Luxury train journeyいざ、華麗なる旅路へ。
豪華列車でしか味わえない体験とは
飛行機や新幹線での移動も旅の醍醐味ですが、目的地へ着くまでの道中さえも特別な体験となるのが「豪華列車」ならではの魅力です。定期運行していたブルートレイン(寝台列車)などが廃止となった今、鉄道ファンはもちろん、旅好きの多くの人も虜にしています。現在は予約することも困難な人気の豪華列車の全貌と、各路線での旅の見どころを、専門家によるアドバイスとともにお伝えします。
いつかは乗りたい憧れの豪華列車
特別な時間の流れを味わう唯一無二の旅
車上ながらにして、最高の料理とサービスを楽しめる“走るホテル”
旅の醍醐味は、目的地で過ごす時間であることは間違いありませんが、移動中の景色や提供されるサービス、豪華な装飾を楽しみながら特別な体験ができるのが「豪華列車」の魅力です。現在は、JR各社やその他の私鉄などで、特別な運行ルートを走る列車が存在します。
こうした列車は、目的地へ最短ルートでたどり着くための飛行機や新幹線とは違い、移動の時間をゆったりと快適に過ごすことを目的にしています。中には贅沢な食事や一流のサービスが提供され、さらに寝台機能を備えた列車もあり、まさに“走るホテル”という風格。ひと味違う旅を体験できるでしょう。
こうした豪華列車は年々増えつつあり、簡単には予約が取れないほどのプラチナチケットとなっています。鉄道ライターの小林拓矢さんは、こう分析します。
「列車の性能や運行スケジュールが過密になり、目的地までを結ぶ時間も短くなりました。列車内での食事も減り、新幹線ですら定期列車には食堂車はおろか車内販売もありません。こうした実情の反動からか、ゆったりとした旅行をしたいというニーズが高まっているように思います」
非日常を味わう旅に、特別感をプラスしたい。そんなニーズに絶妙に応えてくれるのが豪華列車の旅です。ではさっそく、人気の豪華列車をご紹介していきましょう。
「新型特急スペーシア X」
鬼怒川温泉までの旅路を彩る、ワンランク上の特急列車
浅草~日光・鬼怒川間を結ぶ「新型特急スペーシア X」。現在運行中の「特急スペーシア」がバージョンアップした列車で、2023年7月に登場しました。浅草駅から東武日光駅を約1時間50分、浅草駅から鬼怒川温泉駅までを約2時間で結びます。
このスペーシア Xの見どころは内装です。栃木県鹿沼市に伝わる組子や竹編み細工のデザインを取り入れた美しくも個性的な窓が特徴です。通常席に加えて、贅沢なシート5種類が用意されています。中でも、「走るスイートルーム」をコンセプトにした「コックピットスイート」は、広々とした個室に大きな窓が設けられ、流れ行く景色を特等席から眺望できます。ゆったりとした空間は、まるでプライベートジェットのような雰囲気です。
また、車内にはカフェ「GOEN CAFÉ SPACIA X」があり、アルコールも楽しむことができます。東武鉄道沿線の食材や名産品を使ったおつまみやスナックも用意され、食を通して地域の魅力を感じられます。
「券売機やネット予約で購入できる、ちょっとリッチな列車です。コックピットスイートの個室は7人まで利用でき、私鉄特急最大級の広さ。カフェカウンターにはスペーシア Xのために特別に醸造されたビール『NIKKO LAGER』やブルーマウンテンコーヒーがあり、おつまみやスイーツとともに楽しめます」(小林氏)。
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便数:1日6往復12便(臨時列車あり)
乗車料金:運賃1,590円(浅草〜鬼怒川温泉)
座席料金:スタンダードシート1,940円、プレミアムシート2,520円。特別座席料金は、運賃1,590円+スタンダードシート特急料金(1,940円)に以下の料金を加算
- コックピットスイート(18,000円)1室 定員7名
- コンパートメント(8,000円)1室 定員4名
- ボックスシート(400円)1室 定員2名
- コックピットラウンジ 1人用 500円、2人用 1,000円、4人用 2,000円(※4人用コックピットラウンジの利用は2名から)
※表示価格はすべて税込み
詳しくは、公式HPにて
「36ぷらす3」
クラシックで美しいインテリアに感動が高まる
2020年10月にデビューした「36ぷらす3」はJR九州が運行しています。曜日ごとに5つのルートを走る特急列車で、ユニークな名前の由来は、九州が世界で36番目に大きな島であり、驚き・感動・幸せの「3」テーマが加わることから。36+3=39(サンキュー)で「感謝」も意味しています。
ルートは、以下の5つが設定されています。
- 赤の路(木曜):博多→熊本→鹿児島中央
- 黒の路(金曜):鹿児島中央~宮崎
- 緑の路(土曜):宮崎空港・宮崎~大分・別府
- 青の路(日曜):大分・別府~小倉・博多
- 金の路(月曜):博多~佐世保 佐世保~博多
木曜から月曜までの5日間で九州7県を周遊する旅で、1日単位での予約が可能です。
この車両の魅力は絢爛豪華なインテリアです。車内の至るところに木が使われ、福岡を代表する大川組子をはじめ、伝統的な工芸デザインが随所に散りばめられています。優美な曲線を描くクラシカルなソファと相まって、列車というよりもまるで豪奢な洋館のような雰囲気。1号車(個室)と3号車(座席)は、靴を脱いで上がる畳敷きです。
この36ぷらす3の旅は、食事が付くランチプランと、グリーン席プランの2種類。食事は、地元の和食やイタリアンなどの名店が手がけるお弁当が供されます。ビュッフェでは、九州の地酒や特産品のお茶、おつまみなどが揃い、列車内で九州の魅力を満喫できます。
「列車デザインの第一人者・水戸岡鋭治氏が手がけた内装が本当に素晴らしい。クラシックな雰囲気をたたえたインテリアで、心からのくつろぎを感じていただきたいです」(小林氏)
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<ランチプラン>※料金は大人おひとりさまあたり
木曜日ルート:博多→鹿児島中央 29,700円(個室)、25,000円(座席)
金曜日ルート:鹿児島中央→宮崎 18,600円(個室)、13,600円(座席)
土曜日ルート:宮崎空港/宮崎→大分/別府 22,900円(個室)、17,900円(座席)
日曜日ルート:大分/別府→小倉/博多 22,000円(個室)、17,000円(座席)
月曜日ルート:博多→肥前浜→武雄温泉→早岐/佐世保 19,300円(個室)、14,300円(座席)
※上記以外の駅での乗車・降車はできません
※表示価格はすべて税込み(2025年1月現在)
<グリーン席プラン(きっぷ)>※料金は大人おひとりさまあたり
木曜日ルート:博多→鹿児島中央 17,880円、博多→熊本 7,270円、熊本→鹿児島中央 12,290円
金曜日ルート:鹿児島中央→宮崎 7,630円
土曜日ルート:宮崎空港→別府 12,230円、宮崎空港→大分 11,900円、宮崎→別府 11,770円、宮崎→大分 11,770円、宮崎空港→宮崎 4,160円、大分→別府 4,080円
日曜日ルート:大分→博多 10,240円、別府→博多10,240円、大分→小倉 7,630円、別府→小倉 7,630円、大分→別府 4,080円、小倉→博多 5,610円
月曜日ルート:博多→佐賀 5,430円、博多→武雄温泉 6,180円、博多→早岐 7,270円、博多→佐世保 7,270円、佐世保→早岐 4,030円、佐世保→武雄温泉 4,810円、佐世保→佐賀 5,610円、佐世保→博多 7,270円
※上記以外の駅での乗車・降車はできません
※表示価格はすべて税込み(2025年1月現在)
詳しくは、公式HPにて
「THE ROYAL EXPRESS」
ヴァイオリンの生演奏とともに食事を楽しむ極上のひととき
東急と伊豆急が2017年からタッグを組んで運行する「THE ROYAL EXPRESS」は、横浜~伊豆急下田を結ぶ豪華観光列車です。伊豆半島を主としつつ、静岡の富士山を望むエリアや北海道、瀬戸内などでも期間限定で運行しています。
注目すべきは、高貴な色とされるロイヤルブルーとゴールドの車体です。車内はウォールナットやホワイトシカモアなどの木材がふんだんに使用され、日本の寄木細工など伝統的な意匠も凝らされています。こちらも「36ぷらす3」と同様に、列車デザイナーである水戸岡鋭治氏が手がけました。
乗客は行く先々で、地域の方からの歓迎を受けます。沿線に住む子どもたちからの見送りを通じて、あたたかい旅の思い出が刻まれるのではないでしょうか。
THE ROYAL EXPRESSに寝台車の設備はなく、宿泊をともなうプランでは旅館やホテルに泊まるというスタイル。列車では、静岡の有名店「旬香亭」をはじめとした和・洋のコースが楽しめます。
期間限定の運行は特に人気で、2020年の北海道クルーズトレインでは1回30人(計150人)の募集に対し、およそ8.2倍の1,232人から応募があり話題となりました。2024年に催行された四国・瀬戸内周遊も、発売後すぐに完売しました。
「ダイニングカーにはピアノが設置されており、ヴァイオリンとの生演奏とともに料理が提供されます。厳選された伊豆の山海の幸を堪能しながら、旅の楽しさがさらに盛り上がります」(小林氏)
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開国港街 下田クルーズプラン(2024年11・12月)の場合
■1日目
11時頃 THE ROYAL LOUNGE YOKOHAMA ウェルカムセレモニー
11時50頃 横浜駅発・THE ROYAL EXPRESS乗車 旬香亭監修 洋食コース料理(車内)
15時10分頃 伊豆急下田駅着、その後専用列車へ
下田エリアフリー観光orお宿ゆっくりプランから選択→宿泊施設へ
■2日目
10時頃 宿泊施設発
11時15分頃 伊豆急下田駅発・THE ROYAL EXPRESS乗車 エルマイヨン フレンチコース料理(車内)
15時頃 横浜駅着 THE ROYAL LOUNGE YOKOHAMA解散
- 料金(2名さま1室おひとりさまあたり)
193,000円(税込み)~(宿泊先により異なる) - 募集人数
15組 最大30名
※添乗員の同行はなし
詳しくは、公式HPにて
「TRAIN SUITE 四季島」
東日本の魅力を満喫する、極上の旅へ
JR東日本管内を走るクルーズトレインが「TRAIN SUITE 四季島」です。岩手、青森、宮城、長野、山梨など、四季に合わせたいくつかのコースが用意され、申し込みが抽選になるなど、非常に人気のあるクルーズとして有名です。
車体は特別感のあるシャンパンゴールドを基調とした、「四季島ゴールド」と呼ばれる特別な色合い。車内はモダンかつスタイリッシュな空間が広がります。樹木を思わせるような印象的なラウンジには、あたたかな暖炉。美しいシャンデリアが輝くダイニングは、格別の居心地です。
山形、秋田、北陸新幹線などを手がけた工業デザイナー・奥山清行氏が車両のデザインを担当しています。新潟の三条金物で作られた照明カバーや会津塗のキーボックスなど、東日本各地で育まれた精巧な調度品が空間を彩り、触れるたびに新たな感動を与えてくれます。
広々としたメゾネットタイプ「四季島スイート」では、掘りごたつ風のテーブルで足を伸ばしたり、檜風呂に浸かりながら車窓からの風景を眺めたりと、そのくつろぎは列車内とは思えないほど。ベッドルームも広々とした空間です。
ゲストがもっとも楽しみにしている食事は、「記憶に残る料理」がテーマ。総料理長・池内英治総料理長によるフランス料理のコースをはじめ、訪れる土地の風土と食材を活かした日本料理やイタリアンが振る舞われます。
「途中、『日本三大車窓』として有名なJR篠ノ井線姨捨(おばすて)駅を通ります。駅からは善光寺平や棚田が一望でき、本当に美しい光景です。ほかにも絶景エリアを多く巡るので、車窓からもっとも感動を味わえる列車旅と言えるのではないでしょうか」(小林氏)
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2025年度・長野1泊2日コース/夏(7〜9月)の場合
■1日目
9時10分頃 上野駅発→昼食・「中国意境菜 白燕」コース料理
14時40分頃 新津駅着 旧齋藤家別邸観光
17時30分頃 新津駅発→夕食・「TRAIN SUITE 四季島」池内総料理長によるフレンチコース→車内泊
■2日目
5時30分頃 姨捨駅着・ホームから早朝の景色を鑑賞
7時00分頃 篠ノ井駅着 千曲川ワインバレー観光・朝食
11時50分頃 下諏訪駅発→昼食・松本市「ヒカリヤ ニシ」のフレンチコース
16時50分頃 上野駅着・「プロローグ四季島」でフェアウェルパーティー
・料金(2名さま1室利用おひとりさまあたり)
440,000円(税込み)~(部屋タイプにより異なる)
詳しくは、公式HPにて
いかがでしたか。日本にはさまざまな趣向を凝らした豪華列車がまだまだあります。いずれも、プロフェッショナルによる最高のおもてなし、気分を高めてくれる設備や装飾が待っています。豪華列車での旅は、新たな発見に満ちた唯一無二の思い出となるに違いありません。
<記事監修>
鉄道ライター
小林拓矢(こばやしたくや)
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学在学時は鉄道研究会に在籍。「東洋経済オンライン」「Yahoo!ニュースエキスパート」などに執筆。著書に『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)などがある。