伊豆の小京都で日本の美意識にひたる修善寺温泉「柳生の庄」で味わう風雅の境地
冬の静寂に包まれた修善寺の里山にたたずむ、半世紀以上も変わらぬ風雅を湛えた隠れ宿。その名前に込められた剣の美学と茶の精神が、訪れる人の心に深い安らぎをもたらします。
Text:Fumihiro Tomonaga
Edit:Yasumasa Akashi(pad inc.)
修善寺I.C.から始まる、心躍る里山への道のり
修善寺I.C.を降りると、伊豆の山間の景色が車窓に流れ始めます。県道18号線を桂川に沿うように進むにつれ、街の喧噪は次第に遠ざかり、静寂が心を包み込んでいきます。源氏ゆかりの修禅寺や、古くより文豪たちに愛されてきた温泉街を通り過ぎた坂道の途中、竹林の奥に現れるのが「柳生の庄」です。
この旅館は1959年(昭和34年)に東京・白金(旧・芝白金)に開業した料亭「柳生」が前身。その創業者が修善寺を訪れ、美しい里山の風景に魅せられたことから1970年(昭和45年)、温泉旅館「柳生の庄」を開業しました。その後、洗練を極めた料理や心尽くしのおもてなし、そして上質な温泉や風情あるたたずまいが瞬く間に評判を呼び、料亭旅館としての名声を確固たるものにしたのです。
創業40周年を迎えた2009年(平成21年)には、さらなる精進を誓って大規模なリニューアルを決断。開業以来この地で育まれてきた建物の玄関・風呂・各部屋を、職人古来の技を集めた本格的な数寄屋造りに改修しました。瓦屋根の曲線、建具など細部に凝らされた細やかな意匠、そして竹林と調和する外観など茶の湯の精神が息づく建築は、まさに日本の粋を凝縮した芸術品。敷地内に普段とは異なる、ゆるやかな“とき”が流れていることに気づかされるでしょう。
暖簾の向こうに広がる、非日常への扉
アプローチを抜け、竹のルーバーがあしらわれた玄関の暖簾をくぐった瞬間、ゲストはこの宿が育んできた美意識をいっそう深く体感することになります。正面には見事な時季のしつらえがなされ、そこからロビーへ続く和室には、杉板に描かれた竹林の間を雀が飛び交う三連の大作が飾られています。これは東京の料亭創業時に日本画の大家・堀文子氏に描いてもらったものだそう。そのほか敷き詰められた畳から天井の組子細工、そして随所に配された季節の野花まですべてが呼応し、「温かくやすらぐ、気のかよう宿」という先代の想いを体現しています。
そしてロビーに足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのは大きな窓の向こうに広がる庭園。四季折々の表情を見せる里山の自然が、まるで一幅の山水画のように切り取られており、その美しさに息を呑みます。ウェルカムドリンクで喉を潤しながら、しばしの団欒。スタッフの手際よく心のこもった応対に接すると、これから始まる滞在への期待が胸の奥で静かに膨らんでいくのを感じるはずです。
それぞれに異なる表情をもつ、15の客室
客室は離れの2部屋を含む全15室。数寄屋造りをベースにしながらも各室意匠が異なり、魅力的なバリエーションが揃っています。すべての部屋に源泉かけ流しの露天風呂か半露天風呂、あるいは檜の内風呂が備わり、いつでも心置きなく湯浴みを楽しめるのも、この宿ならではの贅沢です。
修善寺温泉は807年に弘法大師によって開湯されたと伝えられる古湯で、アルカリ性単純温泉(弱アルカリ性pH8.3)の泉質は「美肌の湯」として有名。メタケイ酸を豊富に含むやわらかな湯は肌の角質を溶かし、表面のきめをなめらかにするとともに、関節痛や筋肉痛、神経痛にも効能があるとされています。
四季の木々に抱かれた大露天風呂の醍醐味
客室の風呂だけでも十分に満足できる「柳生の庄」ですが、やはり開放的な大露天風呂に浸かる醍醐味は格別です。「武蔵の湯」と「つうの湯」。かつて剣の道を歩んだ創業者に名付けられたふたつの大露天風呂は、毎日24時に男女が入れ替わるため、滞在中に両方を楽しむことができるのも嬉しいところ。
「武蔵の湯」は自然の山中で過ごしているかのような雰囲気があり、清々しい若葉の春から雪化粧の冬まで、四季の変化をダイナミックに感じられます。一方、「つうの湯」は「武蔵の湯」よりややコンパクトで、四季折々の花々に彩られた優しい風情。木々が芽吹く新緑の頃や霧島つつじが満開となる初夏は見事な情景に出合えます。
「ともに運がよければ12月中旬まで、鮮やかな紅葉も楽しめます。風のわたる音や鳥の鳴き声に耳を傾け、里山の自然に抱かれながらの入浴は、心身が解き放たれるひととき。ぜひ思い思い満喫なさってください」とは、店主・長谷川卓氏の言葉です。
四代目料理長が織りなす、季節の美味
さて滞在のクライマックスといえば、食事。旧・芝白金の料亭「柳生」を起源とすれば、そのクオリティは言うに及ばず。「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく — この料理の基本を大切に、地元ならではの食材や旬の食材を取り入れながら、献立に活かしています」。そう語るのは現在の四代目料理長・神田直也氏。京都瓢亭や東京星ヶ丘茶寮という名店の数々で腕を振るった初代をルーツに、先代たちのエッセンスを受け継ぎ、京懐石を礎とした日本料理の真髄を体現。さらに独自の感性でブラッシュアップに挑みつづけています。
また夕食はもちろん、朝食も部屋出しという贅沢さ。加えて朝食の味噌汁は、「お客さまにできたてを召し上がっていただくため」に客室で仕上げるという、創業以来の徹底したこだわりが光ります。朝の清廉な空気のなか、部屋の窓から庭園を眺めつつ、芳醇な味噌の香りに包まれていただく朝食は、新しい日の始まりを豊かに彩ってくれるはずです。
そして夜、神田料理長が紡ぐその極上の晩餐を満喫したあとに、余裕があればぜひ足を運んでいただきたい場所があります。それが「サロン・ド『柳生』」。というのも、ここはほかの空間とは異なる、文字どおりヨーロッパのサロンのような趣。しばし憩えば気分もリフレッシュされ、一日の締めくくりにふさわしい贅沢な時間となるでしょう。長谷川店主曰く「ソフトドリンクはもちろん、地酒やワインも揃えていますが、よろしければ私たちの自慢のウイスキー・コレクションから気に入った一杯を選んでみてはいかがでしょうか」とのこと。ゆっくりとグラスを傾ければ、日々の雑事から解放され、深い安らぎに包み込まれます。
伊豆の隠れ家で過ごす、心豊かなひととき
「柳生の庄」での滞在は、単なる温泉旅行以上の価値をもっています。それは日本の美意識と精神性に深く触れ、自分自身と向き合う貴重な機会。竹林の静寂に包まれ、温泉の恵みに身を委ね、季節の味覚に舌鼓を打ち、四季の自然と対話する — こうした体験すべてが、現代人が失いがちな心の豊かさを取り戻させてくれるのです。
最後に、「柳生の庄」の忘れてはならないもうひとつの魅力について触れておく必要があります。それは伊豆半島の中心に位置するという立地のよさ。東西の両海岸や半島南端まで、どこへもクルマなら1時間ほどで行けるのです。伊豆には季節ごとに楽しめるドライビングコースが多数あります。
長谷川店主のおすすめは、宿からクルマで約15分の「だるま山高原レストハウス」に立ち寄り、西伊豆スカイラインで開放的な走りを楽しんだあと、大見川の上流部、地元名産の上質なわさびを栽培する筏場〈いかだば〉のわさび田を訪ねるコース。
標高約620メートルのレストハウスから眺める駿河湾越しの冠雪富士の眺めと、山間の谷間の斜面に広がる年中緑の宝石を敷き詰めたかのようなわさび田の景観は伊豆屈指の絶景です。心に残る一夜の余韻を胸に、こうした素晴らしいドライブへと繰り出すのもいいでしょう。
冬の修善寺「柳生の庄」で過ごす時間は、日本の豊かな自然と食文化の奥深さが胸に沁みるような、人生のなかでも特別な思い出となることでしょう。竹林にたたずむ比類なき隠れ宿へ。伊豆の多様な魅力を一度に体験できる、まさに五感を刺激する旅が待っています。
柳生の庄
住所:静岡県伊豆市修善寺1116-6
アクセス:東名高速道路沼津 I.C.から修善寺道路(修善寺 I.C.)を経由して約30分
駐車場:あり
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