全国で3,000以上もの温泉地がある温泉王国、日本。
その中から、クルマでなければ行きづらい名湯・秘湯をご紹介します。

2015年12月記
クルマで行く名湯・秘湯【第2回】 静岡県戸田温泉・大沢温泉

夕陽の絶景と知られざる名湯を満喫

文/写真・山崎まゆみ(温泉エッセイスト)

夕陽を眺めるのに西伊豆ほどいい場所はありません。観光名所の伊豆半島にありながらも、西伊豆は公共交通機関で行くには不便なせいか、それが幸いして、手つかずの自然が残っているからでしょう…

本文を読む

夕陽を眺めるのに西伊豆ほどいい場所はありません。

観光名所の伊豆半島にありながらも、西伊豆は公共交通機関で行くには不便なせいか、それが幸いして、手つかずの自然が残っているからでしょう。たびたび映画のロケ地になり、記憶に残る名シーンをつくりだしてきましたが、まるで聖域のよう。心に残る、一生に一度は見たい景色があるのです。

そんな西伊豆には、海を眺めながら入ることができる温泉がいくつもあります。

残念ながら私が定宿にしていた宿は現存しませんが、これから行ってみたい宿に、戸田温泉「海のほてる いさば」があります。湯に浸かりながら、駿河湾に沈む夕陽をただただ見ていたあの感動をまた味わいたいものです。

戸田温泉「海のほてる いさば」

本文を読む

海沿いの温泉は塩辛い温泉が多く、ナトリウム成分が豊富です。ずっしりと感じる湯の重量感は、まるで海に入ったようにべとっとしますが、それがまた嬉しい作用です。そもそも温泉は、どんな泉質に入っても温熱効果で体は温まりますが、ナトリウム成分は入浴中の肌に塩の膜をはるので、他の泉質以上に保温と保湿の効果があります。

「海を眺めながら温泉に入ると、細胞が活性化されるんだよ」と、以前温泉療養医に聞いたことがありますが、一方、緑に囲まれた森に湧く温泉は、鎮静効果があり、心が落ち着くと言われています。

西伊豆には、まるで森の中のような緑に囲まれた温泉もあります。

秘湯・大沢温泉「大沢荘 山の家」──。

かつては立ち寄りの入浴のみでしたが、2007年から素泊まりOKの自炊湯治場が設置されました。清流に橋がかけられており、その先に温泉があります。見た感じは、とても簡素なつくりです。ただ、絶壁の底に湯が湧いていて、“野天湯”に等しい自然のままの湯船があります。

その広い湯船の底から、「ぼこん、ぼこん」とうるさい程の音とともに、ふんだんに湯が湧いているのです。こんこんと湧く様を見て、地球からの贈り物であることが実感できる場所です。足元から湧く湯という意味で、こうしたロケーションを「足元湧出」と言います。

人が入るのに適温の温泉が湧き出ているのです。その生まれたての温泉に入ることができるのは、全国でもそう多くはなく、貴重な体験ができます。いきいきとした温泉に入ると、湯そのものに力がありますから、これまでの温泉の印象が覆されますよ。

湯に浸かると、温泉の音と清流のせせらぎ、季節によっては鳥の声も聞こえてきます。湯は、無色透明、無臭で少々熱め。温泉に浸かったり、あがったり、繰り返し愉しんでください。自然に身を委ねる、そんなひと時があってもいいものです。

夕陽を眺めながら、そして緑に囲まれた「足元湧出」と、クルマだから行ける西伊豆の温泉めぐりをこの冬、愉しんでみてください。

大沢温泉「大沢荘 山の家」

コラム原稿は2015年12月現在の情報を元に執筆しています。

やまざき まゆみ◎1970年新潟県生まれ。駒澤大学文学部卒業。世界31カ国1,000カ所以上の温泉を訪ねる一方、日本の温泉の魅力を世界に発信している。近著に『バリアフリー温泉で家族旅行』がある。