Dam Travelダイナミックな絶景を体感!
巨大ダムをめぐる夏の旅
川をせきとめ、私たちの生活を支えてくれる水源の要・ダム。かつて一部の熱狂的なファンだけが訪れていた巨大インフラ設備が、いま新しい旅の選択肢として静かなブームとなっています。クルマで気軽にアクセスできるだけではなく、3密を避けた大自然の中で目を奪われるダイナミックな絶景が楽しめ、水辺の清涼感に癒やされる。ひと味違う夏の旅路に最適な魅力とおすすめスポットを提案します。
注目を集める旅先としてのダムの種類と魅力
そもそもダムの大きな役割は、まず「治水」です。世界的にみても日本は降雨量が多く、さらに長く急勾配な河川が多い。大雨や台風などで氾濫を抑えるために、ダムに雨水を溜め、上流から下流へ一気に流れないように調整しています。また、貯めた雨水を万が一の干ばつや川の水が少なくなった際に流し、生活用水や農業用水として活用する「利水」の役目を担い、安定供給にすぐれ再生可能なエネルギーとしてダムを利用した水力発電も、ここ数年注目を集めています。
ひとくくりにダムといっても周辺環境の地形や役割に合わせて様々なタイプがあります。その代表的な形状を紹介します。
重力式コンクリートダム
コンクリートダムの中で、最も多く建造されているスタンダードなタイプ。主堤体を支えられる硬い地盤につくられ、大量のコンクリートを使用した壁の重さで水を支えています。横から見ると三角形の形状で地面に向かって広がりを持たせた、どっしりとした勇姿が印象的です。
アーチ式コンクリートダム
重力式に比べて堤体が薄く、アーチ状につくられたダム。アーチ状にすることで水の力をダムの両側や岩盤に分散させる構造なので、強固な岩盤を持つ地形でないと建造できません。エレガントな曲線が魅力的。
バッドレスダム(扶壁式ダム)
表面部分に「扶壁(ふへき)」とよばれる棚のような壁をつくり、水圧が加わる止水壁を支えるダム。昭和初期に全国で8基のみ建設された珍しいタイプで、レトロな要塞のような姿形はまるで異国のよう。
ロックフィルダム(ゾーン型フィルダム)
ダムはコンクリートで建造されたものが一般的ですが、こちらは岩石と土砂でつくられたタイプ。次水漏れを防ぐために、ダム中央部にコアと呼ばれる水を通さない粘土質の材料を盛り立てた構造で、コンクリートダムよりも地盤が悪いところでも造ることができます。
必ず訪れたい日本有数のダム5選
建造物としてのインダストリアルな迫力だけでなく、日本ならではの豊かな自然と調和した風景とダイナミックな放水、さらに、現在人気が高まっている、ダムを訪問した人に配布される国交省発行のダムカードや周辺グルメまで、多彩に楽しめるダム探訪。北から南まで日本国内3000基以上の中から、訪れるべき名所を厳選しました。
[北海道/豊平峡ダム]四季折々のダイナミックな光景を堪能
豊平峡(ほうへいきょう)は、湖と緑が織りなす雄大な自然の景観美にあふれる札幌市有数のレジャースポット。豊平峡ダムは、豊平川の治水や水力発電を目的として1972年に完成した堤高102.5m、堤長305mのアーチ式コンクリートダムです。貯水量はなんと札幌ドーム約31個分。周辺は切り立った岩盤斜面に囲まれた景勝地となっており、毎年6月1日から10月末まで行われる観光放水(9:00〜16:00)と合わせて、壮大な北海道を感じさせる見事な絶景を形成しています。
ダム湖の定山湖(じょうざんこ)は支笏洞爺国立公園内に位置し、紅葉の名所としても著名で林野庁の「ダム湖100選」にも選定。下流には「札幌の奥座敷」と呼ばれる定山湖温泉や豊平峡温泉、札幌市定山渓自然の村もあり、入浴やキャンプと合わせて楽しめます。
[群馬県/四万川ダム]奇跡のブルー湖面に立つロマンティックな絶景
群馬県吾妻郡に流れる利根川水系吾妻川支流の一級河川、四万川に建設された重力式コンクリートダム。1999年に完成した比較的新しいダムは、西洋の城塞を思わせる優れたデザイン性が魅力的。周辺に1時間ほどの散歩コースが整備され、自然とのコントラストを体感することができます。
このダムが映える“奇跡の四万ブルー”と呼ばれる奥四万湖の圧倒的な美しさも見どころです。季節や天候、差し込む光によってターコイズブルー、インディゴブルーなど様々に変化する色彩表現は、まるでファンタジーの世界。河底や河岸の岩石面上にできる円形の穴「四万の甌穴(おうけつ)群」は自然のアートと称され、天然記念物に指定されているほか、四万大橋から川の下流方向に向かってすぐにある小さな「桃太郎の滝」の優美な美しさは一見の価値があります。
[富山県/黒部ダム]「世紀の大事業」で建設された歴史的ダム
日本のダムの中で最も人気の高い王道の名所。富山県立山町の黒部川最上流にあるアーチ式ダムの建設は当時「世紀の大事業」と呼ばれ、延べ1000万人が7年の歳月をかけて1963年に完成しました。堤高186mは、50階建てビルと同じ高さで日本一。毎年6月下旬から10月中旬にかけて実施される観光放水は、毎秒10tの水が轟音とともに噴き上げるスケールがまさに圧巻。晴れた日には虹がかかることもあり、見学者からは歓声があがります。
ダムの堰堤(えんてい)に直接出られる左岸と、220段に階段の上には黒部ダムが一望できるだけでなく、雄大な立川連峰と北アルプスの大パノラマが楽しめる展望台を配した右岸の2つのコースがあります。さらに大迫力の放水をほぼ真横から楽しめる新展望広場も人気のビュースポット。周辺の飲食店で楽しめる名物の「ダムカレー」や4月から6月の期間に、黒部アルペンルートの高さ20mにも及ぶ巨大な雪の壁「雪の大谷」のウォーキングと合わせて満喫できます。
[岐阜県/徳山ダム]“日本最後の巨大ダム”は圧巻のスケール!
岐阜県揖斐(いび)郡の揖斐川上流部に建設された巨大なロックフィル式ダム。日本第3位の堤高161mの迫力もさることながら、10tトラック約294万台分にもおよぶ1370万㎥の堤体積、そして浜名湖の約2倍にあたる6億6000万㎥の総貯水容量はともに日本一。多目的ダムに限れば国内最大級で“日本最後の巨大ダム”と呼ばれています。
ダムサイト公園が通年9:00〜17:00に開放され見学が楽しめるほか、下流4kmの場所に「生命と水と森の活動センター」があり、ロックフィルダムの仕組みや構、徳山ダム周辺の自然環境を紹介しています。
クラシカルかつ重厚な稀少な重要文化財建造物[香川県/豊稔池(ほうねんいけ)ダム]
ダム建設の日本最初期である1929年に完成。小さなアーチ型が連なる「マルチプルアーチ式ダム」は現在、日本に2例しかない貴重な様式で、豊稔池ダムは日本最古のもの。長い年月の風雨にさらされた堰堤は、まるで中世ヨーロッパの古城を彷彿とさせる風格を漂わせています。日本の農業土木史上価値が高く、2006年には国の重要文化財にも指定されている構造形式は、現在の法律では築造できない貴重かつクラシカルな建築としても好評です。
遊水公園にある池のへりをつたうと壁のほぼ真下に出られるので、水しぶきがかかるほど至近距離で放水する様子が鑑賞できます。下流にある井関池の貯水量が3割をきった時期を目安に行われる「ゆる抜き」は、毎年夏の風物詩。毎秒4tもの水が放流される景色は驚くほど壮観です。
大分の秘境にある“日本一美しい”ダム
ダムの魅力は、なんといっても圧倒的なスケール感ですが、堤高14m、堤長87mと比較的小さいサイズにも関わらず“日本一美しいダム”として名高いのが大分県竹田市の山深い秘境にある白水ダムです。
まるで絹織物のように繊細な水流美は、周辺の地盤が弱く、水がなだらかな曲線を描いて流れるように設計されているから。駐車場から徒歩5分の左岸と約1kmの道のりを歩く左岸を直接行き来する道はなく、大回りをしなければならないので、注意してください。ダムより高い位置にあり、左岸から見られない貯水池の水面も含めた全体像が一望できる右岸がおすすめです。
この夏、家族みんなで非日常の涼感を味わいに、ダム巡りに出かけてはいかがでしょうか。
【スポットデータ】
●北海道/豊平峡ダム
札幌市南区定山渓840番地先
http://www.houheikyou.jp●岐阜県/四万川ダム
群馬県吾妻郡中之条町四万
https://www.pref.gunma.jp/07/m04310043.html●富山県/黒部ダム
富山県中新川郡立山町大字芦峅寺
https://www.kurobe-dam.com●岐阜県/徳山ダム
岐阜県揖斐郡揖斐川町開田448
https://www.water.go.jp/chubu/tokuyama/●香川県/豊稔池ダム
香川県観音寺市大野原町田野々1050
https://www.city.kanonji.kagawa.jp/soshiki/21/334.html●大分県/白水ダム
大分県竹田市荻町柏原6225-3
https://www.visit-oita.jp/spots/detail/4387