テレビアニメ化、ピッコマAWARD受賞・・・ゴルフ専門誌の漫画『オーイ!とんぼ』はなぜヒットした? 原作者インタビュー<前編>

週刊ゴルフダイジェストで連載中の『オーイ!とんぼ』。ゴルフ雑誌という専門誌掲載の漫画でありながら、単行本発行部数は累計270万部を突破。2024年にテレビアニメ化され、2025年には「ピッコマAWARD」を受賞するなど、ゴルファー以外からも支持を集めている。いったいなぜ『とんぼ』はここまでヒットしたのか。原作者のかわさき健氏に話を聞いた。
それが本当に“引き”なの?
セオリーへのアンチテーゼ
面白い漫画には中毒性がある。ページをめくる手が止まらず、次の話、次の話へとあっという間に読み進めてしまう。
『オーイ!とんぼ』は2025年「ピッコマAWARD 2025」を受賞。巻単位だけでなく“話”単位で作品を購入できる「ピッコマ」において『とんぼ』が評価されたということは、1話読むとすぐに続きが気になり、ついつい1話、また1話と読み進めてしまう作品ということだろう。『オーイ!とんぼ』は並み居る少年誌の人気作品に交じって、スポーツ部門で常に上位にランクインしている。
「やはり“引き”を重視しているのでしょうか?」
ヒットの秘密を探るべく、原作者のかわさき健氏に話を聞いた。「引き」とは、各話の「締め」に当たる部分。連載は飽きられたら最後。いかに、次話が気になって仕方のない「引き」を作るかが重要――なはずなのだが・・・。
「逆・・・ですね」
いきなり肩透かしをくらった。
「大手漫画出版社の方ともお仕事したことがあるんですけど、彼らはすごく“引き”を重視するんですね。そんなに大したことなくても『何ィィーー!?』みたいな強い引きを出して、次につなげる。漫画の重要なテクニックだけど、果たしてそういうのが“引き”なの?って」

1話でお腹いっぱいに・・・
かわさき氏の考える“引き”とは?
「ボクはむしろ、1話読み切りぐらいの感じをイメージしています。1話を読んで、必ずここが面白かったねっていうポイントがある。そうすると、読者はその作品から離れない。この作品はいつも1話でお腹いっぱいにさせてくれるよねっていう。それがかえって引きになるんじゃないかな」
こうした考えに至ったのは、父の影響もある。
「漫画原作者を志した頃、読み切りをたくさん書けって父に言われて・・・」
かわさき氏は、『巨人の星』『いなかっぺ大将』等で有名な川崎のぼる氏のご子息でもある。
「しっかりとした読み切りモノを書ければ、長期の作品はカンタンに書ける、って。たしかに読み切りって、圧倒的に労力がいるんですよ。引いちゃうよりも。ノイローゼになりかけたこともあるぐらい。だから『とんぼ』も、強い引きというのはまったく意識しないで、この1話はどこが面白んだっていうのを意識して、1話1話ちゃんと面白いものにしよう、というつもりで書いた。それが結果的に“引き”と感じられたのかな」
セオリーと言われることが必ずしも正しいとは限らない。決して天邪鬼というわけではなく、そこには確固たる信念と自負があった。
「駆け出しの頃って、いろいろ言われるじゃないですか。それこそ重箱の隅をつつくようなダメ出しもあった。たとえば少年誌や青年誌で、主人公を老人とか、逆にすごく小さい子とか、読者層とぜんぜんリンクしない年齢にしたって共感できない、主人公は読者層と同じ年齢にしないと、と言われたり。でもボクは、どんな年齢、どんな性別であろうと、主人公として魅力的なものは絶対に書けるよねっていう反発心があった。自分のほうが絶対に考えている。あなたたちの言うようにして本当に売れるの? 売れない作品もいっぱいあるでしょ?って」

原作者には2つのタイプがある
漫画は、絵を描く漫画家がストーリーまで考えるケースもあるが、原作と作画で担当が分かれていることも多い。その場合、いかに作画者がイメージしやすい文章にするかも重要なポイントとなる。
「梶原一騎先生と小池一夫先生の原作を読ませてもらったことがあるのですが、原作にもタイプがあると思うんです」
いきなり凄い名前が出てきた。梶原一騎氏は『巨人の星』『あしたのジョー』など数々の原作を手掛け、小池一夫氏は『子連れ狼』などの原作に加え、「劇画村塾」を立ち上げ後進の育成に力を注いだ、いわば漫画原作界の2大巨頭だ。
「梶原先生の原作は、まるで小説のような書き方。漫画家さんがすごく感性のある人だったら面白くなるけど、あまり感性のない人が担当したら、すごくつまらないものになるんじゃないかな。逆に小池先生は、とてもカッチリとしたシナリオを書く。これならどんな漫画家さんが描いても、それなりのものになるという感じ。ただ、描きやすくはあるんだけど、漫画家さんによる違いは生まれづらいのかな、と」
感覚的すぎると、伝わりにくい。説明的すぎると、想像性を阻害してしまう。
「読み物として読んだときは、梶原先生の原作のほうが面白いと感じました。でもボク自身は、わりとカッチリとした原作を書くタイプじゃないかな」
と自己分析するかわさき氏だが、原作を読ませてもらうと、どちらもミックスされたハイブリッド型という印象。情景描写が非常に細かく、小説のようでもあるし、シナリオとしても非常に分かりやすい。作画者にとっても非常にイメージの湧きやすい原作になっている。両巨頭の良いところを盗んで、昇華させている印象だ。

作画担当の古沢氏とは
「面白いと思うツボが同じ」
良い漫画を作るには、作画者との相性も重要だ。
『とんぼ』以前にも何度かコンビを組んだことがある作画の古沢優氏とは、「面白いと思うツボが同じ」と表現するかわさき氏。
「たとえば原作でギャグを書いたときに、古沢先生が絵として上げてくれる表現は、自分と感性が似ていると感じる。面白いところは面白く、シリアスなところはシリアスに描いてくれる。それができるのが古沢先生の良さ。絵が上手いとか下手とか、そういうのを超越して、登場人物に血が通っているのが好きかな。古沢先生だからこそ、二子女(※熊本編で登場)みたいなキャラクターも描ける。ギャグっぽいところもそうだけど、泣ける話も描ける、という部分で、自分と感性が似ていると感じますね」

1話1話、どうしたら面白くなるかを考え抜いて作品を紡ぎ上げているかわさき氏。後編では「面白さ」の核となるキャラクター作りについて、そしてゴルフ専門誌の漫画でありながらゴルファー以外からも支持を集める理由について、掘り下げていく。
後編は10月10日(金)公開予定。
■かわさき健
1967年生まれ。東京都出身。熊本県在住。プロゴルファーを志し研修生として腕を磨くも志半ばに断念。漫画原作者として第二の人生を歩み出す。近年は『オーイ!とんぼ』をはじめゴルフ漫画の原作がメインだが、野球、クルマ、剣術、人情ものにキャバクラ漫画など、幅広いジャンルの作品を手掛けてきた。ハートフルなストーリー展開で読者の心をゆさぶる。父は『巨人の星』で有名な巨匠・川崎のぼる。
■『オーイ!とんぼ』(作・かわさき健 画・古沢優)
「日本最後の秘境」と呼ばれるトカラ列島で育ち、3番アイアン1本でゴルフを覚えた主人公・とんぼが、元プロゴルファー・五十嵐との出会いをきっかけに、競技ゴルフの世界へと羽ばたいていく物語。ゴルフ専門誌「週刊ゴルフダイジェスト」の連載漫画でありながら、ゴルフを知らない人でも楽しめる感動作。既刊58巻・累計270万部突破。2024年テレビアニメ化。2025年ピッコマAWARD受賞。
作品の詳細はこちらから。
https://my-golfdigest.jp/tonbosp