといっても、その個性は驚くほど多彩です。グラスの中には、淡い黄金色から琥珀色、そして深淵な漆黒まで、宝石のように美しい色彩が広がります。この豊かな風味を味わうコツは、あまり冷やしすぎないこと。温度が少し上がることで、閉じ込められた香りがふわりと開き、隠れていた複雑な味わいが顔を出します。泡を立てすぎずに注ぎ、まずは色を眺め、ゆっくりと口に含んで余韻を楽しむ。そんな「ゆったりとした時間」そのものを味わうのが、大人の嗜みです。

日本のクラフトビールの現在地を知る、5つの選択

王道から新進気鋭まで。日本各地の風土を映し出した個性豊かな銘柄には、職人たちの譲れない哲学が息づく。左から順に ①【長野】志賀高原ビール「IPA」 / ②【大阪】箕面ビール「スタウト」 / ③【青森】Be Easy Brewing「デビーズ」 / ④【東京】VERTERE(バテレ)「リポネスコ」 / ⑤【京都】京都醸造「週休6日」)。

とはいえ、種類がたくさんありすぎて、「どれを選んだらいいのか分からない」という方もきっと多いはず。今回は、東京にあるクラフトビール専門店「PACHA CRAFT BEER TACOS」でレクチャーを受け、日本のクラフトビールシーンを支える「王道」と、新たな風を吹き込む「気鋭」の銘柄を、5つ厳選してもらいました。


①【長野】志賀高原ビール「IPA」
日本を代表する、ホップの芸術品

日本のクラフトビール黎明期からシーンを牽引しつづける名門。その代名詞である「IPA」は、まさに業界の基準点ともいえる王道の一本です。力強い苦味とモルトのうまみが織りなす圧倒的な調和は、流行に左右されない「本物」の風格を湛えています。

②【大阪】箕面ビール「スタウト」
漆黒の中に眠る、リッチな余韻

世界的なコンテストで何度も最高賞に輝く、大阪・箕面が誇る逸品。ロースト麦芽の深い香ばしさが、カカオやコーヒーを思わせる芳醇なアロマとなり、シルクのようななめらかな口当たりが広がります。食後のひとときに、ゆっくりと温度の変化を楽しみながら味わいたい一杯です。

③【青森】Be Easy Brewing「デビーズ」
青森の風土に惚れ込んだ、米国人醸造家の挑戦

元米軍空軍兵という経歴をもつギャレス・バーンズ氏が、弘前で立ち上げたブルワリー。この「デビーズ」は、弾けるような柑橘の香りと程よい苦みが心地よいアメリカンペールエールです。土地の言葉や文化を愛する彼ならではの、軽快で温かみのある味わいが魅力です。

④【東京】VERTERE(バテレ)「リポネスコ」
奥多摩の清流が生む、果実の誘惑

東京の西端、山々に囲まれた奥多摩を拠点とするVERTERE。独創的なレシピで知られるVERTEREの「リポネスコ」は、カシスの濃厚な果実感とスパイスが重なる、甘酸っぱくリッチな一本です。まるで上質なデザートワインのような奥行きがあり、特別な夜を彩ります。

⑤【京都】京都醸造「週休6日」
古都に新風を吹き込む、異文化の融合

ウェールズ、アメリカ、カナダ出身の3人が、京都の地で興したブルワリー。代表作「週休6日」は、ベルギー伝統の酵母が醸し出す華やかな香りと、柑橘の爽やかさが調和したベルジャンスタイルです。ドライでキレのある後味は、洗練された古都の感性を体現しています。

ビールとともに、その物語を味わうという贅沢

今回取材協力いただいた「PACHA CRAFT BEER TACOS」は、東京の夜景に包まれて、常時10種以上のクラフトビールをタコスで楽しむスタイル。倉田俊輔オーナーは「まずは『美味しい!』と感じる一杯を見つけて、そこから背景にある物語を紐解いていく・・・そんな出合いを楽しんでほしい」と語ります。

自分の「好き」の輪郭が見えてきたら、次は地元のブルワリーを訪ねてみるのも面白いかもしれません。調べてみると、意外と近くにブルワリーが見つかるのではないでしょうか。ラベルの裏に隠された物語、つくり手のこだわり、そしてその土地の文脈・・・。五感を研ぎ澄ませて向き合うことで、その魅力はどこまでも深まっていきます。日本各地に広がる900もの物語の中から、まずはひとつ見つけてみませんか。

※画像は一部イメージです。

取材協力:PACHA CRAFT BEER TACOS
住所:東京都港区赤坂3-17-3 H1O赤坂 13階
電話番号:03-6277-6256
営業時間:16時〜23時(金曜日:16時〜25時)
アクセス:東京メトロ「赤坂見附駅」から徒歩約3分

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