「朝ドラみたいって言われるけど、朝ドラって見たことなかったんです」ゴルフ専門誌発!異例ヒット漫画『オーイ!とんぼ』原作者インタビュー<後編>

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週刊ゴルフダイジェストで連載中の『オーイ!とんぼ』。ゴルフ雑誌という専門誌掲載の漫画でありながら、単行本発行部数は累計270万部を突破。2024年にテレビアニメ化され、2025年には「ピッコマAWARD」を受賞するなど、ゴルファー以外からも支持を集めている。いったいなぜ「とんぼ」はここまでヒットしたのか。引き続き、原作者のかわさき健氏に話を聞いていこう。

前編はこちらからご覧ください。

どうすればキャラクターが立つか
ずっと闘ってきた

俳優の佐藤健氏が、以前自身のYouTubeで、「今年(2021年)いちばんハマった漫画」として『オーイ!とんぼ』を挙げたことが話題になったが、その理由も驚くべきものだった。

「『HUNTER×HUNTER』の作者の冨樫(義博)先生とお話しする機会があって『面白い漫画あります?』って聞いたら、2つ言っていて。1つは(当時)連載が始まったばかりの『鬼滅の刃』、もう1つが『オーイ!とんぼ』だったんです」(YouTubeチャンネル【佐藤健/Satoh Takeru】より)

なんとあの冨樫義博氏が、『鬼滅の刃』と並ぶオススメ作品として『オーイ!とんぼ』を挙げたというのだ。

言わずと知れた大ヒット漫画『鬼滅の刃』に、冨樫氏の名作『HUNTER×HUNTER』や『幽遊白書』、そして『オーイ!とんぼ』。この3つに共通する点として思い浮かぶのが、登場人物のキャラクターがいちいち魅力的なこと。一見完全な悪役だと思っても、その背景にはちゃんとストーリーがあって、考えさせられる。

「そこを評価されるとうれしいですね。ボクもそことずっと闘ってきました」とかわさき氏。

「いわゆる『キャラクターが立つ』ということ。これを最初に言い出したのは小池(一夫)先生だったと思うけど、ボクもどうしたらキャラクターが“立つ”ようになるのか、ずっと考えてきました。それは単に人目を引く風貌ということではなく、人の内面をしっかり書かなくてはいけない。『この人はどうやって今ここにいるのか』という背景をしっかり考えてあげると、自然とキャラクターがにじみ出てくる。そんなふうにあるときから思うようになりました」

個性的なキャラクターたちが魅力的に描かれる(©かわさき健・古沢優/ゴルフダイジェスト社)

本インタビューの前編でも話題に挙がった小池一夫氏は、漫画家や原作者を育成するため「劇画村塾」を立ち上げ、『うる星やつら』の高橋留美子氏や『北斗の拳』の原哲夫氏など、錚々たる面々を輩出した。かわさき氏の父・川崎のぼる氏とも『ムサシ』などでタッグを組んでいる。

「最初に原作者を志したとき、原作の書き方が分からないから、読ませてほしい、とお願いして、最初に父が出してきたのが、梶原一騎先生の原作。そのあとで、小池一夫さんの原作も読ませてもらいました」

しかもなかなかお目にかかれない「生原稿」。こんな豪華な教科書はない。

「といっても1~2本だけですが。いっぱい読むと影響されちゃうから」

書き進めていくうちに
キャラクターが動き出す

ざっと数えたところ、『とんぼ』の最新刊58巻までに登場した主なキャラクターは86人。

「そんなにいましたか!でも、それをいちいち魅力的に描き分けている古沢先生も凄いよね。漫画家さんって、どうしても同じ顔になっちゃうものなんです」

たしかに、とんぼ、つぶら、ひのき、エマ、二子女、島さん、鳴寂、小鴨・・・序盤の女性キャラだけをとっても、非常に個性的で、印象がまったくかぶらない。

キャラクターの設定は、どうやって考えていくのか。

「実は最初からすべての設定をカッチリ決めているわけではないんです。ある程度はイメージして書き出すんですけど、書き進めていくうちに、勝手にキャラクターが動き出すというか。キャラクターが動き出すと、どんどん面白くなっていく。動き出さないキャラクターもいるんですけどね」

動き出した例は?

「たとえば小梅ちゃん(28巻で登場した八木小梅)。最初登場させたときは、古沢先生から小鴨ちゃん(20巻で登場した大賀茂小鴨)とかぶらないですか?って言われて。たしかに小柄な体格は似ているけど、まったく違うキャラクターにするつもりです、と言いました」

小鴨は日本女子アマ3日目にとんぼど同組になったプレーヤーで、同組の野呂(プレーが遅い)と対照的な、プレーがとてつもなく早いキャラクターとして描かれた。一方の小梅は、トヨタジュニア編で日本代表としてとんぼと同じチームで戦った盟友。語尾の「ス」が印象的で、キャラクター人気投票でも5位にランクインする人気キャラだ。

「語尾はちょっとやりすぎたと反省しているんですが(笑)、ちょっと田舎っぽい雰囲気を出したかった。難病の弟のため、そして家族のため、プロになって稼いで秋田の実家に大きな家を建てたいという部分なんかは、自分のためよりも“誰かのため”というほうが人間って強くなれたりするよね、っていうのをうまく書けたのかなと」

トヨタジュニア編で登場した小梅(©かわさき健・古沢優/ゴルフダイジェスト社)

『とんぼ』には、“悪人”が登場しないという特徴もある。

「ひのきの父親とか、九州女子で島さんと一緒に回った2人とか、イヤなヤツだけど、最後まで悪で終わらない。これはもしかしたら、古沢先生の人柄もあるのかも」とかわさき氏。

「古沢先生って、絶対人のことを悪く言わないんです。『ボクは人のことを嫌いになれない』って本人もおっしゃっていて。とんぼに悪人が登場しないのは、そういう先生の人柄に感化されている部分もあるのかもしれないですね」

朝ドラを人生で初めて見て
とんぼとの共通点を感じた

『オーイ!とんぼ』はゴルフ専門誌の連載ということもあり、ゴルフシーンの描写は本格的。用語やスウィング理論も、ゴルファーでない人にはチンプンカンプンな表現が多々ある。にもかかわらず、レビューを見ると、「ゴルフはやらないけど面白い」という声が少なくない。

「(トカラ列島が舞台の)島編に関しては、ゴルフ3:離島の生活7ぐらいの割合で書こうと古沢先生とも話して決めていた。ゴルフうんぬんより、まず“漫画として面白い”ということを意識して作りました」

物語の序盤では、「日本最後の秘境」といわれるトカラの小さな島でのくらしぶりがリアルに描かれ、笑いあり、人間ドラマあり。なかにはゴルフシーンがほとんど出てこない回もある。

「オオウナギのシーンとか、釣りのシーンとか、さすがに編集長に怒られるんじゃないかと思っていましたが、ゴルフダイジェストさんは寛容で助かりました(笑)」

ひたすらオオウナギとの格闘が続く第24話にはゴルフシーンが一切描かれていない(©かわさき健・古沢優/ゴルフダイジェスト社)

読者のレビューでいうと、「まるで朝ドラのよう」という声も多かったが・・・

「最初はなんでだろう?って。というのもボク、朝ドラって観たことがなかったんです。でもこの前初めて『あんぱん』を観て、たしかに面白いな、と。『とんぼ』が朝ドラみたいって言われていた理由も分かった気がします」

とんぼと朝ドラの共通点とは?

「朝ドラも、15分という短い作品のなかに、1話1話ちょっとずつ山場があって、今回はここが面白かった、と思える場面が必ずある。これはボクが作品づくりで意識していることと同じ。こういう作りのほうが、次をまた観たくなるんじゃないかと思うんです」

専門的な描写も、その裏にある
“感情のブレ”を描くことで面白くなる

「もうひとつ、ゴルフをやらない人が読んでも面白いと思ってもらえるのは、読む人が登場人物のそれぞれの立場に共感してくれるからじゃないかな。たとえばおじいちゃんだったら、この場面でこういう気持ちになるよね、とか、この言葉の裏には、こういう思いがあるよね、とか」

たしかに、主人公のとんぼをはじめ、五十嵐、ゴンじい、洋子ねえ、ブンペイなどなど、いろんな世代・性別のキャラクターの背景やエピソードが丁寧に描かれているから、読者は自分の過去や現在と重ね合わせ、共感する。ゴルフ漫画にもかかわらず、不覚にも泣かされてしまう。

第62話「じじいと孫」の回は涙なしに読めない神回(©かわさき健・古沢優/ゴルフダイジェスト社)

とはいえ、やはりゴルフ漫画。回を重ねるにつれ、ゴルフシーンが増え、本格的な描写のオンパレードになってくる。

「ゴルフって、ゴルフを知らない人がテレビで観たら、これほどつまらないものはないですよね(笑)。選手が短いパットのラインをじーっと読んでいて、解説の人が『これは難しいですよ』って言っていても全然意味が分からないと思う。でも、その裏で、実はこんなことがあるから難しいんだよっていうのが、『とんぼ』を読むと分かってもらえるんじゃないかな。ただ『打って』『乗せて』『入って』・・・だけじゃなく、“どう”打ったのか、“どうして”入ったのか、逆にどうして“外した”のか。1打1打の裏にある感情のブレを書いてあげると、すごく面白くなると思うんです」

専門的な分野を漫画で表現しながらも、幅広い層に受けいれられるという意味では、人気漫画『ヒカルの碁』などにも通じるものがあると感じるが・・・

「それもたまに言われるんですが、『ヒカルの碁』って読んだことがないんですよね。原作を始めたばかりの頃はほかの作品も少し読んだりしていたんですが、ある程度仕事をいただくようになってからは、あんまり読まないようにしていて。感化されたくないというのもありますが、『これどこかで見たな』と思われるのがイヤなので」

自分の中の面白さを貫く姿勢にも、ヒットの理由が隠れていそうだ。

前編はこちらからご覧ください。


■かわさき健
1967年生まれ。東京都出身。熊本県在住。プロゴルファーを志し研修生として腕を磨くも志半ばに断念。漫画原作者として第二の人生を歩み出す。近年は『オーイ!とんぼ』をはじめゴルフ漫画の原作がメインだが、野球、クルマ、剣術、人情ものにキャバクラ漫画など、幅広いジャンルの作品を手掛けてきた。ハートフルなストーリー展開で読者の心をゆさぶる。父は『巨人の星』で有名な巨匠・川崎のぼる。

■『オーイ!とんぼ』(作・かわさき健 画・古沢優)
「日本最後の秘境」と呼ばれるトカラ列島で育ち、3番アイアン1本でゴルフを覚えた主人公・とんぼが、元プロゴルファー・五十嵐との出会いをきっかけに、競技ゴルフの世界へと羽ばたいていく物語。ゴルフ専門誌「週刊ゴルフダイジェスト」の連載漫画でありながら、ゴルフを知らない人でも楽しめる感動作。既刊58巻・累計270万部突破。2024年テレビアニメ化。2025年ピッコマAWARD受賞。

作品の詳細はこちらから。
https://my-golfdigest.jp/tonbosp

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